平和外交研究所

中国

2016.05.30

(短評)アセアン‐ロシア首脳会議と中ロ関係

 アセアンとロシアはさる5月19-20日、ロシアのソチで「対話パートナシップ」20周年を記念して首脳会議を開催した。
 「対話パートナシップ」は1996年から開始され、2005年に第1回、2010年に第2回の首脳会議が開催された経緯がある。

 今次会議の結果発表された宣言は南シナ海問題について次のとおり言及した(第9項)。
“ Ensure maritime security and safety, freedom of navigation and overflight, unimpeded commerce. Promote self-restraint, non-use of force or the threat to use force and the resolution of dispute through peaceful means in accordance with universally recognised principles of international law, including as stated in the United Nations Charter, the 1982 United Nations Convention on the Law of the Sea (UNCLOS) and the relevant standards and recommended practices of the International Civil Aviation Organisation (ICAO) and the International Maritime Organisation (IMO)”
 それから5日後(25日)、ラオスの首都ビエンチャンでASEAN国防相会議が開かれ、その宣言は次の通り述べた(第14項)。
“Reiterate the importance of maintaining peace, stability and security as well as upholding freedom of navigation in, and over-flight above, the South China Sea as provided for by universally recognized principles of international law, including the United Nations Convention on the Law of the Sea (UNCLOS)”
 両方の宣言を比較すると、表現が多少違っているところはあるが、大筋は同じであり、「航行、飛行の自由」「国際法の原則に従うこと」などのキーワードはどちらにも含まれている。

 一方、『多維新聞』など一部の中国語新聞は、ASEAN・ロシア共同宣言は当事者に「自制」を求め、かつ、「武力を行使しないこと」を謳っているためか、米国寄りの文言と見ているようだ。
印象に過ぎないと思うが、中ロ関係についての関心が背景になっている可能性はある。
 おりしも習近平主席は24日、中ロ国境付近の黑瞎子岛(黒竜江とウスリー河が合流する地点にある)に上陸視察した。同岛はもともと両国間の係争地で銃撃戦もあったところであり、中国では国境を画定した1999年の条約は「売国条約」だと言われ、締結した江沢民主席も批判されている。
 そのような経緯があったので条約締結以来初の中国国家主席の視察訪問が注目されたのだが、中ロ関係に影響を与えるようなことではないと思われる。
2016.05.26

(短文)反腐敗運動の強化

 習近平主席は今年の1月、規律検査委員会で重要講話を行った。これには機微な内容が含まれていたため発表について慎重に検討されたのだろう。人民日報や新華社などが全文を報道したのは4カ月後であった(5月24日にアップした東洋経済オンラインへの寄稿文「習近平主席をめぐる異例の事態」(要旨)を参照願いたい)。
 
 反腐敗運動は中国では国家的問題であり、その帰趨いかんでは体制を揺るがす問題に発展する危険さえある。現政権は腐敗の取り締まりをかつてないほど強力に進めてきた印象だったが、習近平自身は、反腐敗運動はまだ不十分であり、さらに徹底させなければならないと講話で論じていた。
 
 この講話のフォローアップとして、1500人の高官が出国を禁止された。それと同時に、60日以内に財産、旅券、国籍などについて書面で報告するよう求められた。
 指示は細かく、財産については保有資金、資産、香港、マカオ、外国の銀行においている口座の有無、口座名(別名、匿名、連名のものをすべて含む)なども報告が求められた。
 旅券については出入国許可証、公的旅券の有無、別名、匿名の旅券も含む。
 国籍については、外国籍、居留資格、外国企業における職務、報酬などを含む。

 習近平はその講話の中で、「三爺を使うべからず」とも述べていた。中国語では、子、娘婿、妻の兄弟はすべて「爺」の字が入っている。高官が親族を利用して国有企業を食い物にするのはかねてからの大問題であり、習近平は親族を利用して悪事を働くなと言っているのだ。
(米国に本拠がある『多維新聞』5月19日付)

 また習近平は同講話の中で、高官が勤務を怠けていることを指摘していた。ある統計では中国の省級幹部の休暇取得率は大変高く、年平均31日に上る。休暇と言っても実態は仮病が多く、休暇をとって私用に充てる者も多いそうだ。
(同新聞5月24日付)

 ここに紹介した2つの事例は、多くの高官の倫理観を示唆しているように思われる。
2016.05.25

(短評)蔡英文新政権の滑り出しと中国

 蔡英文が新総統に就任したのが先週金曜日(5月20日)。新政府は翌日(土曜日)から活動を開始し、2014年に国民党前政権が改訂した学習指導要領を元に戻すと発表した。改訂内容は、国共内戦後、中国から渡って来た国民党政権による台湾の「接収」を、祖国復帰を意味する「光復」に変更したこと、台湾独自の歴史に関する表現を弱めたことなどであり、「中国寄りの改訂だ」との批判が強かった。

 月曜日(23日)には、2014年春に馬英九政権に抗議して立法院などを占拠した学生126人に対する刑事告訴を撤回すると発表した。
 また外交面では、同日、日本との海洋協力対話を立ち上げると発表した。その際、沖ノ鳥島について馬英九前政権が「岩礁だ」と断定していたのを修正し、「法律上の特定の立場を取らない」との見解を示した。
 
 ジュネーブでは世界保健機構(WHO)の総会が開催され、台湾からも新政権を代表して新「衛生福利部長(我が国の厚生労働相に相当する)」がオブザーバーとして出席した。今年の総会への出席については、推測だが、中国がWHOに働きかけ、中国バージョンの「一つの中国原則」を台湾が認めなければ招待しないことにしようとしたのではなかったか。

 去る1月に行われた台湾の総統・立法院選挙で民進党が大勝して以来、中国は何かにつけ、民進党政権では中国との関係が悪化すると印象付けようとしたとみられる。蔡英文総統の就任の翌日、中国の台湾政策の元締めである国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官が台湾側との対話について、蔡英文政権が「一つの中国」原則を明確に受け入れない限り、継続できないとの考えを示したのはその一例である。この発言から中台当局間の交流は当面、停止する見通しとなったと見られている。

 蔡英文新政権の動きは早く、滑り出しは極めて順調なようだだ。
 一方、中国には台湾人の要望を吸収しようという姿勢は見られず、腕力にものを言わせて台湾人の考えを変えようとしているように見える。かつてはそのような方法が有効だったこともある。台湾人の政治姿勢は過去4年間で大きく変化したので、これから4年間でどうなるか分からないという考えもあろう。
 台湾では、国民党支持でも民進党支持でもない勢力が大きくなりつつあり、台北市長に無党派の柯文哲が当選したのはその表れだ。

 ともかく、旧来の方法で国民党を支持し、民進党に難題を吹きかける中国の方針が有効か注目される。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.