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2014.05.27

タイのデモと軍政

タイの情勢が混迷を深めている。昨年11月に大規模な反政府デモが起こって以来、インラック首相支持派との激しい対立が続いていたなかで、5月7日、憲法裁判所はインラック首相に対し人事権の乱用があったとする判決を下し、同首相は失職した。しかし、両派の対立は解消されず、こう着状態が続いたので軍は20日、戒厳令を発出し、さらに22日には全権を掌握して軍政を敷き、プラユット陸軍司令官が率いる国家平和秩序評議会を成立させた。そして、デモを禁止し、2百数十名のデモ指導者に対して出頭を命じた。インラック首相も命令に応じて出頭し、今は自宅に軟禁状態にあるそうである。
これまでタイでは、タクシン元首相派と反対派の対立から激しいデモが何回も起こり、また、軍が政治を掌握することもあった。今回も新しい事態ではないが、21世紀の今日、東南アジアの雄であるタイにおいて、軍は、一時的とはいえ、クーデタという問答無用の手段により政治の大権を掌握することについてどのような正統性を主張できるのか、不思議である。民主政治が成熟していないからだと簡単に片付けたくない。対立し、政治を動かなくしていた両派ともに主張と行動に問題があったのだろうが、それにしても軍が両派より優れた判断をできる保証はないのではないか。
このことはさておいて、今回のクーデタによりデモは禁止されたが、小規模デモはその後も多数継続している。それは自然発生的に起こるので軍としても取り締まりが困難なそうである。デモの呼びかけはツィッターなどで行なわれ、通りすがりを装い突如集まりデモになる。このような行動は「フラッシュモブ」と呼ばれるそうである。軍の取り締まりの強化、封鎖状況なども瞬時に広く伝えられている。参加した若者のなかには「クーデタが終わるまでこのようなデモを続ける」と言う者もあるそうだ。
軍はテレビなどで、「全国民に抗議のための集会を行わないよう要請する。民主的なプロセスにおける一般的な状況ではないからだ」などと訴えているが、手を焼いている様子が伝わってくる。25日にはバンコク中心部のショッピングモールで少人数がデモを始め、軍と長く激しいにらみ合いを続け、群衆は数百人に拡大した。
デモは首都バンコクのみならず、チェンマイや北東部のコンケンでも起きている。
軍は今回のクーデタについて国王の裁可を得たとして正統性を主張しているが、このような民衆による軍政の否定は健全なものだと思う。軍の対応は保守的である。クーデタから3日が過ぎたが、国家平和秩序評議会は公式ウェブサイトも立ち上げていない。
タクシン派と反タクシン派の対立は都市と農村の利害関係の違いに根差すもので、その解決は簡単でないのだろうが、軍政より、若者の感覚で新しい可能性が生まれることを期待したい。

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2014.05.26

米国による中国軍人の起訴

米国司法省は19日、違法なサイバー攻撃を行った嫌疑で5人の中国軍人を起訴すると発表した。中国政府はこれに対し激しく抗議し、サイバー攻撃問題に関する両国の作業部会を停止すると反発した。米国と中国は、かねてから南シナ海や東シナ海における中国の行動を巡って意見を異にし、米国は中国を批判していた。米司法省の今回の決定により、両国間の不協和音はますます大きくなった印象がある。

今後どうなるか。中国政府が起訴された軍人を米国に引き渡すことはありえないので、米司法省の決定は米国としての姿勢を示す以上の意味を持ちえないと言われているが、それでも米国として中国に対し、事態を深刻視し、将来強い措置をとることも排除しないというメッセージを送る意味合いはあろう。

中国はどのように対応するか。中国のインターネットには、米国がどのようにして5人の軍人をつきとめたかを分析する意見も現れている。

一方、中国政府は「国家インターネット情報化弁公室」を中心に、インターネットの安全確保のための制度樹立を米国に提案することを検討している可能性がある。インターネットが悪用されてはならないということについては米中両国としても異論はないだろう。今回の中国軍人によるサイバー攻撃もインターネットを悪用した行為である。しかるに、一言で安全を確保すると言っても、具体的に何の安全を図るかで実際に意味するところは大きく違ってくる。たとえば、米国としては違法な行為の取り締まりが目的であろうが、中国としては、国家の安全や公共の利益の確保を重視するであろう。そうなると、中国で民主化運動に利用されているインターネットには強い制限がかかることになり、ひいては中国に進出している米国の企業がヒットされる公算が大きい。つまり、このような制度が打ち立てられると中国が要求する安全基準に合致しない米国企業は糾弾され、中国から追い出されることにもなりかねない。実際、Cisco Systems、IBMおよびマイクロソフト社にはそのような危険があると言われている。
インターネットを強い監督下に置くという中国の考えは、中国軍人の起訴に対する報復であるととともに、国家の秩序が乱されるのを防ぐという一石二鳥の効果を狙っているのではないか。
習近平主席はオバマ大統領との会談で、中国もサイバー攻撃の被害者であることを強調した。米国の非難をかわすためにそう発言したきらいもあるが、中国としてもサイバー攻撃の問題を抱えているのは事実であろう。「中国国家互联网应急中心」の最近の発表では、2014年3月19日から5月18日までの間に、2016の米国内のIPから中国国内の1754のサイトに対して侵入があり、5.7万件のサイバー攻撃があったそうである。(中国政府の検討については5月22日付『多維新聞』によった)

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2014.05.22

尖閣諸島に関する米国の立場

オバマ大統領は訪日の際、尖閣諸島に関して日本に紛争解決のため行動するよう促しつつ、同諸島には日米安保条約が適用されることを明言した。そのことは米国の高官がすでに何回も述べてきたことであるが、大統領として初めての発言であり、その意義は大きい。
しかし、米国は領有権に関してどちらが正しいと言うのではないことも断っていた。これは第三国間の領土紛争に関して米国がかねてから取ってきた基本方針であるが、尖閣諸島については、米国は特殊な立場にあり、いわゆる第三国ではない。
戦後日本の領土を再画定したサンフランシスコ平和条約は、日本が放棄する領土を第2条で規定し、放棄しないが米国の統治下に置かれる「琉球諸島」を第3条で規定した。
尖閣諸島は、第2条の対象か、それとも第3条の問題か、どちらかで日本の領土でなくなるか、依然として領土であり続けるか決定的に変わってくる。
しかるに、「琉球諸島」の統治を始めるに際し、米国は「琉球諸島」の範囲を緯度・経度で明確に示し、他の条約締約国に異議がないか確かめた。異議はどの国からも提起されず、「琉球諸島」の範囲が確定した。かくして尖閣諸島は平和条約第3条の「琉球諸島」に属していることが確定した。米国は尖閣諸島の法的地位の確定に際し主導的な役割を果たしたのであり、いわゆる第三国でなく、当事者だったのである。

以上の趣旨の一文を本22日付の読売新聞に寄稿した。

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