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2014.05.13
そもそも、住民投票で問われたことは「独立に賛成するか」という問いに限定されていたのでなく、さらに広く自治の拡大を求めるとも読める内容であったらしい。そうであれば、投票で示された住民の意思は何なのか。これら2州では多数を占めているロシア系住民が自治の拡大を求めていることはすでに知られていることである。
この他にも問題は多々ある。過激な行動に走っている者のなかには外からはいりこんでいるものがいる。1人で複数回、あるいは複数の投票をする者もいた。票の管理はかなり杜撰で、投票が終わった後さらに票を加えることも可能であった。これら報道されていることがどこまで確認されているか、問題がないわけではないが、今回の投票がかなりひどい状況の中で行なわれたことはほぼ間違いないであろう。
過激な親ロシア派はクリミアの例に味をしめ、これら2州でも同じことを起こそうとしたのであろう。その背景には、ソ連邦の解体後状況がまだ落ち着いておらず、とくに経済はひどい状況にあり、住民が不満を募らせるのは無理もないが、クリミアとは違う側面がある。クリミアにはロシアにとって重要な地中海艦隊基地があるが、東部ウクライナにはそのようなところはない。また、プーチン大統領が住民投票を延期するよう呼びかけたことも大きい。東ウクライナはロシアにとって、ロシア系住民が多いということもさることながら、下手をすればいわゆる「お荷物」になるおそれもある。クリミアの住民はロシアに併合されれば、給与や年金などが倍くらいになると期待感を膨らませているようだが、ロシアは金のなる木でない。エネルギー収入に大きく頼る経済であり、底は深くない。
さらに問題なのは、ロシアがウクライナを緩衝国として必要としていることである。もし、民族問題がさらに激しくなってウクライナ全体に影響がおよんで不安定化し、その結果欧米側に行ってしまうと困るのはロシアである。ロシアが西欧の影響力が強まることに非常に神経質に抵抗してきたのは歴史的事実と言えるであろう。親ロシア系住民の福祉は、残念ながらこの比ではない
また、ロシアは一方で、西側と相互依存の関係にある。天然ガスの供給はその一例にすぎず、ロシアは技術面でも経済面でも冷戦時代とははるかに密接に西欧と関係を結んでおり、政治的、戦略的な考慮から、米欧と対決したくても一定の抑制が働くのではないか。米欧の制裁措置の実効性については議論があるが、双方で依存しあっていることは事実であり、少なくともその限りにおいてロシアはウクライナ問題についても西側と協力関係を維持する必要がある。
ウクライナの東部2州では、今は、急進的な若者を中心に過激な行動が渦巻いているが、これら2州のみならずウクライナ全体がロシアと米欧のはざまにあり、政治、軍事、経済のいずれの側面でも完全な自立、自給は困難である。中長期的には親ロシア系住民も冷静に考え、より合理的に対処せざるをえなくなるものと思われる。
(さらに…)
ウクライナ東部での住民投票
ウクライナの情勢は混迷を深めている。同国東部のドネツク州とルガンスク州で政府施設を占拠している親ロシア派は、プーチン大統領が5月7日、延期を呼びかけたにもかかわらず11日、住民投票を強行した。その結果、9割に近い圧倒的多数が独立に賛成したと発表されたが、これほど問題や不正があった投票はめずらしいのではないか。そもそも、住民投票で問われたことは「独立に賛成するか」という問いに限定されていたのでなく、さらに広く自治の拡大を求めるとも読める内容であったらしい。そうであれば、投票で示された住民の意思は何なのか。これら2州では多数を占めているロシア系住民が自治の拡大を求めていることはすでに知られていることである。
この他にも問題は多々ある。過激な行動に走っている者のなかには外からはいりこんでいるものがいる。1人で複数回、あるいは複数の投票をする者もいた。票の管理はかなり杜撰で、投票が終わった後さらに票を加えることも可能であった。これら報道されていることがどこまで確認されているか、問題がないわけではないが、今回の投票がかなりひどい状況の中で行なわれたことはほぼ間違いないであろう。
過激な親ロシア派はクリミアの例に味をしめ、これら2州でも同じことを起こそうとしたのであろう。その背景には、ソ連邦の解体後状況がまだ落ち着いておらず、とくに経済はひどい状況にあり、住民が不満を募らせるのは無理もないが、クリミアとは違う側面がある。クリミアにはロシアにとって重要な地中海艦隊基地があるが、東部ウクライナにはそのようなところはない。また、プーチン大統領が住民投票を延期するよう呼びかけたことも大きい。東ウクライナはロシアにとって、ロシア系住民が多いということもさることながら、下手をすればいわゆる「お荷物」になるおそれもある。クリミアの住民はロシアに併合されれば、給与や年金などが倍くらいになると期待感を膨らませているようだが、ロシアは金のなる木でない。エネルギー収入に大きく頼る経済であり、底は深くない。
さらに問題なのは、ロシアがウクライナを緩衝国として必要としていることである。もし、民族問題がさらに激しくなってウクライナ全体に影響がおよんで不安定化し、その結果欧米側に行ってしまうと困るのはロシアである。ロシアが西欧の影響力が強まることに非常に神経質に抵抗してきたのは歴史的事実と言えるであろう。親ロシア系住民の福祉は、残念ながらこの比ではない
また、ロシアは一方で、西側と相互依存の関係にある。天然ガスの供給はその一例にすぎず、ロシアは技術面でも経済面でも冷戦時代とははるかに密接に西欧と関係を結んでおり、政治的、戦略的な考慮から、米欧と対決したくても一定の抑制が働くのではないか。米欧の制裁措置の実効性については議論があるが、双方で依存しあっていることは事実であり、少なくともその限りにおいてロシアはウクライナ問題についても西側と協力関係を維持する必要がある。
ウクライナの東部2州では、今は、急進的な若者を中心に過激な行動が渦巻いているが、これら2州のみならずウクライナ全体がロシアと米欧のはざまにあり、政治、軍事、経済のいずれの側面でも完全な自立、自給は困難である。中長期的には親ロシア系住民も冷静に考え、より合理的に対処せざるをえなくなるものと思われる。
(さらに…)
2014.05.12
実は、これまでの再検討会議はほとんどすべてが似たり寄ったりであり、実質的な進展があったのはわずかに1995年と2000年の2回くらいに過ぎない。こう言うと、一生懸命核軍縮を進めようとしている人たちから異論が出るかもしれない。私自身も2005年の再検討会議で日本政府の代表の一人として努力したつもりであったが、気持ちの問題と客観的にどうなったかは区別しなければならない。その時も核軍縮は進まなかった。
またその翌年には北朝鮮が初めて核実験を行なった。NPTの主要な目的は核の拡散、つまり、非核兵器国が核兵器を取得したり、実験したりするのを防止することにあるのだが、北朝鮮はそれを無視し、核兵器を開発・実験したのである。
今回の準備委員会においてはウクライナ問題が注目を集めた。クリミアの独立をめぐって、ウクライナを支持する人のなかには、ソ連邦が解体した際、ウクライナが核を放棄したことは誤りであり、もし現在でも核兵器を保持していればロシアといえどもウクライナに兵力を送り込むことなどできなかったという意見があるが、このような意見にはあまり説得力はない。
問題はそれより、ウクライナが核を放棄し、NPTに加盟するに際して、ロシア、米および英の3ヵ国が、ウクライナの独立と主権を尊重し、ウクライナに対して武力の行使や脅威をしないことを合意していた(ブダペスト覚書)のにロシアが違反したことであった。もっともこれは米欧諸国が主張したことで、ロシアは反論していたが、客観的にはロシアに分はなかった。
今次準備委員会では、中央アジア非核兵器地帯条約に米ロ英仏中の核兵器国が署名したことが発表された。「非核兵器地帯」とは世界的な核廃絶が実現するまでの間、部分的に核兵器のない地域を増やしていこうとするもので、中央アジア非核兵器地帯条約によりカザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタンおよびウズベキスタンの6カ国から核をなくすことになる。これらの国に現在核兵器があるという意味でなく、将来も保有、取得、開発などをしないという約束をしたことに意義がある。中央アジア非核兵器地帯条約は長い経緯を経て作成され、今回核兵器国がそれを支持することになったのであり、非核兵器地帯条約には核兵器国の支持が必要であるが、実際には支持していない条約もある。
中央アジア非核兵器地帯条約にウクライナは含まれていないが、将来はウクライナの加盟問題が出てくるかもしれない。
今次委員会のもう一つの注目点は、米ロ英仏中の核兵器国が初めて核軍縮の報告書を発表したことであり、核兵器国は非核兵器国から核軍縮の取り組みが弱いと批判されがちなので、核兵器国として一方的に報告書を発表することで批判を和らげる意図があったのであろう。
米英仏はそれぞれの保有核弾頭数を発表したが、ロシアと中国は発表しなかった。とくに中国は、軍事力に対する透明性が低いことは以前から指摘されていたが、今回もそのような姿勢は改善されなかった。
米国が発表したのは2013年9月時点での4804発であったところ、NGOのなかには、米国の保有核弾頭数を4650発と推計していたものもあった。国務省は、冷戦下のピーク時の3万1,255発(1967年)から85%の削減になると発表しており、FAS(Federation of American Scientists)はこの85%削減という数字から4,650発という数字を推計していた。これを比較的正確と見るか、不正確と見るかは考え方次第であるが、核問題を専門にフォローしているNGOの推計はかなり正確である。
米国政府が前回発表した時(2010年)には、前年の9月で5113発だったので、これより309発削減していたわけである。
(さらに…)
核不拡散条約の準備委員会
5年に1回のNPT(核不拡散条約)再検討会議は2015年に開かれる。このための準備委員会第3回会議がさる5月9日閉幕したが、来年の会議に向けての勧告は合意されなかった。再検討会議は議題が多く、約1か月も開催される大会議なので準備が必要であり、5年の間に3回も準備委員会が開かれるのだが、核兵器国と非核兵器国との隔たりが大きすぎるため大事な勧告であるが、合意できなかった。実は、これまでの再検討会議はほとんどすべてが似たり寄ったりであり、実質的な進展があったのはわずかに1995年と2000年の2回くらいに過ぎない。こう言うと、一生懸命核軍縮を進めようとしている人たちから異論が出るかもしれない。私自身も2005年の再検討会議で日本政府の代表の一人として努力したつもりであったが、気持ちの問題と客観的にどうなったかは区別しなければならない。その時も核軍縮は進まなかった。
またその翌年には北朝鮮が初めて核実験を行なった。NPTの主要な目的は核の拡散、つまり、非核兵器国が核兵器を取得したり、実験したりするのを防止することにあるのだが、北朝鮮はそれを無視し、核兵器を開発・実験したのである。
今回の準備委員会においてはウクライナ問題が注目を集めた。クリミアの独立をめぐって、ウクライナを支持する人のなかには、ソ連邦が解体した際、ウクライナが核を放棄したことは誤りであり、もし現在でも核兵器を保持していればロシアといえどもウクライナに兵力を送り込むことなどできなかったという意見があるが、このような意見にはあまり説得力はない。
問題はそれより、ウクライナが核を放棄し、NPTに加盟するに際して、ロシア、米および英の3ヵ国が、ウクライナの独立と主権を尊重し、ウクライナに対して武力の行使や脅威をしないことを合意していた(ブダペスト覚書)のにロシアが違反したことであった。もっともこれは米欧諸国が主張したことで、ロシアは反論していたが、客観的にはロシアに分はなかった。
今次準備委員会では、中央アジア非核兵器地帯条約に米ロ英仏中の核兵器国が署名したことが発表された。「非核兵器地帯」とは世界的な核廃絶が実現するまでの間、部分的に核兵器のない地域を増やしていこうとするもので、中央アジア非核兵器地帯条約によりカザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタンおよびウズベキスタンの6カ国から核をなくすことになる。これらの国に現在核兵器があるという意味でなく、将来も保有、取得、開発などをしないという約束をしたことに意義がある。中央アジア非核兵器地帯条約は長い経緯を経て作成され、今回核兵器国がそれを支持することになったのであり、非核兵器地帯条約には核兵器国の支持が必要であるが、実際には支持していない条約もある。
中央アジア非核兵器地帯条約にウクライナは含まれていないが、将来はウクライナの加盟問題が出てくるかもしれない。
今次委員会のもう一つの注目点は、米ロ英仏中の核兵器国が初めて核軍縮の報告書を発表したことであり、核兵器国は非核兵器国から核軍縮の取り組みが弱いと批判されがちなので、核兵器国として一方的に報告書を発表することで批判を和らげる意図があったのであろう。
米英仏はそれぞれの保有核弾頭数を発表したが、ロシアと中国は発表しなかった。とくに中国は、軍事力に対する透明性が低いことは以前から指摘されていたが、今回もそのような姿勢は改善されなかった。
米国が発表したのは2013年9月時点での4804発であったところ、NGOのなかには、米国の保有核弾頭数を4650発と推計していたものもあった。国務省は、冷戦下のピーク時の3万1,255発(1967年)から85%の削減になると発表しており、FAS(Federation of American Scientists)はこの85%削減という数字から4,650発という数字を推計していた。これを比較的正確と見るか、不正確と見るかは考え方次第であるが、核問題を専門にフォローしているNGOの推計はかなり正確である。
米国政府が前回発表した時(2010年)には、前年の9月で5113発だったので、これより309発削減していたわけである。
(さらに…)
2014.05.10
不動産を統一的に登記する制度の確立は土地問題の核心であるが、難問である。
関係する部(日本の各省にあたる)・委員会は10を超える。
国土部は8日、不動産登記局が正式に成立し、全国の土地、家屋、林業地、草原、海域などの登記を管轄すると発表した。また、この発表に先立って、2016年から統一登記制度を全国で実施することになっており、今年から3年くらいで統一登記制度を完成し、4年くらいの間に統一不動産登記情報を管理する基礎的システムを作動させることになっていた。
しかし、関係部門を取材したところ、まだそのようには進展しておらず、まだかなりの時間が必要である。
中国で不動産の統一登記の必要性が認識され始めたのはかなり以前のことである。しかし、それ以後の進展は緩慢であった。不動産登記の分野では中心になる部門が複数あり、また各部門の権益が重複しているからである。
2014年1月、中央は不動産登記の職責を整理することに関する通知を発出した。まず職責の整理を行ない、その上で国土部の関係機構整備と人員強化を実行し、国土部の地籍管理司に不動産登記局の看板を掛けることになった。しかし、8日に国土部のサイトをチェックしたところ、依然として「地籍司」が存続し、「不動産局」は見当たらなかった。また、不動産局の職責について国土部の説明を求めると、「今年の重点任務は不動産登記制度のトップの設計を行なうことである」ということであった。
不動産の統一登記制度を作る目的は家屋・土地税を徴収する前提条件を準備することである。
2013年11月に国務院常務会議は不動産登記局の設立を加速するよう指示し、上記の2014年1月の中央の通知により不動産統一登記工作の最高司令官となった国土部は統一登記のトップ設計を行なう責務が課せられた。しかし、国土部から中央に対して機構編成の拡大の申請が提出されているが、今日に至るも回答が出ていない。中央の一般的方針は政府機構の増大を極力避け、配置人員は増加させず減少させるべきというものであり、大登記局を設置することは困難なのである。国土部に限らず、地方でも人員をいかに確保するか、大問題である。
統一登記制度を確立するには関係各部門の職責の調整、利益配分の公平化が必要となり、これには時間がかかる。
「物権法」は、国家が不動産の統一登記制度を実施すると定めている。しかし、登記の範囲、機構、処理手続きなどは別の法令で決められている。
2013年、国務院は国務院機構改革および職能調整方案任務分担通知によれば、4月末までに家屋登記、林業地登記、草原登記、土地登記などの職責を調整することになっているが、現在に至るもできていない。
(さらに…)
登記制度改革はまだまだである
中国経済の主要問題の一つである不動産の登記制度改革について華夏時報の記事を5月10日の大公報が転載している。要約すれば次のとおりである。不動産を統一的に登記する制度の確立は土地問題の核心であるが、難問である。
関係する部(日本の各省にあたる)・委員会は10を超える。
国土部は8日、不動産登記局が正式に成立し、全国の土地、家屋、林業地、草原、海域などの登記を管轄すると発表した。また、この発表に先立って、2016年から統一登記制度を全国で実施することになっており、今年から3年くらいで統一登記制度を完成し、4年くらいの間に統一不動産登記情報を管理する基礎的システムを作動させることになっていた。
しかし、関係部門を取材したところ、まだそのようには進展しておらず、まだかなりの時間が必要である。
中国で不動産の統一登記の必要性が認識され始めたのはかなり以前のことである。しかし、それ以後の進展は緩慢であった。不動産登記の分野では中心になる部門が複数あり、また各部門の権益が重複しているからである。
2014年1月、中央は不動産登記の職責を整理することに関する通知を発出した。まず職責の整理を行ない、その上で国土部の関係機構整備と人員強化を実行し、国土部の地籍管理司に不動産登記局の看板を掛けることになった。しかし、8日に国土部のサイトをチェックしたところ、依然として「地籍司」が存続し、「不動産局」は見当たらなかった。また、不動産局の職責について国土部の説明を求めると、「今年の重点任務は不動産登記制度のトップの設計を行なうことである」ということであった。
不動産の統一登記制度を作る目的は家屋・土地税を徴収する前提条件を準備することである。
2013年11月に国務院常務会議は不動産登記局の設立を加速するよう指示し、上記の2014年1月の中央の通知により不動産統一登記工作の最高司令官となった国土部は統一登記のトップ設計を行なう責務が課せられた。しかし、国土部から中央に対して機構編成の拡大の申請が提出されているが、今日に至るも回答が出ていない。中央の一般的方針は政府機構の増大を極力避け、配置人員は増加させず減少させるべきというものであり、大登記局を設置することは困難なのである。国土部に限らず、地方でも人員をいかに確保するか、大問題である。
統一登記制度を確立するには関係各部門の職責の調整、利益配分の公平化が必要となり、これには時間がかかる。
「物権法」は、国家が不動産の統一登記制度を実施すると定めている。しかし、登記の範囲、機構、処理手続きなどは別の法令で決められている。
2013年、国務院は国務院機構改革および職能調整方案任務分担通知によれば、4月末までに家屋登記、林業地登記、草原登記、土地登記などの職責を調整することになっているが、現在に至るもできていない。
(さらに…)
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