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2014.06.11

集団的自衛権ーわが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある場合とは

安倍首相は5月15日の記者会見で、「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」と安保法制懇が提言したことについて「従来の政府の基本的な立場を踏まえた提言だ。今後、さらに研究を進めたい」と述べた。研究においては以下の問題をクリアにする必要があろう。

まず、自衛権行使の要件であるが、個別的自衛権の行使は「急迫不正の侵害がある」などの要件を満たす必要がある。一方、集団的自衛権行使の場合は「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」というのが要件であれば、個別的自衛権行使の場合より、集団的自衛権行使の場合のほうが要件が緩やかになる。
「急迫不正」は一刻の猶予もならない状況であるが、「可能性がある」はそうではなく、「急迫不正」でなくても「可能性がある」に該当することはいくらもある。「可能性がある」というのは「急迫不正」よりはるかに広いのである。このような緩やかな要件で自衛隊が海外へ派遣されるのは個別的自衛権行使の場合と比べて均衡を失するどころか、あってはならないことである。
常識的に、個別的自衛権行使は自国を守るためであるので、要件は他国へ派遣される場合と同じか、むしろ緩やかであるべきだ。逆に、海外へは緩やかな要件で派遣されるのは、おかしいし、海外派兵を厳しく自制している憲法を無残に踏みにじることにならないか。
一方、安保法制懇の言う「可能性がある」は「急迫不正」と同じであるならば、「わが国の安全に重大な影響を及ぼす急迫不正の侵害がある」となり、それはまさに個別的自衛権を行使すべき時である。それを集団的自衛権の問題と言うのはおかしい。

急迫不正の侵害が行なわれ、自衛隊が防衛する場所についても問題がある。「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」場合に自衛隊が出動するのであれば、その場所は日本であるはずだ。「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」場合に米国へ出かけていくことは理屈の上ではないと言い切れないかもしれないが、日本が危うい時に肝心の自衛隊を米国へ派遣するのか。歴史上、自国の防衛に手いっぱいの時は同盟している他国から援軍派遣の要請があっても応じられないと応対してきたことはいくらも例があった。しかし、自国が危うい時に自国の防衛軍を他国へ送り出すなどあったためしがない。そのようなことをする国は存続できない。

このように考えると、安保法制懇の言う「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という提言には重大な疑問があり、集団的自衛権と個別的自衛権を混同しているか、あるいはあくまで集団的自衛権と言うなら荒唐無稽な主張になる恐れさえある。


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