平和外交研究所

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2014.12.12

安倍政権の安全保障政策

THEPAGEに掲載されたもの。

「安倍首相は、2012年末に就任して以来安全保障面で次々に積極的な施策を講じてきました。日本の防衛体制は不十分であり強化しなければならないという、首相のかねてからの信念を実行に移してきたわけです。
日本を取り巻く国際環境は厳しく、中国は過去20年以上にわたって国防費を毎年二桁で増加させ、武器のハイテク化を進めるなど著しく軍事力を強化させてきました。また、2013年秋には防空識別圏を尖閣諸島の上空を含める形で設置しました。2014年の春には中国軍の戦闘機が自衛隊機に異常接近する事態が続発しました。
北朝鮮は極端な軍事優先主義(「先軍」と呼ばれる)を取っており、核実験はすでに3回実施し、中長距離のミサイルの発射実験は繰り返し行なっています。いずれの場合も国際社会の強い反対を無視しています。
日本とロシアとの間では、安全保障面で一定程度の協力が実現していますが、ロシア軍の行動については日本として依然警戒を緩めることはできません。
安倍首相は、第1次政権の際に設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を、第2次政権発足直後の2013年2月に再開させました。この懇談会は日本の安全保障に関する法制度の在り方を再検討し、必要な施策に関する提言を取りまとめた報告書を2014年5月に提出しました。これを受けて政府・与党で検討が進められ、7月、政府は安全保障に関する新しい方針を閣議決定しました。従来、日本は集団的自衛権を持っているが行使できないと解されていましたが、この新決定により、「わが国の存立が脅かされる」ことなど厳格な3要件を満たせば集団的自衛権の行使が認められることになりました。また、平和維持活動(PKO)など国際的活動への自衛隊の協力・貢献の在り方についても積極的な施策を打ち出されました。政府は来年の通常国会に必要な関連法案を提出し、成立を図るべく準備中です。
防衛力の強化については、安倍首相は2013年12月に国家安全保障会議を設置しました。安全保障は外務省および防衛省を中心に複数の省庁にまたがるので、政府として一体性のある、機動的な対応が必要であり、この会議はそのための司令塔の役割を果たします。また、その運営のため数十名の職員を擁する国家安全保障局が設置されました。日本の安全保障のために関係大臣が協議するメカニズムは以前にも作られていましたが、このように本格的なサポート体制が設置されたのは初めてです。
 日本は、中長期的な観点から日本の安全保障政策や防衛力の規模を定めた防衛計画の大綱(略して「防衛大綱」)を策定しています。安倍内閣は、2010年に定められた大綱が現在の状況に照らして不十分な点があるので、2013年に新しい防衛大綱を策定しました。
また、この計画に従い中期的な防衛力整備計画(中期防)を策定し、5年間で実施される政策や装備の調達量を定めました。具体的には、後方支援体制、情報・通信能力、ハードとソフト両面での即応性、持続性、強靭性そして連続性を重視した防衛力の整備です。
離島の防衛力を強化する必要性は以前から認識されていましたが、新中期防ではこの問題を特に重視しています。これはいわゆるグレーの事態、たとえばルールを無視した潜水艦の航行のように、大々的な攻撃ではありませんが放置すれば日本の国益が害される危険に発展する恐れのある問題であり、これまでの法律ではこのような事態に十分対応できなかったので必要な施策を講じることにしています。
防衛予算は過去数年間毎年減少してきましたが、安倍内閣は減少傾向をストップさせ、2013年に0.8%、翌年は3%それぞれ増加させました。一部の国は日本が防衛予算を増額していることをことさらに警戒していますが、増額幅はわずかであり、2014年の予算は2005年の防衛予算程度の水準に戻ったにすぎません。国際的に比較すると非常に低いと言えるでしょう。
一方、この程度の増額では現在の厳しい国際環境に対応できるのか疑問視する人もいますが、国防予算は安全保障のためにどのような政策で臨むかにかかっています。つまり、考え方次第で不足しているとも、足りているとも言える性格があります。また、財政面での制約も当然あります。
日本の防衛は日本だけでは成り立たず、米国との安全保障条約に依存しています。これは第二次大戦後もろもろの要素を勘案して決定されたことであり、今後も核の傘をはじめ米国の軍事力に依存して日本の安全を確保するという国防の基本方針は変わらないでしょう。
米国はアジア太平洋地域を重視していることを再確認しており、これは日本やその他の米国の同盟国にとって頼もしい抑止力となっています。日本としては自らの防衛能力を高めつつ、米国との防衛協力がいつ、いかなる事態においても揺らがないよう努めていくことが必要です。」

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2014.12.11

核の非人道性に関するウィーン会議

核兵器の非人道性に関する国際会議が12月8~9日、ウィーンで開催された。この会議は約2年前から始まった国際的運動を進めることが目的であり、運動の主たる議題は「核兵器の非人道性」とも「核兵器の違法性」とも言われてきた。両者は同じでないが、違法性の根拠は核兵器の非人道性にあるので密接な関係にある。運動が始まった当初は「核兵器の違法性」が強調されていたが、最近は「非人道性」に焦点があたっている。参加国は今回158ヵ国に上り、さらに国際機関が加わった。
核兵器国は従来この運動の会議に出席しなかったが、今回は米英が初めて参加し、発言した。ロシア、中国およびフランスは不参加であったようだ。フランスはある意味では5つの核兵器国の中で、核兵器の非人道性を認めるのにもっとも消極的である。
事実上の核兵器国の中ではインドとパキスタンが参加し、北朝鮮は不参加であった。同じ「事実上の核兵器国」の中でもインド・パキスタンと北朝鮮を同じ類型に入れることには専門家の間で抵抗があろうが、細かい議論はしない。
核兵器の廃絶はなかなか進展しないので各国には強い不満がある。今回のウィーン会議でもそのような不満は底流となって流れていたが、核の廃絶が進まないからと言ってこの運動を無視してはならない。今次会議を締めくくるに際し、ホスト国として議長を務めたオーストリアは、会議全体でなく、オーストリアだけの責任であるとの前提で今次会議の議論を総括した。この種の会議では合意文書を作ることはきわめて困難なことが多いので、議長だけの責任で総括を行なうのは現実的なテクニックである。オーストリアによる議長サマリーのなかではいくつか新鮮な指摘があった。初めて聞いた議論だという意味でない。以前から繰り返し指摘されていることでも、新鮮に響くものも、そうでないものもある。

核兵器をいつでも使用できる状態にしておくことが問題であるという認識がある。冷戦中は米ソ両国をはじめ核兵器国はいざというときのために核搭載のミサイルをいつでも発射できる状態にしていた。いわゆるアラートの状態にしていたのである。しかし、冷戦が終わった今でも相変わらずそうしている。それは危険なことだという問題意識であり、だから今は、核兵器の危険性を低くするために、アラート状態を維持すべきでないと議論されている。このことは今回のウィーン会議でも指摘されていた。
議長サマリーは、核の使用は健康にかかわる国際法規に違反する疑いが大きいことを示す証拠が過去2年の間に明るみに出てきた、と指摘した。放射能被害のことであり、核兵器に限らず放射能被害が広範囲に、かつ人の健康に重大な影響を及ぼすこと、それは国際社会の法規に違反するという観点から重視していこうと呼びかけたのである。
議長サマリーは、その上で、核兵器の非人道性について各国の関心が高まっていることを指摘し、その文脈で今次会議に今まで出てこなかった核兵器国が参加したことを歓迎した。また、今次会議で核の非人道性に関し行われた議論が2015年に開かれる核兵器拡散禁止条約(NPT)の再検討会議(5年に1回の重要会議)を有意義なものとするのに貢献するであろうと期待感を表明した。
一方、議長サマリーは、一部の国では核兵器の使用が軍事ドクトリンで肯定的に見なされていることに警告を発した。核兵器の有用性を高めるようなこと、単純化して言えば、核兵器を使うことを想定した軍事戦略を唱えるべきでないということであり、これも昔から言われている議論であるが、今日の状況下ではこのような指摘が特に必要である。どの核兵器国も核兵器を使用する可能性があるから保有しているのであるが、軍事戦略において核兵器の使用を肯定することは安易な使用につながる恐れがあるからである。また、議長サマリーは、「核兵器はいかなる状況においても再び使用されてはならない」という、核兵器の非人道性に関する国際運動が唱えてきたことを再度明言した。核兵器国は、核の抑止力に依存している国を含め、その命題に賛同することに困難を覚えているが、あえて言及したのであり、「多くの国がこの命題を肯定した」とも論じた。
さらに、議長サマリーは、核兵器を禁止する条約について、やはり「多くの国が賛同した」と指摘した。この条約を締結する問題をどのように扱うかも、来年のNPT再検討会議での重要な議題となるであろう。

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2014.12.10

安倍政権の外交安全保障

THEPAGEに12月7日掲載された。

「第2次安倍政権が成立してから約2年になります。この間の外交活動はきわめて活発でした。安倍首相が訪問した国の数は2014年9月の時点で49カ国にのぼり、歴代トップとなりました。しかも、外国訪問の頻度は1ヵ月あたり2・3ヵ国と歴代の首相に比べ抜群の高さでした。49番目となったスリランカ訪問の後も、ニューヨークの国連総会、ミラノのアジア欧州会合(ASEM)、北京のアジア太平洋経済協力会議(APEC)と続きましたので、安倍首相にとって文字通り席が温まる暇はありませんでした。
 首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、数々の困難を克服してこれだけ活発に外交活動を展開してきたことは特筆してよいでしょう。
 安倍首相の外交は「地球儀を俯瞰する外交」と言われています。「俯瞰」とは高いところから全体を見渡すという意味です。日本として米国やアジアの近隣諸国との関係を重視していくのは当然ですが、特定の国、地域に限定することなく地球規模で各国との友好関係増進に努めてきたからです。
日本が厳しい国際環境に置かれているなかで、安倍首相は積極的な安全保障政策を講じるとともに、日本としてはあくまで平和に徹し各国との協力関係を促進する「積極的平和主義」であることを強調しています。日本は、アジアのみならず世界において大きな責任を有しています。各国は日本が責任ある立場で、戦略的に積極的な施策を講じることを理解し、歓迎しています。Japan is back、つまり「日本が戻ってきた」という言葉で日本の姿勢を評価する研究者もいます。
 日本外交にとって、米国との関係はこれまでも、また今後もきわめて重要であり、安倍政権は米国の信頼を取り戻すことを重点施策の一つと位置付け、国の内外でその方針を実行に移してきました。東シナ海での協力は一つの例です。2013年秋には、日米両国の外務・防衛相が安全保障面での協力のあり方を協議するいわゆる2+2が久しぶりに開催されました。今後日米両国は、厳しい国際環境に対応するために防衛協力のあり方を示す新しい指針(ガイドライン)の策定に向け協議を継続していくことになっています。
 一方、アジア諸国との関係では、安倍首相はすでにすべての東南アジア諸国を訪問しており、またオーストラリアなどとも関係増進に努めていますが、日本のもっとも重要な隣国である中国および韓国との関係ではまだ問題があります。
 第2次安倍政権の発足以来懸案であった首脳同士の会談については、中国の習近平主席とは先般のAPEC首脳会議の際に会談が実現しました。これは一つの大きな前進でした。安倍・習会談に先立って行なわれた事務レベル協議では、東シナ海において不測の事態の発生を回避するため危機管理メカニズムを構築することで意見が一致しました。一方、中国は尖閣諸島に対する主張を維持していますし、昨年には防空識別圏の恣意的な設定や中国軍機が自衛隊機に異常接近する事態が起きています。両国の首脳は共通の関心事について機動的に、緊密に協議し、問題の迅速な解決を図っていかなければなりません。
 韓国との間では、米国大統領が仲介する形で、あるいはAPECなど多国間外交の場で安倍首相と朴槿恵大統領が短時間言葉を交わしただけで両首脳間の直接の会談は実現していません。韓国側は、慰安婦などいわゆる歴史問題に安倍首相が積極的に取り組むことを求め、その面での進展がないと首脳会談には応じないという姿勢です。歴史問題については韓国と中国の立場は共通しており、また、歴史問題の扱いを誤ると米国との関係を不必要に悪化させる危険もあります。それだけにこの問題の扱いは非常に困難ですが、日本としては中国および韓国との関係で加害者であったという歴史を軽視することなく、適切に対処していく必要があります。日韓関係は基本的にはまだ困難な状況にありますが、雰囲気が若干変化し、関係改善の兆しとも取れる面も出てきつつあるのでさらなる前進を図る必要があります。
 日中関係も日韓関係もきわめて重要であることは言うまでもなく、関係を増進するためには双方の努力が必要です。国家間で利害関係が一致しないことは何ら不思議でなく、時に極端な考えや行動に走り、いたずらにナショナリスティックになる危険がありますが、双方ともそのような危険を回避し、必要であれば我慢強く関係を増進させていかなければなりません。」

(さらに…)

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