平和外交研究所

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2014.08.08

国連人権問題高等弁務官の日本批判

慰安婦問題について国際社会の状況がかなり悪化しているようだ。
国連人権問題高等弁務官Navanethem Pillayは8月末任期を終えるそうだが、8月6日、日本の慰安婦問題に対する取り組みを批判する声明を発表した。高等弁務官は国連総長の次の地位であり、自らが日本政府を批判するのは異例であり、その批判は厳しいものである。この声明は注意が必要である。次に転載する声明は国連人権問題高等弁務官(UNHCHR)のプレスリリースである。

GENEVA (6 August 2014) – UN High Commissioner for Human Rights Navi Pillay on Wednesday expressed profound regret that Japan has failed to pursue a comprehensive, impartial and lasting resolution of the issue of wartime sexual slavery, warning that the human rights of the victims, known as “comfort women”, continue to be violated decades after the end of the Second World War.
“During my visit to Japan in 2010, I appealed to the Government to provide effective redress to the victims of wartime sexual slavery,” the High Commissioner said. “Now, as my tenure in office comes to an end, it pains me to see that these courageous women, who have been fighting for their rights, are passing away one by one, without their rights restored and without receiving the reparation to which they are entitled.”
“This is not an issue relegated to history. It is a current issue, as human rights violations against these women continue to occur as long as their rights to justice and reparation are not realised,” she stressed.
Instead of justice, the High Commissioner said, the women are facing increasing denials and degrading remarks by public figures in Japan. A report issued by a Government-appointed study team on 20 June 2014, stated that “it was not possible to confirm that women were forcefully recruited.” Following the release of this report, a group in Tokyo publicly declared that “comfort women were not sex slaves but wartime prostitutes.”
“Such statements must cause tremendous agony to the women, but we have not seen any public rebuttal by the Government,” Pillay said.
Over the years, Japan has received recommendations from a number of UN independent experts, human rights treaty bodies and from the Human Rights Council under its Universal Periodic Review for it to take concrete measures to tackle the issue. Most recently, the UN Human Rights Committee, which oversees implementation of the International Covenant on Civil and Political Rights, called on Japan to take “immediate and effective legislative and administrative measures” to ensure that all allegations of sexual slavery are investigated and perpetrators prosecuted. It also called for access to justice and reparations for victims and their families, the disclosure of all evidence available, and education in the country surrounding the issue.
Pillay noted that Japan had signed the UN Declaration on the Prevention of Sexual Violence in Conflict last year and that it had offered strong support to the UK summit on sexual violence in conflict earlier this year
“I encourage Japan to pursue a comprehensive, impartial and lasting resolution of the wartime sexual slavery issue with the same vigour,” she added, noting the Office’s readiness to offer any necessary assistance.
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2014.08.07

ロシアの対抗措置

ウクライナ情勢との関係で米欧が7月、対ロシア追加制裁措置を取り、日本も8月5日、追加措置を閣議で決定した(閣議了解)。内容は7月28日に菅官房長官が発表していた通りである(当ブログ8月4日「日本の対ロシア追加制裁措置」)。クリミアとの貿易制限は双方にとってほとんど影響はないだろう。資産凍結は、日本はプーチンの側近等は外した。かりに米欧のように含めていても、日本には彼らの資産はあまりないだろうから実質的意味は小さい。ただ、資本取引の制限は、欧州と共同歩調を取るなかで、一定の影響はあるかもしれない。
予想されていたことであるが、ロシアは米欧諸国および日本に対して一連の対抗措置を実施している。日本との関係では、官房長官の発表の翌日、日本が発表した追加制裁を「非友好的で近視眼的な措置」と批判する声明を発表した。
また、ロシアは8月末に予定されていた日ロ次官級協議を日本の対ロ制裁を理由に一方的に延期した。官房長官が6日の記者会見で説明している。この協議はプーチン大統領の訪日問題などについて準備を行なう重要な機会になるはずであった。しかし、日本としては過度に反応することなく、情勢の推移を見守りつつ、日ロ関係の進展を図っていくのであろう。

一方、ロシアは欧米からの食料品輸入について検査を強化しており、禁止される食品も出てきている。ロシア国内で営業しているファストフード店なども影響を受けているらしい。これもおそらく対抗措置の一環であろうが、マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、コーラ、果物、野菜、豚肉などロシア人の生活に関わることはどこまで締めあげられるか。衛生状態を保つことなど当然であるが、下手をすれば自分たちにその影響が及んでくる。また、ロシア自身がクリーンでおいしい食料を十分供給できるかという問題もあろう。
ロシアの対抗措置は1987年に米国と合意した中距離核戦力廃棄条約(INF)を無視するのではないが、一定程度サボることにも及んでいる可能性がある。この条約によって米ロは射程310マイル(500キロ)~3400マイル(5500キロ)の地上発射核戦力の保持・実験・開発を禁止されている(船舶・航空機から発射されるものは除かれる)がこれに違反してミサイルの発射実験をしたことである。米国務省が議会に提出した各国の軍備管理条約の遵守状況に関する報告書に記載されている。
しかし、実験の事実を米欧の制裁と短絡的に結びつけることは危険である。米国もかつて違反したことがあったらしい。ロシアの違反は今回始まったことでなく、2008年以来続いており、米側からこの問題をロシア側に何回も提起したとホワイトハウスの報道官が述べている(Josh Earnest報道官 7月29日)。
米国では、ロシアの条約違反を問題視するあまり、条約を廃棄してしまえと主張する者もいるが、研究者のなかには、大事なことはロシアを条約順守に戻すことであり、以前にもそういうことはあったと指摘する意見がある。いずれにしてもINFは冷戦の末期に結ばれた画期的な意義のある条約であり、締結以来の歴史を踏まえて見ていく必要がある。

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2014.08.06

「中東、ウクライナ……激動の国際情勢で日本外交の独自性とは?」

THEPAGEに8月4日掲載された一文

「安倍首相は、7月25日から8月2日まで中南米の5か国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリおよびブラジル)を歴訪しました。9月にはさらに南西アジアのバングラデシュとスリランカへの訪問が予定されています。これを含めると安倍首相は政権発足以来49か国を訪問したことになり、小泉首相が記録した48か国を抜いて歴代トップになります。外国訪問の頻度は1か月あたり2、3か国で、これは小泉首相をはるかに上回っています。
「地球儀を俯瞰する」外交
 首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、安倍首相は矢継ぎ早に各国を訪問し、友好親善関係の増進に努めています。
 首脳間ではどのような話し合いが行なわれているのでしょうか。たとえば、メキシコでは、安倍首相はペニャ・ニエト大統領と金融危機の克服、企業の進出・投資、エネルギー面での協力拡大など経済関係の諸問題から地震対策、学術交流、スポーツ交流、さらには400年前に欧州へ向かう途次メキシコに立ち寄った支倉常長のことなど実に幅広く話し合いを行なっています。世界がグローバル化した今日、日本が各国と協力して、解決、あるいは推進していく事柄は非常に多くなっているのです。
 安倍首相の積極外交は、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」と呼ばれています。「俯瞰」とは高いところから広い範囲を見渡すことです。政府は、「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚した外交」と説明しています。第1次安倍内閣の時には「自由と繁栄の弧」が外交の基本方針を象徴的に示すものとして掲げられましたが、「地球儀俯瞰外交」と基本的には同じ内容でした。
各地の紛争で存在感薄い日本
 一方、世界各地で起こっている紛争の関連では、日本外交は存在感が薄いという印象を持たれていると思います。ウクライナでは、クリミアの独立とロシアの承認から発生した混乱が東ウクライナにも飛び火し、その上悲惨な事故が起こったのにその処理は遅々として進んでいません。イラクではイスラムのスンニ派武装勢力が反政府攻勢を強めイラク第2の都市モスルを制圧し、首都バグダッドに迫ろうとしていますが、マリキ首相が率いる政府はこれに対処するのに難渋しています。パレスチナでは、イスラム原理主義のハマスとイスラエルがガザ地区で戦闘を再開しており、民間人の犠牲が急速に増えていますが、事態が鎮静化する見通しはまったく立っておらず、米国の仲介も効果をあげるに至っていません。
 日本は、中東ではとくに石油輸入の面で関係が深いですが、紛争となると、日本として独自に政治的・軍事的な役割を果たす状況にはありません。国連やG8の一員として紛争当事者に自制を求め、和平の達成を促し、また、復興援助など平和構築の支援をしています。このような地道な外交努力は派手さはありませんが、国連を中心とする国際社会の仕組みや日本国憲法の下で平和主義に徹する国是にかんがみますと、それも日本外交の特色と考えられます。
 国際的紛争において目立った役割を果たすのはやはり米国です。米国に匹敵する外交力を持つ国は他にありませんが、ロシア、中国などは国連安全保障理事会の常任理事国、いわゆるP5としての役割があります。とくに中国の台頭はめざましいものがあります。
このような一般的な状況に加えて、個別の地域に特有の事情もあり、ウクライナでは米国とロシアの他、欧州連合(EU)も大きな役割があります。パレスチナ問題ではヨーロッパ諸国が関与することも時折ありますが、圧倒的に影響力が強いのはやはり米国です。
日本の外交にとって最重要な国は米国であり、また、中国と韓国です。日本と米国の関係が変化する、しかも日本の主導でそのようなことが起これば、これは世界の耳目を驚かすことになるでしょうが、そういうことは考えられません。一方、日本は中国および韓国と、他の国とは比較にならないくらい長い期間にわたって交流の歴史があり、また、グローバル化にともない経済的な関係は飛躍的に発展していますが、政治的な関係は安定していると言えない面があります。
 一つの原因はいわゆる歴史問題です。これは日本においてはすでに過去のことという目で見られがちですが、中韓両国においては決してそうではありません。戦後日本は戦争の処理のために努力を積み重ねてきました。その結果、諸国との関係は改善し、ともに発展してきました。しかし、歴史問題は決着ずみであり、過去のこととして今後は未来志向で行こうと言うだけではすみません。日本の若者の中にはこれら両国から繰り返し批判されてきたのでうんざりしている人が少なくありませんが、この歴史問題はこちらの判断を押し付けるわけにはいきません。相手国の国民感情に十分配慮しながら慎重に対処する必要があります。
 また、中韓両国とも著しい経済発展を遂げ、世界における地位は格段に向上しています。とくに中国は、経済面のみならず、政治面でも独自のカラーを打ち出そうとしており、「中国の特色」を強調し、そのための政策を大々的に実施しています。今後の世界情勢においては中国がますます大きな役割を演じることになるでしょう。
 日本としてはこれら両国との関係を改善し、発展させていかなければなりません。政府が言うように、「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して」というのはどういう意味でしょうか。世界の諸国との友好関係増進も必要ですが、中韓両国との関係改善なくしては「画竜点睛を欠く」のではないでしょうか。これらの国との関係を今後どのように増進していくか、日本外交の真価が問われます。

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