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2015.02.05
富山大学極東地域研究センターの堀江典生教授は、「ロシア極東地域は中国からの経済圧力と人口圧力を脅威とする中国脅威論が盛んに議論されてきた地域である。ロシア極東地域の農地活用において中国との協力に期待を寄せつつも、いざ中国からの投資を呼び込もうとするとある種のブレーキがかかる文脈がこの地域にはある」と指摘している。どのようなブレーキかについては、「ロシア極東地域側の受け止め方は複雑である。中国企業のアムール州進出では化学肥料・農薬の大量投入により農地が傷んだり、アムール州の農業企業で雇われる中国人労働者が不法移民であったりすることが、頻繁にロシアで報道されている。」そして、「アムール州では、農業労働力を外国人労働力、特に中国人労働力に依存していると言われているなか、2013年に中国人農業労働者への外国人労働許可割当をゼロとする思い切った方針を打ち出した。アムール州は、太平洋への出口として良好な港をもつ沿海地方やハバロフスク地方とは異なり、中国にしか国際的な出口がない。それゆえ、中国国境地域と本来強い補完性を労働力においても貿易においてももつアムール州のこうした動きは、進展するロシア極東地域開発において、新たな中国脅威論の火種となる可能性をもつ。ただし、こうした中国人農業労働者の動向を伝える報道は、しっかりとした根拠に基づいたものばかりとは限らず、農業部門に限った中国人農業労働者の就労実態について学術的な分析はまだまだ限られている。」と述べている。
(堀江教授の論文「アムール州にみるロシア極東農業と外国人労働者問題」から抜粋)
香港の鳳凰台(フェーニックスTV)や米国に本拠を置く多維新聞(それぞれ1月27日、28日)は土地の無償提供のニュースに敏感に反応して、要旨次のように報道した。
○極東地域の土地を無償で提供するという提案は、極東連邦区のトゥルトゥネフ代表によって行われた。この地域の労働力は激しい減少傾向にあるからである。対象となるのはロシア人である。使途に制限はなく、農業、林業、狩猟場あるいはリゾートなど何でもよい。提供される土地の広さは1人につき1ヘクタールである。
○中国人でも極東地域に10年以上居住している者は土地を得る資格がある。10年に満たなければ、土地をロシア人から賃借することができるであろうから、この提案は中国人労働者にとって大きな意味がある。
○極東地域に居住する中国人の数は20万人を超える。さらに多数の中国人労働者がロシア領内に来る可能性がある。2013年、国境を越えてロシアに入境した中国人の数は68・9万人であった。そのうち居住許可を得たのはわずかに1240人であり、この他、8・2万人が労働許可を得た。したがって、入境した中国人の88%は違法移民であったことも問題である。
○中国の国家開発銀行はこの地でのインフラ建設などのために50億米ドルを投資する予定である。
○このような状況からロシアでは警戒心が強まり、現在大議論になっている。土地を得たロシア人が将来中国人に売却する可能性もあり、将来中国人によって主権を奪われる結果になると心配する者もいる。
○しかし、極東地域は中国人労働力に依存せざるをえない。日本や韓国の企業も参入しているが、それだけでは足りない。2012年5月にも、ロシアの経済発展部門は極東沿海地域の数百万ヘクタールの土地を中国人に長期賃貸し、農業の市場化に役立てる方針を発表した経緯がある。
中国に膨大な労働力があることは、かつては必ずしも利点でなかったが、今や中国の力の源泉になっている。そのことが顕著に表れるのがロシアの極東地域である。ロシアの力が弱まっていると即断することはできないが、石油価格の下落やウクライナ問題に加えこのような極東地域の状況を見ていると、「勢いのある中国」と「受け身のロシア」というコントラストになっていると思われてならない。
ロシアにおける中国人労働者
最近、ロシア極東地域で住民に土地を無償で与えるという提案が行われた。プーチン大統領は原則賛成らしい。かなり特殊な提案であるが、ロシアと中国の両方にまたがる問題が背景にある。富山大学極東地域研究センターの堀江典生教授は、「ロシア極東地域は中国からの経済圧力と人口圧力を脅威とする中国脅威論が盛んに議論されてきた地域である。ロシア極東地域の農地活用において中国との協力に期待を寄せつつも、いざ中国からの投資を呼び込もうとするとある種のブレーキがかかる文脈がこの地域にはある」と指摘している。どのようなブレーキかについては、「ロシア極東地域側の受け止め方は複雑である。中国企業のアムール州進出では化学肥料・農薬の大量投入により農地が傷んだり、アムール州の農業企業で雇われる中国人労働者が不法移民であったりすることが、頻繁にロシアで報道されている。」そして、「アムール州では、農業労働力を外国人労働力、特に中国人労働力に依存していると言われているなか、2013年に中国人農業労働者への外国人労働許可割当をゼロとする思い切った方針を打ち出した。アムール州は、太平洋への出口として良好な港をもつ沿海地方やハバロフスク地方とは異なり、中国にしか国際的な出口がない。それゆえ、中国国境地域と本来強い補完性を労働力においても貿易においてももつアムール州のこうした動きは、進展するロシア極東地域開発において、新たな中国脅威論の火種となる可能性をもつ。ただし、こうした中国人農業労働者の動向を伝える報道は、しっかりとした根拠に基づいたものばかりとは限らず、農業部門に限った中国人農業労働者の就労実態について学術的な分析はまだまだ限られている。」と述べている。
(堀江教授の論文「アムール州にみるロシア極東農業と外国人労働者問題」から抜粋)
香港の鳳凰台(フェーニックスTV)や米国に本拠を置く多維新聞(それぞれ1月27日、28日)は土地の無償提供のニュースに敏感に反応して、要旨次のように報道した。
○極東地域の土地を無償で提供するという提案は、極東連邦区のトゥルトゥネフ代表によって行われた。この地域の労働力は激しい減少傾向にあるからである。対象となるのはロシア人である。使途に制限はなく、農業、林業、狩猟場あるいはリゾートなど何でもよい。提供される土地の広さは1人につき1ヘクタールである。
○中国人でも極東地域に10年以上居住している者は土地を得る資格がある。10年に満たなければ、土地をロシア人から賃借することができるであろうから、この提案は中国人労働者にとって大きな意味がある。
○極東地域に居住する中国人の数は20万人を超える。さらに多数の中国人労働者がロシア領内に来る可能性がある。2013年、国境を越えてロシアに入境した中国人の数は68・9万人であった。そのうち居住許可を得たのはわずかに1240人であり、この他、8・2万人が労働許可を得た。したがって、入境した中国人の88%は違法移民であったことも問題である。
○中国の国家開発銀行はこの地でのインフラ建設などのために50億米ドルを投資する予定である。
○このような状況からロシアでは警戒心が強まり、現在大議論になっている。土地を得たロシア人が将来中国人に売却する可能性もあり、将来中国人によって主権を奪われる結果になると心配する者もいる。
○しかし、極東地域は中国人労働力に依存せざるをえない。日本や韓国の企業も参入しているが、それだけでは足りない。2012年5月にも、ロシアの経済発展部門は極東沿海地域の数百万ヘクタールの土地を中国人に長期賃貸し、農業の市場化に役立てる方針を発表した経緯がある。
中国に膨大な労働力があることは、かつては必ずしも利点でなかったが、今や中国の力の源泉になっている。そのことが顕著に表れるのがロシアの極東地域である。ロシアの力が弱まっていると即断することはできないが、石油価格の下落やウクライナ問題に加えこのような極東地域の状況を見ていると、「勢いのある中国」と「受け身のロシア」というコントラストになっていると思われてならない。
2015.02.03
江沢民元国家主席へも運動の影響が及ぶか、まだ明確になっていないが、その側近には取り締まりの対象となる者が出ており、周永康もその一人である。江沢民の軍内の秘書であった賈廷安上將も1月23日、中央規律検査委員会によって連行された。同人は軍人であるので、軍の規律検査委員会が扱うべきであるという声が軍内で出ている。中央規律検査委員会と軍の規律検査委員会とのライバル関係については、1月24日の当HP記事を参照願いたい。
江沢民の子である江綿恒は、中国科学院上海分院長の職を解任された。定年が理由とされているが、中国では次官クラスは60歳、大臣クラスは65歳が定年であり、江綿恒は今年の4月で64歳になる。同人はどちらのクラスであれ、この時点で解任されるのは異常である。ただし、上海科学技術大学の学長だけは保持している。
李鵬元首相の子、李小鹏についてもうわさが絶えない。同人は電力畑出身であり、山西省長であったが、最近の人事で、「山西省人民政府の活動全般を指導する」こととなった。これは降格であると見られている。このことを報じたインターネットのサイトはすぐに閉鎖された。電力事業についてはかねてから改革の必要性が叫ばれていたが、進捗していない。なぜうまくいかないのか江沢民自身が問い詰めたこともあったが、明確な答えは得られなかったと言われている。電力関係部署の病巣は根が深そうである。
一方、習近平の反腐敗運動は、いわゆる「紅色家族(中国革命の功労者の家族)」や「紅二代(功労者の子)」には追及が甘いことを示唆する意見が出始めている。『紅旗文稿』2015年第二期の「2014年思想理論領域的九大熱點問題」は、反腐敗運動の深化にともない、この運動は「政治闘争である」という議論が出てきていることを指摘している。
「安邦保険」は約10年前に設立された新しい会社であるが、急成長し、すでに中国最大の保険会社となっている。保険業務自体はとくに優れているわけでないが、相次ぐ吸収合併で巨大化しており、ニューヨークの超有名なホテル「ウォルドーフ・アストリア」を買収して世間の耳目を集めた。このような急成長ができたのは、典型的な「紅二代」である陳小魯(中国革命の功労者である陳毅元帥の子)がいるからである。
「安邦保険」を牛耳っているのは陳小魯と現在のCEOの呉小暉であり、呉小暉は鄧小平の孫娘、鄧卓苒の前夫である。卓苒は親族と協議して「安邦保険」関係の株をすべて手放したが、そうしたのは2ヵ月目にもならない2014年12月であった。このようなことから、中国では鄧小平の親族と「安邦保険」との関係が話題になっている。
この保険会社の大株主は「民生銀行」であり、この銀行も後述するように反腐敗運動の対象となっており、これらを含めた汚職の構造はかなり複雑なようだ。
「安邦保険」も「民生銀行」も私営企業であるが、共産党の組織があるらしく、共産党員の汚職とは無縁というわけにはいかないようである。
反腐敗運動の影響は社会生活にも及んでいる。昨年の大晦日、上海のバンド(陳毅広場)で群衆が押しかけ多数の死傷者が出る事故が起こったが、この時、所轄の警察署員は付近の高級レストランで宴会中であったので対応が遅れ、世間の厳しい批判にさらされた。身分を隠して取材していた記者が見破られ、殴打されたこともあった。すでに14人の警察官が職務停止などの処分を受けているが、上海市の規律検査委員会はこの事件を重視し、調査しようとしている。
最近の反腐敗運動のあおりを受けて高級レストランの収入が減少しており、五つ星の(最高級)レストランの中にも破産するところが出ている。
取り締まりが厳しくなったので、自殺が増えている。昨年11月、海軍の政治委員馬発祥が取り調べを受けることとなって投身自殺した。習近平は海軍のハイレベルでもそのような問題が起こっていることなど想像もしていなかったと言ったそうである。
多くの地方政府・単位では第18回党大会以降の「非正常死亡」の党員幹部の統計を作成するよう指示が出されており、そのなかには基本的事実関係のほか、死亡原因、自殺か他殺か、工場での事故、交通事故、医療事故、火災など死亡の態様などの説明も求められている。
最後に、次官クラス以上で次のような者が取り調べを受け、あるいは降格された(網羅的でない)と報道されている。
元雲南省書記 白恩培
海南省書記 蒋定之(江蘇省のナンバー2に降格)
元南京市書記 楊衛澤
軍総政治部副主任 贾廷安
元海軍副司令員 王守業
廣州市政協原副主席 潘勝燊
陽江市政治協商会議主席 偉麗坤
国家安全部副部長 馬建
中央弁公庁秘書局局长 霍克
中央対外宣伝弁公室五局副局長 高剣雲
民生銀行行長 毛暁峰(民生銀行は私営企業であるが、共産党の組織があり、毛はその書記であった。同銀行内には毛の他にも調査の対象になっているものが数名いる。)
反腐敗運動と「紅色家族」
反腐敗運動はますます激しくなっている感がある。周永康元政治局常務委員、徐才厚元中央軍事委員会副主席、令計画元中央弁公庁主任など大物については昨年中に処分が決定し一段落したが、習近平政権はその後も運動を緩めない。本HPでは、今年になってからすでに2回書いたが(それぞれ1月7日、24日)、それでも足りない。江沢民元国家主席へも運動の影響が及ぶか、まだ明確になっていないが、その側近には取り締まりの対象となる者が出ており、周永康もその一人である。江沢民の軍内の秘書であった賈廷安上將も1月23日、中央規律検査委員会によって連行された。同人は軍人であるので、軍の規律検査委員会が扱うべきであるという声が軍内で出ている。中央規律検査委員会と軍の規律検査委員会とのライバル関係については、1月24日の当HP記事を参照願いたい。
江沢民の子である江綿恒は、中国科学院上海分院長の職を解任された。定年が理由とされているが、中国では次官クラスは60歳、大臣クラスは65歳が定年であり、江綿恒は今年の4月で64歳になる。同人はどちらのクラスであれ、この時点で解任されるのは異常である。ただし、上海科学技術大学の学長だけは保持している。
李鵬元首相の子、李小鹏についてもうわさが絶えない。同人は電力畑出身であり、山西省長であったが、最近の人事で、「山西省人民政府の活動全般を指導する」こととなった。これは降格であると見られている。このことを報じたインターネットのサイトはすぐに閉鎖された。電力事業についてはかねてから改革の必要性が叫ばれていたが、進捗していない。なぜうまくいかないのか江沢民自身が問い詰めたこともあったが、明確な答えは得られなかったと言われている。電力関係部署の病巣は根が深そうである。
一方、習近平の反腐敗運動は、いわゆる「紅色家族(中国革命の功労者の家族)」や「紅二代(功労者の子)」には追及が甘いことを示唆する意見が出始めている。『紅旗文稿』2015年第二期の「2014年思想理論領域的九大熱點問題」は、反腐敗運動の深化にともない、この運動は「政治闘争である」という議論が出てきていることを指摘している。
「安邦保険」は約10年前に設立された新しい会社であるが、急成長し、すでに中国最大の保険会社となっている。保険業務自体はとくに優れているわけでないが、相次ぐ吸収合併で巨大化しており、ニューヨークの超有名なホテル「ウォルドーフ・アストリア」を買収して世間の耳目を集めた。このような急成長ができたのは、典型的な「紅二代」である陳小魯(中国革命の功労者である陳毅元帥の子)がいるからである。
「安邦保険」を牛耳っているのは陳小魯と現在のCEOの呉小暉であり、呉小暉は鄧小平の孫娘、鄧卓苒の前夫である。卓苒は親族と協議して「安邦保険」関係の株をすべて手放したが、そうしたのは2ヵ月目にもならない2014年12月であった。このようなことから、中国では鄧小平の親族と「安邦保険」との関係が話題になっている。
この保険会社の大株主は「民生銀行」であり、この銀行も後述するように反腐敗運動の対象となっており、これらを含めた汚職の構造はかなり複雑なようだ。
「安邦保険」も「民生銀行」も私営企業であるが、共産党の組織があるらしく、共産党員の汚職とは無縁というわけにはいかないようである。
反腐敗運動の影響は社会生活にも及んでいる。昨年の大晦日、上海のバンド(陳毅広場)で群衆が押しかけ多数の死傷者が出る事故が起こったが、この時、所轄の警察署員は付近の高級レストランで宴会中であったので対応が遅れ、世間の厳しい批判にさらされた。身分を隠して取材していた記者が見破られ、殴打されたこともあった。すでに14人の警察官が職務停止などの処分を受けているが、上海市の規律検査委員会はこの事件を重視し、調査しようとしている。
最近の反腐敗運動のあおりを受けて高級レストランの収入が減少しており、五つ星の(最高級)レストランの中にも破産するところが出ている。
取り締まりが厳しくなったので、自殺が増えている。昨年11月、海軍の政治委員馬発祥が取り調べを受けることとなって投身自殺した。習近平は海軍のハイレベルでもそのような問題が起こっていることなど想像もしていなかったと言ったそうである。
多くの地方政府・単位では第18回党大会以降の「非正常死亡」の党員幹部の統計を作成するよう指示が出されており、そのなかには基本的事実関係のほか、死亡原因、自殺か他殺か、工場での事故、交通事故、医療事故、火災など死亡の態様などの説明も求められている。
最後に、次官クラス以上で次のような者が取り調べを受け、あるいは降格された(網羅的でない)と報道されている。
元雲南省書記 白恩培
海南省書記 蒋定之(江蘇省のナンバー2に降格)
元南京市書記 楊衛澤
軍総政治部副主任 贾廷安
元海軍副司令員 王守業
廣州市政協原副主席 潘勝燊
陽江市政治協商会議主席 偉麗坤
国家安全部副部長 馬建
中央弁公庁秘書局局长 霍克
中央対外宣伝弁公室五局副局長 高剣雲
民生銀行行長 毛暁峰(民生銀行は私営企業であるが、共産党の組織があり、毛はその書記であった。同銀行内には毛の他にも調査の対象になっているものが数名いる。)
2015.01.31
戦勝記念と言ってもドイツに対するのと、日本に対するのとは分けなければならない。また、どの国が記念行事を行なうかも区別して見なければならない。
ドイツとの戦争については、欧米とロシアはともに連合国であったが、戦勝行事は食い違っている。まず、ドイツ軍が降伏した日付について西側とロシアとの間で齟齬があり、西側は5月8日をVE day(V day in Europe)としているが、ロシアは5月9日としている。この日付のずれも問題であるが、本稿では深入りしない。日付よりもっと大きな違いは、西側諸国は、英国の特殊な例を除いて、ドイツの降伏記念日に特別の祝賀行事を行なっていないことである。西側が重視するのはノルマンディー上陸が行なわれた6月6日(1944年)であり、これはD dayと呼ばれている。2014年にはその70周年を大々的に祝賀した。
一方、ロシアや東欧諸国など旧共産圏諸国は5月9日に対独戦勝記念行事を軍事パレード付きで派手に行なってきた。旧ソ連の崩壊後90年代は控えめになったが、プーチン大統領は大規模な祝賀行事を復活させた。ロシアとしてはドイツを降伏させるのに主要な役割を果たしたのはソ連であったという認識が強く、そのことを想起できる毎年の対独戦勝記念行事は重要なものである。しかし、西側諸国の首脳は、ソ連が対独戦で重要な役割を果たしたことは認めるが、ロシアが主要な役割を果たしたとは考えていない。
このようなずれは冷戦の影響で必要以上に大きくなった。西側がD dayを重視するのは、ソ連がノルマンディー上陸作戦に関係なかったからであるが、冷戦中はソ連に協力したくないという気持ちが強く働いていたことも看過できない要因であったと思われる。
しかし、冷戦が終わった現在、戦争に参加したか否かはあまり重要なことでなくなっており、行事開催国の政治的判断で参加の招待が行われるようになっている。プーチン大統領は2014年のD day式典に参加した。
日本との戦争については、9月2日に日本と連合国が降伏文書に署名したので、西側諸国はその日をVJ day(V day against Japan)としている。2005年の戦争終結60周年には米国の首都ワシントンで記念行事が開かれた。
一方、中国は9月3日に記念行事を行なっている。1日ずれている理由はよく分からないが、当時の中国代表であった国民党政府が降伏文書署名の翌日から祝賀行事を始めたからだとも言われている。
前置きが長くなったが、今年の5月9日、ロシアで行なわれる対独戦勝70周年記念行事にどの国が出席するか。ロシアとしては盛大に開催したいので各国に招待状を送っているが、西側諸国の首脳は上述の経緯からして出席せず、下位のレベルの出席にとどめるだろうと推測される。いずれにしても、西側諸国の出席はもはや大きな問題でなくなっている。
中国はドイツと戦争していないので、出席しても客分としてのはずだが、中国の習近平主席が出席するか否かは重要な問題になっており、1月21日、ラブロフ外相は記者会見で、習近平主席が出席すると公表した。その時中国側ではまだ何も発表していなかったので、先にロシア側が発表したことを不愉快に思ったらしい。翌日、中国外交部のスポークスマンは、「中ロ双方は両国の指導者がお互いに記念慶祝活動に出席すべきか検討中である」と冷たく答えただけであった。
中ロ両国は、5月9日の対独戦勝記念(ロシアで開催)と9月3日の対日戦勝記念(中国で開催)式典に首脳がクロスして、つまり、ロシアでの記念式典には習近平主席が、中国での式典にはプーチン大統領が出席することを検討してきたのであるが、このことについて中ロ両国の思惑は一致していない。ロシアとしては当面の問題である5月9日の式典を大々的に挙行できればよいという考えであるが、中国は2つの記念日を結びつけて見ている。
香港の中国系紙『文匯報』の1月27日付報道は中国が主催する行事に焦点を当て(中国系紙として当然)、
○ロシア側から、9月3日の北京で行われる大閲兵式典にプーチン大統領が出席することの確認を得た。
○式典で行進する北京軍区部隊、武装警察などはすでに北京郊外で準備を開始している。
○これまでは抗日戦争勝利記念日に閲兵行進は行われなかったが、今後は常態化する可能性がある。
○10年前、中国政府は、ロシアと同様閲兵行進をしないのか、台湾の代表を招待しないのか、などの質問に対して明確な説明をしなかった。その後、中国は実力をつけ、国際的地位も高くなった。大規模な閲兵行進は国民の期待に応えることになる。
などと同時に、習近平主席は、「将来、反独ファシズム・反日軍国主義戦勝記念活動を中ロ共同で開催することを希望する」と述べたと報道している。
習近平主席がこのような構想を持つに至った背景には、中国は対日戦争勝利記念を大々的に祝賀したいのはやまやまであるが、それには一種の躊躇があったからではないかと思われる。日本との降伏文書に署名したのは、中華民国政府の代表である徐永昌大将であり、共産党軍の代表の姿はその場になかったので、大きく祝賀すればするほど国民党軍に焦点を当てることとなるからである。ちなみに、台湾では、ロシアが招待すべきは台湾(中華民国)であると今でも言っている。
2つの記念活動を中ロ共同で開催することになれば、この問題は薄められると同時に、中国は日本と戦争しただけでなく世界的な規模で戦争をしたという印象を植え付けられるという期待感もあるのではないか。これは中国の「大国化」願望にマッチする。
昨年12月13日、中国は、それまで江蘇省や南京市が中心となって催してきた南京事件記念式典を、今年から「国家哀悼日」として政府による主催に格上げした。中国は、日本との戦争だけでなく、世界大戦をも政治的に利用しようとする姿勢が顕著である。
一方、ロシアが中国首脳の出席の発表についてフライイングしたのはそれだけ重要なことだったからであろう。そのことを離れても、ロシアに中国のような戦勝記念を政治的に利用しようという積極的な姿勢はあるだろうか。プーチン大統領は1月27日のアウシュビッツ解放70周年記念式典に欠席した。解放したのはソ連軍であり、ロシアにとっては人道的かつ英雄的行為をプレーアップするまたとない機会であるのも関わらず欠席したのである。そうした理由は、ウクライナ問題でロシアに強く批判的で制裁措置まで取っている米欧の首脳と顔を合わせたくなかったからであると言われている。他にも理由があるかもしれないが、ロシアはまたとない重要な機会を自ら放棄せざるをえないほど困難な状況にあるということではないか。このようなロシアの状況は中国と比べて受け身であり、防御的であり、そこには中ロ両国の勢いの違いが表れているように思えてならない。
なお、ロシア政府の広報官によれば、5月9日の式典に参加する外国首脳のなかに「北朝鮮のトップ」も含まれているので、金正恩第1書記が出席するのであろう。
一方、韓国の朴槿恵大統領については、「5月の日程はまだ確定していない。いくつかの日程が競合するはずであり、こうした状況で検討する」と大統領府報道官は述べており、韓国最大の『中央日報』(1月23日)は、「金正恩第1書記が出席する可能性が高まり、韓国政府の悩みも深まっている」とコメントしている。朴槿恵大統領はこのような場で金正恩第1書記と会いたくないということであろうか。
10年前、モスクワで開催された対独戦勝60周年記念式典には盧武鉉大統領が出席し、北朝鮮の金正日総書記は出なかったので、今年はちょうど逆になる可能性がある。中国ほど積極的に関わっていこうという姿勢ではないが、南北朝鮮にとっても5月9日の記念行事は、政治的に重要な、あるいは悩ましい機会になっているものと見られる。
戦勝記念に関する中国とロシアの違い
第二次大戦で勝った連合国が戦勝記念の行事をどのように行うか、負けた側としては興味のないことであるが、今年は第二次世界大戦が終わって70年という節目であり、注目すべき問題が起こっている。戦勝記念と言ってもドイツに対するのと、日本に対するのとは分けなければならない。また、どの国が記念行事を行なうかも区別して見なければならない。
ドイツとの戦争については、欧米とロシアはともに連合国であったが、戦勝行事は食い違っている。まず、ドイツ軍が降伏した日付について西側とロシアとの間で齟齬があり、西側は5月8日をVE day(V day in Europe)としているが、ロシアは5月9日としている。この日付のずれも問題であるが、本稿では深入りしない。日付よりもっと大きな違いは、西側諸国は、英国の特殊な例を除いて、ドイツの降伏記念日に特別の祝賀行事を行なっていないことである。西側が重視するのはノルマンディー上陸が行なわれた6月6日(1944年)であり、これはD dayと呼ばれている。2014年にはその70周年を大々的に祝賀した。
一方、ロシアや東欧諸国など旧共産圏諸国は5月9日に対独戦勝記念行事を軍事パレード付きで派手に行なってきた。旧ソ連の崩壊後90年代は控えめになったが、プーチン大統領は大規模な祝賀行事を復活させた。ロシアとしてはドイツを降伏させるのに主要な役割を果たしたのはソ連であったという認識が強く、そのことを想起できる毎年の対独戦勝記念行事は重要なものである。しかし、西側諸国の首脳は、ソ連が対独戦で重要な役割を果たしたことは認めるが、ロシアが主要な役割を果たしたとは考えていない。
このようなずれは冷戦の影響で必要以上に大きくなった。西側がD dayを重視するのは、ソ連がノルマンディー上陸作戦に関係なかったからであるが、冷戦中はソ連に協力したくないという気持ちが強く働いていたことも看過できない要因であったと思われる。
しかし、冷戦が終わった現在、戦争に参加したか否かはあまり重要なことでなくなっており、行事開催国の政治的判断で参加の招待が行われるようになっている。プーチン大統領は2014年のD day式典に参加した。
日本との戦争については、9月2日に日本と連合国が降伏文書に署名したので、西側諸国はその日をVJ day(V day against Japan)としている。2005年の戦争終結60周年には米国の首都ワシントンで記念行事が開かれた。
一方、中国は9月3日に記念行事を行なっている。1日ずれている理由はよく分からないが、当時の中国代表であった国民党政府が降伏文書署名の翌日から祝賀行事を始めたからだとも言われている。
前置きが長くなったが、今年の5月9日、ロシアで行なわれる対独戦勝70周年記念行事にどの国が出席するか。ロシアとしては盛大に開催したいので各国に招待状を送っているが、西側諸国の首脳は上述の経緯からして出席せず、下位のレベルの出席にとどめるだろうと推測される。いずれにしても、西側諸国の出席はもはや大きな問題でなくなっている。
中国はドイツと戦争していないので、出席しても客分としてのはずだが、中国の習近平主席が出席するか否かは重要な問題になっており、1月21日、ラブロフ外相は記者会見で、習近平主席が出席すると公表した。その時中国側ではまだ何も発表していなかったので、先にロシア側が発表したことを不愉快に思ったらしい。翌日、中国外交部のスポークスマンは、「中ロ双方は両国の指導者がお互いに記念慶祝活動に出席すべきか検討中である」と冷たく答えただけであった。
中ロ両国は、5月9日の対独戦勝記念(ロシアで開催)と9月3日の対日戦勝記念(中国で開催)式典に首脳がクロスして、つまり、ロシアでの記念式典には習近平主席が、中国での式典にはプーチン大統領が出席することを検討してきたのであるが、このことについて中ロ両国の思惑は一致していない。ロシアとしては当面の問題である5月9日の式典を大々的に挙行できればよいという考えであるが、中国は2つの記念日を結びつけて見ている。
香港の中国系紙『文匯報』の1月27日付報道は中国が主催する行事に焦点を当て(中国系紙として当然)、
○ロシア側から、9月3日の北京で行われる大閲兵式典にプーチン大統領が出席することの確認を得た。
○式典で行進する北京軍区部隊、武装警察などはすでに北京郊外で準備を開始している。
○これまでは抗日戦争勝利記念日に閲兵行進は行われなかったが、今後は常態化する可能性がある。
○10年前、中国政府は、ロシアと同様閲兵行進をしないのか、台湾の代表を招待しないのか、などの質問に対して明確な説明をしなかった。その後、中国は実力をつけ、国際的地位も高くなった。大規模な閲兵行進は国民の期待に応えることになる。
などと同時に、習近平主席は、「将来、反独ファシズム・反日軍国主義戦勝記念活動を中ロ共同で開催することを希望する」と述べたと報道している。
習近平主席がこのような構想を持つに至った背景には、中国は対日戦争勝利記念を大々的に祝賀したいのはやまやまであるが、それには一種の躊躇があったからではないかと思われる。日本との降伏文書に署名したのは、中華民国政府の代表である徐永昌大将であり、共産党軍の代表の姿はその場になかったので、大きく祝賀すればするほど国民党軍に焦点を当てることとなるからである。ちなみに、台湾では、ロシアが招待すべきは台湾(中華民国)であると今でも言っている。
2つの記念活動を中ロ共同で開催することになれば、この問題は薄められると同時に、中国は日本と戦争しただけでなく世界的な規模で戦争をしたという印象を植え付けられるという期待感もあるのではないか。これは中国の「大国化」願望にマッチする。
昨年12月13日、中国は、それまで江蘇省や南京市が中心となって催してきた南京事件記念式典を、今年から「国家哀悼日」として政府による主催に格上げした。中国は、日本との戦争だけでなく、世界大戦をも政治的に利用しようとする姿勢が顕著である。
一方、ロシアが中国首脳の出席の発表についてフライイングしたのはそれだけ重要なことだったからであろう。そのことを離れても、ロシアに中国のような戦勝記念を政治的に利用しようという積極的な姿勢はあるだろうか。プーチン大統領は1月27日のアウシュビッツ解放70周年記念式典に欠席した。解放したのはソ連軍であり、ロシアにとっては人道的かつ英雄的行為をプレーアップするまたとない機会であるのも関わらず欠席したのである。そうした理由は、ウクライナ問題でロシアに強く批判的で制裁措置まで取っている米欧の首脳と顔を合わせたくなかったからであると言われている。他にも理由があるかもしれないが、ロシアはまたとない重要な機会を自ら放棄せざるをえないほど困難な状況にあるということではないか。このようなロシアの状況は中国と比べて受け身であり、防御的であり、そこには中ロ両国の勢いの違いが表れているように思えてならない。
なお、ロシア政府の広報官によれば、5月9日の式典に参加する外国首脳のなかに「北朝鮮のトップ」も含まれているので、金正恩第1書記が出席するのであろう。
一方、韓国の朴槿恵大統領については、「5月の日程はまだ確定していない。いくつかの日程が競合するはずであり、こうした状況で検討する」と大統領府報道官は述べており、韓国最大の『中央日報』(1月23日)は、「金正恩第1書記が出席する可能性が高まり、韓国政府の悩みも深まっている」とコメントしている。朴槿恵大統領はこのような場で金正恩第1書記と会いたくないということであろうか。
10年前、モスクワで開催された対独戦勝60周年記念式典には盧武鉉大統領が出席し、北朝鮮の金正日総書記は出なかったので、今年はちょうど逆になる可能性がある。中国ほど積極的に関わっていこうという姿勢ではないが、南北朝鮮にとっても5月9日の記念行事は、政治的に重要な、あるいは悩ましい機会になっているものと見られる。
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