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2015.06.04

6月1日の安保法制審議もかみ合わなかった

6月1日の衆議院特別委員会での質疑もかみあわないやり取りが多かった。
前回同様、問答形式で整理してみた。

(問)米国が違法な戦争をしている場合でも協力せざるをえないのではないか。
(答)米国に限らず、国家が違法な行為をしたと認定されることはない。世界は統一された法秩序の下になく、主権国家があるだけであり、主権国家の主張に対し、それ以上の権威をもって否定するメカニズムは世界に存在しないからである。戦争などについては、事後的に「侵略した」などと非難されることがあるが、その場合でも世界共通の認識があるわけではない。ましてや、まだ行為が継続中には何が違法か、主張することは自由だが、他の国はまた異なる解釈をする可能性がある。国際司法裁判所も、その判断に委ねることを事前に国家が承認していなければ裁判は成立しない。
 イラク戦争の場合も、米国の行為は手続き的には問題があり、また、米国の主張に一貫性がなかったが、「違法である」という法的判断があったのではない。それを主張した国があってもそれは政治的な主張に過ぎなかった。
 したがって、この「米国が違法な戦争をしている場合」という質問はありえないことを問題にしている。

(問)朝鮮半島で武力紛争が発生したため行動している米軍から日本の自衛隊に協力を要請してきた場合、ことわれるか。朝鮮半島でなく中東、マラッカ海峡、南シナ海、インド洋ならばどうか。
(答)朝鮮半島での紛争の場合には、周辺事態法の解釈として、自衛隊は「武力の行使に当たらない」範囲内で、後方支援や捜索救難など一定程度行動できることとなっている。この行動は、日米安保条約が想定している日本に対する攻撃に対処することの範囲内でとらえられている。それを示すのが「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態(長いのでこの部分で代表させる。法律の規定は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」)」という文言である。つまり、朝鮮半島での紛争は日本に対する武力攻撃に至るおそれがあるので、自衛隊は朝鮮半島で行動する米軍に後方支援など一定程度の協力をできる、それは日本の自衛と日米安保条約の範囲内の問題だという論理である。
 かつての国会での政府説明は別として、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」は法理上朝鮮半島に限られない。諸般の情勢を勘案して政府がそのように判断すれば、自衛隊が中東地域にも、またその他の日本から遠く離れた地域にも出動できる。
 しかし、そういうことでは日本国憲法との関係から、また、政治的に行き過ぎとなるおそれがあるので、周辺事態法では、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある事態」という限定だけでは足りず、「周辺」という概念も導入した。それによって、あまり遠いところへ自衛隊はいかないだろうという印象を作り出したのである。
 改正され「重要影響事態」となる法案はこの「周辺」という概念を撤廃したので、自衛隊が派遣される地域については「周辺」が醸し出す、近いところという印象はなくなった。しかし、法理上は、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という、周辺事態法と同じ要件を満たすか否かで判断される。そして、政府が満たすと判断すれば、自衛隊を中東でもその他の地域でも派遣可能である。
 周辺事態法と改正法は、自衛隊を派遣できるか否かを判断する要件は変わらず、遠いところには派遣されないだろうという印象がある(周辺事態法)か、ない(改正法)かだけの違いである。周辺事態法の成立時、「周辺」は印象に過ぎないことを認識していた政府は、「周辺とは必ずしも地理的概念でない」という奇妙な説明を行っていた。政府説明だけが奇妙だったのではなく、周辺事態とは「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある事態」という定義自体が奇妙だったのである。
 「重要影響事態法」案においては、「周辺事態」は「重要影響事態」となり、「我が国の周辺の地域における」という制限はきれいさっぱり削除されている。したがって、中東地域と朝鮮半島を区別する理由はますますなくなっているが、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という文言は維持されている。つまり、改正法律案は、一方では、地理的な制限概念を削除しつつ、他方では、朝鮮半島や中東での紛争に自衛隊が出ていき行動するのは日本に対する武力攻撃になるおそれがある時という制限は残しているのであり、中東地域であれ、その他の地域であれ、米軍からの要請に応じられるか否かは、この要件にかかっており、この要件に合うと政府が判断すれば派遣可能となる。

(問)周辺事態は軍事的観点を中心とした概念という答弁は、重要影響事態でも維持されるか。
(答)この文言では問題の核心に迫ることは困難である。「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という重要影響事態認定の要件は軍事的なことが中心になっているか、という質問にすべきである。
 その上で、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」のは、常識的には軍事的な問題であると考えられるが、それに限られているわけではない。
(注)岸田外相は当初、経済的影響だけでは重要影響事態にならないと明言していたが、その後、「総合的に判断する」と修正した。この修正後の答えは法律の要件に忠実であるが、質疑がここで終わっては改正法の問題点を指摘するのに十分でない。さらに、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件のあいまいさが吟味されるべきである。そうしないと政府の恣意的な解釈を防ぐことはできない。
 周辺事態法では「周辺」という地域的限定もあったが、改正法ではそれがなくなる。それであれば、ますます「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を明確にしなければならない。
 安倍首相は「武力紛争が発生または差し迫っている場合、我が国に戦禍が及ぶ可能性、国民に及ぶ被害などの影響の重要性から、客観的、合理的に判断する」と答弁した。このなかには「武力紛争が発生または差し迫っている」という文言に多少の基準は示されているが、これだけでは到底十分と言えない。この問題は、いったん政府が認定すれば、米軍などへの後方支援が世界規模で出来ることになる重要なものであり。その重みに対応する明確な基準が必要である。
 なお、この要件のあいまいさは、集団的自衛権行使の3要件である、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」で「他に適当な手段がないとき」「必要最小限度の実力を行使する」と比べても際立っている。集団的自衛権行使の場合は、さらに、「我が国と密接な関係にある国」であることが前提になっている。

(問)周辺事態法は日米安保条約の範囲内であるが、重要影響事態法は同条約の目的を超えているのではないか。
(答)朝鮮半島での紛争の場合でも周辺事態法により自衛隊が派遣されるのは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」からである。つまり、我が国に対する攻撃そのものではないが、そのような事態もその範囲内にあるとみなされたのである。これが本当の意味で限定かどうかは別として、文言上は、この範囲内であれば、自衛隊の派遣も安保条約に基づく日米の防衛協力の一環とみなされている。
 重要影響事態法は、「周辺」の制限を除去したが、直ちに日米安保条約の範囲外になるのではない。「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は維持しており、重要影響事態への対処も日本に対する武力攻撃に対する対処の範囲内にあると認識している点では周辺事態法と変わらず、重要影響事態法も日米安保条約の目的の範囲内である。
 重要影響事態認定の要件自体が問題であることは前問を参照願いたい。

(問)重要影響事態のために自衛隊が派遣されるのは、日米安保条約の目的に寄与する活動を行なう米軍への支援に限られるか。
(答)岸田外相と中谷防衛相は「限られない」と答弁している。この答弁が適切か、疑問がある。重要影響事態である限り、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」ことが認定の要件となっている。しかるに、日米安保条約以外の目的で活動する米軍が、日本に対する武力攻撃に至るおそれがあるのに、安保条約以外の目的のために行動し続けることはありえない。そのようなことが起これば、安保条約違反になるだろう。
 つまり、安保条約以外の目的のため、たとえば、南シナ海で行動している米軍から自衛隊の派遣を求められた場合、日本は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」か否かを判断し、おそれがあると判断されれば、その時点から日米安保条約の問題になるので、「米軍が日米安保条約の目的以外のために行動しているのに自衛隊が協力する」というのはありえないことである。
 
2015.06.02

アジア安全保障会議(シャングリラ対話)・中国軍は何を考えているか

 アジア安全保障会議(シャングリラ対話)が今年も5月末に開催された。毎年開かれるこの会議ではもちろんアジアの安全保障について意見交換が行われるが、実際には半分くらいが中国に関する話題である。
 中国軍の実態は諸外国に知られておらず、また、中国の軍関係者との対話の機会はほとんどない。しかし、この会議においては中国の軍関係者と他国からの出席者との間で非常に率直なやり取りが行われる。このような会議は他になく、貴重な機会である。
 全体会議と分科会があるが、全体会議では数百人が一堂に会し、VIPによる冒頭演説の後、質疑応答が行われる。その場は「中国対その他の代表」という構図になり、多くの出席者が中国の行動について疑問を呈し、中国からの参加者が反駁するのがいつものパターンである。議論はかなりラフであり、木で鼻をくくったような回答が多いが、中国からの参加者にそのような認識はないのか、平然と中国の見解を展開している。
 今年の会議では南シナ海での中国の行動に関心が集中し、カーター米国防長官は、航行の自由の確保の重要性などを強調しつつ、南沙諸島における中国の造成工事と軍事化に対する懸念を表明した。
 これに対し、中国からの出席者の一人であるSenior Colonel Zhou Bo(中国国防部)は、「カーター長官の批判は根拠がない。航行の自由は問題になっていない。中国がこの地域の平和と安定に影響を及ぼしているなどとは根拠がない。南シナ海における紛争は過去何十年も続いてきたが、これまで平和で安定していたのは中国が大いに自制していたからである」といった調子である。
 カーター長官は何と言ったか。南シナ海に関する発言部分の抜粋を末尾に掲げておく。

 今のところ、米国にとっても中国にとってもアジア安全保障会議は、それぞれの主張を遠慮なく展開できるのでそれなりにメリットを感じているのであろう。中国は各国から集中攻撃にあっているようにも見えるが、出席者たちには意に介している形跡はなく、この会議での議論が今後の中国の政策に反映すると期待するのは時期尚早であろう。しかし、このような率直な意見交換がないのと比べれば、あるほうがよいことは明らかである。

カーター国防長官の演説(5月30日 南シナ海関係部分)
To realise that future, we must tackle urgent issues like the security and stability of the South China Sea. Yesterday, I took an aerial transit of the Strait of Malacca, and when viewed from the air, it is even clearer how critical this region’s waterways are to international trade and energy resources. We have all benefited from free and open access to the South China Sea and the Strait of Malacca. We all have a fundamental stake in the security of the South China Sea. And that is why we all have deep concerns about any party that attempts to undermine the status quo and generate instability there, whether by force, coercion or simply by creating irreversible facts on the ground, in the air or in the water.
Now, it is true that almost all the nations that claim parts of the South China Sea have developed outposts over the years of differing scope and degree. In the Spratly Islands, Vietnam has 48 outposts; the Philippines, eight; Malaysia, five; and Taiwan one. Yet, one country has gone much further and much faster than any other, and that is China.
China has reclaimed over 2,000 acres, more than all other claimants combined, and more than in the entire history of the region. And China did so in only the last 18 months. It is unclear how much further China will go. That is why this stretch of water has become a source of tension in the region and front-page news around the world.
The United States is deeply concerned about the pace and scope of land reclamation in the South China Sea, the prospect of further militarisation, as well as the potential for these activities to increase the risk of miscalculation or conflict among claimant states. As a Pacific nation, a trading nation and a member of the international community, the United States has every right to be involved and concerned.
But these are not just American concerns. Nations across the region and the world, and many of you here in the room today, have also voiced the same concerns and raised questions about China’s intentions in constructing these massive outposts. So let me make clear the position of the United States.
First, we want a peaceful resolution of all disputes. To that end, there should be an immediate and lasting halt to land reclamation by all claimants. We also oppose any further militarisation of disputed features. We all know there is no military solution to the South China Sea disputes. Right now, at this critical juncture, it is time for renewed diplomacy focused on finding a lasting solution that protects the rights and the interests of all. As it is central to the regional security architecture, ASEAN must be a part of this effort. The United States encourages ASEAN and China to conclude a Code of Conduct this year. America will support the right of claimants to pursue international legal arbitration and other peaceful means to resolve these disputes, just as we will oppose coercive tactics.
Second, the United States will continue to protect freedom of navigation and overflight, principles that have ensured security and prosperity in this region for decades. There should be no mistake: the United States will fly, sail and operate wherever international law allows, as US forces do all over the world. America, alongside its allies and partners in the regional architecture, will not be deterred from exercising these rights – the rights of all nations. After all, turning an underwater rock into an airfield simply does not afford the rights of sovereignty or permit restrictions on international air or maritime transit.
Finally, with its actions in the South China Sea, China is out of step with both the international rules and norms that underscore the Asia-Pacific security architecture, and the regional consensus that favours diplomacy and opposes coercion. These actions are spurring nations to respond together in new ways; in settings as varied as the East Asia Summit to the G7, countries are speaking up for the importance of stability in the South China Sea. Indonesia and the Philippines are putting aside maritime disputes and resolving their claims peacefully. In venues like ADMM-Plus and the East Asia Maritime Forum, nations are seeking new protocols and procedures to build maritime cooperation.
The United States will always stand with its allies and partners. It is important for the region to understand that America is going to remain engaged, continue to stand up for international law and universal principles, and help provide security and stability in the Asia-Pacific for decades to come.
The South China Sea is just one issue we will face as the Asia-Pacific continues to rise and prosper. There will surely be others. We cannot predict what challenges the future holds. However, we do know how we could work to ensure the peace and prosperity of the region and the opportunity to rise for all nations and all people. For that to happen, we must do so together.
2015.06.01

「存立危機事態」と「武力攻撃事態」・国会での質疑に問題あり

5月28日の衆議院特別委員会で、安全保障関連法案に関し、辻元議員と安倍首相や中谷防衛相の間で質疑があった。重要な質疑であるが、報道によるとかなり混乱しているように見受けられる。問題点を(問)とし、回答すべきこと(実際の政府側の答弁ではない)を(答)として整理してみた。

(問)「存立危機事態」と「武力攻撃事態」の両方に「明白な危険」という言葉があるがその違いは何か。
(答)「存立危機事態の明白な危険とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険(改正武力事態法第2条4)」であり、武力攻撃事態の明白な危険とは「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険(武力攻撃事態法2条2)」である。
 これは法律に規定されていることに過ぎない。十分な説明のためにはそれぞれの事態において実際に起こりうる場合を想定して説明する必要があろう。

(問)どちらの事態と認定するかで、武力行使が認められるか、そうでないか違ってくるか。
(答)両方の場合とも「武力の行使は事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と規定されている(同法案3条の3と4)。具体的な武力行使の程度が事態に応じて異なるのは当然である。

(問)「存立危機事態」と「武力攻撃事態」はどう違うか。
(答)「武力攻撃事態」とは、日本が武力攻撃された場合または武力攻撃される明白な危険が切迫していると認められるに至った事態のことで、2003年に成立した武力攻撃事態法2条2に定められている。
一方、「存立危機事態」は、我が国と密接な関係にある外国が武力攻撃され、その結果日本に危険が及んでくる場合、つまり集団的自衛権行使の場合であり、いわば、外国生まれの危険が日本に輸入された場合である。

(問)「武力攻撃事態」と「存立危機事態」とでは日本政府(自衛隊)の対処は異なるか。
(答)危険がどこで発生したかに関わらず、この二つの場合とも対処が必要である。前者は武力攻撃事態法2条7イ(1)で、後者は同法改正案の同条7ハ(1)で定められ、ともに「武力の行使は事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と規定されている(改正武力攻撃事態法3条の3と4)。つまり、法令上は同じ対応をすることになっているが、実際の対応は事態に応じて、したがってまた必要性に応じて変わってくる。

(問)武力攻撃事態に類似の事態はあるか。
(答)ある。武力攻撃事態法は紛らわしい事態を次のように規定している。
2条の1「武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。」
同条2「武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。」
同条3「武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。」
これら3つの事態を区別したのは、過剰な対応にならないよう事態を細かく分け、それぞれに適当な対応を定めるためだったのであろうが、しょせん人為的な区別であり、非常に分かりにくい。たとえば、「武力攻撃事態」には「武力攻撃が発生した事態」が含まれており、これと「武力攻撃」と区別するのは困難である。政府の中では矛盾のないように説明していても国民には理解困難であろう。

 両方の事態についての改正法案の規定は適切か、国会でさらに議論を重ね、吟味すべきである。
 また、紛らわしくなる根本原因は、集団的自衛権行使の要件を日本の問題として語らなければならなかったことにある。国会では、諸外国に理解されるかを含め、十分議論すべきではないか。

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