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2015.06.08

安保法制改正案は憲法違反の疑いが濃厚

1日の特別委員会での質疑関連と、4日の衆院憲法審査会での憲法学者の意見関連。

(問)安保法制改正案は憲法違反でないか。
(答)憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力を行使することを禁止している。この規定によって、日本が国際紛争に巻き込まれること、他国と武力紛争に陥ることはかたく禁止されている。この禁止は日本国憲法の基本精神である。
 憲法制定の数年後、「自衛」の場合には例外的に武力行使が認められると解釈されるようになった。これは国民的に受け入れられている。
 今回の安保法制改正案が憲法に違反しているか否かを見るには、改正案を提出した政府の方針や考えを質すこともさることながら、改正案の規定が適切か否かを吟味する必要がある。具体的には、「重要影響事態法」、「国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)」および「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」の規定が問題となる。
 
 「重要影響事態法」においては、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件が満たされていると政府が判断すれば、後方支援などのため自衛隊を派遣できることになっている。この要件は改正前の周辺事態法で認められていたことであり、自衛隊の行動範囲は必ずしも我が国の領域に限られず、その外であるが朝鮮半島や我が国周辺の公海なども「自衛」のために必要であれば含まれた。しかし、そのような範囲を超える地域においては「自衛」でなくなり、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を満たすとしても国際紛争に巻き込まれてはならないという憲法の禁止に触れる恐れがある。

 「国際平和支援法」は、国連決議にしたがって各国が軍事行動を行なう場合、日本としては後方支援(国際平和支援法の用語では「協力支援活動」)などを行なうことができることとした。同法の定める国連決議要件が満たされれば、自衛隊が参加しても国際紛争に巻き込まれる恐れはないように見えるかもしれないが、国連決議は平和維持活動のように紛争が終わったことを確認して採択される場合と、紛争が残存あるいは継続しているが採択される場合がある。イラクやアフガニスタンでの紛争や、いわゆる多国籍軍が派遣されるのは後者の例であり、しかも厄介なことに、イラクの場合は国連決議があるか否か不明確であり、そのこと自体が紛争の原因になった。
 今次改正法案では、紛争が終了した後の問題は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(つまりPKO法)」で扱われる。一方、「国際平和支援法」が定める国連決議の場合はそのような限定はなく、紛争が継続していることがありうる。したがって、同法によって自衛隊を派遣すると国際紛争に巻き込まれる恐れがあり、この新法は憲法違反になる危険がある行為を認めているので問題である。
 同法は、自衛隊は後方支援などはできるが、武力の行使はできないとし(2条2)、自衛隊が活動できる場所は、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としている(同条3)が、それは日本国が自衛隊に課している規範であっても、国際的に承認される保証はない。
 また、「武力の行使」でなければよいということではない。紛争の中で一方に加担することは、その時点では必ずしも武力の行使でなくても、紛争がある限り武力の行使は不可避となるのでやはり禁止していると見るべきである。紛争の一方に加担しておいて自衛隊に武器を行使させないということは日本の法律で担保できることでなく、国際社会の現実に即して見れば、それは困難である。
 自衛隊の行動する場所についても、紛争の一方に加担しておきながら、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としてもそれは日本の法律の規定に過ぎず、戦闘で必要な物資などを供給することは、加担した一方の敵方から見れば、敵対行為の一環として見られることは不可避である。つまり、このような場所による限定は国内法として憲法に違反していないことを示す論理に過ぎず、各国が認めることにはならない。日本国憲法は国際社会での日本の在り方を論じて紛争の一方に加担することを禁止しているのであり、憲法違反となるか否かは国内法の憲法との論理的整合性のみならず、国際社会によりそのように受け入れられるかも問題となる。

 「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」においては、「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない(同法3条4)」とされた。つまり、必要と判断すれば、自衛隊は「武力行使」でき、米軍のみならず「外国軍隊」とも協力でき(同法2条7など)、また、自衛隊が行動できる場所の限定はなくなり、どこでも可能となった。
 この法律の運用方針について政府がどのような説明しようと、それは政府の方針説明に過ぎず、法律の定めを超えるものではない。
 このように見ていくと、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は、「自衛」のためであり、日米安保条約の下での「米軍」との協力、日本と周辺が活動場所であるという、憲法の許容範囲すれすれの現「武力攻撃事態」の枠組みを明らかに越えており、憲法違反の疑いが濃厚である。

(問)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が「存立危機事態」として認定するのは、危険の発生源はともかく、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」であるのでつまるところ「自衛」の場合である。だから新法は問題ないのではないか。
(答)1954年以来、日本が認めてきた「自衛」の事態と「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」とは明らかに異なっている。もし、まったく同じならば、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は必要でない。「自衛」の場合には武力行使もやむをえないと国家的に、つまり、政府も司法も、また国民も受け入れてきたのであるが、禁止の例外を拡大するのは憲法違反となるおそれが濃厚である。
(注)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」は、他国が攻撃された場合といういわゆる集団的自衛権の行使が問題となる事態と日本の「自衛」が必要となる事態のハイブリットである。政府はこのような性格の要件を3要件(の一部)として盛り込んだのであるが、それは従来の憲法解釈との一貫性を損なわない形で集団的自衛権の行使を認めるための文言にはなりえても、自衛隊が行動できる事態を拡張していることは否めない。もし、まったく拡張していないならば、従来から認めてきた「自衛」だけで十分である。

(問)重要影響事態法があれば平和協力支援法は要らないのではないか。
(答)両方の法律に共通の面があるのは確かである。
 しかし、重要影響事態法では「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件の有無が問題となり、国連決議の有無は問われない。他方、平和協力支援法では国連決議の有無が問われ、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は問われない。つまり、一方の要件だけを満たす事態はありうるので、そのような現実に応じて法律を整備しておく必要がある。
 ただし、改正案のように2本の法律にするか1本にまとめるかは立法技術に属することである。
(注)平和協力支援法がいらないということを主張するには、国連決議の在り方自体を問題にする必要があるのは(問)「安保法制改正案は憲法違反でないか」に対する答えで述べたとおりである。

(問)機雷除去はどの法律により対処するか。
(答)改正法案に即して言えば、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」と認定されれば「重要影響事態法」によることとなる。国連決議があり、その下で各国が軍事行動を行なう場合は「国際平和支援法」による。政府が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と認定すれば「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」によることとなる。国連決議があり、しかも政府が「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」として認定する結果、複数の法律が適用されることもありうる。そのような場合、矛盾が生じないかも問題となる。

(問)政府は、自衛隊は「他国の領土、領海、領空」「ISIL(イスラム国)」「イラク戦争のような場合」などへ派遣しないと、全面否定、あるいは原則的否定、あるいは一般的否定として答弁しているが、法律の根拠はあるか。
(答)ない。改正法案からそのような結論を導き出せるか疑問である。政府がそのように答弁していることは、自制を示す意味では評価できるが、安倍内閣としての方針以上の意味は、当然のことながらもちえない。

(問)「存立危機事態」の認定は非常に厳格な要件を満たさなければ行なわれない。したがって、自衛隊が派遣される場合の歯止めはしっかりと作られており、一内閣の恣意で左右されないのではないか。
(答)3要件が熟慮の末決められたことは承知している。しかし、いったん政府が認定した後、自衛隊がどこで、どの国の軍隊と協力し、どのような業務を行なうかは、3要件では判断できず、改正法案の「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」という同法3条4の解釈に委ねられている。
つまり、3要件自体は厳格であっても、法律の内容はしり抜けになっているので改正法は憲法違反である疑いが濃厚である。
政府が、厳格に運用すると言っても法律以上の効力は持ちえない。

(問)国連憲章でも認められている集団的自衛権について、日本はこれを保有しているが行使できないと解するのは不当でないか。
(答)今回の改正案は集団的自衛権の行使を認めるものであると認識されていることは承知している。集団的自衛権については国連憲章制定の経緯、相互防衛同盟条約の有無などを含め学問的に議論されていることなども承知しているが、本国会で審議されているのは提出されている法案であり、法案の内容に即して審議すべきである。
2015.06.04

6月1日の安保法制審議もかみ合わなかった

6月1日の衆議院特別委員会での質疑もかみあわないやり取りが多かった。
前回同様、問答形式で整理してみた。

(問)米国が違法な戦争をしている場合でも協力せざるをえないのではないか。
(答)米国に限らず、国家が違法な行為をしたと認定されることはない。世界は統一された法秩序の下になく、主権国家があるだけであり、主権国家の主張に対し、それ以上の権威をもって否定するメカニズムは世界に存在しないからである。戦争などについては、事後的に「侵略した」などと非難されることがあるが、その場合でも世界共通の認識があるわけではない。ましてや、まだ行為が継続中には何が違法か、主張することは自由だが、他の国はまた異なる解釈をする可能性がある。国際司法裁判所も、その判断に委ねることを事前に国家が承認していなければ裁判は成立しない。
 イラク戦争の場合も、米国の行為は手続き的には問題があり、また、米国の主張に一貫性がなかったが、「違法である」という法的判断があったのではない。それを主張した国があってもそれは政治的な主張に過ぎなかった。
 したがって、この「米国が違法な戦争をしている場合」という質問はありえないことを問題にしている。

(問)朝鮮半島で武力紛争が発生したため行動している米軍から日本の自衛隊に協力を要請してきた場合、ことわれるか。朝鮮半島でなく中東、マラッカ海峡、南シナ海、インド洋ならばどうか。
(答)朝鮮半島での紛争の場合には、周辺事態法の解釈として、自衛隊は「武力の行使に当たらない」範囲内で、後方支援や捜索救難など一定程度行動できることとなっている。この行動は、日米安保条約が想定している日本に対する攻撃に対処することの範囲内でとらえられている。それを示すのが「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態(長いのでこの部分で代表させる。法律の規定は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」)」という文言である。つまり、朝鮮半島での紛争は日本に対する武力攻撃に至るおそれがあるので、自衛隊は朝鮮半島で行動する米軍に後方支援など一定程度の協力をできる、それは日本の自衛と日米安保条約の範囲内の問題だという論理である。
 かつての国会での政府説明は別として、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」は法理上朝鮮半島に限られない。諸般の情勢を勘案して政府がそのように判断すれば、自衛隊が中東地域にも、またその他の日本から遠く離れた地域にも出動できる。
 しかし、そういうことでは日本国憲法との関係から、また、政治的に行き過ぎとなるおそれがあるので、周辺事態法では、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある事態」という限定だけでは足りず、「周辺」という概念も導入した。それによって、あまり遠いところへ自衛隊はいかないだろうという印象を作り出したのである。
 改正され「重要影響事態」となる法案はこの「周辺」という概念を撤廃したので、自衛隊が派遣される地域については「周辺」が醸し出す、近いところという印象はなくなった。しかし、法理上は、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という、周辺事態法と同じ要件を満たすか否かで判断される。そして、政府が満たすと判断すれば、自衛隊を中東でもその他の地域でも派遣可能である。
 周辺事態法と改正法は、自衛隊を派遣できるか否かを判断する要件は変わらず、遠いところには派遣されないだろうという印象がある(周辺事態法)か、ない(改正法)かだけの違いである。周辺事態法の成立時、「周辺」は印象に過ぎないことを認識していた政府は、「周辺とは必ずしも地理的概念でない」という奇妙な説明を行っていた。政府説明だけが奇妙だったのではなく、周辺事態とは「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある事態」という定義自体が奇妙だったのである。
 「重要影響事態法」案においては、「周辺事態」は「重要影響事態」となり、「我が国の周辺の地域における」という制限はきれいさっぱり削除されている。したがって、中東地域と朝鮮半島を区別する理由はますますなくなっているが、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という文言は維持されている。つまり、改正法律案は、一方では、地理的な制限概念を削除しつつ、他方では、朝鮮半島や中東での紛争に自衛隊が出ていき行動するのは日本に対する武力攻撃になるおそれがある時という制限は残しているのであり、中東地域であれ、その他の地域であれ、米軍からの要請に応じられるか否かは、この要件にかかっており、この要件に合うと政府が判断すれば派遣可能となる。

(問)周辺事態は軍事的観点を中心とした概念という答弁は、重要影響事態でも維持されるか。
(答)この文言では問題の核心に迫ることは困難である。「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という重要影響事態認定の要件は軍事的なことが中心になっているか、という質問にすべきである。
 その上で、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」のは、常識的には軍事的な問題であると考えられるが、それに限られているわけではない。
(注)岸田外相は当初、経済的影響だけでは重要影響事態にならないと明言していたが、その後、「総合的に判断する」と修正した。この修正後の答えは法律の要件に忠実であるが、質疑がここで終わっては改正法の問題点を指摘するのに十分でない。さらに、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件のあいまいさが吟味されるべきである。そうしないと政府の恣意的な解釈を防ぐことはできない。
 周辺事態法では「周辺」という地域的限定もあったが、改正法ではそれがなくなる。それであれば、ますます「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を明確にしなければならない。
 安倍首相は「武力紛争が発生または差し迫っている場合、我が国に戦禍が及ぶ可能性、国民に及ぶ被害などの影響の重要性から、客観的、合理的に判断する」と答弁した。このなかには「武力紛争が発生または差し迫っている」という文言に多少の基準は示されているが、これだけでは到底十分と言えない。この問題は、いったん政府が認定すれば、米軍などへの後方支援が世界規模で出来ることになる重要なものであり。その重みに対応する明確な基準が必要である。
 なお、この要件のあいまいさは、集団的自衛権行使の3要件である、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」で「他に適当な手段がないとき」「必要最小限度の実力を行使する」と比べても際立っている。集団的自衛権行使の場合は、さらに、「我が国と密接な関係にある国」であることが前提になっている。

(問)周辺事態法は日米安保条約の範囲内であるが、重要影響事態法は同条約の目的を超えているのではないか。
(答)朝鮮半島での紛争の場合でも周辺事態法により自衛隊が派遣されるのは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」からである。つまり、我が国に対する攻撃そのものではないが、そのような事態もその範囲内にあるとみなされたのである。これが本当の意味で限定かどうかは別として、文言上は、この範囲内であれば、自衛隊の派遣も安保条約に基づく日米の防衛協力の一環とみなされている。
 重要影響事態法は、「周辺」の制限を除去したが、直ちに日米安保条約の範囲外になるのではない。「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は維持しており、重要影響事態への対処も日本に対する武力攻撃に対する対処の範囲内にあると認識している点では周辺事態法と変わらず、重要影響事態法も日米安保条約の目的の範囲内である。
 重要影響事態認定の要件自体が問題であることは前問を参照願いたい。

(問)重要影響事態のために自衛隊が派遣されるのは、日米安保条約の目的に寄与する活動を行なう米軍への支援に限られるか。
(答)岸田外相と中谷防衛相は「限られない」と答弁している。この答弁が適切か、疑問がある。重要影響事態である限り、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」ことが認定の要件となっている。しかるに、日米安保条約以外の目的で活動する米軍が、日本に対する武力攻撃に至るおそれがあるのに、安保条約以外の目的のために行動し続けることはありえない。そのようなことが起これば、安保条約違反になるだろう。
 つまり、安保条約以外の目的のため、たとえば、南シナ海で行動している米軍から自衛隊の派遣を求められた場合、日本は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」か否かを判断し、おそれがあると判断されれば、その時点から日米安保条約の問題になるので、「米軍が日米安保条約の目的以外のために行動しているのに自衛隊が協力する」というのはありえないことである。
 
2015.06.02

アジア安全保障会議(シャングリラ対話)・中国軍は何を考えているか

 アジア安全保障会議(シャングリラ対話)が今年も5月末に開催された。毎年開かれるこの会議ではもちろんアジアの安全保障について意見交換が行われるが、実際には半分くらいが中国に関する話題である。
 中国軍の実態は諸外国に知られておらず、また、中国の軍関係者との対話の機会はほとんどない。しかし、この会議においては中国の軍関係者と他国からの出席者との間で非常に率直なやり取りが行われる。このような会議は他になく、貴重な機会である。
 全体会議と分科会があるが、全体会議では数百人が一堂に会し、VIPによる冒頭演説の後、質疑応答が行われる。その場は「中国対その他の代表」という構図になり、多くの出席者が中国の行動について疑問を呈し、中国からの参加者が反駁するのがいつものパターンである。議論はかなりラフであり、木で鼻をくくったような回答が多いが、中国からの参加者にそのような認識はないのか、平然と中国の見解を展開している。
 今年の会議では南シナ海での中国の行動に関心が集中し、カーター米国防長官は、航行の自由の確保の重要性などを強調しつつ、南沙諸島における中国の造成工事と軍事化に対する懸念を表明した。
 これに対し、中国からの出席者の一人であるSenior Colonel Zhou Bo(中国国防部)は、「カーター長官の批判は根拠がない。航行の自由は問題になっていない。中国がこの地域の平和と安定に影響を及ぼしているなどとは根拠がない。南シナ海における紛争は過去何十年も続いてきたが、これまで平和で安定していたのは中国が大いに自制していたからである」といった調子である。
 カーター長官は何と言ったか。南シナ海に関する発言部分の抜粋を末尾に掲げておく。

 今のところ、米国にとっても中国にとってもアジア安全保障会議は、それぞれの主張を遠慮なく展開できるのでそれなりにメリットを感じているのであろう。中国は各国から集中攻撃にあっているようにも見えるが、出席者たちには意に介している形跡はなく、この会議での議論が今後の中国の政策に反映すると期待するのは時期尚早であろう。しかし、このような率直な意見交換がないのと比べれば、あるほうがよいことは明らかである。

カーター国防長官の演説(5月30日 南シナ海関係部分)
To realise that future, we must tackle urgent issues like the security and stability of the South China Sea. Yesterday, I took an aerial transit of the Strait of Malacca, and when viewed from the air, it is even clearer how critical this region’s waterways are to international trade and energy resources. We have all benefited from free and open access to the South China Sea and the Strait of Malacca. We all have a fundamental stake in the security of the South China Sea. And that is why we all have deep concerns about any party that attempts to undermine the status quo and generate instability there, whether by force, coercion or simply by creating irreversible facts on the ground, in the air or in the water.
Now, it is true that almost all the nations that claim parts of the South China Sea have developed outposts over the years of differing scope and degree. In the Spratly Islands, Vietnam has 48 outposts; the Philippines, eight; Malaysia, five; and Taiwan one. Yet, one country has gone much further and much faster than any other, and that is China.
China has reclaimed over 2,000 acres, more than all other claimants combined, and more than in the entire history of the region. And China did so in only the last 18 months. It is unclear how much further China will go. That is why this stretch of water has become a source of tension in the region and front-page news around the world.
The United States is deeply concerned about the pace and scope of land reclamation in the South China Sea, the prospect of further militarisation, as well as the potential for these activities to increase the risk of miscalculation or conflict among claimant states. As a Pacific nation, a trading nation and a member of the international community, the United States has every right to be involved and concerned.
But these are not just American concerns. Nations across the region and the world, and many of you here in the room today, have also voiced the same concerns and raised questions about China’s intentions in constructing these massive outposts. So let me make clear the position of the United States.
First, we want a peaceful resolution of all disputes. To that end, there should be an immediate and lasting halt to land reclamation by all claimants. We also oppose any further militarisation of disputed features. We all know there is no military solution to the South China Sea disputes. Right now, at this critical juncture, it is time for renewed diplomacy focused on finding a lasting solution that protects the rights and the interests of all. As it is central to the regional security architecture, ASEAN must be a part of this effort. The United States encourages ASEAN and China to conclude a Code of Conduct this year. America will support the right of claimants to pursue international legal arbitration and other peaceful means to resolve these disputes, just as we will oppose coercive tactics.
Second, the United States will continue to protect freedom of navigation and overflight, principles that have ensured security and prosperity in this region for decades. There should be no mistake: the United States will fly, sail and operate wherever international law allows, as US forces do all over the world. America, alongside its allies and partners in the regional architecture, will not be deterred from exercising these rights – the rights of all nations. After all, turning an underwater rock into an airfield simply does not afford the rights of sovereignty or permit restrictions on international air or maritime transit.
Finally, with its actions in the South China Sea, China is out of step with both the international rules and norms that underscore the Asia-Pacific security architecture, and the regional consensus that favours diplomacy and opposes coercion. These actions are spurring nations to respond together in new ways; in settings as varied as the East Asia Summit to the G7, countries are speaking up for the importance of stability in the South China Sea. Indonesia and the Philippines are putting aside maritime disputes and resolving their claims peacefully. In venues like ADMM-Plus and the East Asia Maritime Forum, nations are seeking new protocols and procedures to build maritime cooperation.
The United States will always stand with its allies and partners. It is important for the region to understand that America is going to remain engaged, continue to stand up for international law and universal principles, and help provide security and stability in the Asia-Pacific for decades to come.
The South China Sea is just one issue we will face as the Asia-Pacific continues to rise and prosper. There will surely be others. We cannot predict what challenges the future holds. However, we do know how we could work to ensure the peace and prosperity of the region and the opportunity to rise for all nations and all people. For that to happen, we must do so together.

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