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2016.12.10

(短評)朴槿恵大統領に対する弾劾

 12月9日、韓国国会は朴槿恵大統領の弾劾を決定した。同大統領は職務の執行を停止され、今後は黄教安首相が大統領の代行を務める。弾劾が適法か、憲法裁判所は180日以内に決定することになっており、弾劾が認められれば朴槿恵大統領は失職し、60日以内に新大統領が選出される。したがって、最も時間がかかる場合を想定すれば、来年の8月初めに新大統領が誕生するのである。これは朴槿恵大統領の本来の任期満了より約半年早い。

 今回の弾劾決定についてはいくつか疑問の点がある。弾劾は韓国と韓国人の問題であり、日本人としてとやかく言うべきでないが、韓国は日本に最も近い隣国であり、韓国との友好関係なくして日本の安泰を確保することは困難だ。韓国のことはよく知らなければならず、疑問点を認識することはそのための第一歩である。

 朴槿恵大統領の退陣要求について疑問があることは当HPで複数回指摘したが、最大の疑問は、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当かということである。
 デモに参加し大統領の退陣を要求する者は150万人にも上ったと言われている。また、国会やマスコミもこれに同調した。弾劾はそのような状況に立ち至った結果だということはよく分かるが、デモの参加者の多くは弾劾の決定を喜んでいるようだ。音楽コンサートでの観客のようにペンライトを振っている。サッカーの試合でのようにウェーブも起こっている。参加者の中には大統領が変わらなければ韓国の政治はよくならないと言う者がいる。いろいろあるが、どうも違和感を覚えることが多すぎる。大統領を首にすることは悲しくないのかとさえ思う。世界の歴史上、圧政を倒して人々が歓喜することは何回もあった。ベルリンの壁を倒したときもそうだった。しかし、朴槿恵大統領の犯した問題はまるで違うのではないか。
 韓国では、何が問題となり、どうなると政治が動くのか、これは日本にとって極めて重要なことだ。日本の基準で測るべきでないのはもちろんだが、韓国では情緒で政治が動くというような大雑把な議論では真相は分からない。

 憲法裁判所は朴槿恵大統領の過ちがどれほど大きいか、弾劾は正当かについて判断を示すだろう。それはまた、韓国で燃え盛っている国民感情を立憲主義的民主主義国家においてどのように扱うべきかをも示してくれるのではないか。

 なお、2004年の盧武鉉大統領弾劾の場合、国会での訴追案の可決から憲法裁判所がこれを棄却するまで2カ月と2日かかった。今回も同程度の日数がかかるとすれば、来年2月の初めに判断が下ることになる。それまで韓国の政治が混乱するのは避けがたいが、早く正常化することを期待したい。

2016.12.08

(短評)安倍首相の真珠湾訪問

 安倍首相が真珠湾を訪問するのはよいことだと思う。日米関係をさらに前進させ、また、米国内に今も残る日本との戦争の記憶を薄め、わだかまりを解くのに資するからだ。
 しかし、本件については単純に片づけられない面がある。
 第1に、真珠湾訪問の発表は唐突だったと言われているが、準備はその前から進められてきたはずだ。真珠湾攻撃の12月8日(米国時間は7日)より前に発表したいと米側が希望していたことや、安倍首相がペルーでの立ち話で真珠湾を訪問することをオバマ大統領に伝えたこともそれまでに話が進んでいたことを裏付けている。初めてであれば、そのように大事なことを立ち話で伝えることはしない。
 第2に、オバマ大統領の広島訪問の際、日本の首相も真珠湾を訪問するのがよいという意見が一部にあったが、その時は、広島と真珠湾を並べるべきでないと思った。広島は原爆の投下地であり、犠牲になったのは即死およびそれに近い死者だけで14万人であり、その大多数は市民であった。
 一方、真珠湾で犠牲になった人は軍人が主であった。これほど異なる対象を並べてみるのはおかしいと思ったのだ。
しかし、両方とも戦争の犠牲であり、片方は慰霊の対象だが他方はそうでないとするのがはたして適切か。真珠湾攻撃は、米側においてどのような人為的操作があったにせよ、日本の責任であり、かつ、今でも米国人が重視しているかぎり、日本の首相が犠牲者を追悼するのはよいことだと思う。
 第3に、真珠湾を訪問するなら、他の場所、他の国も訪問すべきだという議論がある。その気持ちは分からないではないが、この種のことについては「平等」な扱いにあまり重きを置くべきでない。慰霊訪問の条件が整ったところから実行していくのがよく、その結果一種の不平等が生じてもやむを得ないと思う。
 中国では、安倍首相が真珠湾を訪問するなら南京にも来るべきだという意見が出ているが、それも条件が整えば検討すべきだ。しかし、今の日中関係を見るとそのような条件は、残念ながらなさそうだ。日中関係は日本が悪くしたのではない。日中両方に責任がある。

2016.12.07

(短評)トランプ氏の対中関係-蔡英文総統との電話

 トランプ次期米大統領が12月2日、台湾の蔡英文総統と電話で会談したことについて、中国外交部は米国に抗議しつつもあまり大げさに騒ぎ立てない考えのようだ。王毅外相は台湾をあからさまに批判したが、米国に対しては直接文句を言わなかった。
 一方、トランプ氏は、「蔡英文総統からの祝福の電話だった」とツイッターで述べるなど取り合わない姿勢である。
 各国の論評などは、トランプ氏はこれまでの米国の対中姿勢と比べて、「総統(president)」と呼んだことなどいくつかの問題点があったと指摘しているが、今回の電話会談はあまり大ごとにならずに収まる気配である。
 しかし、今回の出来事を通じてトランプ氏が台湾を重視していることがはっきりしてきた。これは台湾にとって大いに喜ばしいことだが、危険もある。
 蔡英文総統は就任以来、中国から「一つの中国」に関する考えを明確にするよう執拗に迫られているが、中国の考えには同調せず、中台関係の現状を維持しようとしている。しかし、蔡英文総統としては中国との関係に消極的な姿勢を見せるとまた批判されるので、中台関係の発展を望む姿勢を取っている。つまり、積極的な姿勢で現状維持を図っているのだが、これは非常にデリケートなことで、ちょっと隙を見せると中国からも、また、台湾内部からも付け込まれる。
 これは蔡英文だからできる離れ業だ。これに対してトランプ新政権が台湾重視の姿勢を不用意に示そうものなら中国から反発を受けることは必至であり、しかもその反発はまず蔡英文に向かうだろう。今回の電話会談についてもきびしく責められたのは蔡英文総統であった。つまり、米国として台湾を重視するあまりかえって台湾を窮地に追い込む危険があるのだ。

 おりしも中国は、蔡英文総統が来年1月グアテマラを訪問する途中米国に滞在(実際には「立ち寄り」だ)することを認めないよう米政府に求めた(6日)。世界保健機構(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)での総会に台湾代表が出席するのを拒否したのと軌を一にすることであり、台湾が国際社会で行動することを力づくで差し止めようとしているのだが、蔡英文氏が米国でトランプ氏と会談することなどを警戒しているのだろう。
 今、中国は猛烈な勢いで台湾問題を中国に有利なように打開しようとしている。これに対し、蔡英文総統は台湾内部の親中派を警戒しつつ、中国の攻勢に対処している。このような状況にあって、米国があまりに単純に台湾の肩を持つと、台湾では歓迎されても中国と台湾の関係はもちろん、米中関係にも悪影響が出る恐れがあるので、新政権には慎重なかじ取りが求められる。

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