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2016.12.27
実は、パワー大使は審議の過程でも「武器禁輸を強化すると政府と反政府軍の武器のバランスが崩れ、治安の悪化を招きかねない」と懸念する日本の主張を「非常に疑わしい」として批判したそうだ。
国連で政治問題について日本が米国と異なる投票態度を取ることはないではないが、それは核軍縮のように日米双方が立場の違いを認識し、また、違いがあることを了解しあっている場合であり、今回のように米国が成立に力を入れている案件について日本が米国と異なる態度を取り、それに米国が不満を唱えることなど、私は41年間外務省で勤務したが、1回も聞いたことがなかった。
なぜそのような事態に立ち至ったのか。パワー大使だけが個人的に激しい姿勢を見せたということではないはずだ。日本ももちろんそうだが、国連決議が採択される場合に行う説明は事前に本国の許可を取っておく。米国の場合国務省内で関係者のチェックを経て国務長官が承認する。したがって、パワー大使の個人的考えが突出して強く出たということではない。「誤りだ」と言ったのは国務省の考えでもある。
一方、日本側でも外務省のチェックを経た上で外務大臣が承認し、それがなければ何事もできない。とくに米国と意見が異なる場合に、外務大臣まで上げないで処理することなどありえない。
要するに、今回安保理では、国務長官と外務大臣の異なる意見がぶつかったのだ。
問題になったのは南スーダンへの武器輸出を禁止すべきか否かであった。これは日米が対立、あるいは対峙するような問題か、どうもそのようには見えないが、にもかかわらず日本政府が決議案に棄権したのは、南スーダン政府が「武器は必要だ、禁輸しないでほしい」と要請したからであり、それに応じないと日本が派遣している部隊の安全が確保されないと判断したからではないか。これは推測にすぎないが、日本が米国と意見を対立させてまで頑張った理由の説明にはなっている。これ以外の説明はないのではないか。
しかし、そうであれば別の大きな心配が沸き起こってくる。PKOは本来停戦あるいは和平の成立を前提として行われる活動だが、南スーダンの場合は状況判断において米国と国連の意見が分かれており、そうであればPKOの前提はくずれるという心配だ。
停戦・和平に関する判断は、残念ながら国連だけにゆだねるわけにはいかない場合がある。南スーダンがその例で、武器禁輸の是非について意見が分かれていることを単純に一物資の輸出に関する意見の違いとみなすべきでない。南スーダンの状況判断に国際的な意見の対立があると見るべきだと思う。
そのような状況の中では、自衛隊が武器を行使することは日本国憲法9条の「国際紛争を解決する手段として武力を行使することの禁止」に触れる恐れが大きい。そうであればPKO部隊は撤収するのが望ましい。
私は、「駆けつけ警護」を認めることには賛成だが、国際紛争がある中で日本がPKO部隊を派遣することには反対だ。
国会では南スーダンの状況判断に関し活発な議論があった。それは自衛隊員の安全のため必要だったが、もっと根本的な問題として、停戦・和平の有無について国際的に判断が分かれる場合に、日本はPKOへの参加を継続すべきか、憲法との関係も含めおおいに議論する必要があると思う。
日米が意見を異にした南スーダン決議
12月23日、安保理で南スーダンへの武器禁輸を強化する決議案が否決されたのだが、その際日本は米国とちがって棄権に回った。この決議案の成立を目指していた米国のパワー国連大使は、日本などが賛成しなかったことがよほど悔しかったのだろう。採択の際の声明で、棄権に回った国の議論は「誤りだ(false)」と少なくとも3回強調した。実は、パワー大使は審議の過程でも「武器禁輸を強化すると政府と反政府軍の武器のバランスが崩れ、治安の悪化を招きかねない」と懸念する日本の主張を「非常に疑わしい」として批判したそうだ。
国連で政治問題について日本が米国と異なる投票態度を取ることはないではないが、それは核軍縮のように日米双方が立場の違いを認識し、また、違いがあることを了解しあっている場合であり、今回のように米国が成立に力を入れている案件について日本が米国と異なる態度を取り、それに米国が不満を唱えることなど、私は41年間外務省で勤務したが、1回も聞いたことがなかった。
なぜそのような事態に立ち至ったのか。パワー大使だけが個人的に激しい姿勢を見せたということではないはずだ。日本ももちろんそうだが、国連決議が採択される場合に行う説明は事前に本国の許可を取っておく。米国の場合国務省内で関係者のチェックを経て国務長官が承認する。したがって、パワー大使の個人的考えが突出して強く出たということではない。「誤りだ」と言ったのは国務省の考えでもある。
一方、日本側でも外務省のチェックを経た上で外務大臣が承認し、それがなければ何事もできない。とくに米国と意見が異なる場合に、外務大臣まで上げないで処理することなどありえない。
要するに、今回安保理では、国務長官と外務大臣の異なる意見がぶつかったのだ。
問題になったのは南スーダンへの武器輸出を禁止すべきか否かであった。これは日米が対立、あるいは対峙するような問題か、どうもそのようには見えないが、にもかかわらず日本政府が決議案に棄権したのは、南スーダン政府が「武器は必要だ、禁輸しないでほしい」と要請したからであり、それに応じないと日本が派遣している部隊の安全が確保されないと判断したからではないか。これは推測にすぎないが、日本が米国と意見を対立させてまで頑張った理由の説明にはなっている。これ以外の説明はないのではないか。
しかし、そうであれば別の大きな心配が沸き起こってくる。PKOは本来停戦あるいは和平の成立を前提として行われる活動だが、南スーダンの場合は状況判断において米国と国連の意見が分かれており、そうであればPKOの前提はくずれるという心配だ。
停戦・和平に関する判断は、残念ながら国連だけにゆだねるわけにはいかない場合がある。南スーダンがその例で、武器禁輸の是非について意見が分かれていることを単純に一物資の輸出に関する意見の違いとみなすべきでない。南スーダンの状況判断に国際的な意見の対立があると見るべきだと思う。
そのような状況の中では、自衛隊が武器を行使することは日本国憲法9条の「国際紛争を解決する手段として武力を行使することの禁止」に触れる恐れが大きい。そうであればPKO部隊は撤収するのが望ましい。
私は、「駆けつけ警護」を認めることには賛成だが、国際紛争がある中で日本がPKO部隊を派遣することには反対だ。
国会では南スーダンの状況判断に関し活発な議論があった。それは自衛隊員の安全のため必要だったが、もっと根本的な問題として、停戦・和平の有無について国際的に判断が分かれる場合に、日本はPKOへの参加を継続すべきか、憲法との関係も含めおおいに議論する必要があると思う。
2016.12.26
「 トランプ政権の駐日大使に元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏が任命される案が出ているようです。野球一筋に生きてきたバレンタイン氏は外交や行政とまったく無縁の人ですが、よい大使になるかもしれません。
現在の米国大使はキャロライン・ケネディ氏で、故ジョン・F・ケネディ大統領の長女として日本でもよく知られていましたが、大使としても日本人に親しまれています。これは大使として成功する一つの重要な条件です。
大使とは何か、一言で大使と言っても、役割や位置づけは様々であり、必ずしも理解されているとは限りません。一般的に言って、大使には次のような特徴があります。
第1に、大使はどの業界の代弁者でもなく、強いて言えば母国の代弁者です。つまり、特徴がないのが大使の特徴です。大使が特定の企業の代弁者となるべきでないことはだれにも明らかでしょう。業界についても基本的には同じことであり、特定の業界の利益を代弁すると、それと競合関係にある業界の利益を損なう恐れがあるからです。
もっとも、状況次第で特定の企業に関して行動することはあります。私はかつてユーゴスラビア、現在のセルビア、モンテネグロおよびコソボの大使でした。その時同国首相の要請を受け、ある日本の自動車会社に対してユーゴスラビアへ進出してほしいと頼んだことがありました。しかし、それは競争や競合関係がまったくない状況だったので可能であり、また、そうすることが日本とユーゴスラビアとの関係増進に役立つと判断したからでした。
第2に、大使は母国の利益を代弁しますが、赴任先の国の事情を母国に正しく伝えるのも重要な任務であり、そのため、表面的には母国よりも赴任国を重視していると見える場合もあります。しかし、母国で沸き起こる感情論的なものに流されると危険であり、相手国の正しい理解に基づいた政策を講じることは絶対的に必要です。大使はそのために母国にとって辛口のことでも進言しなければなりません。かつて米国の自動車産業が不況に陥った時にもそのようなことがあったと思います。
主にカーター政権時代の1970年代の後半から10年以上も米国の駐日大使を務めたマイケル・マンスフィールド氏は日本のことを米国に向かって何回も代弁してくれました。たとえば大使の任期中日米間には激しい経済摩擦がありましたが、何とか大事に至らずに収めることができたのは同大使の尽力があったからだと言われています。
第3に、とくに米国の場合は、大使の任命に政治的な考慮が強く働くことがあります。たとえば、大統領選挙で尽力した人を大使とすることもあります。そういう人たちは能力的には問題ありませんが、プロの外交官ではないので周囲の人がよく補佐する必要があります。言葉の面でも、米国の職業外交官は外国語も堪能ですが、政治任命の大使は外国語が得意でない人が少なくありません。ルース元米国大使は東日本大震災の際に米国が積極的に協力するのに尽力しました。オバマ大統領に広島訪問を勧めたことでも有名です。
なお、このような政治任命の大使は先進国に派遣されるのが通例です。相手が難しい国の場合、やはり職業外交官が大使になるようです。日本の場合は気候などの関係で「困難な国(hardship post)」とみなされ、西欧のように大物が派遣されることはまれでしたが、そのような傾向はすでになくなっていると思います。
ボビー・バレンタイン氏は周知のごとく、ロッテ球団の監督を2回務め、合計約7年間日本に滞在したので、野球を通じてですが日本のことをよく経験しました。さらに、米国でメージャーリーグ・チームの監督を務めたのも、また、日本チームの監督を2回も務めたのも高い管理能力があったからでした。たとえば、選手の起用も巧みで、「ボビーマジック」と呼ばれたことは同氏の非凡な能力をよく表していました。
バレンタイン氏は、公職の経験はありませんが、外交経験や日本の政治経済状況の知識などについて周囲の補佐よろしきを得れば、日本での経験を活かし、その個性的かつ高い能力を発揮して素晴らしい大使になると期待されます。
米新政権の駐日大使
米新政権の駐日大使として名前が挙がっている一人である元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏についての一文をTHE PAGEに寄稿した。「 トランプ政権の駐日大使に元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏が任命される案が出ているようです。野球一筋に生きてきたバレンタイン氏は外交や行政とまったく無縁の人ですが、よい大使になるかもしれません。
現在の米国大使はキャロライン・ケネディ氏で、故ジョン・F・ケネディ大統領の長女として日本でもよく知られていましたが、大使としても日本人に親しまれています。これは大使として成功する一つの重要な条件です。
大使とは何か、一言で大使と言っても、役割や位置づけは様々であり、必ずしも理解されているとは限りません。一般的に言って、大使には次のような特徴があります。
第1に、大使はどの業界の代弁者でもなく、強いて言えば母国の代弁者です。つまり、特徴がないのが大使の特徴です。大使が特定の企業の代弁者となるべきでないことはだれにも明らかでしょう。業界についても基本的には同じことであり、特定の業界の利益を代弁すると、それと競合関係にある業界の利益を損なう恐れがあるからです。
もっとも、状況次第で特定の企業に関して行動することはあります。私はかつてユーゴスラビア、現在のセルビア、モンテネグロおよびコソボの大使でした。その時同国首相の要請を受け、ある日本の自動車会社に対してユーゴスラビアへ進出してほしいと頼んだことがありました。しかし、それは競争や競合関係がまったくない状況だったので可能であり、また、そうすることが日本とユーゴスラビアとの関係増進に役立つと判断したからでした。
第2に、大使は母国の利益を代弁しますが、赴任先の国の事情を母国に正しく伝えるのも重要な任務であり、そのため、表面的には母国よりも赴任国を重視していると見える場合もあります。しかし、母国で沸き起こる感情論的なものに流されると危険であり、相手国の正しい理解に基づいた政策を講じることは絶対的に必要です。大使はそのために母国にとって辛口のことでも進言しなければなりません。かつて米国の自動車産業が不況に陥った時にもそのようなことがあったと思います。
主にカーター政権時代の1970年代の後半から10年以上も米国の駐日大使を務めたマイケル・マンスフィールド氏は日本のことを米国に向かって何回も代弁してくれました。たとえば大使の任期中日米間には激しい経済摩擦がありましたが、何とか大事に至らずに収めることができたのは同大使の尽力があったからだと言われています。
第3に、とくに米国の場合は、大使の任命に政治的な考慮が強く働くことがあります。たとえば、大統領選挙で尽力した人を大使とすることもあります。そういう人たちは能力的には問題ありませんが、プロの外交官ではないので周囲の人がよく補佐する必要があります。言葉の面でも、米国の職業外交官は外国語も堪能ですが、政治任命の大使は外国語が得意でない人が少なくありません。ルース元米国大使は東日本大震災の際に米国が積極的に協力するのに尽力しました。オバマ大統領に広島訪問を勧めたことでも有名です。
なお、このような政治任命の大使は先進国に派遣されるのが通例です。相手が難しい国の場合、やはり職業外交官が大使になるようです。日本の場合は気候などの関係で「困難な国(hardship post)」とみなされ、西欧のように大物が派遣されることはまれでしたが、そのような傾向はすでになくなっていると思います。
ボビー・バレンタイン氏は周知のごとく、ロッテ球団の監督を2回務め、合計約7年間日本に滞在したので、野球を通じてですが日本のことをよく経験しました。さらに、米国でメージャーリーグ・チームの監督を務めたのも、また、日本チームの監督を2回も務めたのも高い管理能力があったからでした。たとえば、選手の起用も巧みで、「ボビーマジック」と呼ばれたことは同氏の非凡な能力をよく表していました。
バレンタイン氏は、公職の経験はありませんが、外交経験や日本の政治経済状況の知識などについて周囲の補佐よろしきを得れば、日本での経験を活かし、その個性的かつ高い能力を発揮して素晴らしい大使になると期待されます。
2016.12.24
一つには、日米関係と比較すると分かりやすい。選挙期間中、トランプ氏は米国が貿易面で不利をこうむっていると主張し、日本、中国、メキシコなど諸国との関係を是正したい考えを示した。日本と中国が為替レートの操作をしていると非難したのもその一環だった。
トランプ氏は、さらに、日本との安保条約についても不満を述べ、米国は日本を防衛することになっているのに、日本が負担している義務は少なすぎるなどと発言したため、一時、新政権は日本より中国との関係を重視し、中国は漁夫の利を得るのではないかという見方も出たこともあった。
しかし、今やそのような見方は完全になくなっている。大統領選挙からまだ2カ月もたっていないが、米国にとって日本との同盟関係が重要であることはトランプ氏の耳にかなり入ったのだろう。為替については、最近円安になったのは日本が操作したためでなく、米国の金利引き上げが原因であることはだれの目にも明らかだ。もっとも、日本との間では、TPPのように立場が異なる問題もあり、日本として懸念が解消したわけではないが、トランプ氏が直接日本を問題視する発言をすることはなくなっている。
一方、中国との関係ではこの短い期間に、トランプ氏と台湾の蔡英文総統との電話会談、トランプ氏の「米国はなぜ一つの中国に縛られなければならないのかわからない」という発言、それに海洋調査している米国の潜水機を中国艦艇が強引に持ち去る事件などが立て続けに発生した。
台湾との関係および「一つの中国」は中国にとって優先度の高い「核心問題」であり、従来の米政府の方針を逸脱するトランプ氏の言動に中国が強く刺激され、抗議したのは当然であった。
しかし、トランプ氏は蔡英文総統との電話も、一つの中国に対する発言も許容範囲内だと判断したのだろう。その判断の当否は別として、すくなくともこれらの出来事には新政権の対中姿勢が表れている感じがする。
中国の艦艇が米国の潜水機を持ち去ったのは、最近のトランプ氏の問題発言を咎め、けん制する気持ちがあったのかもしれないが、米国にとっては著しく挑発的であり、米国の対中認識をいっそう悪化させた。
そんななか、米国防次官代行のブライアン・マケオン(Brian McKeon)が新政権の防衛政策に関して記した覚書が話題になっている。このメモは米国にとっての優先課題として過激派組織IS、サイバー攻撃などをあげつつ、長らく米国の安全保障上の最大問題であったロシアに言及していないからである。トランプ氏が選挙期間中何回もプーチン大統領を称賛し、また、国務長官にロシア通でプーチン大統領と親しいティラーソン氏を指名したことは周知であるが、それらに加えこのメモが現れたのだ。
総じて、トランプ氏の言動には米国とロシアとの関係が改善される兆しがみられる一方、中国との関係では不協和音がすでに出始めている。実際の政策にどのように反映されるかもう少し状況を見る必要があるが、物事を単純に切って捨てるトランプ新大統領の米国と強権的でかつ大国志向の習近平主席の中国は今後角を突き合わせることが多くなるのではないか。
(短評)トランプ新政権の対中姿勢
トランプ新政権の発足前だが、米中関係はどうなるか、かなりはっきりしてきた。一つには、日米関係と比較すると分かりやすい。選挙期間中、トランプ氏は米国が貿易面で不利をこうむっていると主張し、日本、中国、メキシコなど諸国との関係を是正したい考えを示した。日本と中国が為替レートの操作をしていると非難したのもその一環だった。
トランプ氏は、さらに、日本との安保条約についても不満を述べ、米国は日本を防衛することになっているのに、日本が負担している義務は少なすぎるなどと発言したため、一時、新政権は日本より中国との関係を重視し、中国は漁夫の利を得るのではないかという見方も出たこともあった。
しかし、今やそのような見方は完全になくなっている。大統領選挙からまだ2カ月もたっていないが、米国にとって日本との同盟関係が重要であることはトランプ氏の耳にかなり入ったのだろう。為替については、最近円安になったのは日本が操作したためでなく、米国の金利引き上げが原因であることはだれの目にも明らかだ。もっとも、日本との間では、TPPのように立場が異なる問題もあり、日本として懸念が解消したわけではないが、トランプ氏が直接日本を問題視する発言をすることはなくなっている。
一方、中国との関係ではこの短い期間に、トランプ氏と台湾の蔡英文総統との電話会談、トランプ氏の「米国はなぜ一つの中国に縛られなければならないのかわからない」という発言、それに海洋調査している米国の潜水機を中国艦艇が強引に持ち去る事件などが立て続けに発生した。
台湾との関係および「一つの中国」は中国にとって優先度の高い「核心問題」であり、従来の米政府の方針を逸脱するトランプ氏の言動に中国が強く刺激され、抗議したのは当然であった。
しかし、トランプ氏は蔡英文総統との電話も、一つの中国に対する発言も許容範囲内だと判断したのだろう。その判断の当否は別として、すくなくともこれらの出来事には新政権の対中姿勢が表れている感じがする。
中国の艦艇が米国の潜水機を持ち去ったのは、最近のトランプ氏の問題発言を咎め、けん制する気持ちがあったのかもしれないが、米国にとっては著しく挑発的であり、米国の対中認識をいっそう悪化させた。
そんななか、米国防次官代行のブライアン・マケオン(Brian McKeon)が新政権の防衛政策に関して記した覚書が話題になっている。このメモは米国にとっての優先課題として過激派組織IS、サイバー攻撃などをあげつつ、長らく米国の安全保障上の最大問題であったロシアに言及していないからである。トランプ氏が選挙期間中何回もプーチン大統領を称賛し、また、国務長官にロシア通でプーチン大統領と親しいティラーソン氏を指名したことは周知であるが、それらに加えこのメモが現れたのだ。
総じて、トランプ氏の言動には米国とロシアとの関係が改善される兆しがみられる一方、中国との関係では不協和音がすでに出始めている。実際の政策にどのように反映されるかもう少し状況を見る必要があるが、物事を単純に切って捨てるトランプ新大統領の米国と強権的でかつ大国志向の習近平主席の中国は今後角を突き合わせることが多くなるのではないか。
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