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2016.12.20
大きく言って、一つの前置き、二つの感想がある。
前置きしたいのは、答弁書が提出されたからと言ってその内容が正しいと思っているわけではないことである。誤りだと決めつけるのでもない。内容の正誤を判断するのはもちろん韓国の憲法裁判所だ。
第一の感想は、これまで韓国で起こった反大統領デモや国会での弾劾などにおいては、推測や噂かもしれないことを理由に大統領の退陣が要求され、弾劾の決定まで行われた印象が強かったところ、答弁書はまさにそのことを問題とし、反論していることである。前置きで述べたように弾劾が正当か、答弁書が正しいか、今の時点でどちらかに軍配を上げるのではないが、両方の意見が正式に提示されたことに一種の満足感がある。これまでは沈黙を続ける大統領に対する一方的な攻撃の連続であった。
第二に、日本の立場から見た感想だ。前任の李明博大統領、さらにその前の盧武鉉大統領は朴槿恵大統領の現在の状況と同じころ、つまり任期の終了を間近に控えて日本に対して非友好的な行動を取った。
李明博氏は2012年の8月、韓国の大統領として初めて竹島へ上陸した。
盧武鉉大統領はやはり2005年の5月、ドイツを訪問して日本の国連常任理事国入りに反対を表明し、さらに日本をナチスドイツと同様に批判しようと共同宣言を持ちかけ、逆にドイツ政府から猛批判・猛反発を受けた。
これに比べ、朴槿恵大統領の対日姿勢は、就任当初は日本に厳しかったが、今は日本との協力を重視するようになっている。
国家指導者の行動には複雑な理由があるので、結果だけを単純に比較すべきでないのはもちろんであり、朴槿恵大統領も欧州訪問に際して日本に対して厳しい発言をしたが、日本の利益の観点からすれば朴槿恵大統領は高く評価できる面がある。だから不名誉な辞任に追い込まれることなく任期を全うすることを望みたい。
ここには言及しない重要な問題、たとえば朝鮮を植民地としたことについては日本として責任がある。またそのことには複雑な事情が絡んでいる。そういうことはわきに置いたうえでの感想だ。
(短評)朴槿恵大統領の答弁書
韓国国会での朴槿恵大統領の弾劾決定を審理している憲法裁判所に大統領側から提出された答弁書が12月18日、公表された。チェ・スンシル被告などとの関連で責任を追及されている諸点に関し、訴追には根拠がなく、一連の疑惑はすべて事実でないと主張する内容だそうだ。大きく言って、一つの前置き、二つの感想がある。
前置きしたいのは、答弁書が提出されたからと言ってその内容が正しいと思っているわけではないことである。誤りだと決めつけるのでもない。内容の正誤を判断するのはもちろん韓国の憲法裁判所だ。
第一の感想は、これまで韓国で起こった反大統領デモや国会での弾劾などにおいては、推測や噂かもしれないことを理由に大統領の退陣が要求され、弾劾の決定まで行われた印象が強かったところ、答弁書はまさにそのことを問題とし、反論していることである。前置きで述べたように弾劾が正当か、答弁書が正しいか、今の時点でどちらかに軍配を上げるのではないが、両方の意見が正式に提示されたことに一種の満足感がある。これまでは沈黙を続ける大統領に対する一方的な攻撃の連続であった。
第二に、日本の立場から見た感想だ。前任の李明博大統領、さらにその前の盧武鉉大統領は朴槿恵大統領の現在の状況と同じころ、つまり任期の終了を間近に控えて日本に対して非友好的な行動を取った。
李明博氏は2012年の8月、韓国の大統領として初めて竹島へ上陸した。
盧武鉉大統領はやはり2005年の5月、ドイツを訪問して日本の国連常任理事国入りに反対を表明し、さらに日本をナチスドイツと同様に批判しようと共同宣言を持ちかけ、逆にドイツ政府から猛批判・猛反発を受けた。
これに比べ、朴槿恵大統領の対日姿勢は、就任当初は日本に厳しかったが、今は日本との協力を重視するようになっている。
国家指導者の行動には複雑な理由があるので、結果だけを単純に比較すべきでないのはもちろんであり、朴槿恵大統領も欧州訪問に際して日本に対して厳しい発言をしたが、日本の利益の観点からすれば朴槿恵大統領は高く評価できる面がある。だから不名誉な辞任に追い込まれることなく任期を全うすることを望みたい。
ここには言及しない重要な問題、たとえば朝鮮を植民地としたことについては日本として責任がある。またそのことには複雑な事情が絡んでいる。そういうことはわきに置いたうえでの感想だ。
2016.12.17
「ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領は12月15日、来日して山口県長門市で安倍晋三首相と会談し、翌日には東京に移動して会談を続行しました。実質的には約1日という短い日本滞在でしたが、両首脳はかなり長い時間会談しました。
今回の訪問の成果は事前に予想された範囲内でした。具体的には共同経済活動に関する話し合いに多くの時間が使われ、両国間で数十に上る合意が達成されました。これが今次訪問の最大の成果であり、今後の日露関係発展に資することが期待されます。
北方四島で共同経済活動を行う場合の主権問題、具体的には参加している企業の納税や紛争が生じた場合によるべき法律について、ロシア側はロシアの法律が適用されると主張していますが、それでは日本の法的立場が害されるので受け入れられません。この点については、今後、双方の立場を害さない「特別の制度」を作るため交渉することになりました。しかし、これがそもそも可能か、可能だとしてもいったいどのようなものか、現段階では何とも言えません。
そのほか、北方四島の旧島民の墓参など人的交流を容易にすることについてもプーチン大統領は理解を示し、「アクセスを確保する」と表明しました。旧島民がプーチン大統領にあて、安倍首相から手渡された手紙は印象深かったようです。
しかし、日露間の最大の懸案である領土問題を処理して平和条約を結ぶことについては、両首脳は解決の必要性を認識しあっただけで、具体的な進展はありませんでした。このような結果はプーチン大統領が訪日する前から予想されていたことであり、そのことをもって今回の首脳会談を成功とか失敗とか決めつけるべきでありませんが、領土問題を前進させることはやはり困難であることをあらためて印象付けた首脳会談でした。
領土問題はなぜこのようなことになったのか、また今後どうすべきでしょうか。
ロシア側は秋以降厳しい姿勢を見せるようになった印象がありますが、実は、プーチン大統領は2000年に大統領に初めて就任した当初、日本に対しては前任者のエリツィン大統領時代に達成した東京宣言などの成果を認めていましたが、ロシア国内では歯舞、色丹の2島のことしか考えていないという趣旨の発言をしていました。さらに、いったん首相に退いたのち大統領に復帰した2012年頃からは、一方で、双方が妥協する「引き分け方式」が望ましいとしつつ、1956年の日ソ共同宣言以外何も合意されていないと言わんばかりの発言をするようになりました。
それは明らかに事実と異なります。エリツィン大統領はもっと積極的、意欲的であり、1993年の東京宣言や98年の川奈会談において北方四島の帰属が解決すべき問題であることが双方で確認されました。プーチン氏が言っていることはそれと比べるとかなり後退しており、ソ連時代の指導者であったゴルバチョフ大統領でさえもっと意欲的でした。
プーチン大統領は、両国間の関係が経済面での協力によって進展し、信頼関係が築き上げられてはじめて領土問題が前進することが可能になるという趣旨の発言を繰り返しています。それはそれで分からないではありませんが、日露関係はさまざまな問題の影響を受けます。その中には、ウクライナ問題のように日本は直接かかわっていない問題ですが、ロシアによって引き起こされ、欧米がロシアに制裁を科した問題もあります。したがって、経済協力だけでなく政治問題も含め総合的に見ていく必要があるのです。
今後、日本としてはどのように北方領土問題を進展させていくべきでしょうか。カギとなるのはやはり米国です。日米と日露の関係は1950年代に日ソ交渉を始めた時から密接に関連しあっており、たとえば日本は交渉の節目ごとに米国に説明し、米国の考えと齟齬がないことを確かめていました。プーチン大統領が安倍首相との会談後の記者会見で指摘した、ロシアと米国との間の安全保障問題が北方領土に関係していることもその一例です。要するに、米国の対露政策により日露関係は影響を受けるのです。
トランプ次期大統領は対露政策を改善する可能性がありますが、両国間にはロシアによるサイバー攻撃など敵対的な問題も残っており、全体として米露関係の去就は不透明です。日本としては米露関係の輪郭がはっきりするのを待って、あらためて対露制裁問題を含めロシアとの交渉戦略をたてるべきでしょう。具体的には1月20日に新政権が発足した後一定の期間が必要でしょうから、来年の春頃になると思います。
日露首脳会談の結果をどう見るか 北方領土問題進展に何が必要か
タイトルの件でTHE PAGEに以下の一文を寄稿しました。「ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領は12月15日、来日して山口県長門市で安倍晋三首相と会談し、翌日には東京に移動して会談を続行しました。実質的には約1日という短い日本滞在でしたが、両首脳はかなり長い時間会談しました。
今回の訪問の成果は事前に予想された範囲内でした。具体的には共同経済活動に関する話し合いに多くの時間が使われ、両国間で数十に上る合意が達成されました。これが今次訪問の最大の成果であり、今後の日露関係発展に資することが期待されます。
北方四島で共同経済活動を行う場合の主権問題、具体的には参加している企業の納税や紛争が生じた場合によるべき法律について、ロシア側はロシアの法律が適用されると主張していますが、それでは日本の法的立場が害されるので受け入れられません。この点については、今後、双方の立場を害さない「特別の制度」を作るため交渉することになりました。しかし、これがそもそも可能か、可能だとしてもいったいどのようなものか、現段階では何とも言えません。
そのほか、北方四島の旧島民の墓参など人的交流を容易にすることについてもプーチン大統領は理解を示し、「アクセスを確保する」と表明しました。旧島民がプーチン大統領にあて、安倍首相から手渡された手紙は印象深かったようです。
しかし、日露間の最大の懸案である領土問題を処理して平和条約を結ぶことについては、両首脳は解決の必要性を認識しあっただけで、具体的な進展はありませんでした。このような結果はプーチン大統領が訪日する前から予想されていたことであり、そのことをもって今回の首脳会談を成功とか失敗とか決めつけるべきでありませんが、領土問題を前進させることはやはり困難であることをあらためて印象付けた首脳会談でした。
領土問題はなぜこのようなことになったのか、また今後どうすべきでしょうか。
ロシア側は秋以降厳しい姿勢を見せるようになった印象がありますが、実は、プーチン大統領は2000年に大統領に初めて就任した当初、日本に対しては前任者のエリツィン大統領時代に達成した東京宣言などの成果を認めていましたが、ロシア国内では歯舞、色丹の2島のことしか考えていないという趣旨の発言をしていました。さらに、いったん首相に退いたのち大統領に復帰した2012年頃からは、一方で、双方が妥協する「引き分け方式」が望ましいとしつつ、1956年の日ソ共同宣言以外何も合意されていないと言わんばかりの発言をするようになりました。
それは明らかに事実と異なります。エリツィン大統領はもっと積極的、意欲的であり、1993年の東京宣言や98年の川奈会談において北方四島の帰属が解決すべき問題であることが双方で確認されました。プーチン氏が言っていることはそれと比べるとかなり後退しており、ソ連時代の指導者であったゴルバチョフ大統領でさえもっと意欲的でした。
プーチン大統領は、両国間の関係が経済面での協力によって進展し、信頼関係が築き上げられてはじめて領土問題が前進することが可能になるという趣旨の発言を繰り返しています。それはそれで分からないではありませんが、日露関係はさまざまな問題の影響を受けます。その中には、ウクライナ問題のように日本は直接かかわっていない問題ですが、ロシアによって引き起こされ、欧米がロシアに制裁を科した問題もあります。したがって、経済協力だけでなく政治問題も含め総合的に見ていく必要があるのです。
今後、日本としてはどのように北方領土問題を進展させていくべきでしょうか。カギとなるのはやはり米国です。日米と日露の関係は1950年代に日ソ交渉を始めた時から密接に関連しあっており、たとえば日本は交渉の節目ごとに米国に説明し、米国の考えと齟齬がないことを確かめていました。プーチン大統領が安倍首相との会談後の記者会見で指摘した、ロシアと米国との間の安全保障問題が北方領土に関係していることもその一例です。要するに、米国の対露政策により日露関係は影響を受けるのです。
トランプ次期大統領は対露政策を改善する可能性がありますが、両国間にはロシアによるサイバー攻撃など敵対的な問題も残っており、全体として米露関係の去就は不透明です。日本としては米露関係の輪郭がはっきりするのを待って、あらためて対露制裁問題を含めロシアとの交渉戦略をたてるべきでしょう。具体的には1月20日に新政権が発足した後一定の期間が必要でしょうから、来年の春頃になると思います。
2016.12.16
「韓国の朴槿恵大統領は、12月9日、国会が弾劾訴追案を可決したため職務の執行を停止されました。朴大統領の友人が国政に不当に関与したことが明るみに出て以来、朴大統領自身の言動にも疑惑が生じ、韓国民がその退陣を要求するようになり、ついに国会が大統領の弾劾を決定したのです。
今後、憲法裁判所が弾劾の適否を判断することになっており、その結果次第で朴大統領がその地位を失うか、それとも職務執行の停止が解け通常の状態に復帰するかが決まります。その時期は早ければ2月初め、遅ければ6月頃になると推測されます。その間、大統領の職務は黄教安首相が代行することになりますが、韓国の国政が影響を受けることは避けがたいでしょう。
対外面でも懸念材料があります。韓国には日本や中国とともに東アジアの平和と安定に果たすべき重要な役割があり、朴大統領は北朝鮮の核実験などに厳しい姿勢で対処してきました。
また、さる11月末に日本と秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を締結しました。防衛情報を米を介さず日韓両国で共有するのが狙いであり、これにより北朝鮮の核やミサイル問題への対応能力が向上することが期待されます。GSOMIAは米国が防衛協力強化のため同盟関係にある各国と結んでいる取り決めです。しかし、韓国の野党は日韓のGSOMIAにも反対しており、韓国の政変はこの面でも悪影響を及ぼす恐れがあります。
日本との二国間関係ではいわゆる「慰安婦」問題への影響が懸念されます。これは非常に複雑で、日韓両国にとって頭の痛い問題ですが、今からちょうど1年前の12月下旬に両政府は解決について合意しました。
日本政府はあらためて「責任」を認め、安倍首相は「おわび」するとともに、元慰安婦の「心の傷の癒やすための事業」に10億円を拠出することになりました。そして、両国政府はこの合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認しあいました。
在韓国日本大使館前の少女像については、韓国政府は,「適切に解決されるよう努力する」と表明しました。
日本政府による10億円の拠出はさる8月に完了しています。韓国政府は元慰安婦に対して事業を受け入れるよう説得し、日韓合意の時点で生存していた元慰安婦46名(その後6人死亡)のうち29名が受け入れを表明しました。10月中旬、事業実施のための財団の理事会で報告されたことです。
しかし、少女像の撤去については、韓国政府は関係者に説得を続けていますが、まだ実現していません。このため日本では不満の声が上がっていますが、この問題については韓国政府が努力を強化するよう粘り強く求めていくことが必要です。
このような状況の中で今回の政変が起こったのです。野党は慰安婦問題に関する合意が成立した時から反対の姿勢を続けており、去る9月には朴大統領に面会して再交渉を要求しました。この合意は「屈辱的合意」だとも言っています。かりに、朴槿恵大統領に代わって野党から新大統領が選出されると、何らかの新しい取り決めを求めて再交渉を日本に提案してくる可能性があります。合意を一方的に破棄する可能性もないとは言い切れません。1965年に結ばれた日韓基本条約ですべての請求権について「完全かつ最終的に解決済み」とされたことについて、日本側は文字通りの解釈ですが、韓国側では慰安婦問題はこれには含まれないと主張している例があります。
しかし、再交渉に日本政府が応じることはないでしょう。1年前の合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決された」ことは両国政府が確認しあったことであり、しかも文書に明確に記載されています。国際法では政府間の合意には国家を拘束する力がないとされていますが、それは理論の問題です。両国政府が合意したことが、政権が代わったからと言って守られないと信頼は失われ、政治・経済・文化面にわたる密接な協力関係は甚大な影響を受けるでしょう。日本は新大統領に誰が選ばれようと、韓国に対しあくまで日本との合意を守ることを求めていくでしょう。当然のことです。
ただし、「慰安婦問題」については国際的な同情があり、日本政府が開き直ったりするとその悪影響は計り知れないものがあり、それには注意が必要です。この問題についてはあくまで丁寧に、誠意を尽くして対応していかなければなりません。
朴大統領の退陣を求めて広場を埋め尽くした人々がコンサート会場よろしくペンライトを振りながら弾劾の決定に喜んでいる姿もどうかと思いますが、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当か、隣国のこととは言え、正直なところ、強い違和感を覚えます。
ともかく、韓国における世論と政治との関係は日本の今後の対韓政策にも参考にしなければならないと思います。
韓国の朴槿恵大統領が職務停止 慰安婦合意など日韓関係への影響は。
THE PAGEに寄稿した韓国情勢と慰安婦問題に関する一文です。「韓国の朴槿恵大統領は、12月9日、国会が弾劾訴追案を可決したため職務の執行を停止されました。朴大統領の友人が国政に不当に関与したことが明るみに出て以来、朴大統領自身の言動にも疑惑が生じ、韓国民がその退陣を要求するようになり、ついに国会が大統領の弾劾を決定したのです。
今後、憲法裁判所が弾劾の適否を判断することになっており、その結果次第で朴大統領がその地位を失うか、それとも職務執行の停止が解け通常の状態に復帰するかが決まります。その時期は早ければ2月初め、遅ければ6月頃になると推測されます。その間、大統領の職務は黄教安首相が代行することになりますが、韓国の国政が影響を受けることは避けがたいでしょう。
対外面でも懸念材料があります。韓国には日本や中国とともに東アジアの平和と安定に果たすべき重要な役割があり、朴大統領は北朝鮮の核実験などに厳しい姿勢で対処してきました。
また、さる11月末に日本と秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を締結しました。防衛情報を米を介さず日韓両国で共有するのが狙いであり、これにより北朝鮮の核やミサイル問題への対応能力が向上することが期待されます。GSOMIAは米国が防衛協力強化のため同盟関係にある各国と結んでいる取り決めです。しかし、韓国の野党は日韓のGSOMIAにも反対しており、韓国の政変はこの面でも悪影響を及ぼす恐れがあります。
日本との二国間関係ではいわゆる「慰安婦」問題への影響が懸念されます。これは非常に複雑で、日韓両国にとって頭の痛い問題ですが、今からちょうど1年前の12月下旬に両政府は解決について合意しました。
日本政府はあらためて「責任」を認め、安倍首相は「おわび」するとともに、元慰安婦の「心の傷の癒やすための事業」に10億円を拠出することになりました。そして、両国政府はこの合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認しあいました。
在韓国日本大使館前の少女像については、韓国政府は,「適切に解決されるよう努力する」と表明しました。
日本政府による10億円の拠出はさる8月に完了しています。韓国政府は元慰安婦に対して事業を受け入れるよう説得し、日韓合意の時点で生存していた元慰安婦46名(その後6人死亡)のうち29名が受け入れを表明しました。10月中旬、事業実施のための財団の理事会で報告されたことです。
しかし、少女像の撤去については、韓国政府は関係者に説得を続けていますが、まだ実現していません。このため日本では不満の声が上がっていますが、この問題については韓国政府が努力を強化するよう粘り強く求めていくことが必要です。
このような状況の中で今回の政変が起こったのです。野党は慰安婦問題に関する合意が成立した時から反対の姿勢を続けており、去る9月には朴大統領に面会して再交渉を要求しました。この合意は「屈辱的合意」だとも言っています。かりに、朴槿恵大統領に代わって野党から新大統領が選出されると、何らかの新しい取り決めを求めて再交渉を日本に提案してくる可能性があります。合意を一方的に破棄する可能性もないとは言い切れません。1965年に結ばれた日韓基本条約ですべての請求権について「完全かつ最終的に解決済み」とされたことについて、日本側は文字通りの解釈ですが、韓国側では慰安婦問題はこれには含まれないと主張している例があります。
しかし、再交渉に日本政府が応じることはないでしょう。1年前の合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決された」ことは両国政府が確認しあったことであり、しかも文書に明確に記載されています。国際法では政府間の合意には国家を拘束する力がないとされていますが、それは理論の問題です。両国政府が合意したことが、政権が代わったからと言って守られないと信頼は失われ、政治・経済・文化面にわたる密接な協力関係は甚大な影響を受けるでしょう。日本は新大統領に誰が選ばれようと、韓国に対しあくまで日本との合意を守ることを求めていくでしょう。当然のことです。
ただし、「慰安婦問題」については国際的な同情があり、日本政府が開き直ったりするとその悪影響は計り知れないものがあり、それには注意が必要です。この問題についてはあくまで丁寧に、誠意を尽くして対応していかなければなりません。
朴大統領の退陣を求めて広場を埋め尽くした人々がコンサート会場よろしくペンライトを振りながら弾劾の決定に喜んでいる姿もどうかと思いますが、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当か、隣国のこととは言え、正直なところ、強い違和感を覚えます。
ともかく、韓国における世論と政治との関係は日本の今後の対韓政策にも参考にしなければならないと思います。
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