平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 26

2016.07.20

南シナ海に関する仲裁裁判

7月20日、THE PAGEに次の一文を投稿した。

「7月12日、国際仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていたスカーボロー礁(中国名「黄岩岛」以下同)やスプラトリー諸島(南沙諸島)などにおける中国との紛争について裁判結果を公表しました。スカーボロー礁では1990年代の終わりころから両国間で紛争があり、2012年には双方が艦船を派遣してにらみ合う状況に陥り、後にフィリピン側は引き上げましたが、中国船は居残ったままの状態になっています。
 また、スプラトリー諸島では、やはり1990年代から紛争があり、2015年に入ると中国は埋め立てや建設工事を急ピッチで進めました。中国は1990年代から海洋大国になることを国家目標とし、領海法の制定、巨額の予算措置など積極的に手を打ってきました。その中には台湾の中国への統合を実現することも含まれます。
しかし、中国の行動は現状を一方的に変更するものであり、周辺の各国は危機意識を高めました。米国は艦艇をその付近の海域に航行させ、自由航行の重要性をアピールしました。
 フィリピンは中国との話し合いで紛争を解決しようと試みましたが、結果が得られなかったので2013年、国際仲裁裁判所に提訴し、中国はこれも拒否したので海洋法条約の規定に従って強制裁判の手続きを進め、2015年末から実質的審議が行われてきました。

 今般下された判決は、ほぼ全面的に中国の主張を退けました。
 中国の主張の中で根幹となっているのは、「九段線」で囲まれた海域(これは南シナ海のほぼ全域です)について中国は歴史的権利があるということです。「管轄権」を持つという場合もあります。
この主張について裁判所は「国際法上根拠がない」と断定しました。この判断によれば、「九段線」の主張は成り立たなくなり、また、この海域での行動の多くは国際法上違法になる可能性があります。そうなると海洋大国化計画を見直さなければならなくなるでしょう。
 さらに判決は、スカーボロー礁やスプラトリー諸島について次の趣旨の判断を下しました。
○これらの岩礁はいずれも海洋法上の「低潮高地(注 低潮時にだけ海面に姿を現す岩礁)」や「岩」である。
○これらの岩礁を基点として排他的経済水域(EEZ)や大陸棚の主張はできない。
○一部の岩礁はフィリピンのEEZの範囲内にある。
○中国による人工島の建設は、軍事活動ではないが違法である。
○中国がフィリピンの漁船などの活動を妨害したのも違法である。
○スカーボロー礁で、中国の艦船は違法な行動によりフィリピンの艦船を危険にさらした。

 中国はこの判決に対し12日、あらためて「仲裁裁判の結果は無効で拘束力はなく、受け入れず認めない」との声明を出しました。これは従来からの姿勢を繰り返したものですが、実際には強い衝撃を受けたと思われます。
 南シナ海、東シナ海さらには台湾に対して最も強い態度を取っているのは中国の軍でしょう。習近平政権としては、中国を世界の大国にまで押し上げ、米国との関係強化も必要なので軍の積極すぎる行動は抑えたいはずですが、軍は中国国内の安定を維持するためのかなめであり、抑制するのは極めて困難です。
裁判結果は、この困難な状況にさらに強烈な楔を撃ち込んだと思います。もちろん中国として、今般の裁判結果を、中国が国際化し、合理的な対応をできるように変化する契機にするならば、この楔は建設的な刺激となるでしょうが、早速19日から南シナ海で軍事演習を行うことを発表するなど、果たしてそうなれるか、疑問をぬぐえません。
今回の判決は南シナ海に関するものですが、中国は東シナ海、さらに台湾に対しても大した根拠を示さないまま歴史的権利を主張しています。かりにこれらについても裁判が行われれば、今次裁判結果に見習って、中国の主張はやはり根拠がないと判断される可能性が出てきたと思います。実際にそうなると中国の行動は制約され、従来のようにふるまうことは困難になるでしょう。

一方、今回の判決はフィリピンのこれらの岩礁に対する領有権を認めたのではありませんが、フィリピンの排他的経済水域を認めつつ、中国の主張と行動が海洋法条約など国際法に違反していると判断したのです。
これらの岩礁の法的地位は複雑です。日本が先の大戦で敗れた結果、スプラトリー諸島に対する権利を放棄したことも絡んでおり、南シナ海のかなりの部分の法的地位は確定していません。
中国とフィリピンは判決で終わりにするのでなく、今後話し合いを続ける意向を示しています。どういう形式で、どの範囲の国を含めるかなどについては問題が残っていますが、基本的に話し合いは歓迎すべきでしょう。
今次判決は、南シナ海の現状を一方的に変えるべきでない、国際法に従って行動すべきだという米国や日本の主張が正当であったことを確認し、さらにその理由を具体的に示すもので、我々の立場が一段と強化されたのは間違いありません。中国は裁判結果を認めないの一点張りですが、今般の裁判結果を建設的に受け止め、話し合いによる解決の糸口にする余地が残されています。中国政府の賢明な対応を期待したいと思います。」

2016.07.18

憲法改正の論点②

自民党改正案第3条(新設)
1 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

疑問と問題点
 国旗と国歌を憲法で規定することに反対の意見もあるが、規定してもよいと考える。国民に広く受け入れられているからだ。
 しかし、第2項を設けるのは反対だ。尊重しない日本国民がいるかもしれないが、そのような人がいることを憲法が想定するのは憲法の格調を落とすことになるからだ。これはこの条文だけの問題でなく、他のことでも同じことが言える。憲法はいちいち「尊重しなければならない」とは言っていない。
 また、「尊重」とは何かも問題で、恣意的な判断が押し付けられる恐れがある。たとえば、公の場で国歌を歌うことを義務的にすべきでない。それは個人の自由にゆだねるべきだ。
2016.07.15

(短文)インドと中国のライバル関係―ミサイル取引コントロールシステム

 インドは中国が反対したために原子力供給国グループ(NSG)に参加できなかったが(当研究所HP7月12日「核不拡散をめぐるインド、中国および米国の関係」)、NSGの総会が終わってから1週間もたたない6月27日、インドはミサイル技術管理グループ(MTCR)への参加を認められた。
このグループの名称は技術的だが、実質的には射程300キロ以上、搭載弾頭500キロ以上の弾道・巡航ミサイル技術の輸出を規制することが目的であり、政治・安全保障的に重要だ。また、このメンバーであると高性能ミサイルに関する情報にアクセスできるというメリットもある。
 中国は2004年にMTCRへの参加申請を始めたが、メンバー国になかには中国の輸出管理体制が十分でないことを理由とする反対があり、まだ実現していない。つまり、原子力供給国グループ(NSG)では、中国がメンバーでインドはメンバーでなく、ミサイル技術管理グループ(MTCR)ではちょうどその逆の状態になっているのだ。
 この2つのグループをめぐって中印両国が対立する形になっていることは両国関係が進展する一方で見逃せないものだが、インドと中国の2カ国だけの観点で見ると全体像が分からなくなる。どちらにも米国が関係しており、インドのNSGとMTCRへの参加を推し進めたのは米国であり、中国がインドのNSG参加に反対したのは米国をけん制するためであった。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.