平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 33

2015.06.26

(短文)「孔子学院」の閉鎖

 中国が2004年以来設立してきた「孔子学院」は126ヵ国、475に上っている。
 日本には、立命館、桜美林、北陸、愛知、札幌、早稲田など13の大学内に設置されている。米国には108ある。
 「孔子学院」は、中国語の普及、中国文化に対する理解増進および文化交流の促進などを目的としており、中国教育部の傘下にある「国家漢辦」が実施している。
 日本も日本語と日本文化の普及のため努めてきたが、これまでに実現したことで満足できる人は少ないだろう。多数の「孔子学院」を短期間の間に作った中国と比べると、日本は数十年前から走り始めていたが十年前から走りだした中国にあっという間に追い抜かれ、しかも、すでに1周遅れになってしまったと言って過言でない。
 しかし最近、閉鎖される「孔子学院」が出てきた。ストックホルム大学、マックマスター大学(カナダ)、シカゴ大学、ペンシルバニア大学およびリヨン大学などである。設立が中止されたところと授業が停止されたところを含む。閉鎖ないし停止された数はまだ5か所とわずかであるが、その理由は学問の自由が担保されないということである。
 このような閉鎖傾向が今後続くか、単純に占うことはできないが、共産党の独裁下にある中国が開設・運用する学校で学問の自由が守られるか、もともと疑問視する人も居た。まだ数は少ないとしても、どうなるか注目される。
(以上は台湾の中国時報6月24日付の記事によった。「孔子学院」の数などはそのHPに記載されているものと同じである。)
2015.06.25

(短文)米中戦略経済対話での汪洋副首相の発言

 米中戦略経済対話は6月23日から2日間ワシントンで開催された。米側のバイデン副大統領が南シナ海の問題について強い言葉で米国の立場を述べ、中国側の劉延東副首相が米国と新しい大国間関係を構築したいと述べたことなどは予想された通りの発言であった。
 中国側のもう一人の代表である汪洋副首相は、「中米両国は対抗するより対話がよい。対話してもすべてのことについて双方とも勝つというわけにはいかないが、対抗すれば双方とも負けることがありうる。中米両国は以前のように大国同士が対抗する道を歩むことはできない。協力の道路は平たんでないこともある。世の中は元来道などない。多くの人が歩けば道になる」などと発言した(香港の大公報や明報などの24日報道)。
 汪洋副首相としては工夫した表現だったのであろう。一面の道理をついているが、この言葉は、なんでも既成事実化できるという意味にもとれるし、さらに数の論理を是認していると言えるかもしれない。踏み固めて道を作るのに人が多いほうが都合がよいからである。
 中国の表現が素晴らしいことは、日本人はよく知っており、日本語に多数取り入れている。しかし、発言の時には注意が必要である。同じ漢字だから同じ意味であるはずだというのはあまりにもナイーブである。「湯」は、日本では銭湯を指すことが珍しくないが、中国では普通「スープ」のことであり、「タンメン(湯麺)」の「タン」である。そのようなことを知っている中国人は賢明である。一方、「湯」は「スープ」の意味であり、日本人もそのように使うべきだというのは大国ショービニズムであろう。なお、「熱いお湯」は現代中国語では「湯」と言わず、「開水」が普通である。
 汪洋副首相の発言の意図は那辺にあったのか。南シナ海で中国の行動が問題になった直後であるだけに気になるが、数の論理を是認していたのではないと思いたい。中米戦略経済対話では、中国が「大国」であることを米国に認めてもらいたいと望んでおり、そのような場合に米国を刺激する、数の論理を肯定することは常識的にはないだろうからである。
2015.06.24

反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判

 反腐敗運動は習近平が就任以来最も力を入れてきたことであり、いわゆる「虎たたき」も辞さない、すなわち大物であっても容赦はしないとして徹底的な取り締まりを進めてきたところ、周永康前政治局常務委員に対する無期懲役の判決が6月11日に発表された。
 かつては、政治局常務委員(当時は中国のトップナイン)まで追及の手は及ばないと、根拠はないが噂されており、周永康の裁判は習近平の反腐敗運動の本気度を示していた。

 これに関し、何清漣は「周永康の案件は無期懲役の判決で幕を下ろした。多くの人は「虎たたき」は竜頭蛇尾に終わったと感じており、中国に「法治」はないことがあらためて証明された」と厳しい見解を発表している。
 (同人は、大学で教えるかたわらジャーナリストとして活動していたが、2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)
 反腐敗運動に関する報道は、周永康関係は別として、今春以来全体的に減少しているが、軍、国有企業、地方などでは摘発が続いている。歯に衣着せぬ何清漣は概略次のように述べている。

 周永康の案件が終了した。習近平は反腐敗運動の方針を大調整しようとしている。
反腐敗運動を進める中央規律検査委員会のサイトに「政治を重視し、大局を見る」「突出した規律検査の特色」「監督審査方式を新たに作り出す」という3つの文章が掲載された。これらについて『人民日報』評論は表題で「反腐敗運動において今後新しい動きがある」と肯定的に言っているが、実態は逆であって「規律検査機関が独立王国となるのは絶対に許さない」という強いシグナルが込められている。
 反腐敗運動の推進に伴い規律検査委員会は巨大な権力を手中に収めた。それにともなって同委員会の内部では様々な問題が起こっており、上級報告しないまま行動したり、下克上(原文は「倒逼」この言葉は2013年の流行語になった)的に下級の者が上級の者に強制したり、管理者に反対したりする者が居る。いい加減に事を済ませることや、既に決まっていることにちょっと上塗りをするだけで済ませることもある。
 そのため人々は規律検査委員会がコントロールのきかない独立王国になっているのではないかと心配し始めている。このことを初めて指摘したのは人権擁護派の著名な弁護士であり、中国の「法治」はいっそう破壊されたと言っている。
 一方、容赦ない反腐敗運動の結果、官僚の世界では不満があふれている。習近平や規律検査委員会を動かす王歧山としても考慮せざるをえなくなり、胡錦涛時代の痛くもかゆくもない取締りに戻ろうとしている。このような方針転換で喜ぶのは官僚であり、これからは、いつ検査の対象になるかも知れないと心配する必要はなくなっている。

 反腐敗運動の旗振り役はもちろん習近平であり、王歧山だけでは周永康の訴追はできなかったが、王歧山は大きな役割を果たした。大きなことをしようとすれば、誰でもまず身の安全を確かめておいて行動するが、王岐山は危険を顧みず献身的に働いた。その結果、王歧山は有名になったが、それよりもはるかに大きな敵を作ってしまった。王岐山は早く身を引いたほうがよい。 

 周永康に対する裁判と並んで注目されたのは李小琳(李鵬元首相の娘)が「華能(中国の巨大電力企業)」から「大唐集団(やはり電力関係の国有企業)」の副総経理に異動になったことである 多くの人は、このことは反腐敗運動の矛先が李鵬元首相に向かうことを意味していると取っているが、ちょっと違うのではないか。 
 この人事とほぼ同時期に、中央規律検査委員会のサイト上で、今年の3月から国有企業に対する規律検査が始まり、中国華能集団公司をふくむ6企業についての検査結果が発表された。華能公司が李鵬一家によってコントロールされているのは誰でも知っている。
 発表された報告は厳しい内容である。すなわち、幹部の中に賄賂を受け取る者が居る。職権を乱用し、配偶者、子女、親族に便宜を図っている。入札にかけるべき案件でも入札しないですませるケースが相次いでいる。派手な宴会など浪費が絶えない。幹部に対する監督は厳格でない。
 これらの指摘は有名な汚職のケースであった三峡集团(巨大建設企業)について言われた「指導者のATMに成り下がっている」という指摘と大差ない。
 李小琳が会長を務める「中国電力国際発展有限公司(華能の傘下)」の巡視結果はまだ発表されていないが、異動させられただけで何が起こったかすでにはっきりしている。住み慣れたところから別の企業に異動させられると、形式的な待遇等級は変わっていないとしても、何事にも不便であり、影響力はそう簡単に行使できない。
 習近平は反腐敗運動の重点を調整し、中央規律検査委員会を旧式の検査体制に戻すかたわら国有企業に手を付けている。トップクラス指導者に対する取り締まりは周永康までやってきたが、道はなお遠く、これ以上は行かないだろう。
 
 中国は経済不振で、国有企業に手を付けざるを得なくなっており、政府と国有企業の間で利益を再分配しようとしている。
 政府は独占的権利を国有企業に与えてもうけさせた。しかし「共和国の長子」である国有企業は独占的権利を利用し私腹を肥やす集団になっている。納税の際には損失ばかり報告するのに経営管理層は非常な高給を取っている。
 経済不振と財政困難に直面している政府は、国有企業という貪欲な狼から肉を吐き出させようとしているのである。李小琳のケースはその第一歩にすぎない。「紅色家族(革命功労者の家族)」を攻撃するのでなく、国有企業に対する警告である。習近平にとって「紅色家族」は大した問題でない。国有企業に跋扈している「紅色二代」は退職定年に近づいている者が多く、ほっておけばそのうちに解決する。「紅色三代」で問題になる例は少ない。

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