平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 32

2015.07.02

(短文)中国の重要課題‐北戴河で指導者は何を考えるか


 北戴河は北京の東280キロにある海岸で避暑地として知られているが、ここで夏を過ごす中国の指導者は懸案について協議し、事実上の決定を下すこともある。正式でないのはもちろんであるが、非常に重要な話し合いも行われる。だから、中国に駐在の各国大使館、報道機関などは北戴河でどのような動きがあるか、懸命に情報収集を試みる。
 しかし、噂の類は別として、正確な情報を得るのは困難であり、数年たって初めて実情が分かってくることもある。たとえば、1987年早々に失脚した胡耀邦総書記の場合、突然問題が起こったのでなく、そこへ至るまでにさまざまな経緯があり、なかでも前年、北戴河で話し合われたことは大きな節目であった。しかし、当時、そのような事情はよく分からなかった。
 今年はどうなるか。中国の指導者が北戴河で何を話し合うかなど外から推測できるわけはないが、話題になりそうなテーマとしては次のようなことが考えられる。

○周永康前政治局常務委員の処分は6月に発表済みであり、今年でなく昨年、北戴河で話が出た可能性が高い。今年は、反腐敗運動は山を越したと見るか、さらに別の大物に対する追及を続けるかが問題となりうる。前者については本HP6月24日の「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」を参照願いたい。
○政治体制改革は主要な課題として位置付けられているが、進捗した形跡はなさそうだし、今後進捗するとも思えない。要するに、民主化が問題であり、習近平は強く警戒し、種々の手を打っている。報道を強い規制下に置いているのもその一環である。
○内政では、むしろ経済不振、外国からの投資減少が最大の関心事であろう。もっともこれは話題になるとしても、数名で方針が決められるような問題ではなく、北戴河で特に新しい動きが出てくるとは思えない。
○AIIB(アジア・インフラ投資銀行)については6月29日に設立協定の署名式が行なわれたばかりであり、手続き的には成功しているが、うまく機能するか、すべてこれからである。この問題については本HPの5月25日「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の正体」などを参照願いたい。
○「一帯一路」については、陸上のシルクロード周辺の開発(一帯)はおおむね順調とみられている。一方、海上のシルクロード(一路)については、スリランカやギリシャの政治状況の変化などのため障害が生じているという認識である。本HP5月13日の「中国の「一帯一路」構想、狙いや背景」を参照願いたい。
○習近平主席は今年の9月、おそらく国連総会への出席の前後に米国を訪問する。南シナ海での埋め立て問題が影響を与えないよう中国は注意しており、6月の23~24日の米中戦略経済対話を成功裏に終えたので一安心しているであろう。
○日本との関係では、経済面での協力を増進させたい考えである一方、日本の安全保障関連法案の審議と南シナ海での日比軍事協力を警戒している。歴史問題については、とくに安倍首相の70周年談話を注目している。
○9月3日の対日戦争勝利記念行事は今年から大々的に行なう予定であり、目下内外で準備を進めている。
2015.06.30

(短文)台湾企業は大陸から撤退傾向にある

 台湾から中国大陸への投資は両者の経済関係が急速に緊密化する象徴であり、その急増により台湾の中国への依存度が高まった。そのことが2008年の総統選挙に強い影響を与えたことは周知である。
 しかし、2011年にピークに達した投資は、それ以降減少傾向となり、最近は投資を引き上げる傾向が目立っている。
 台湾では2016年に総統選挙が行われ、民進党の蔡英文が当然する可能性が非常に高くなっているところ、このような中国への投資急減は台湾の政治状況に再び影響し、国民党の立場はますます苦しくなるであろう。
 
 台湾の『経済日報』6月24日付は要旨次のように報道している。
○広東省東莞市(注 台湾から進出している企業が多いことで有名)の台湾企業会の張漢文会長によると、「以前工場が東莞にあると言うと、だれもが親指を立てて誉めてくれた。しかし、今や、まったく違っており、まだやってるの(原文は「你還沒有死啊」)と言われる」そうだ。
○台湾経済省の統計では、台湾から大陸への投資がピークであった2011年と2014年を比較すると、投資件数では575件から388件に、金額ベースでは131億ドルから98億ドルに減少した。
○2013,14の両年、大中の台湾企業で利益がゼロ以下に落ちているところは60%以上に達しており、小企業をくわえると8割近い台湾企業が赤字経営になっている。
○中国の輸出が減少しているからである最近5カ月の中国の輸出のうち4カ月はマイナス成長であった。
○以前、東莞で1千人を雇用している企業は小企業とみなされていたが、今や1千人以上は大企業である。どの企業も社会保障の負担金にあえいでいる。ストライキも多い。
○環境対策、安全対策にかかる費用が急増している。とくに新しく制定された環境保護法は台湾企業を撤退に追い込む主要な原因となっており、同法により処罰される工場が急増している。
2015.06.29

(短文)米中戦略経済対話

 6月23~24日、ワシントンで開かれた米中戦略経済対話で、南シナ海での中国の行動やサイバー攻撃問題については意見が対立したが、それは今回の対話以前から分かっていたことであり、両国の溝が埋まらなかったと言っても深刻な問題ではなかった。
 対話は全体を見ていく必要がある。両国が協力することに合意した分野は9つの領域で100以上の案件に上ると中国側は説明している。具体的には金融、投資、地球温暖化対策、オイルシェール、クリーンエネルギー、航空、鉄鋼、ハイテク、海洋生物保護など多岐にわたる。
 出席者の数は中国側だけで約400人、関与した両政府の機関は数十に上るというジャンボ対話であった。
 これを通じて、中国は、両国が協力していくことの重要性、したがってまた中国の重要性をあらためて米国にアピールした。
 一方、南シナ海やサイバー攻撃の問題が解決したのでないことはもちろんである。中国はこれらの問題を現状以上に悪化させなければ満足であったはずであり、その目的は対話全体が醸し出す強い協力志向の雰囲気の中で容易に達成できたのであろう。
 范長龍中央軍事委員会副主席が今次対話の2週間前に訪米した際には、南シナ海での中国の行動を問題視していた米国は、中国軍のトップクラスであっても以前のような熱烈歓迎はしないという姿勢をはっきりと見せていたので、9月に予定されている習近平主席の訪米に悪影響が及ぶことが懸念されていた。中国は、今次対話において習近平主席訪米の地ならしにも成功したと思われる。

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