2015 - 平和外交研究所 - Page 35
2015.06.17
中国側は事前にそのような扱いについて米側から通報を受け、不承不承であろうが、了承していたはずである。中国側は米側に、今回の范長龍副主席の訪米について最低限必要なこと以外はプレス発表しないでほしいと要請する一方、中国系のメディアには范長龍副主席訪米の事務的な側面を強調して、米側が冷たく扱ったという印象が目立たないよう努めていた。しかし、それはしょせん弥縫策であり、米側が范長龍副主席に対して示した強い姿勢を覆い隠すことはできなかった。
米中間には協力が必要な事柄も少なくない。今年の9月には習近平主席の訪米が控えており、米国政府はこれを重要な行事として扱うであろうし、米中両国はお互いに重視し合っている。
しかし、中国が南シナ海でしたい放題の行動を行なったことは米国政府や議会の中で蓄積されていくだろう。それがどのような結果をもたらすか、まだ見えてこないが、米国だけの問題にとどまらない。中国軍の問題行動は国際社会における中国の声望を改善しないのではないか。
(短文)范長龍中国中央軍事員会副主席を米国はどう扱ったか
范長龍中央軍事員会副主席が訪米し、6月11日、カーター国防長官と会談した。米側の対応は決して熱烈歓迎でなく、むしろ「冷淡」に近かったようだ。過去、中国の軍事委員会副主席が訪中した際は大統領も会っていたが、今回これはなく、国防総省での歓迎行事では儀仗(儀仗隊が整列する前を通って栄誉を受けること)は行なわれず、19発の礼砲もなかった。米国は南シナ海での中国の行動を強く問題視しているからである。中国側は事前にそのような扱いについて米側から通報を受け、不承不承であろうが、了承していたはずである。中国側は米側に、今回の范長龍副主席の訪米について最低限必要なこと以外はプレス発表しないでほしいと要請する一方、中国系のメディアには范長龍副主席訪米の事務的な側面を強調して、米側が冷たく扱ったという印象が目立たないよう努めていた。しかし、それはしょせん弥縫策であり、米側が范長龍副主席に対して示した強い姿勢を覆い隠すことはできなかった。
米中間には協力が必要な事柄も少なくない。今年の9月には習近平主席の訪米が控えており、米国政府はこれを重要な行事として扱うであろうし、米中両国はお互いに重視し合っている。
しかし、中国が南シナ海でしたい放題の行動を行なったことは米国政府や議会の中で蓄積されていくだろう。それがどのような結果をもたらすか、まだ見えてこないが、米国だけの問題にとどまらない。中国軍の問題行動は国際社会における中国の声望を改善しないのではないか。
2015.06.16
しかし、この議論はアカデミックな面が強く、また、複雑な経緯が前提になっているので一般には必ずしも分かりやすいことでない。さまざまな意見をフォローするだけでも困難であろう。
しかるに、国会に提出されている法案のどの部分に問題があるのか。これが憲法違反か否かを判断する場合に出発点となるのは法案に何と記載されているかであるが、実は、この改正案自体がきわめて複雑なため、一般には、どのような文言になっているのかさえ分かりにくいのが現状である。
さらに、国会では多くの質問が、すべてというわけではないが、改正案の文言に即しては行なわれず、具体的な問題、たとえば、機雷の除去をできるかとか、他国の領土にまで自衛隊は派遣されるかというような問題に対する政府の考えを質すという形で行なわれている。つまり、質疑は法案の記載に即して行われないことが多いのである。このような質疑からは政府の考えや方針が適切か否かは明確になっても、法案の内容が適切か否かは明確にならないのではないか。
このような考えから、当HPでは過去2回にわたって、「問」と「答」という形で、法案の内容を見、その上でどの点が憲法に違反しているかを検討した。便宜のために以下に再掲しておく。
(問)安保法制改正案は憲法違反でないか。
(答)憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力を行使することを禁止している。この規定によって、日本が国際紛争に巻き込まれること、他国と武力紛争に陥ることはかたく禁止されている。この禁止は日本国憲法の基本精神である。
憲法制定の数年後、「自衛」の場合には例外的に武力行使が認められると解釈されるようになった。これは国民的に受け入れられている。
今回の安保法制改正案が憲法に違反しているか否かを見るには、改正案を提出した政府の方針や考えを質すこともさることながら、改正案の規定が適切か否かを吟味する必要がある。具体的には、「重要影響事態法」、「国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)」および「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」の規定が問題となる。
「重要影響事態法」においては、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件が満たされていると政府が判断すれば、後方支援などのため自衛隊を派遣できることになっている。この要件は改正前の周辺事態法で認められていたことであり、自衛隊の行動範囲は必ずしも我が国の領域に限られず、その外であるが朝鮮半島や我が国周辺の公海なども「自衛」のために必要であれば含まれた。しかし、そのような範囲を超える地域においては「自衛」でなくなり、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を満たすとしても国際紛争に巻き込まれてはならないという憲法の禁止に触れる恐れがある。
「国際平和支援法」は、国連決議にしたがって各国が軍事行動を行なう場合、日本としては後方支援(国際平和支援法の用語では「協力支援活動」)などを行なうことができることとした。同法の定める国連決議要件が満たされれば、自衛隊が参加しても国際紛争に巻き込まれる恐れはないように見えるかもしれないが、国連決議は平和維持活動のように紛争が終わったことを確認して採択される場合と、紛争が残存あるいは継続しているが採択される場合がある。イラクやアフガニスタンでの紛争や、いわゆる多国籍軍が派遣されるのは後者の例であり、しかも厄介なことに、イラクの場合は国連決議があるか否か不明確であり、そのこと自体が紛争の原因になった。
今次改正法案では、紛争が終了した後の問題は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(つまりPKO法)」で扱われる。一方、「国際平和支援法」が定める国連決議の場合はそのような限定はなく、紛争が継続していることがありうる。したがって、同法によって自衛隊を派遣すると国際紛争に巻き込まれる恐れがあり、この新法は憲法違反になる危険がある行為を認めているので問題である。
同法は、自衛隊は後方支援などはできるが、武力の行使はできないとし(2条2)、自衛隊が活動できる場所は、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としている(同条3)が、それは日本国が自衛隊に課している規範であっても、国際的に承認される保証はない。
また、「武力の行使」でなければよいということではない。紛争の中で一方に加担することは、その時点では必ずしも武力の行使でなくても、紛争がある限り武力の行使は不可避となるのでやはり禁止していると見るべきである。紛争の一方に加担しておいて自衛隊に武器を行使させないということは日本の法律で担保できることでなく、国際社会の現実に即して見れば、それは困難である。
自衛隊の行動する場所についても、紛争の一方に加担しておきながら、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としてもそれは日本の法律の規定に過ぎず、戦闘で必要な物資などを供給することは、加担した一方の敵方から見れば、敵対行為の一環として見られることは不可避である。つまり、このような場所による限定は国内法として憲法に違反していないことを示す論理に過ぎず、各国が認めることにはならない。日本国憲法は国際社会での日本の在り方を論じて紛争の一方に加担することを禁止しているのであり、憲法違反となるか否かは国内法の憲法との論理的整合性のみならず、国際社会によりそのように受け入れられるかも問題となる。
「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」においては、「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない(同法3条4)」とされた。つまり、必要と判断すれば、自衛隊は「武力行使」でき、米軍のみならず「外国軍隊」とも協力でき(同法2条7など)、また、自衛隊が行動できる場所の限定はなくなり、どこでも可能となった。
この法律の運用方針について政府がどのような説明しようと、それは政府の方針説明に過ぎず、法律の定めを超えるものではない。
このように見ていくと、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は、「自衛」のためであり、日米安保条約の下での「米軍」との協力、日本と周辺が活動場所であるという、憲法の許容範囲すれすれの現「武力攻撃事態」の枠組みを明らかに越えており、憲法違反の疑いが濃厚である。
(問)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が「存立危機事態」として認定するのは、危険の発生源はともかく、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」であるのでつまるところ「自衛」の場合である。だから新法は問題ないのではないか。
(答)1954年以来、日本が認めてきた「自衛」の事態と「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」とは明らかに異なっている。もし、まったく同じならば、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は必要でない。「自衛」の場合には武力行使もやむをえないと国家的に、つまり、政府も司法も、また国民も受け入れてきたのであるが、禁止の例外を拡大するのは憲法違反となるおそれが濃厚である。
(注)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」は、他国が攻撃された場合といういわゆる集団的自衛権の行使が問題となる事態と日本の「自衛」が必要となる事態のハイブリットである。政府はこのような性格の要件を3要件(の一部)として盛り込んだのであるが、それは従来の憲法解釈との一貫性を損なわない形で集団的自衛権の行使を認めるための文言にはなりえても、自衛隊が行動できる事態を拡張していることは否めない。もし、まったく拡張していないならば、従来から認めてきた「自衛」だけで十分である。
(問)重要影響事態法があれば平和協力支援法は要らないのではないか。
(答)両方の法律に共通の面があるのは確かである。
しかし、重要影響事態法では「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件の有無が問題となり、国連決議の有無は問われない。他方、平和協力支援法では国連決議の有無が問われ、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は問われない。つまり、一方の要件だけを満たす事態はありうるので、そのような現実に応じて法律を整備しておく必要がある。
ただし、改正案のように2本の法律にするか1本にまとめるかは立法技術に属することである。
(注)平和協力支援法がいらないということを主張するには、国連決議の在り方自体を問題にする必要があるのは(問)「安保法制改正案は憲法違反でないか」に対する答えで述べたとおりである。
(問)機雷除去はどの法律により対処するか。
(答)改正法案に即して言えば、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」と認定されれば「重要影響事態法」によることとなる。国連決議があり、その下で各国が軍事行動を行なう場合は「国際平和支援法」による。政府が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と認定すれば「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」によることとなる。国連決議があり、しかも政府が「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」として認定する結果、複数の法律が適用されることもありうる。そのような場合、矛盾が生じないかも問題となる。
(問)政府は、自衛隊は「他国の領土、領海、領空」「ISIL(イスラム国)」「イラク戦争のような場合」などへ派遣しないと、全面否定、あるいは原則的否定、あるいは一般的否定として答弁しているが、法律の根拠はあるか。
(答)ない。改正法案からそのような結論を導き出せるか疑問である。政府がそのように答弁していることは、自制を示す意味では評価できるが、安倍内閣としての方針以上の意味は、当然のことながらもちえない。
(問)「存立危機事態」の認定は非常に厳格な要件を満たさなければ行なわれない。したがって、自衛隊が派遣される場合の歯止めはしっかりと作られており、一内閣の恣意で左右されないのではないか。
(答)3要件が熟慮の末決められたことは承知している。しかし、いったん政府が認定した後、自衛隊がどこで、どの国の軍隊と協力し、どのような業務を行なうかは、3要件では判断できず、改正法案の「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」という同法3条4の解釈に委ねられている。
つまり、3要件自体は厳格であっても、法律の内容はしり抜けになっているので改正法は憲法違反である疑いが濃厚である。
政府が、厳格に運用すると言っても法律以上の効力は持ちえない。
(問)国連憲章でも認められている集団的自衛権について、日本はこれを保有しているが行使できないと解するのは不当でないか。
(答)今回の改正案は集団的自衛権の行使を認めるものであると認識されていることは承知している。集団的自衛権については国連憲章制定の経緯、相互防衛同盟条約の有無などを含め学問的に議論されていることなども承知しているが、本国会で審議されているのは提出されている法案であり、法案の内容に即して審議すべきである。
(再掲)安保法制改正案が憲法違反の理由
安保法制改正案が憲法違反か否かについては、日本国憲法の法理、過去の憲法解釈との整合性、最高裁の砂川判決が集団的自衛権を認めたか否か、などの重要論点が議論されている。しかし、この議論はアカデミックな面が強く、また、複雑な経緯が前提になっているので一般には必ずしも分かりやすいことでない。さまざまな意見をフォローするだけでも困難であろう。
しかるに、国会に提出されている法案のどの部分に問題があるのか。これが憲法違反か否かを判断する場合に出発点となるのは法案に何と記載されているかであるが、実は、この改正案自体がきわめて複雑なため、一般には、どのような文言になっているのかさえ分かりにくいのが現状である。
さらに、国会では多くの質問が、すべてというわけではないが、改正案の文言に即しては行なわれず、具体的な問題、たとえば、機雷の除去をできるかとか、他国の領土にまで自衛隊は派遣されるかというような問題に対する政府の考えを質すという形で行なわれている。つまり、質疑は法案の記載に即して行われないことが多いのである。このような質疑からは政府の考えや方針が適切か否かは明確になっても、法案の内容が適切か否かは明確にならないのではないか。
このような考えから、当HPでは過去2回にわたって、「問」と「答」という形で、法案の内容を見、その上でどの点が憲法に違反しているかを検討した。便宜のために以下に再掲しておく。
(問)安保法制改正案は憲法違反でないか。
(答)憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力を行使することを禁止している。この規定によって、日本が国際紛争に巻き込まれること、他国と武力紛争に陥ることはかたく禁止されている。この禁止は日本国憲法の基本精神である。
憲法制定の数年後、「自衛」の場合には例外的に武力行使が認められると解釈されるようになった。これは国民的に受け入れられている。
今回の安保法制改正案が憲法に違反しているか否かを見るには、改正案を提出した政府の方針や考えを質すこともさることながら、改正案の規定が適切か否かを吟味する必要がある。具体的には、「重要影響事態法」、「国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)」および「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」の規定が問題となる。
「重要影響事態法」においては、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件が満たされていると政府が判断すれば、後方支援などのため自衛隊を派遣できることになっている。この要件は改正前の周辺事態法で認められていたことであり、自衛隊の行動範囲は必ずしも我が国の領域に限られず、その外であるが朝鮮半島や我が国周辺の公海なども「自衛」のために必要であれば含まれた。しかし、そのような範囲を超える地域においては「自衛」でなくなり、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件を満たすとしても国際紛争に巻き込まれてはならないという憲法の禁止に触れる恐れがある。
「国際平和支援法」は、国連決議にしたがって各国が軍事行動を行なう場合、日本としては後方支援(国際平和支援法の用語では「協力支援活動」)などを行なうことができることとした。同法の定める国連決議要件が満たされれば、自衛隊が参加しても国際紛争に巻き込まれる恐れはないように見えるかもしれないが、国連決議は平和維持活動のように紛争が終わったことを確認して採択される場合と、紛争が残存あるいは継続しているが採択される場合がある。イラクやアフガニスタンでの紛争や、いわゆる多国籍軍が派遣されるのは後者の例であり、しかも厄介なことに、イラクの場合は国連決議があるか否か不明確であり、そのこと自体が紛争の原因になった。
今次改正法案では、紛争が終了した後の問題は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(つまりPKO法)」で扱われる。一方、「国際平和支援法」が定める国連決議の場合はそのような限定はなく、紛争が継続していることがありうる。したがって、同法によって自衛隊を派遣すると国際紛争に巻き込まれる恐れがあり、この新法は憲法違反になる危険がある行為を認めているので問題である。
同法は、自衛隊は後方支援などはできるが、武力の行使はできないとし(2条2)、自衛隊が活動できる場所は、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としている(同条3)が、それは日本国が自衛隊に課している規範であっても、国際的に承認される保証はない。
また、「武力の行使」でなければよいということではない。紛争の中で一方に加担することは、その時点では必ずしも武力の行使でなくても、紛争がある限り武力の行使は不可避となるのでやはり禁止していると見るべきである。紛争の一方に加担しておいて自衛隊に武器を行使させないということは日本の法律で担保できることでなく、国際社会の現実に即して見れば、それは困難である。
自衛隊の行動する場所についても、紛争の一方に加担しておきながら、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」としてもそれは日本の法律の規定に過ぎず、戦闘で必要な物資などを供給することは、加担した一方の敵方から見れば、敵対行為の一環として見られることは不可避である。つまり、このような場所による限定は国内法として憲法に違反していないことを示す論理に過ぎず、各国が認めることにはならない。日本国憲法は国際社会での日本の在り方を論じて紛争の一方に加担することを禁止しているのであり、憲法違反となるか否かは国内法の憲法との論理的整合性のみならず、国際社会によりそのように受け入れられるかも問題となる。
「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」においては、「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない(同法3条4)」とされた。つまり、必要と判断すれば、自衛隊は「武力行使」でき、米軍のみならず「外国軍隊」とも協力でき(同法2条7など)、また、自衛隊が行動できる場所の限定はなくなり、どこでも可能となった。
この法律の運用方針について政府がどのような説明しようと、それは政府の方針説明に過ぎず、法律の定めを超えるものではない。
このように見ていくと、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は、「自衛」のためであり、日米安保条約の下での「米軍」との協力、日本と周辺が活動場所であるという、憲法の許容範囲すれすれの現「武力攻撃事態」の枠組みを明らかに越えており、憲法違反の疑いが濃厚である。
(問)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が「存立危機事態」として認定するのは、危険の発生源はともかく、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」であるのでつまるところ「自衛」の場合である。だから新法は問題ないのではないか。
(答)1954年以来、日本が認めてきた「自衛」の事態と「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」とは明らかに異なっている。もし、まったく同じならば、「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」は必要でない。「自衛」の場合には武力行使もやむをえないと国家的に、つまり、政府も司法も、また国民も受け入れてきたのであるが、禁止の例外を拡大するのは憲法違反となるおそれが濃厚である。
(注)「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」が認定する「存立危機事態」は、他国が攻撃された場合といういわゆる集団的自衛権の行使が問題となる事態と日本の「自衛」が必要となる事態のハイブリットである。政府はこのような性格の要件を3要件(の一部)として盛り込んだのであるが、それは従来の憲法解釈との一貫性を損なわない形で集団的自衛権の行使を認めるための文言にはなりえても、自衛隊が行動できる事態を拡張していることは否めない。もし、まったく拡張していないならば、従来から認めてきた「自衛」だけで十分である。
(問)重要影響事態法があれば平和協力支援法は要らないのではないか。
(答)両方の法律に共通の面があるのは確かである。
しかし、重要影響事態法では「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件の有無が問題となり、国連決議の有無は問われない。他方、平和協力支援法では国連決議の有無が問われ、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」という要件は問われない。つまり、一方の要件だけを満たす事態はありうるので、そのような現実に応じて法律を整備しておく必要がある。
ただし、改正案のように2本の法律にするか1本にまとめるかは立法技術に属することである。
(注)平和協力支援法がいらないということを主張するには、国連決議の在り方自体を問題にする必要があるのは(問)「安保法制改正案は憲法違反でないか」に対する答えで述べたとおりである。
(問)機雷除去はどの法律により対処するか。
(答)改正法案に即して言えば、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある」と認定されれば「重要影響事態法」によることとなる。国連決議があり、その下で各国が軍事行動を行なう場合は「国際平和支援法」による。政府が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と認定すれば「武力攻撃事態・存立危機事態対処法」によることとなる。国連決議があり、しかも政府が「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」として認定する結果、複数の法律が適用されることもありうる。そのような場合、矛盾が生じないかも問題となる。
(問)政府は、自衛隊は「他国の領土、領海、領空」「ISIL(イスラム国)」「イラク戦争のような場合」などへ派遣しないと、全面否定、あるいは原則的否定、あるいは一般的否定として答弁しているが、法律の根拠はあるか。
(答)ない。改正法案からそのような結論を導き出せるか疑問である。政府がそのように答弁していることは、自制を示す意味では評価できるが、安倍内閣としての方針以上の意味は、当然のことながらもちえない。
(問)「存立危機事態」の認定は非常に厳格な要件を満たさなければ行なわれない。したがって、自衛隊が派遣される場合の歯止めはしっかりと作られており、一内閣の恣意で左右されないのではないか。
(答)3要件が熟慮の末決められたことは承知している。しかし、いったん政府が認定した後、自衛隊がどこで、どの国の軍隊と協力し、どのような業務を行なうかは、3要件では判断できず、改正法案の「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」という同法3条4の解釈に委ねられている。
つまり、3要件自体は厳格であっても、法律の内容はしり抜けになっているので改正法は憲法違反である疑いが濃厚である。
政府が、厳格に運用すると言っても法律以上の効力は持ちえない。
(問)国連憲章でも認められている集団的自衛権について、日本はこれを保有しているが行使できないと解するのは不当でないか。
(答)今回の改正案は集団的自衛権の行使を認めるものであると認識されていることは承知している。集団的自衛権については国連憲章制定の経緯、相互防衛同盟条約の有無などを含め学問的に議論されていることなども承知しているが、本国会で審議されているのは提出されている法案であり、法案の内容に即して審議すべきである。
2015.06.15
蔡英文が2011年9月訪米した時は国務省内に入れてもらえず、門の外で会談相手の国務次官補が出てくるのを待たされるなど冷たい仕打ちを受けた。訪米の失敗は翌年の総統選で敗れた原因の一つとなった。
捲土重来した蔡英文は、今回はホワイトハウス、国務院、ペンタゴンにも入った。米台断交後、初めてのことであり、蔡英文に特別の栄誉が与えられた。
蔡英文が今回の訪米に際して考えを明確に示したのはCSIS(戦略国際問題研究所)での演説であった。彼女は「中華民国」の現体制下で、民意にしたがい、中国と台湾が過去20年来協商と交流を積み重ねてきたことを大切にし、さらなる平和的発展を引き続き推進していくという方針を語った。
米国はこの演説を評価し、翌日から歓待が始まった。蔡英文の前回の訪米と比べると天地の違いであった。米国は公式の表明は避けているが、蔡英文の演説に満足したことは明らかである。蔡英文は後に興奮を抑えながら、「端的に言うと、私は入っていったのだ」と言っていた。
蔡英文はホワイトハウスの一票を確保した。これは重要な一票であり、彼女はこれをもって党内の急進派に対抗できる。蔡英文の相手は米国、中国および民進党内の急進派であるが、今次訪米で、「親米、避中、遏独(独立を抑えること)」の三つを獲得した。
蔡英文は前回の訪米に失敗し、総統選で敗れた後、米国人の意見に耳を傾けず、かたくなに接触を拒否していた。2014年5月、統一地方選の前、『天下』誌とのインタビューの時も米国をあからさまに無視する態度をとっていた。しかし、統一地方選で大勝を収めた蔡英文は変わった。それからは、むしろ米国の考えを前面に掲げつつ発言するようになった。
米国はなぜ国民党の総統候補が6月中に決定する前に蔡英文を持ち上げることにしたのか。蔡英文が総統選で勝利する可能性は非常に高いが、今後中間派を取り込んでいく必要があり、両岸関係に関する蔡英文の言動と北京の反応は重要な問題点である。
米中間では、6月中に各種の協議があり、8月は米のシンクタンクが夏季休暇となり、9月には習近平が訪米する。台湾の総統選はその後から本格的に始まる。米国としてはこのような状況下で蔡英文に対する態度表明を遅くしないほうがよいと判断したのであろう。
一方、中国も今回の訪米成功を評価したと思われる。習近平にとって台湾問題は冷静に処理できる「小事」であり、今回の蔡英文の訪米に対しても細かいことにいちいちこだわらず大きな態度で、冷静に、抑制して対応している。蔡英文を受け入れるわけではないが、何を言い、何を行なうかを見てみようとしている。中国からは、表面的には蔡英文の訪米に対して批判的な表明が相次いでおり、とくに蔡英文が「現状維持」についてはっきりしたことを言わないのは不満なようだが、蔡英文は前回の訪米時のように、民主化や人権など中国の弱みを突こうとしないことは注目しており、全体的には一定の抑制を利かせた批判になっている。
蔡英文は「両国論(注 台湾は事実上独立しており、中国と台湾の関係は国家と国家の関係である)」の主張者であり、「台独」と完全に決別したわけではない。中国が「台独」を看過しないのはもちろんであるが、彼女の思想は成長しており、人民の意見にしたがうという姿勢が明確になっている。「台独」という極端な思想を掲げることはありえない。
中国は、蔡英文が総統になるという現実を受け入れ、両岸関係のため一定のゆとりを認め、民進党が両岸関係に参加する機会を提供すべきである。「退くことにより前進を図る」ことが重要である。
蔡英文主席の訪米‐民進党の成熟か
蔡英文民進党主席の5月29日から6月8日までの訪米は大成功であった。米国に本拠がある『多維新聞』6月11日付の論評は参考になる。蔡英文が2011年9月訪米した時は国務省内に入れてもらえず、門の外で会談相手の国務次官補が出てくるのを待たされるなど冷たい仕打ちを受けた。訪米の失敗は翌年の総統選で敗れた原因の一つとなった。
捲土重来した蔡英文は、今回はホワイトハウス、国務院、ペンタゴンにも入った。米台断交後、初めてのことであり、蔡英文に特別の栄誉が与えられた。
蔡英文が今回の訪米に際して考えを明確に示したのはCSIS(戦略国際問題研究所)での演説であった。彼女は「中華民国」の現体制下で、民意にしたがい、中国と台湾が過去20年来協商と交流を積み重ねてきたことを大切にし、さらなる平和的発展を引き続き推進していくという方針を語った。
米国はこの演説を評価し、翌日から歓待が始まった。蔡英文の前回の訪米と比べると天地の違いであった。米国は公式の表明は避けているが、蔡英文の演説に満足したことは明らかである。蔡英文は後に興奮を抑えながら、「端的に言うと、私は入っていったのだ」と言っていた。
蔡英文はホワイトハウスの一票を確保した。これは重要な一票であり、彼女はこれをもって党内の急進派に対抗できる。蔡英文の相手は米国、中国および民進党内の急進派であるが、今次訪米で、「親米、避中、遏独(独立を抑えること)」の三つを獲得した。
蔡英文は前回の訪米に失敗し、総統選で敗れた後、米国人の意見に耳を傾けず、かたくなに接触を拒否していた。2014年5月、統一地方選の前、『天下』誌とのインタビューの時も米国をあからさまに無視する態度をとっていた。しかし、統一地方選で大勝を収めた蔡英文は変わった。それからは、むしろ米国の考えを前面に掲げつつ発言するようになった。
米国はなぜ国民党の総統候補が6月中に決定する前に蔡英文を持ち上げることにしたのか。蔡英文が総統選で勝利する可能性は非常に高いが、今後中間派を取り込んでいく必要があり、両岸関係に関する蔡英文の言動と北京の反応は重要な問題点である。
米中間では、6月中に各種の協議があり、8月は米のシンクタンクが夏季休暇となり、9月には習近平が訪米する。台湾の総統選はその後から本格的に始まる。米国としてはこのような状況下で蔡英文に対する態度表明を遅くしないほうがよいと判断したのであろう。
一方、中国も今回の訪米成功を評価したと思われる。習近平にとって台湾問題は冷静に処理できる「小事」であり、今回の蔡英文の訪米に対しても細かいことにいちいちこだわらず大きな態度で、冷静に、抑制して対応している。蔡英文を受け入れるわけではないが、何を言い、何を行なうかを見てみようとしている。中国からは、表面的には蔡英文の訪米に対して批判的な表明が相次いでおり、とくに蔡英文が「現状維持」についてはっきりしたことを言わないのは不満なようだが、蔡英文は前回の訪米時のように、民主化や人権など中国の弱みを突こうとしないことは注目しており、全体的には一定の抑制を利かせた批判になっている。
蔡英文は「両国論(注 台湾は事実上独立しており、中国と台湾の関係は国家と国家の関係である)」の主張者であり、「台独」と完全に決別したわけではない。中国が「台独」を看過しないのはもちろんであるが、彼女の思想は成長しており、人民の意見にしたがうという姿勢が明確になっている。「台独」という極端な思想を掲げることはありえない。
中国は、蔡英文が総統になるという現実を受け入れ、両岸関係のため一定のゆとりを認め、民進党が両岸関係に参加する機会を提供すべきである。「退くことにより前進を図る」ことが重要である。
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