平和外交研究所

ブログ

その他

2020.02.03

対人地雷の使用規制をかなぐりすてるトランプ政権

 トランプ米大統領は1月31日、対人地雷の使用規制を緩和すると発表した。これもオバマ前大統領が立てた方針を覆すものである。

 対人地雷は、敵国の兵士だけでなく農民や子供なども無差別に殺傷する危険な、非人道性の高い兵器であり、1990年代初頭から禁止する動きが国際的に強くなり、97年に対人地雷禁止条約(オタワ条約)が成立した。

 米国、ロシア、中国などは軍の要求が強いので対人地雷も全面的に禁止することには踏みきれず、禁止条約に参加していない。

 米国は人道問題に無関心なのではなく、クリントン政権は規制を強めるのにイニシアチブを発揮したこともあったが、全面禁止には賛成しなかった。

 米国の主張は、一度埋めた対人地雷をいつまでも放置しているから市民に危険が及ぶのであり、一定の時間が経過すれば埋設地雷が自動的に破壊されるようにすれば、あるいは埋設したものが不必要と判断すれば地雷を掘り起こさなくても破壊できるようにすれば問題はほとんど解消できるというものであった。しかし、これに対して多くの国はコストがかさむことを理由に賛成しなかった。

 そのような議論を経た後、軍縮に熱心なオバマ大統領は2014年に、対人地雷の使用禁止に踏み切った。条約に参加したのではなく、米国独自の方針として、朝鮮半島だけは例外としつつ禁止したのであったが、オバマ氏の決断は世界中で称賛された。

 トランプ氏は、オバマ氏の決定を覆し、米軍は今後「例外的な状況下」において、世界各地で自由に地雷の設置が可能となると説明している。

 中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱と言い、また今回の対人地雷使用規制の解除と言い、トランプ政権は軍縮にいちじるしく後ろ向きである。核兵器の小型化も検討しているという。小型化すれば使いやすくなるというのが賛成論の理由であるが、それは核兵器戦争を惹起する危険極まりない考えである。それはともかく、先端技術を搭載した新世代の地雷は、米軍の安全保障を高めるとトランプ政権は主張しているが、米国と対立する国はやはり対人地雷で対抗するだろう。米国だけの安全が保障されることなどありえない。

 米国内でもこのようなトランプ政権の姿勢を批判する論者は少なくないが、その意見が政策に反映されることは当面望めないようである。
2020.01.31

トランプ大統領の中東和平提案

 中東で巨象がまた暴れはじめた。アフリカ象でなくアメリカ象だ。今度は今までに輪をかけて凶暴である。米国も含め国際社会が努力してきたこと(安保理決議242及び338など)をけちらし、米国の歴代政権が仲介者としてのバランス外交に腐心し、公平であろうとしてきた姿勢をかなぐり捨てた。

 国際問題を論じるのにたとえ話など不謹慎かもしれないが、言葉で表現するより雄弁に問題の本質を表せると思った次第である。

 一部アラブ諸国はこの荒れ狂う巨象に乗っている。パレスチナをめぐる中東和平問題において、従来は、イスラエルの存在を認めないアラブ諸国と、イスラエルの安全は守らなければならないとする米欧諸国が対立する構図になっていた(エジプトとヨルダンは例外的にイスラエルを認めた)。しかし、トランプ氏の和平提案については、アラブ諸国でもアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーンは支持する姿勢を取った。サウジアラビアは、「包括的な和平案をつくったトランプ政権の努力に感謝する」と表明する一方、サルマン国王がパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話会談を行う配慮も見せた。エジプトは和平案に理解を示し、米国とパレスチナの対話の再開を求めた。

 一方、パレスチナ自治政府はもちろん、イランやトルコなどはトランプ提案に激しく批判的である。

 アラブ諸国を束ねるアラブ連盟(21カ国・1機構)は今週末に緊急会合を開き、アッバス氏も出席する見通しだが、パレスチナに寄り添った強い対応に出る可能性は低いとみられている。

 中東諸国が真っ二つに割れているのである。かなりの数のアラブ諸国がトランプ提案を支持していること自体驚きだが、彼らは将来もそのような姿勢を続けることができるか。

 米国では今年の11月3日に大統領選挙が行われる。トランプ氏が再選されるかよくわからないが、仮に再選されても、将来米国を率いる政権がトランプ氏の提案を維持するとはとても思えない。米国がトランプ以前に戻った場合に、今トランプ政権を支持しているアラブ諸国はどのような姿勢を取るか。アラブ世界もいつまでも同じわけではないだろうが、イスラエルを承認することはきわめて困難なことである。長年の歴史をみると、イスラエルの主張だけを柱として中東和平が実現するとは到底思えない。

 日本の立場については、巨象が荒れ狂っている現在、EUと意思疎通をよくして共通の対処ができればよいが、それは実際的には困難なのであろう。かといって、トランプ大統領に盲目的に従うことは避けなければならない。日本は、イスラエルを認める国も認めない国も含め、中東諸国との友好関係を維持することは、今後も絶対的に必要である。
2020.01.29

ロヒンギャ問題で苦悩するミャンマー

ザページに「解決遠いロヒンギャ問題 窮地のミャンマーに接近する中国」を寄稿しました。
こちらをクリック

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.