平和外交研究所

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2016.09.12

北朝鮮の核実験

 北朝鮮がまた核実験を行った。今年になって2回目だ。ミサイルは今年だけですでに20発ばかり発射している。いずれも国連決議に違反する重大な行為だが、今後さらに第6回目の核実験を行う可能性もあると言われている。
 北朝鮮のこのような行動は日本など周辺の国にとって危険きわまりない。日本の排他的経済水域へ落下したミサイルもあるらしい。かつて、日本の上空を飛び越して太平洋に向かっていったミサイルもあった。
 今回の核実験に対し、各国は国連決議で追加制裁を科し、また日米などは独自の制裁措置を実施することを検討中だ。
 また、制裁の実効性のカギを握っている中国に決議の忠実な履行を求めていく姿勢だ。いずれも当然のことだ。

 しかし、これらの措置だけでは北朝鮮問題の核心に迫ることができないだろう。
 北朝鮮には国家の安全を確保しなければならないという究極の問題がある。そんな国は他にはまずない。各国から見れば北朝鮮が各国に脅威を与えているのであり、まるで正反対の状況に見えるだろうが、北朝鮮が安全を確保できていないのは事実だ。
 しかるに、この問題を解決できるのは米国だけである。中国はすでに北朝鮮という国を承認している。
 米国はグローバルパワーとして世界各地で大変な犠牲と負担を強いられており、そのことを各国は十分理解し協力する必要があるのは当然だが、米国と北朝鮮の問題は他のどの国にも解決できない。米国は中国がまじめに決議を実行すれば北朝鮮の核・ミサイル問題を解決できるはずだとの立場であるが、中国が米国に代わって北朝鮮を認めることはできない。当たり前のことだ。中国はそのことも言っているが、北朝鮮問題に関しては、中国は決議を履行していないという各国の声が大きいためか、あまり注意されない。
 北朝鮮の核・ミサイルはいかなる場合も、いかなる理由でも認められないが、核兵器を放棄させるには北朝鮮の安全問題の解決が不可欠だ。核とミサイルの実験を止めさせることと核兵器を放棄させることは大きな違いがある。前者については、国連決議は内容いかんで効き目を持ちうるが、後者の核の放棄は国連決議だけでは実現しない。
 去る3月に成立し、「史上最強」と言われた決議はその後の北朝鮮の執拗な挑戦的姿勢によって影が薄くなってしまった感もあるが、前述したように中国が忠実に実行しないからであり、今後新たな決議が成立すれば北朝鮮としても考慮せざるをえなくなる可能性はある。
 しかし、どのような内容の決議が成立しても、あるいは米国が最強の措置を取ってもそれだけで核兵器を放棄させることはできないだろう。
 米国は嫌がるだろうが、真の解決には米国が北朝鮮と平和条約交渉をし、核兵器を放棄させるしかないことを日本は説得するべきだと思う。

2016.09.09

(短評)ASEAN首脳会議

 今年のASEANサミットおよびASEANと日米中韓などを含めた東アジアサミットはラオスのビエンチャンで9月6~8日開催された(東アジアサミットは8日)。
 東アジアサミットでは、紛争の平和的解決、国際法に従った解決、南シナ海における航行の自由と非軍事的利用の重要性が確認された。中国による違法埋め立て工事については、「いくつかの国の指導者は最近の情勢について懸念を表明した(Several Leaders remained concerned over recent developments in the South China Sea)」という表現で収められた。これまでのASEANにおける扱いと比べると、細かい表現の違いはいくつかあるが、基本的には従来通りの内容だ。
 
 さる7月に下された国際仲裁裁判の判決がどのように扱われるかに焦点が集まっていたが、どの首脳会議でも言及されなかった。
 中国がその裁判を拒絶し、首脳会議の議長声明に盛り込むことに反対したからであろうが、判決は非常に明確に中国の行為の違法性を指摘しているのでそれをASEANの会議で扱うのはそもそも困難だったと思う。
 一方、中国の代表は、今次会議は中国にとって大成功だったと言っているようだ。その理由などはよく聞いてみなければわからないが、いずれにしても国内向けの発言だったと思う。
 
 仲裁裁判判決は、今回の一連の会議の結果何らかの変化が生じるかといえば、それはない。今後もその判決はそのまま存続するし、何らの変更も加えられない。中国は「過去のこととしよう」と各国に説いて回っているようだが、そんなことにもならない。今後、南シナ海の歴史が語られるとき、この判決は最重要の出来事として扱われるだろう。各国政府が作成する文書においても、中国で扱いはよくわからないが、同様である。各国の研究者にとってもこの判決は第一級の資料であり続けるだろう。
 
 日米などは判決の重要性とそれに従った行動をとるべきことを指摘したが、今後もそうすべきだ。日米ともに裁判の当事者ではなかったが、中国の行動は国際法に違反しているという今次仲裁判決を尊重するのは当然だと思う。
2016.09.06

(短評)G20杭州サミット

 9月4~5日、中国の杭州市でG20首脳会議が開催された。参加国の数は多い。また、この会議の前後に、あるいは並行して2国間の会議が開かれるので全体の状況はかなり複雑だが、一つ印象に残ったことを記しておく。

 中国は国家の威信にかけ盛大なイベントに仕立て上げた。立派な会議場を新築したのもその表れだが、とくに開会式は素晴らしいものとした。杭州は昔から有名な景勝の地であり、開会式の舞台としてうってつけであるが、きれいなところばかりでない。大気汚染は深刻だし、周辺にはみすぼらしい民家もある。そこで、中国政府は付近の工場の操業を一時的に停止させ、大気をきれいにした。北京で国際会議が開催される場合に行われている対処方法だ。また、みすぼらしい住宅は強制的に撤去した。西湖を舞台にした開会式を演出したのは、北京オリンピックの演出で有名な映画監督、張芸謀であり、中国は世界の賓客にその力を見せつけるのに成功したようだ。

 もともと、G20は1999年、財務大臣・中央銀行総裁会議から始まった。1997年にアジアの金融危機が起こり、各国が共同して対処する必要があったためだ。2008年にはリーマンショックがきっかけとなり、G20の首脳会議が開催されるようになり、以後毎年開かれている。1年に2回開催されたこともある。今回の杭州サミットは第11回目だった。

 日本はサミットも財務大臣・中央銀行総裁会議もホストしたことがない。なぜそうなったか。詳しい事情をすべて承知しているわけではないが、日本はG7などの一員であることが影響しているかもしれない。
 実は、2008年、日本はG7(当時はG8)の議長国であり、それと関連付けてG20サミットを開催しようと試みたが、これは成立せず、結局米国が第1回のサミットを開催した。
 当時、もう一つの注目すべき状況があった。G20サミットは実務的に開催するのがよい、大々的な歓迎式典は必要でないと思われていたのだ。麻生首相(当時)は成田空港で開催すればよいという考えであったと後に国会で答弁している。
 この時の雰囲気と比べると、中国の杭州サミットは実に派手な演出となり、国家の威信にかけて開催するという性格が強くなった。G20サミットは今後どうなるか。杭州サミット式に盛大な演出をするのか、それとももっと実務的なものに戻すのか。ホスト国の考え次第だが、中国以上に派手なサミットはどの国もできないのではないかと思う。

 日本がこれまでサミットも、財務大臣・中央銀行総裁会議もホストしたことがないのは経緯のあることで、問題だと考える必要はないが、G7のメンバー国でG20サミットを開催したことがない国は、日本のほかドイツとイタリアしかいない。しかし、ドイツは2017年のG20サミットをホストすることとなった(その次はアルゼンチン)ので、残るはイタリアと日本だけとなる。
 会議でどのような議論が行われるか、各国は世界的な問題についてどのような貢献をするか、などは会議のホストとは関係ないことだが、今後日本として検討すべきことの一つだろう。

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