平和外交研究所

ブログ

オピニオン

2017.04.21

空母カール・ビンソンはインド洋に向かっていた‐トランプのはったり

 米国が原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島方面に派遣したことは、シリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンで世界最大の通常爆弾を使用したこととあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして韓国や我が国では大騒ぎになった。 
 しかし、カール・ビンソンは、北朝鮮が新たな挑発行動に出るかもしれないと警戒されていた4月15日(金日成の生誕記念日)を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際にはゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況でなかった。
 このことはすでに一部報道で伝えられているが、日本では政府もメディアもいまだに北朝鮮非難一色であり、カール・ビンソンについての扱いもこれまでとあまり変わっていない。
 
 しかし、重要なことが2つある。
 第1は、カール・ビンソンがなぜゆっくりと航行しているかである。
 カール・ビンソンが朝鮮半島へ航行すべしとの命令を受けたのは4月8日であった。そのころカール・ビンソンはシンガポール付近におり、命令を受けて朝鮮半島へ急行すれば15日前には到着しているはずだった。しかし、実際には、命令を受けてからインド洋に入り、オーストラリアとの合同演習に参加し、それを終えてあらためて朝鮮半島へ向かうこととなった。そして15日、シンガポールとインドネシアのジャワ島との間のスンダ海峡を通過ししていることが発見された。つまり、命令を受けてから、朝鮮半島とはいったん逆の方向に向かい、演習に参加し、あらためて朝鮮半島に向かったので、命令から1週間後、出発した時とほぼ同じ地点に戻ることになったのだ。
 そしてその後も、「カール・ビンソンは非常にゆっくり北上している。途中、海上自衛隊との共同演習なども行う」と日本政府の高官が語ったそうだ(『産経新聞』4月19日付)。
 米国が北朝鮮情勢を本当に危険だと認識していたならば、そのような行動にはならないはずだ。米国は、実は、北朝鮮をそれほど深刻に思っていないのではないか。
 約20年前、台湾で総統選挙が行わる直前、中国が台湾の近海にミサイルを撃ち込んで圧力を加えてきたのでやはり米国の空母が2隻派遣されが、その時は文字通り急行した。

 第2は、トランプ大統領は、12日、Fox Business Channelのインタビューで、「我々は非常に強力な無敵艦隊を朝鮮半島に送っている。空母よりはるかに強力な潜水艦もある。(We are sending an armada. Very powerful. We have submarines. Very powerful. Far more powerful than the aircraft carrier. That, I can tell you.)」と述べ、緊張が一気に高まったのだが、現在米国ではこの発言が適切であったか問われている。
 第1で説明した事実関係とあまりにも違っており、とくに”We are sending an armada”と述べ、朝鮮半島に無敵艦隊を送っていると現在進行形で言ったからだ。
 トランプ氏が誇大発言をするのは今回が初めてでない。それだけに今回のカール・ビンソンなどの派遣に関する発言が「はったり」であっても驚かないが、北朝鮮による挑発的な行動に危機感を募らせていた韓国や日本としては、今度は米国から新たな危険があるとあおられたのであり、甚だ遺憾である。

 米国は韓国や日本と友好関係にあり、両国の安全保障は米国に頼っている。当然米国大統領の発言は重視し、尊重してきた。しかし、これからは、そのような姿勢では済まなくなり、トランプ大統領の発言は「はったり」でないか、疑ってみることが必要になりそうだ。
 一部には、4月25日が朝鮮人民軍創設記念日なので、この日までにはカール・ビンソンが朝鮮半島へ到着すると、相変わらずの調子で言及する向きがあるが、あえて例えれば、「ビールの栓は開けてしまったが、まだ残っている。25日の記念日まで置いておこう」というようなことではないか。

 話は別だが、日本のバンド「ラウドネス」がロサンゼルス空港で入国を拒否され、予定されていたシカゴでの音楽イベントに出演できなくなったそうだ。外国人の入国に関する規制が強くなったためだと言われている。米国がテロ対策に躍起となるのは理解できるし、同情に値するが、ラウドネスは30年以上活動を続けており、1984年には米国で公演したこともある。このようなグループまで規制の対象になるのはまったく解せない。
 米国への入国に際して携帯電話の番号やパスワードなどが強制提出させられることになる可能性もあるという。もしそれが実行されたら、また新たな弊害が起こるだろう。
 
2017.04.13

トランプ大統領は北朝鮮攻撃を決断するか

 米国の空母が朝鮮半島に向かっている。シリアではミサイル攻撃した。トランプ大統領は強い発言を行い、またツィッターで発信している。さまざまな事情が重なって、米国は、核とミサイルの実験を繰り返す北朝鮮を攻撃するのでは中という懸念が高まっているが、次の理由から米国から攻撃することはないと思う。

 第1に、攻撃すると米軍の被害が膨大になると予測される。これには参考となる前例があり、1994年、北朝鮮が核兵器不拡散条約(NPT)から脱退すると言いだし、核開発の危険が生じてきた。そこで米国は北朝鮮に対する軍事行動についてシミュレーションを行い、その結果に基づきペリー国防長官はクリントン大統領に、「朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者は5万2千人に上る」という見通しを報告した。これは米政府として許容範囲をはるかに超える損害であり、結局核の先制攻撃を含め軍事力を行使する決定は行われなかった。
 現在、北朝鮮の軍事能力は、核とミサイルの開発などにより1990年代とは比較にならないくらい強大になっており、クリントン大統領時代と同様のシミュレーションをすれば、米国兵の犠牲は何倍、あるいは何十倍にもなるだろう。

 第2に、朝鮮半島で米国と北朝鮮の軍事衝突が起これば韓国は必ず巻き込まれ、壊滅的な打撃をこうむる。ピョンヤンとソウルの距離は約200キロに過ぎず、攻撃するのにミサイルは必要でない。北朝鮮は、直接ソウルに砲弾を撃ち込める性能の兵器を保有している。

 第3に、日本にも被害が及ぶだろうし、そうなると日本としても単純に米国の決定を支持するとは言えなくなる。少なくとも、作戦の開始以前には反対せざるをえなくなることもあろう。また、実際に軍事衝突が起これば、改正後の法制によれば自衛隊を朝鮮半島に派遣せざるを得なくなる可能性も出てくる。

 第4に、中国も間違いなく反対するだろう。

 第5に、米国内でも反対意見が強いと思われる。反対論の根拠として挙げられそうなこととしては、米国は現実に被害をこうむっていないこと、中東に比べ北朝鮮問題の優先(深刻)度は低いこと、全面戦争に発展し米国も核攻撃される危険が生じてくることなどもさることながら、手段をまだ尽くしていないのに軍事行動に出ることにはとくに強い疑問が呈されるだろう。

 第6に、先に攻撃すれば米国が64年前に結ばれた休戦協定に違反することとなる。また、安保理のお墨付きを得るのは中国やロシアが反対するのでまず不可能と見るべきだ。

 ただし、軍事行動と言ってもさまざまな形態があり、以上述べたことは地上部隊による攻撃の場合だ。目的が非常に限定された攻撃、懲罰的な攻撃は、ISに対する空爆や今回のシリアに対するミサイル攻撃などの例にかんがみても、地上部隊派遣より決断しやすい。しかし、北朝鮮の場合はシリアと異なり、地上部隊の派遣について指摘した困難性がかなり該当するのでやはり困難だろう。

 むしろ危険なのは偶発的な軍事衝突だ。どこの国も安全保障のために日常的に軍事的活動を行っている。通常は訓練の範囲にとどまっているが、情勢いかんで訓練であってもレベルアップし、危険になることがあるし、また、示威行動にまで発展することもある。今回の米国による空母派遣も基本的にはその範囲を超えるものでなく、北朝鮮に自制を求め、米国の断固たる姿勢を示すのが目的だろう。
 しかし、攻撃が決定されているのではないにしても、軍用機や軍用艦船が特定の地域に集中すれば、偶発的な衝突が起こる危険が増大する。その結果軍事衝突が起こった例は少なくない。米国も北朝鮮も自制すべきだ。


2017.04.10

トランプ・習会談と貿易合意

 米中首脳会談についての感想である。
 
 まず、トランプ大統領の「初めての直接会談で米中関係は大きく前進した」という評価を額面通り受け取る気持ちにはなれない。
 北朝鮮問題は、基本的にはこれまで何十回と繰り返してきたやり取りの繰り返しだったようだ。
 「すべての選択肢がテーブルの上にある」「中国がしないなら米国だけで行動する」などの発言は軍事行動を示唆しているとして注目されているが、20数年前に米国が検討した軍事行動の是非と今は何が違うか。20年前、北朝鮮は核を持っていなかった。今、軍事行動はその時よりももっと困難ではないか。
 ともかく、片言隻句をとらえて想像をたくましくするようなことでは実態は分からないし、いたずらに混乱するだけだ。
発言する方も問題だ。ほんとうに確信があってのことか。トランプ政権に見られがちなレトリック/口先だけに過ぎないのではないか。
 
 政治・安全保障面での最大の問題である東シナ海・南シナ海問題については、トランプ氏は中国が国際規範を守ること、南シナ海を軍事拠点化しないとの習近平主席の発言を守ることを求め、また、米国は「自由の航行作戦」を強化する方針であることを伝えた。
 これに対する中国側の発言は公表されていない。この問題について前進があったとは思えないが、オバマ・習会談の時のように公の場で双方がまったく違う見解を主張しあうことを避けたのは特に中国として賢明な対処であった。
 
 一方、中国側の発表としては新華社通信の報道があるが、「両首脳は深く、友好的に、長時間会談し、新たなスタート地点から中米関係を発展させることに合意した」と言っているだけで、この報道も今次会談の政治・安全保障面の成果を伝えているとは思えない。もっとも、中国は今回の会談が決定される前からトランプ大統領の出方を強く警戒しており、いかにして会談を失敗させないかを目標としていた。新華社報道は中国側としてその目標は達成されたと認識していることを示している。

 今次会談の成果は貿易不均衡を是正するために「100日計画(100-day plan)」を作成する合意である。その内容はこれから詰めることとなるが、米国に拠点がある『多維新聞』は、中国は金融と牛肉の輸入に関し国内市場を開放する案を考慮していると報道している。また、トランプ大統領は米国の鉄鋼輸入に関する行政命令を発出する考えであり、その内容はとくに中国に厳しいものとなるとの観測を米政府への取材結果に基づき報道してい

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.