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2017.05.02

北朝鮮と米国-現実とイメージ(その2)

(米国)
 トランプ新政権は発足直後から北朝鮮問題に強い関心を向け、北朝鮮政策の再検討を行った。その結果、4月中旬につぎのような新政策が決定されたと言われている。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。

 この間、ティラーソン国務長官は「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言っていた。3月16日、岸田外相と会談後の記者会見での発言だ。その後、ティラーソン氏は韓国で、「すべての選択肢がある」と述べたので、軍事行動もありうるという憶測を呼んだ。

 北朝鮮においては、4月に金日成主席の誕生日(15日)をはじめ、いくつかの重要行事があり、その際に、第6回目の核実験やICBMの実験を行うかもしれないと騒がれていた。
 そのさなかの12日、トランプ大統領はFox Business Channelのインタビューで、「空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を朝鮮半島に送っている。非常に強力な無敵艦隊」などと発言した。この発言は、少し前のシリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンでの世界最大の通常爆弾の使用とあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして大騒ぎになった。諸報道の見出しには「武力行使」「4月危機」などの言葉が躍った。 
 
 しかし、カール・ビンソンは、4月15日を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際には非常にゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況ではなかった。カール・ビンソンが日本海へ入ったのははるか後の4月29日、北朝鮮が危険な行動に出るかもしれないと警戒されたいた時を過ぎた後であった。トランプ氏の発言は「はったり」だったのだ。

 トランプ政権はなぜ北朝鮮政策に力を入れるのか。核やICBMは米国にとってレッドライン、すなわち見逃すことのできない一線だとも言われているが、冷戦時代ソ連と対峙した経験を持つ米国は北朝鮮の核・ミサイルを恐れるはずがない。米国がインドやパキスタンの核は恐れず、北朝鮮を恐れるのは金正恩委員長という危険な人物が指導者になっているからだという説明しかありえないが、トランプ氏はそのように単純な見方をしていなかった。そのことは、後で述べる金正恩氏に対する評価ではっきりした。
 一つ言えることは、トランプ大統領はオバマ氏がしてきたことを否定し、覆そうとしており、北朝鮮についてもそのような姿勢が表れていることである。ティラーソン国務長官もオバマ政権の「戦略的忍耐」は終わったと強調している。
 しかし、トランプ政権の北朝鮮問題を重視する理由をオバマ政権否定だけで説明できるか。どうも我々にはよく分からない事情が働いているような気がする。
 
 トランプ大統領が中国に対し北朝鮮への圧力を強めるよう強力に働きかけたことは明白である。その点では、オバマ政権と同じ手法を用いているのだが、トランプ大統領には習近平主席を抱き込む一種独特の手法があり、中国はオバマ時代より一味も二味も違ってきた。中国は北朝鮮に対して、「北朝鮮が再度核実験をすれば、中国は石油の禁輸を含む5項目の措置を取る」と伝えたのだ(米国に本拠がある『多維新聞』4月30日付)。
 石油も含め、北朝鮮との取引は国連安保理の決議によりすでに原則としてできなくなっているはずであり、今頃、中国がそのようなことを言うのは奇妙なことだが、中国がこれまで決議をどこまで忠実に履行してきたかの問題には入らないでおこう。ともかく、中国がこのように北朝鮮に対して強い姿勢を取るようになったのはトランプ政権の成果である。

 それは結構なことだが、なぜトランプ政権はかくも熱心に北朝鮮問題に力を入れるのか、やはり疑問である。トランプ氏が大統領になる前から言っていた中国の為替操作問題については、「中国の北朝鮮問題についての協力に鑑み為替操作指定しない」と言っているのだが、中国を為替操作国と指定することによって米国が得る利益と、北朝鮮問題で中国が協力することにより米国が得る利益とどちらが大きいか。為替問題の方が大きいのではないか。

 こんな疑問が消えないなか、トランプ大統領はさらに驚きの発言を行った。5月1日、米ブルームバーグ通信のインタビューにおいて、「私にとって適切であれば金正恩委員長と会談をすることを光栄に思う」と語ったことである。「会談は適切な状況下で行われることになる」「ほとんどの政治家は絶対に口にしないだろう」とも言っている。
 しかし、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、トランプ氏のこの発言について、「米朝首脳会談が実現する条件は、現時点で満たされていない」と述べている。
 また、米国の核戦略爆撃機編隊は、トランプ氏の発言とほぼ同時のタイミングで韓国の上空を飛行した。米国は今のところ硬軟両様かもしれないが、そうであってもトランプ氏の発言は重要だ。米国の大統領でこのような発言をした人は、トランプ氏が言うように、かつていなかった。1990年代の末、クリントン大統領が北朝鮮訪問を検討し、途中で沙汰やみとなったことがあったが、その時もクリントン氏はトランプ氏のように率直な発言をしなかった。

 ともかく、北朝鮮の反応が重要だが、トランプ発言の真意を測りかねているだろう。トランプ氏は2~3週間前は武力攻撃も辞さないと言わんばかりの姿勢を見せていたのに、今度は直接対話を希望していると急に言いだしたのであり、北朝鮮としてはそのまま受け取れない、何か裏があるのではないかと思っていても不思議でない。
 朝鮮中央通信は、トランプ発言と同時期に、前述の爆撃機の飛行を含め、米国と韓国の合同演習をいつもの調子で激しく非難しており、今後も北朝鮮は強面の対応を続けるだろう。
 しかし、問題はその先である。トランプ発言は真意が測りかねるところがあろうが、米国大統領として初めての発言であることはたしかである。北朝鮮も一歩踏み込んで状況を確かめ、対話の道を探るべきだ。北朝鮮が今回のトランプ発言をうまく受け止め、次の一歩を踏み出していくことが期待される。


2017.05.01

北朝鮮と米国-現実とイメージ(その1)

 過去数週間、北朝鮮と米国は激しく対立し、軍事衝突が起こる危険がある、北朝鮮の重要な記念日がある4月はとくに危ないとさかんに言われたが、大したことにはならなかった。危険な状況はまだ続いているという見方もあるが、本当に危機はあったのか。あったとしてどの程度か、冷静に見直すことも必要だ。とくに、北朝鮮についてはイメージが先走りする傾向がある。北朝鮮に関する信頼できる情報はあまりに少ないので、それもある程度はやむをえないが、あらためて今回の緊張を北朝鮮と米国の側から見てみたい。

(北朝鮮)
 そもそも、今回の緊張はどちらが引き起こしたか。
ミサイルについては、金正恩委員長が1月1日の新年の辞で、ICBMの発射実験準備が最終段階に入ったと述べ世界の耳目をひいた。そして、各種のミサイル発射実験を行った。いずれも国連決議に違反する行為である。
 核については、北朝鮮が第6回目の核実験を行う準備を進めていると米国の研究機関がその観測結果を公表したのが事の始まりであったが、そのような準備をしたのはもちろん北朝鮮である。これも国連決議違反だ。
したがってミサイルについても、また、核についての緊張を作り出した原因は北朝鮮にあった。
 
 なぜ北朝鮮は国連決議に違反し、国際社会の意向を無視してまでこのような行動に出るのか。
 北朝鮮は「挑発している」というのが一般的な説明だ。とくにわが国ではこの説明が圧倒的に多い。緊張を作り出したのは北朝鮮だということからすれば、先に問題の行動を起こしたことを意味する「挑発」というのも分かるが、「挑発」というからには目的があるはずだ。たとえば、喧嘩に、あるいは戦争に引き込むという目的だ。
北朝鮮にはそのような目的があったと言えるか。北朝鮮のことを勉強している人であれば、十中八九、「戦争をするのが目的でない」と言うだろう。私もその一人である。本当の専門家などいないと思うのであえて「勉強家」としたのであり、ご理解願いたい。
 「米国の注意をひこうとしている」という説明は時々聞かれる。これは間違いでないが、女性が男性の、あるいは男性が女性の注意をひこうとしているのとはかなり違っているのではないか。この下手な男女の例では、注意をしてもらえばそれでいったんは目的を達するのだろうが、国家の場合、ただ注意をひくのでは終わらない。そう考えると、「米国の注意をひこうとしている」というのもよくわからない説明だ。
 北朝鮮の勉強家の多くは、北朝鮮は「体制維持」を国家目標としていると考えている。「体制維持」は「安全保障」、あるいは「安全の確保」と言っても同じことだ。
 このことはトランプ政権も認めているように思われる。米国は「北朝鮮の体制転換を意図していない」と言っているからだ。
 ともかく、勉強家はそのように考えているが、公の場になるとその考えを率直に表明しなくなる傾向がある。不用意にそのことを認めると、北朝鮮の擁護をしているように思われる危険があるからだろう。要するに、北朝鮮シンパだというレッテルを張られたくないのだ。
 そのように用心するのは分からないではないが、しかし、北朝鮮の真実は見えにくくなる。北朝鮮については信頼できる情報が少ないと前述したが、北朝鮮の真実を語るにはそのような考慮が働くという事情も加わっているので一層分かりにくくなっている。要するに、北朝鮮に批判的な態度を取っておけば安全であり、通りがよいのだが、そのため真実は見えにくくなっているのだ。
 米国も「北朝鮮の目標は体制維持である」とは明言していない。米国の場合は、そう明言すると北朝鮮を承認することに一歩踏み出すことになるという問題があるのだろう。「体制転換を意図していない」ということと、「北朝鮮の目標は体制維持である」は、言葉の意味としてはそれほど違わないかもしれないが、実際には大きな差がある。米国が、単に、「北朝鮮の目標は体制維持である」と言っただけでも、米朝間の雰囲気はもちろん、政治的状況も大きく変化するだろう。

 最近のトランプ政権と中国の努力は効果があったか。北朝鮮は果たしてミサイルと核の実験をしないこととしたか。
 この問題に対して、「北朝鮮はもうしない」と断言できる人はまずいないだろう。つまり、効果があったと思える人は少ないだろう。
 北朝鮮は、「核については、必要と判断した時に実験する」という立場だ。これは北朝鮮の高官による説明だが、ミサイルについても今後実験を行うだろう。もちろん北朝鮮はそのようなことをすべきでないのでそのような見通しを述べることもはばかられるが、心で思っていることは別だ。
 北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する圧力を加える中、4月16日と29日にまたもやミサイルの実験を行った。両方とも失敗だった。2回目は、洋上でなく陸上に落ちた。
 このことをどのように解釈するか。北朝鮮は米国の圧力をひしひしと感じていると思う。しかし、それを表に出すわけにはいかず、逆に、米国の言いなりにはならないことを示したかったのではないか。意図的に失敗させた可能性も排除できない。失敗するようなミサイルの発射実験に米国が反応して武力攻撃してくることはないと判断したのではないか。
 タイミングについては、16日の実験は、その前日の金日成主席の誕生日と結び付ける向きが多かったが、むしろトランプ大統領が空母カール・ビンソンや高性能の潜水艦を派遣したとして圧力をかけてことに対する反発であり、29日の実験は安保理が北朝鮮問題を取り上げたことに威嚇的な態度で水を差すのが目的だったと推測している。

 北朝鮮の発表ぶりにも問題がある。「ソウルを火の海にする」など眉をひそめるような暴言を吐いた例は数多い。最近は、在日米軍基地を攻撃するのも可能だと言っている。さらに、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は29日、「核弾頭を搭載した戦略ロケット(ミサイル)の最終目標は米本土だ」と息巻いた。
 北朝鮮があくまで強気の姿勢を貫きたいという考えであることは理解できるが、そのような言葉が賢明か、はたして北朝鮮の利益になるか疑問である。また、北朝鮮のそのような吠え立てる姿勢は、北朝鮮のことを一層わかりにくくしているのではないか。

2017.04.24

北朝鮮による日本、米国、中国批判

 北朝鮮労働党の機関紙、『労働新聞』は4月21日と22日の両日、日本、中国、米国を相次いで批判する論評を掲載した。一部の表現についてはあらためて確認したほうがよいが、とりあえず中央通信社の報道によることとする。

 北朝鮮がほぼ同時期に日本、米国および中国を批判するのは、まったくなかったと言えるほど知識を持ち合わせているわけではないが、私の知る限り初めてである。この数週間朝鮮半島をめぐって生じている緊張に関連して、北朝鮮がこれら3国に反発していることがうかがわれる。

 中国に関しては、名指しはせず、「我々の周辺国」としているが、その指すところは明らかだ。
 「他国の笛に踊らされてよいのか」と言っている。「他国」とは米国のことである。
 中国は北朝鮮を「威嚇」し、「ふざけたことを言っている」とも評している。
 さらに、「北朝鮮が核・ミサイルの開発を進めたために、かつて中朝両国の共通の敵であった米国を中国の側に引き付けたと中国は言っているが、それなら米国を何と呼ぶべきか、分からなくなる」とも言い、「中国が北朝鮮に対する経済制裁に執着するなら我々の敵である米国から拍手喝さいを受けるかもしれないが、我々の関係に破滅的結果をもたらすことを覚悟すべきだ」とも述べている。
 要するに、中国が米国に従って経済制裁を強化しようとしていることを非難しているのだ。

 米国については、「過去20年間の北朝鮮政策が失敗であった責任を北朝鮮に転嫁しようとしている」「米国は北朝鮮に対して軍事的・外交的な圧力と経済制裁を強化しようとしている」「トランプ政権が北朝鮮敵視政策を放棄しない限り、われわれもやはり、米国との対話に関心を持たない」「米国が北朝鮮に先制攻撃するなら、米国の運命や米国民の生存を掛けなければならない」「むやみに軽挙妄動してはならない」などと言っている。
 
 日本については、「過去に犯した罪悪の代価を百倍、千倍にして払わせる」と言い、具体的には、16世紀末の文禄・慶長の役(朝鮮では「壬辰倭乱」)と1905年の第二次日韓協約(朝鮮では「乙巳5条約」。朝鮮を日本の保護国とした条約)を挙げて、日本が朝鮮に侵略したことを非難している。
 
 この評論を攻撃的と見るべきか、それとも守勢の中から出た叫び声と見るべきか。表面的には前者のように見えるかもしれないが、これらはすべてこれまで言ってきたことであり、現在の緊張状態の中で北朝鮮があらたに攻勢に回ることを意味しているとは思われない。つまり、威勢を張っているところはあるが、抗議の発言である。日本人的には論理が飛躍しているところはあるが、しいてわかりやすく言えば、「日本は過去朝鮮を侵略し、苦しめてきた。今また、北朝鮮に敵対的な姿勢を取っている。それは我慢できない」ということではないか。
 今の日本の若者と言ってもさまざまだが、この2つの事件を知らない歴史音痴が、残念ながら、少なくないかも知れない。しかし、苦しめられてきた朝鮮にはいまだに忘れられない人が多数いても不思議でない。両国の間の認識のギャップには誰もが注意すべきだと思う。

 なお、米国についての発言は、「軽挙妄動」しているのははたして米国か、それとも北朝鮮か、よくわからないくらい北朝鮮問題は複雑化しているが、トランプ大統領のはったりにかんがみれば、北朝鮮が米国に対してそう言うのも理解不可能でない。このことについては4月21日、当研究所HPの「空母カール・ビンソンはインド洋に向かっていた‐トランプのはったり」で指摘したので参照願いたい。
 トランプ大統領が語った空母カール・ビンソンは23日現在、なお西太平洋上におり、日本の海上自衛隊と合同演習を行っていた。このような演習は大いにやればよいが、日本はトランプ大統領の国際的はったりに引き込まれないよう注意が必要だ。
 
 ともかく、朝鮮半島の緊張がいぜんとして静まっていない現在、北朝鮮が発した3つの論評は注目に値する。日米中の3カ国が北朝鮮による挑発的行動を問題視し、抑止を試みるのは当然だが、一方、北朝鮮がどのような対応をするかも極めて重要だからである。

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