オピニオン
2017.05.29
とくに外務省発表の「先方は,人権理事会の特別報告者は,国連とは別の個人の資格で活動しており,その主張は,必ずしも国連の総意を反映するものではない旨述べました。」と国連発表の「The Secretary-General told the Prime Minister that Special Rapporteurs are experts that are independent and report directly to the Human Rights Council.」とは明らかな齟齬がある。
まず、「国連とは別の個人の資格で」というのは理解に苦しむ表現である。とくに「別の」というのは不正確だと思う。一方、国連側のindependent and report directly to the Human Rights Councilは国連の常識にかなった説明である。
また、「国連の総意」とは理解困難な言葉だ。「○○委員会の決定」とか「○○決議」ならあり得るが、「国連の総意」などいったいあるのか。事務総長は英語で何と言ったのか確認を求めるべき問題である。
これら2点を考慮すると、外務省の発表には重大な問題があると思われる。
G7首脳会議の際の安倍首相とグテーレス国連事務総長との会談
国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が2016年5月18日付で安倍首相に書簡を送付し、「テロ等準備罪(共謀罪)」法案はプライバシーや表現の自由を制約する恐れがあると表明したことに関して、イタリア・タオルミーナで安倍首相はグテーレス国連事務総長と言葉を交わした。しかし、その会話の発表ぶりは外務省と国連で食い違っている。とくに外務省発表の「先方は,人権理事会の特別報告者は,国連とは別の個人の資格で活動しており,その主張は,必ずしも国連の総意を反映するものではない旨述べました。」と国連発表の「The Secretary-General told the Prime Minister that Special Rapporteurs are experts that are independent and report directly to the Human Rights Council.」とは明らかな齟齬がある。
まず、「国連とは別の個人の資格で」というのは理解に苦しむ表現である。とくに「別の」というのは不正確だと思う。一方、国連側のindependent and report directly to the Human Rights Councilは国連の常識にかなった説明である。
また、「国連の総意」とは理解困難な言葉だ。「○○委員会の決定」とか「○○決議」ならあり得るが、「国連の総意」などいったいあるのか。事務総長は英語で何と言ったのか確認を求めるべき問題である。
これら2点を考慮すると、外務省の発表には重大な問題があると思われる。
2017.05.29
トランプ大統領はさまざまに言われているが、国際協調に全く後ろ向きだったのではない。貿易に関してトランプ氏はかねてから中国、ドイツ、日本などとの不均衡を問題視するあまり保護主義的措置をいとわない姿勢を示してきたが、今回の首脳会議では、「我々(G7の首脳)は,不公正な貿易慣行に断固たる立場を取りつつ,我々の開かれた市場を維持するとともに,保護主義と闘うという我々のコミットメントを再確認する」と、G7として保護主義に反対することに合意した(共同声明パラ19)。
去る3月、ドイツで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議で、米国は、例年言及されてきた「保護主義への対抗」を共同声明に盛り込むことに反対したのと対照的であった。
もっとも、トランプ大統領は、今回のG7会議に先立つEUとの会議では、ドイツが黒字をため込んでいることを一方的に批判したといわれている。
一方、移民・難民問題と気候変動問題についてはトランプ氏の主張が色濃く出た。
移民・難民問題については、各国・国際レベルの調整努力と緊急・長期の双方のアプローチが必要であること、難民を可能な限り母国の近くで支援する必要があることをうたった点では米欧の立場は一致していた。
しかし、さらに、国境を管理し政策を策定するのは主権国家としての権利であることを謳った。必要に応じて入国を制限するというトランプ氏の持論が強く出たのであり、昨年の首脳会議が、「難民の根本原因に対処することが最優先事項である」と謳ったのとはあきらかに違ったトーンとなった。
気候変動問題については、米国以外の首脳は,昨年の伊勢志摩サミットにおいて表明されたとおり,パリ協定を迅速に実施するとのコミットメントを再確認したが、トランプ大統領は政策見直しの途中であるためコンセンサスに参加できないとことわった。異例の共同声明となったのはもちろんだ。
他の首脳はこの米国の説明を理解すると表明したのでG7の立場は損なわれない形で収められたが、トランプ氏がパリ協定に反対していることは周知であり、今次首脳会議に米国からかかってきた暗雲は晴れなかったわけである。
テロ対策、北朝鮮、東シナ海・南シナ海の諸問題についてはトランプ大統領を含め各国の首脳に立場の相違はなかった。
東シナ海・南シナ海の問題については、国際法にしたがい、仲裁を含む外交的及び法的手段を通じて紛争を平和的に解決すること、あらゆる一方的な行動に反対すること、全ての当事者に対し軍事化を控えるよう要求することなどを謳った。
これらはG7としては当然の立場であるが、中国外務省の陸慷報道局長は28日、「国際法を口実に東・南シナ海問題であら探しをしている」と批判、「強烈な不満」を表明する談話を発表した。
ロシアの扱いも、トランプ大統領が親ロシアであるため影響を受けるか注目された。
ウクライナ問題については、ミンスク合意の完全な実施、紛争についてのロシアの責任、平和及び安定の回復のためロシアが果たすべき役割、クリミア半島の違法な併合をG7として非難し、承認しないことの再確認,また、ウクライナの独立,領土の一体性及び主権を完全に支持すること、ロシアに対する制裁はロシアがミンスク合意を完全に履行するまで継続すること、さらに、ロシアの行動次第では、必要に応じて更なる制限的措置をとることなどキーポイントは、ロシアにとって厳しいことだが、すべて盛り込んだ内容の共同声明となった。トランプ大統領の親ロシアの立場は共同声明に反映されなかったのである。
一方、シリア内戦の関係では、シリア政権に対し影響力を持つロシア及びイランなどは,悲劇を食い止めるためにその影響力を最大限行使しなければならないと呼び掛け、その上で、ロシアが自らの影響力を前向きに行使する用意があるのであれば,G7としては,紛争解決につきロシアと共に取り組む用意があると述べた。
シリア問題に関してはロシアの立場に一定の配慮をしたが、表現はロシア寄りでなく、むしろオバマ時代の欧米の立場に近かった。
今回の会議と並行して、トランプ氏の娘婿であるクシュナー補佐官がロシアとの関連でFBIの調査を受けていることが報道された。このことが今次会議に影響したか、我々には知る由もないが、トランプ氏がそのことを深刻に考慮していた可能性は排除できない。今次会議でトランプ氏がロシアとの関係で強く主張しなかったのはそのような事情があったからではないか。
G7と中国との関係は時折議論されることがあるが、今のところG7としては中国を迎え入れようとしていないし、また、中国も関心を示していない。むしろ不愉快に思うことが多いのだろう。前述した東シナ機・南シナ海に関する中国の反発はその一例だ。
しかし、中国はさきの「一帯一路」会議にも見られるように、世界第2の経済力を背景に、ますます中国流の方法で各国との関係を広げ、かつ、深めようとしている。そこに勢いがあるのは明らかである。G7としてはそのような中国をどのように見るべきか、また、中国との関係どのように発展させていくべきか。G7にとって北朝鮮などよりはるかに重要な問題だと思われる。
G7首脳会議-トランプ大統領の初舞台
今年の主要国(G7)首脳会議はイタリア・シチリアのタオルミーナで開催された。G7とは何か。分かりにくいと思っている人が少なくないだろうし、その意義となるとさらにはっきりしないが、今年のG7の最大の特徴はトランプ米国大統領が出席したことであった。トランプ大統領はさまざまに言われているが、国際協調に全く後ろ向きだったのではない。貿易に関してトランプ氏はかねてから中国、ドイツ、日本などとの不均衡を問題視するあまり保護主義的措置をいとわない姿勢を示してきたが、今回の首脳会議では、「我々(G7の首脳)は,不公正な貿易慣行に断固たる立場を取りつつ,我々の開かれた市場を維持するとともに,保護主義と闘うという我々のコミットメントを再確認する」と、G7として保護主義に反対することに合意した(共同声明パラ19)。
去る3月、ドイツで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議で、米国は、例年言及されてきた「保護主義への対抗」を共同声明に盛り込むことに反対したのと対照的であった。
もっとも、トランプ大統領は、今回のG7会議に先立つEUとの会議では、ドイツが黒字をため込んでいることを一方的に批判したといわれている。
一方、移民・難民問題と気候変動問題についてはトランプ氏の主張が色濃く出た。
移民・難民問題については、各国・国際レベルの調整努力と緊急・長期の双方のアプローチが必要であること、難民を可能な限り母国の近くで支援する必要があることをうたった点では米欧の立場は一致していた。
しかし、さらに、国境を管理し政策を策定するのは主権国家としての権利であることを謳った。必要に応じて入国を制限するというトランプ氏の持論が強く出たのであり、昨年の首脳会議が、「難民の根本原因に対処することが最優先事項である」と謳ったのとはあきらかに違ったトーンとなった。
気候変動問題については、米国以外の首脳は,昨年の伊勢志摩サミットにおいて表明されたとおり,パリ協定を迅速に実施するとのコミットメントを再確認したが、トランプ大統領は政策見直しの途中であるためコンセンサスに参加できないとことわった。異例の共同声明となったのはもちろんだ。
他の首脳はこの米国の説明を理解すると表明したのでG7の立場は損なわれない形で収められたが、トランプ氏がパリ協定に反対していることは周知であり、今次首脳会議に米国からかかってきた暗雲は晴れなかったわけである。
テロ対策、北朝鮮、東シナ海・南シナ海の諸問題についてはトランプ大統領を含め各国の首脳に立場の相違はなかった。
東シナ海・南シナ海の問題については、国際法にしたがい、仲裁を含む外交的及び法的手段を通じて紛争を平和的に解決すること、あらゆる一方的な行動に反対すること、全ての当事者に対し軍事化を控えるよう要求することなどを謳った。
これらはG7としては当然の立場であるが、中国外務省の陸慷報道局長は28日、「国際法を口実に東・南シナ海問題であら探しをしている」と批判、「強烈な不満」を表明する談話を発表した。
ロシアの扱いも、トランプ大統領が親ロシアであるため影響を受けるか注目された。
ウクライナ問題については、ミンスク合意の完全な実施、紛争についてのロシアの責任、平和及び安定の回復のためロシアが果たすべき役割、クリミア半島の違法な併合をG7として非難し、承認しないことの再確認,また、ウクライナの独立,領土の一体性及び主権を完全に支持すること、ロシアに対する制裁はロシアがミンスク合意を完全に履行するまで継続すること、さらに、ロシアの行動次第では、必要に応じて更なる制限的措置をとることなどキーポイントは、ロシアにとって厳しいことだが、すべて盛り込んだ内容の共同声明となった。トランプ大統領の親ロシアの立場は共同声明に反映されなかったのである。
一方、シリア内戦の関係では、シリア政権に対し影響力を持つロシア及びイランなどは,悲劇を食い止めるためにその影響力を最大限行使しなければならないと呼び掛け、その上で、ロシアが自らの影響力を前向きに行使する用意があるのであれば,G7としては,紛争解決につきロシアと共に取り組む用意があると述べた。
シリア問題に関してはロシアの立場に一定の配慮をしたが、表現はロシア寄りでなく、むしろオバマ時代の欧米の立場に近かった。
今回の会議と並行して、トランプ氏の娘婿であるクシュナー補佐官がロシアとの関連でFBIの調査を受けていることが報道された。このことが今次会議に影響したか、我々には知る由もないが、トランプ氏がそのことを深刻に考慮していた可能性は排除できない。今次会議でトランプ氏がロシアとの関係で強く主張しなかったのはそのような事情があったからではないか。
G7と中国との関係は時折議論されることがあるが、今のところG7としては中国を迎え入れようとしていないし、また、中国も関心を示していない。むしろ不愉快に思うことが多いのだろう。前述した東シナ機・南シナ海に関する中国の反発はその一例だ。
しかし、中国はさきの「一帯一路」会議にも見られるように、世界第2の経済力を背景に、ますます中国流の方法で各国との関係を広げ、かつ、深めようとしている。そこに勢いがあるのは明らかである。G7としてはそのような中国をどのように見るべきか、また、中国との関係どのように発展させていくべきか。G7にとって北朝鮮などよりはるかに重要な問題だと思われる。
2017.05.25
THE PAGEに今回の勧告を分かりやすく解説する次の一文を寄稿した。
「「拷問禁止委員会」は5月12日、2015年12月の慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表しました。
拷問禁止委員会とは、1984年に国連総会で採択された「拷問禁止条約」に基づいて設置された委員会で、慰安婦問題を審議する「場」の一つです。専門家によって構成されます。
この他、国連人権理事会、国際労働機関(ILO)、女子差別撤廃条約(に基づく委員会)、国際人権規約「自由権委員会」「社会権委員会」、人種差別撤廃委員会などでも慰安婦問題が取り上げられており、全体の状況は非常に複雑ですが、いずれの「場」でもほぼ定期的に審議の結果が公表され、関係国に対して「勧告」が行われます。これには法的拘束力はありませんが、無視したりすると次回の会議ではもっと厳しい「勧告」が行われる恐れがあり、強い力があります。
このうち、国連の機関は人権理事会だけです。女子差別撤廃委員会や拷問禁止委員会などの会議は国連から独立した存在ですが、通常国連の施設を借りて行われるので、外見上国連の委員会と区別がつきません。そのためか、報道では「国連の拷問禁止委員会」、さらには「国連拷問禁止委員会」などと呼ばれることがありますが、これは正確な呼称ではありません。
同じ慰安婦問題なら、一つの委員会でまとめて扱えばいいのではないかという考えがあるかもしれませんが、切り口がそれぞれ違っており、国連人権理事会は人権問題一般、国際労働機関は各国の労働問題(その中に「強制労働」が含まれ、さらにその中で慰安婦問題が扱われます)、女子差別撤廃条約は文字通り女性に対する差別の撤廃、拷問禁止条約は女性に限らず人に対する劣悪な待遇の撤廃を扱うので、一緒にされないのです。
拷問禁止委員会では、締約国の状況について順番に審査していきます。今回の「最終見解」は、韓国に関する審査の結果として韓国政府に対して行われたものです。勧告には法的拘束力はありませんが、野党時代から日韓の慰安婦合意を批判していた文在寅大統領にとっては国際的な援軍となるでしょう。今後、韓国政府は「日韓合意の再交渉」を求めてくる恐れがあります。
日本政府としては拷問禁止委員会の勧告を踏まえ、今後慰安婦問題についてどのように対処すべきでしょうか。実はなかなか厄介な面があります。慰安婦問題は日韓間での問題であると同時に、女性の権利、とりわけ武力紛争下での性的暴力から女性を擁護する国際的運動の一環として展開されており、国際社会は日韓両国から状況を聴取するだけでなく、国際社会として意見を持っているからです。多数の「場」で慰安婦問題が取り上げられているのはそのためです。
2015年末の日韓合意後の経緯を見ますと、まず、2016年2~3月に女子差別撤廃委員会で慰安婦問題が審議され、その「最終見解」は日韓合意を「留意する」と記しました。
今回の拷問禁止委員会が日韓合意を「歓迎し」「留意する」としたのは女子差別撤廃委員会と同様ですが、「見直すべきだ」との勧告を行いました。女子差別撤廃委員会の時と比べると、その分厳しくなったと思います。
日本はこれまで慰安婦問題解決のため努力し、その説明をし、国際社会が間違った点は指摘し、反論もしてきました。にもかかわらず、国際社会の意見がこのような形で表れてきたのです。
来る6月にはILOの会議があり、11月には国連の人権理事会で日本に関する審査が行われ、慰安婦問題が取り上げられるのは確実です。そして来年以降も多数の「場」で慰安婦問題が審議されます。
今回の勧告について、日本政府はすでに反論をしたと報道されていますが、内容は分かりません。いずれにしても、日本政府はこの際、日本の対応について足りなかった点はないか、あらためて検討すべきではないでしょうか。
とくに、国際社会がどのように慰安婦問題を見ているかを知るうえで2016年3月に公表された女子差別撤廃委員会の「最終見解」が参考になります。そこでは、慰安婦問題に限らず、女性に対する差別の撤廃に関する国会の役割、女性の人権擁護に関する日本国内の諸機構、日本に残存する「固定観念と有害な慣行」、女性に対する暴力、売買春、政治への参加、教育、雇用など広範な分野においても問題点が指摘されています。国際的な女性の権利擁護運動の関心がどこにあるかが示されているのです。
また、日韓合意以前ですが、2014年7月の国際人権規約「自由権委員会」の最終見解も「加害者の訴追」など厳しい内容であり、参考にすべきです。
日韓合意は画期的な一歩でした。日本はその忠実な履行に努めていますが、今後は、国際的に展開されている女性の権利を擁護する運動の重要性をこれまで以上に踏まえた行動が必要です。」
紙面の関係上触れなかったが、「女子差別撤廃委員会の最終見解」には、「締約国(日本のこと)の指導者や公職にある者が、慰安婦問題に対する責任を過小評価し、被害者を再び傷つけるような発言はやめるよう確保すること」との勧告もあった。日本では「強制性はあったか、なかったか」大きな議論になったが、「強制性はなかった」という発言は問題視されたのだと思う。
また、「慰安婦の問題を教科書に適切に組み込むとともに、歴史的事実を生徒や社会全般に客観的に伝えられるよう確保すること」とも勧告された。日本で教科書の関連記述が減らされたことも国際社会は問題視したのである。
さらに、日本では、この女子差別撤廃委員会の「最終見解」に不満な一部の人たちが同委員会を非難する署名運動までおこした。これらの指摘は、「女子の権利を擁護する運動に日本は熱心でない。一部にはそれに逆行する動きさえ出てきている」という認識あるいは疑問が強くなったことを示唆しているのではないか。
このような解釈に同意できない人も昨年以来の経緯と状況を虚心坦懐に振り返ってみるべきだ。
慰安婦問題-拷問禁止委員会の勧告
最近「拷問禁止委員会」で慰安婦問題について「勧告」が出たが、そもそも「拷問禁止委員会」と言ってもピンとこないかもしれない。しかも、慰安婦問題を扱っている委員会は複数あり、つぎつぎにいろんな場で慰安婦問題が扱われており、全体像は非常に分かりにくい。THE PAGEに今回の勧告を分かりやすく解説する次の一文を寄稿した。
「「拷問禁止委員会」は5月12日、2015年12月の慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表しました。
拷問禁止委員会とは、1984年に国連総会で採択された「拷問禁止条約」に基づいて設置された委員会で、慰安婦問題を審議する「場」の一つです。専門家によって構成されます。
この他、国連人権理事会、国際労働機関(ILO)、女子差別撤廃条約(に基づく委員会)、国際人権規約「自由権委員会」「社会権委員会」、人種差別撤廃委員会などでも慰安婦問題が取り上げられており、全体の状況は非常に複雑ですが、いずれの「場」でもほぼ定期的に審議の結果が公表され、関係国に対して「勧告」が行われます。これには法的拘束力はありませんが、無視したりすると次回の会議ではもっと厳しい「勧告」が行われる恐れがあり、強い力があります。
このうち、国連の機関は人権理事会だけです。女子差別撤廃委員会や拷問禁止委員会などの会議は国連から独立した存在ですが、通常国連の施設を借りて行われるので、外見上国連の委員会と区別がつきません。そのためか、報道では「国連の拷問禁止委員会」、さらには「国連拷問禁止委員会」などと呼ばれることがありますが、これは正確な呼称ではありません。
同じ慰安婦問題なら、一つの委員会でまとめて扱えばいいのではないかという考えがあるかもしれませんが、切り口がそれぞれ違っており、国連人権理事会は人権問題一般、国際労働機関は各国の労働問題(その中に「強制労働」が含まれ、さらにその中で慰安婦問題が扱われます)、女子差別撤廃条約は文字通り女性に対する差別の撤廃、拷問禁止条約は女性に限らず人に対する劣悪な待遇の撤廃を扱うので、一緒にされないのです。
拷問禁止委員会では、締約国の状況について順番に審査していきます。今回の「最終見解」は、韓国に関する審査の結果として韓国政府に対して行われたものです。勧告には法的拘束力はありませんが、野党時代から日韓の慰安婦合意を批判していた文在寅大統領にとっては国際的な援軍となるでしょう。今後、韓国政府は「日韓合意の再交渉」を求めてくる恐れがあります。
日本政府としては拷問禁止委員会の勧告を踏まえ、今後慰安婦問題についてどのように対処すべきでしょうか。実はなかなか厄介な面があります。慰安婦問題は日韓間での問題であると同時に、女性の権利、とりわけ武力紛争下での性的暴力から女性を擁護する国際的運動の一環として展開されており、国際社会は日韓両国から状況を聴取するだけでなく、国際社会として意見を持っているからです。多数の「場」で慰安婦問題が取り上げられているのはそのためです。
2015年末の日韓合意後の経緯を見ますと、まず、2016年2~3月に女子差別撤廃委員会で慰安婦問題が審議され、その「最終見解」は日韓合意を「留意する」と記しました。
今回の拷問禁止委員会が日韓合意を「歓迎し」「留意する」としたのは女子差別撤廃委員会と同様ですが、「見直すべきだ」との勧告を行いました。女子差別撤廃委員会の時と比べると、その分厳しくなったと思います。
日本はこれまで慰安婦問題解決のため努力し、その説明をし、国際社会が間違った点は指摘し、反論もしてきました。にもかかわらず、国際社会の意見がこのような形で表れてきたのです。
来る6月にはILOの会議があり、11月には国連の人権理事会で日本に関する審査が行われ、慰安婦問題が取り上げられるのは確実です。そして来年以降も多数の「場」で慰安婦問題が審議されます。
今回の勧告について、日本政府はすでに反論をしたと報道されていますが、内容は分かりません。いずれにしても、日本政府はこの際、日本の対応について足りなかった点はないか、あらためて検討すべきではないでしょうか。
とくに、国際社会がどのように慰安婦問題を見ているかを知るうえで2016年3月に公表された女子差別撤廃委員会の「最終見解」が参考になります。そこでは、慰安婦問題に限らず、女性に対する差別の撤廃に関する国会の役割、女性の人権擁護に関する日本国内の諸機構、日本に残存する「固定観念と有害な慣行」、女性に対する暴力、売買春、政治への参加、教育、雇用など広範な分野においても問題点が指摘されています。国際的な女性の権利擁護運動の関心がどこにあるかが示されているのです。
また、日韓合意以前ですが、2014年7月の国際人権規約「自由権委員会」の最終見解も「加害者の訴追」など厳しい内容であり、参考にすべきです。
日韓合意は画期的な一歩でした。日本はその忠実な履行に努めていますが、今後は、国際的に展開されている女性の権利を擁護する運動の重要性をこれまで以上に踏まえた行動が必要です。」
紙面の関係上触れなかったが、「女子差別撤廃委員会の最終見解」には、「締約国(日本のこと)の指導者や公職にある者が、慰安婦問題に対する責任を過小評価し、被害者を再び傷つけるような発言はやめるよう確保すること」との勧告もあった。日本では「強制性はあったか、なかったか」大きな議論になったが、「強制性はなかった」という発言は問題視されたのだと思う。
また、「慰安婦の問題を教科書に適切に組み込むとともに、歴史的事実を生徒や社会全般に客観的に伝えられるよう確保すること」とも勧告された。日本で教科書の関連記述が減らされたことも国際社会は問題視したのである。
さらに、日本では、この女子差別撤廃委員会の「最終見解」に不満な一部の人たちが同委員会を非難する署名運動までおこした。これらの指摘は、「女子の権利を擁護する運動に日本は熱心でない。一部にはそれに逆行する動きさえ出てきている」という認識あるいは疑問が強くなったことを示唆しているのではないか。
このような解釈に同意できない人も昨年以来の経緯と状況を虚心坦懐に振り返ってみるべきだ。
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