平和外交研究所

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2014.08.19

南北朝鮮・中国関係

8月19日、キヤノングローバル戦略研究所のホームページに掲載されたもの(8月13日のブログに加筆した)。

「韓国は8月11日、北朝鮮に対して南北高官級会談を板門店で行なうことを提案した。朴槿恵政権はこれまで中国には熱心であったが、北朝鮮との関係改善にはあまり積極的な姿勢を見せなかった。むしろ北朝鮮のほうが韓国より積極的であり、韓国側の反応が期待に沿わなかったので不満であったようだ。
韓国としては、中国の習近平主席の訪韓も無事終了し、中国との関係は一段落したので、これからは北朝鮮との関係だ、というわけでもないと思うが、表面的にはそのように見える面もある。
しかし、朴槿恵大統領はもっと以前から北朝鮮との関係を検討していたらしい。同大統領は2014年年頭の記者会見で「統一大チャンス論」を述べ、3月のドイツ訪問の際には、南北住民間の同質性回復、対北朝鮮民生インフラ構築協力、人道的問題の解決などを骨子とする「ドレスデン構想」を打ち上げた。先に統一を成し遂げたドイツにあやかって、北朝鮮との関係改善どころか、統一の実現に意欲的な姿勢を見せたのである。
その後、4月16日に起こったセウォル号沈没事件は大きな打撃となりブレーキがかかったが、最近はそれも落ち着いてきた。朴槿恵大統領は7月15日、南北統一に向けた準備作業を行う大統領直属の「統一準備委員会」を発足させた。大統領自身が委員長を務め、その下で官民の専門家らが南北統一の基本方針や具体的な準備課題の研究などを進めることになっており、8月初めの会議で、朴槿恵大統領は「韓国政府の目標は北の孤立ではない」と強調していた。今回の南北高官級会談開催の提案はその4日後に行なわれたものであり、韓国大統領府(青瓦台)の関係者は、今回の会談の提案はドレスデン構想を具体化するため の最初の一歩と言っている(『中央日報』8月12日)。
この一連の経緯を見ると韓国政府はかなり本格的に北朝鮮との関係改善に乗り出したようにも見えるが、しかし、南北高官級会談はこれまで何回も開かれては中断することを繰り返しており、今回の提案から南北関係が進展すると見るにはまだ早すぎる。朴槿恵大統領は国内でさまざまな困難を抱えており、北朝鮮との関係改善に微妙な影響を及ぼす可能性もある。
一方北朝鮮にとって、習近平主席の韓国訪問は不愉快な出来事であっただろう。また、これはいつものことであるが米韓の軍事演習を批判し、6月から7月にかけてミサイルを相次いで発射し、不快感を見せつけようとした。
しかし、国連は北朝鮮によるミサイルの発射を問題視し、安保理の議長は7月17日、北朝鮮によるミサイルの発射を強く非難し、安保理決議を順守するよう求める談話を発表した。国際社会としては当然の反応であったが、金正恩第1書記は激怒したと言われている(中国の各紙)。
その理由が問題である。北朝鮮は、韓国に対し積極的に臨む姿勢は変えておらず、仁川のアジア大会には予定通り参加するそうである。この予定を取り消すと事態は元の木阿弥だが、そうでない限りはミサイルの発射は限定的不快感の表明だというのが大方の見方である。
怒りの矛先は、実は、中国に向けられていた。7月24日付の『労働新聞』は、「国際の正義に責任を持つ一部の国は自国の利益のため、米国の強権政治に対して沈黙している」と激しく批判した。名指しではなかったが、明らかに中国を指していた。
同月11日は中朝同盟条約締結53周年記念日であったが、北朝鮮も中国も記念活動を行なわなかった。27日は朝鮮戦争休戦61周年記念日であったが、平壌で開かれた記念式典で金正恩は中国にまったく触れなかった。8月1日は中国人民解放軍建軍記念日であり、韓国を含め各国の大使館付武官が出席したが、在中国北朝鮮大使館付武官は誰も参加しなかった(『大公報』8月4日)。
朝鮮戦争で北朝鮮は中国軍(形式的には「義勇軍」)が参戦したので助かった。中国軍の死者は40万人にも上り(一説には100万人)、中朝の関係は「血で固めた友誼」と言われた。この歴史的事実を振り返るまでもなく、現在起こっていることは常識を超える異常事態である。
夏に集中している中朝の軍事関係諸行事はほぼ終了したので、表面的には平静に戻るであろう。しかし、北朝鮮と中国との関係が今後どのように展開していくか、また、日本やロシアにも微妙な影響があるのではないか、目が離せない。」

2014.08.16

自治体外交

THEPAGEに8月13日掲載されたもの。

「さる7月末、東京都の舛添知事が韓国を訪問したことがきっかで「自治体外交」が注目を集めています。歴史問題をめぐって日韓関係は落ち込んでおり、安倍首相と朴槿恵大統領との首脳会談はまだ一度も実現していないなかで、舛添知事は朴槿恵大統領と会談し、安倍首相の日韓関係改善に向けた意欲を伝えました。朴槿恵大統領も両国関係が今のようなままであってはいけないと考えていると語ったそうです(「舛添都知事日記」「現代ビジネス」8月5日)。
 「自治体外交」と言っても2つの種類があります。一つは自治体同士の交流で、東京都とソウル特別市との間には共通の問題、関心事があり、従来から協力しています。自治体間の関係増進は国家間の関係にも役立つでしょう。しかし、自治体は国家と国家が行なう外交を肩代わりはできません。その権能は国の法律で決まっており、その範囲内でしか行動できないからです。真の意味の外交は政府の専権事項です。
もう一つは、舛添知事が日本の政治家として政府間の外交に非公式に協力し、推進する役割を担ったことです。舛添氏に限りません。福田康夫元首相が中国をひそかに訪問し、習近平主席と会見して日中関係改善について話し合ったことも注目されました。
舛添氏や福田氏の行動は正規の外交ではありませんが、政府間の関係が現在のような膠着状態に陥っている場合、形式にとらわれずお互いの真意を知る上で役に立ちます。正規の外交では建前もあれば、もろもろの手順を踏むことも必要ですし、また、第三国との関係など考慮しなければならない要因が多数あり、そのため関係改善と言っても容易でありません。非公式の接触では付随的な諸問題はさておき、カギとなる問題について直接的に、率直に話し合うことができます。こじれている関係を解きほぐすきっかけを作ることも不可能ではありません。
 もっともよいことばかりではありません。非公式の接触の結果が正規の関係において実現しない危険もあります。通信手段が現在のように発達していなかった昔は、元首の代理と称する者が意図的に相手を欺いて、自国に有利なように関係を運ぼうとすることが少なくありませんでした。今はそのようなことはまずありませんが、意図的でなくても政府の意図が正しく伝わらないことはありえます。そうなると、あらためて他の方法で真偽を確かめることが必要となるなど非公式の接触には一定程度の危険もあります。
カーター元米大統領は1994年に北朝鮮を訪問し、それまで疎遠であった米国と北朝鮮が関係を打開するきっかけを作り、それから数ヵ月後、いわゆる「枠組み合意」が結ばれました。これは成功した一例です。北朝鮮との関係では、米国に限らず日本もこのような非公式な接触に頼っている面があります。
日本と中国との間では、戦後さまざまな非公式接触があり、その積み重ねの上で1972年に国交正常化が実現しました。中国とは米国も非公式の接触を活用しています。
世界の情勢は大きく変化しています。外交に課せられた課題も昔と今では比較になりません。そのような客観的な状況の変化を背景に、外交もただ政府が行なうだけでなく、民間と協力しながら進めていくことによって新しい可能性が開け、また、外交の幅が広がります。福田氏や舛添氏の活躍により中韓両国との関係がこう着状態から一歩抜け出していくことが期待されます。」

2014.08.15

北方領土での軍事演習

ロシアは8月12日、北方領土と千島列島で軍事演習を行った。2010年7月以来で2回目になる。千人以上の兵士が参加し、攻撃用ヘリコプター5機、軍用車両100台などを駆使しての演習であり、無人機も参加するというが、これはどういう場面に使われるのかよくわからない。
ロシアによる今回の演習は、ウクライナ問題に関して日本が米欧諸国とともに追加制裁措置を取ったことに対抗して行ったことである。報復措置であろう。プーチン大統領は今秋日本を訪問する予定であったが、ウクライナ危機のためにすでに雲行きが怪しくなっていたところに今回の軍事演習である。両国間の雰囲気はいっそう悪くなってしまったが、今後双方とも冷静に対応していく必要がある。
ロシアを見ていると、日本はロシアの機嫌を取って北方領土を返還してもらおうとしていると思っている節がある。たしかに日本には、プーチン大統領を怒らせてはいけないと用心する人がいるようだが、そんな考えの人は少数だ。今回のロシアの軍事演習に対する日本国民の対応は落ち着いているように思われる。ロシアがそのように考えているとすれば間違いだ。
ロシアは千島列島全体に対して領有権を持たない。日本は、サンフランシスコ平和条約で千島列島を放棄したが、ロシアに譲ったのではない。千島列島は全体で島が20あるとされているが、その20の島全体について法的地位が決まっていないのである。ロシアが占領しているのは事実だが、法的な領有権は別の問題である。つまり、日本もロシアも千島列島に対する権利は主張できない状況にあるが、千島列島の領有権を解決できるのは日本とロシアしかいないのも事実である。北方領土問題は、一皮むけばこのような千島列島の領有権が未決であるという問題があり、北方領土問題だけを解決することは不可能だと思う。
以上は法的立場。これはさておいて、国境問題を解決することにより両国関係を進展させることは日本にとってもロシアにとっても利益である。しかも大きな利益である。しかしながら、ロシアの側にはそのような認識が薄いようであり、したがってまた、国境問題については日本に恩恵を与えるべきかどうかという目で見がちなのであろうが、そのような姿勢では解決しないだろう。ロシアのこの点に関する認識を改めさせることが必要であり、そのためには日本としても積極的に協力すべきである。
一部に、北方領土問題についても妥協が必要だという意見があるようだが、妥協とは何か。安易な独りよがりになってはならない。

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