オピニオン
2016.02.23
米朝が話し合った時期は、北朝鮮が第4回目の核実験をした1月6日より前であり、直前だった可能性がある。
話し合った内容は、休戦状態にある朝鮮戦争について平和協定を締結することだ。米側より、「朝鮮半島の非核化が議論に含まれるべきだとの考えを明確にした」のに対し、北朝鮮は米側の提案を拒絶した(カービー国務省報道官の説明)。
米朝が平和協定の交渉をすることは、膠着状態にある北朝鮮の核やミサイル問題を解決するために必要なことであり、その交渉が早期に開始されることを願うが、今回伝えられている米国の試みにはいくつかの点で疑問がある。
米朝は直接会って話し合ったのではなく、米側は北朝鮮の国連代表部にメッセージを送り、北朝鮮は拒否したと報道されているが、そもそもこれは理解に苦しむことだ。
メッセージを何によって伝えたのか。直接会っていないということから推測すれば、何らかの文書によったことが考えられるが、国務省から誰も行かずに文書を送るのは異例だ。失礼だと思われても不思議でない。国家が意思表示をする形式としては、非公式の場合であっても外交的には考えられないことだ。すでに深い関係が出来上がっている場合は、いろんな形式が可能だ。普通の書簡でもよい。電話もよく使われる。
しかし、北朝鮮と米国は外交関係がなく、外交官同士が日ごろ接触しているわけでもない。しかも、話し合った内容が「戦争状態を終わらせる平和協定」や「核兵器」だ。そのように高度に政治的な問題について、誰も行かずに、あるいは国務省に来るよう求めないで、「メッセージを送った」というのはありえないことだ。
昨年の国連総会で北朝鮮の李洙墉外相は、今回米側が打診したこととまったく同じ内容のこと、つまり平和協定を結ぶことを提案した。この提案を行ったのは国連総会の場であり、これは外交の常識にかなう堂々とした方法であった。
しかるに、米国はなぜ北朝鮮からの正式の提案には応じないで、今回異例の非外交的方法で同じことを提案したのか。メッセージを受け取った北朝鮮(代表部)は、米側の意図を測れず戸惑ったのではないか。北朝鮮の日頃のふるまいには国家間の儀礼も常識もわきまえないことが、残念ながら少なくないが、今回については米側のふるまいのほうが理解に苦しむ。
推測に過ぎないが、米国は核実験が間近であることを察知し、それをやめさせようとしてそのような提案をしたのではないか。
本当に平和協定交渉を行う用意があるなら、方法はいくらでもある。米国務省としては百も承知だ。あえてこのように奇妙な方法によったのは、アリバイ作りだったのではないか。米国としてあらゆる手段を使って核実験を阻止しようとしたと説明するためのアリバイ作りだ。
以上のように見ていくと、今回のメッセージの交換は政治的な意味は少ないと思われる。北朝鮮が拒否したことをもって朝鮮半島の非核化の問題を論じても大した結果は得られない。北朝鮮の拒否は、外相の正式提案を無視したうえで行われた、奇妙な米側の提案を受け取ることの拒否だったかもしれない。いずれにしてもこのような提案は混乱を激化させる恐れがある。
念のために付言しておくと、わたくしには米国を批判する意図はまったくない。これまでにも平和協定の交渉に関してすれ違いは何回も起こった。米朝双方で打診されたが、そこから進まなかった。肝心なことは、米国がこれまでのような不明確な姿勢をあらためて交渉についての方針を明確にし、正式に交渉の提案をする、あるいは北朝鮮からの交渉の提案に応じることだ。
北朝鮮の核兵器保有を認めるということでない。あくまで平和協定の締結と核兵器の放棄について交渉することである。北朝鮮の核兵器保有を認める必要はないし、そうすべきでない。北朝鮮が核兵器を放棄することを条件に平和協定締結に応じることだ。この交渉は現在の米国の方針でないことは知っているが、この交渉で米国が失うものはなく、米国の利益にかなうはずだ。
米国と北朝鮮の直接交渉?
米国が北朝鮮との直接交渉を秘密裏に試みたが成立しなかったと報道されている。報道された日は2月21日から23日にかけてであり、米国紙の報道が最初だった。米朝が話し合った時期は、北朝鮮が第4回目の核実験をした1月6日より前であり、直前だった可能性がある。
話し合った内容は、休戦状態にある朝鮮戦争について平和協定を締結することだ。米側より、「朝鮮半島の非核化が議論に含まれるべきだとの考えを明確にした」のに対し、北朝鮮は米側の提案を拒絶した(カービー国務省報道官の説明)。
米朝が平和協定の交渉をすることは、膠着状態にある北朝鮮の核やミサイル問題を解決するために必要なことであり、その交渉が早期に開始されることを願うが、今回伝えられている米国の試みにはいくつかの点で疑問がある。
米朝は直接会って話し合ったのではなく、米側は北朝鮮の国連代表部にメッセージを送り、北朝鮮は拒否したと報道されているが、そもそもこれは理解に苦しむことだ。
メッセージを何によって伝えたのか。直接会っていないということから推測すれば、何らかの文書によったことが考えられるが、国務省から誰も行かずに文書を送るのは異例だ。失礼だと思われても不思議でない。国家が意思表示をする形式としては、非公式の場合であっても外交的には考えられないことだ。すでに深い関係が出来上がっている場合は、いろんな形式が可能だ。普通の書簡でもよい。電話もよく使われる。
しかし、北朝鮮と米国は外交関係がなく、外交官同士が日ごろ接触しているわけでもない。しかも、話し合った内容が「戦争状態を終わらせる平和協定」や「核兵器」だ。そのように高度に政治的な問題について、誰も行かずに、あるいは国務省に来るよう求めないで、「メッセージを送った」というのはありえないことだ。
昨年の国連総会で北朝鮮の李洙墉外相は、今回米側が打診したこととまったく同じ内容のこと、つまり平和協定を結ぶことを提案した。この提案を行ったのは国連総会の場であり、これは外交の常識にかなう堂々とした方法であった。
しかるに、米国はなぜ北朝鮮からの正式の提案には応じないで、今回異例の非外交的方法で同じことを提案したのか。メッセージを受け取った北朝鮮(代表部)は、米側の意図を測れず戸惑ったのではないか。北朝鮮の日頃のふるまいには国家間の儀礼も常識もわきまえないことが、残念ながら少なくないが、今回については米側のふるまいのほうが理解に苦しむ。
推測に過ぎないが、米国は核実験が間近であることを察知し、それをやめさせようとしてそのような提案をしたのではないか。
本当に平和協定交渉を行う用意があるなら、方法はいくらでもある。米国務省としては百も承知だ。あえてこのように奇妙な方法によったのは、アリバイ作りだったのではないか。米国としてあらゆる手段を使って核実験を阻止しようとしたと説明するためのアリバイ作りだ。
以上のように見ていくと、今回のメッセージの交換は政治的な意味は少ないと思われる。北朝鮮が拒否したことをもって朝鮮半島の非核化の問題を論じても大した結果は得られない。北朝鮮の拒否は、外相の正式提案を無視したうえで行われた、奇妙な米側の提案を受け取ることの拒否だったかもしれない。いずれにしてもこのような提案は混乱を激化させる恐れがある。
念のために付言しておくと、わたくしには米国を批判する意図はまったくない。これまでにも平和協定の交渉に関してすれ違いは何回も起こった。米朝双方で打診されたが、そこから進まなかった。肝心なことは、米国がこれまでのような不明確な姿勢をあらためて交渉についての方針を明確にし、正式に交渉の提案をする、あるいは北朝鮮からの交渉の提案に応じることだ。
北朝鮮の核兵器保有を認めるということでない。あくまで平和協定の締結と核兵器の放棄について交渉することである。北朝鮮の核兵器保有を認める必要はないし、そうすべきでない。北朝鮮が核兵器を放棄することを条件に平和協定締結に応じることだ。この交渉は現在の米国の方針でないことは知っているが、この交渉で米国が失うものはなく、米国の利益にかなうはずだ。
2016.02.19
3カ月前のクアラルンプールでの米・アセアン首脳会議では、一部の国が中国を刺激することを恐れたため共同声明を発出することができず、議長声明という軽い形式の総括になった。米国はこれが不満で、今回の特別サミットをホストしたのだった。
共同声明は中国と名指しこそしていないが、中国が南シナ海で東南アジア諸国との対立を省みないで行っている拡張的行動を指していることは明らかだ。
米国は中国に対抗して国際法順守の国際的連帯を形成しようとしている。中国との関係に強く縛られ参加できない国もあるが、国際的連帯形成の努力はサニーランズで一歩前進したと言えるだろう。
日本は国際連帯の重要な一員であり、尖閣諸島の関係でも南シナ海の状況を密にフォローする必要がある。
中国は日本にとって重要な国だが、東シナ海及び南シナ海での中国の拡張的行動に日本が毅然として反対し続けるのは当然だ。今回、米・アセアン諸国の特別サミットが開催されたこと自体、また発表された共同声明は日本にとっても積極的な意義がある。
フィリピンが提訴していた国際仲裁裁判の決定が近日中に下る予定だ。領有権問題について結論が出るわけではないが、中国のいわゆる「九段線」主張、つまり、南シナ海のほぼ全域を中国の領域だとする主張の妥当性については判断が示される可能性がある。
東洋経済オンラインに寄稿した「「反中同盟」の呼びかけに加わる国と逃げる国 南シナ海を巡る攻防が緊迫度を増している」を参照願いたい。
米国による南シナ海での国際的連帯の形成
オバマ大統領が2月15~16日、アセアン諸国の首脳をカリフォルニア州のサニーランズ別荘に迎えて開催した特別サミットで、南シナ海の問題について米国とアセアン諸国が共通の認識を表明したことの意義は大きい。3カ月前のクアラルンプールでの米・アセアン首脳会議では、一部の国が中国を刺激することを恐れたため共同声明を発出することができず、議長声明という軽い形式の総括になった。米国はこれが不満で、今回の特別サミットをホストしたのだった。
共同声明は中国と名指しこそしていないが、中国が南シナ海で東南アジア諸国との対立を省みないで行っている拡張的行動を指していることは明らかだ。
米国は中国に対抗して国際法順守の国際的連帯を形成しようとしている。中国との関係に強く縛られ参加できない国もあるが、国際的連帯形成の努力はサニーランズで一歩前進したと言えるだろう。
日本は国際連帯の重要な一員であり、尖閣諸島の関係でも南シナ海の状況を密にフォローする必要がある。
中国は日本にとって重要な国だが、東シナ海及び南シナ海での中国の拡張的行動に日本が毅然として反対し続けるのは当然だ。今回、米・アセアン諸国の特別サミットが開催されたこと自体、また発表された共同声明は日本にとっても積極的な意義がある。
フィリピンが提訴していた国際仲裁裁判の決定が近日中に下る予定だ。領有権問題について結論が出るわけではないが、中国のいわゆる「九段線」主張、つまり、南シナ海のほぼ全域を中国の領域だとする主張の妥当性については判断が示される可能性がある。
東洋経済オンラインに寄稿した「「反中同盟」の呼びかけに加わる国と逃げる国 南シナ海を巡る攻防が緊迫度を増している」を参照願いたい。
2016.02.17
この説明自体は正しいが、懸念がある。
1つは、日本政府の代表は「吉田証言は国際社会に大きな影響を与えた」と述べたそうだが、何を根拠にそのようなことを言えるのか。慰安婦問題について国連の要請を受け人権委員会(現在の人権理事会)の特別報告者となっていたクマラスワミ氏は、「個別の点で不正確なところがあっても、全体の趣旨は変わらない。吉田証言があったから報告を作成したのではない」と言っていた。
当時、日本政府で慰安婦問題にかかわっていた者は、確かめたわけではないが、誰も吉田証言を重視していなかったと思う。
第2に、朝日新聞の誤報を説明するのは結構だが、全体の説明とのバランスが問題だ。もし、クマラスワミ報告の誤りをついてその信憑性に疑問を呈しようとしたのであれば、そのような方法は誤りだ。国連の人権関係委員会であれ女子差別撤廃委員会であれ、裁判の場ではない。重要なことは日本が慰安婦問題にどのように取り組んでいるかを客観的に説明し理解してもらうことだ。
ただし、日本政府代表による説明の全体が報道されているわけではないので、全体のバランスは分からない。
第3に、もし、日本政府が今後も朝日新聞の誤りを国際的な場で説明し続けるならば、各国は、日本が慰安婦問題に真摯に向き合っていないと誤解する恐れがある。今回、求められて説明したことに目くじら立てる必要はないが、慰安婦問題について国連の場で説明を求められることは今後何回もあるだろう。日本政府が重箱の隅をつつくような議論を繰り返すこと国益を損なう恐れがあり、重大な懸念がある。
第4に、先般の韓国政府との「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」との合意とも関連がありうる。日本政府が正しいと思っていることを説明しても、韓国政府は違った認識を持っていることがありうる。今回の女子差別撤廃委員会での日本政府代表の説明はこの点で問題とならないか。また、逆に、韓国政府が、将来日本政府と考えの違うことを発言した場合、日本政府はどう対応するのか。日本政府は一貫した姿勢で臨めるか。
(短評)慰安婦問題に関する日本政府の説明
2月16日、ジュネーブの女子差別撤廃委員会で日本政府の代表は、慰安婦問題に関し、いわゆる朝日新聞による「吉田清治証言」や「慰安婦20万人」の報道はいずれも誤りであったことを朝日新聞自身が認めたことを説明したと報道されている。この説明自体は正しいが、懸念がある。
1つは、日本政府の代表は「吉田証言は国際社会に大きな影響を与えた」と述べたそうだが、何を根拠にそのようなことを言えるのか。慰安婦問題について国連の要請を受け人権委員会(現在の人権理事会)の特別報告者となっていたクマラスワミ氏は、「個別の点で不正確なところがあっても、全体の趣旨は変わらない。吉田証言があったから報告を作成したのではない」と言っていた。
当時、日本政府で慰安婦問題にかかわっていた者は、確かめたわけではないが、誰も吉田証言を重視していなかったと思う。
第2に、朝日新聞の誤報を説明するのは結構だが、全体の説明とのバランスが問題だ。もし、クマラスワミ報告の誤りをついてその信憑性に疑問を呈しようとしたのであれば、そのような方法は誤りだ。国連の人権関係委員会であれ女子差別撤廃委員会であれ、裁判の場ではない。重要なことは日本が慰安婦問題にどのように取り組んでいるかを客観的に説明し理解してもらうことだ。
ただし、日本政府代表による説明の全体が報道されているわけではないので、全体のバランスは分からない。
第3に、もし、日本政府が今後も朝日新聞の誤りを国際的な場で説明し続けるならば、各国は、日本が慰安婦問題に真摯に向き合っていないと誤解する恐れがある。今回、求められて説明したことに目くじら立てる必要はないが、慰安婦問題について国連の場で説明を求められることは今後何回もあるだろう。日本政府が重箱の隅をつつくような議論を繰り返すこと国益を損なう恐れがあり、重大な懸念がある。
第4に、先般の韓国政府との「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」との合意とも関連がありうる。日本政府が正しいと思っていることを説明しても、韓国政府は違った認識を持っていることがありうる。今回の女子差別撤廃委員会での日本政府代表の説明はこの点で問題とならないか。また、逆に、韓国政府が、将来日本政府と考えの違うことを発言した場合、日本政府はどう対応するのか。日本政府は一貫した姿勢で臨めるか。
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