平和外交研究所

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朝鮮半島

2020.11.19

南北朝鮮・日米4者会談構想

菅義偉首相は11月10日、来日中の韓国国家情報院の朴智元(パク・チウォン)院長と会談した。元徴用工問題や、韓国が持ち回りで議長国を務める予定だが、どうなるか分からない状況になっている日中韓首脳会議(サミット)に関する協議が行われたと説明されている。菅首相は元徴用工問題に関連し、「非常に厳しい状況にある日韓関係を健全に戻していくきっかけを韓国側がつくってほしい」と求めた。

その会談で、朴氏は「来年7月に東京オリンピックが開催される際、南北と米日首脳が会い、北朝鮮の核問題や日本人拉致問題の解決策について議論する」という文在寅(ムン・ジェイン)大統領の提案について説明したとも報道された。この点は公表されていないが、十分ありうることである。

東京オリンピックの際に南北朝鮮と米日首脳が会談するとの考えは、2018年の平昌オリンピックの場合と酷似している。平昌に金正恩委員長は来なかったが、韓国としては金正恩氏が東京に来なくても、代理の者が来れば4者で会談する目的の大半は達成されるとみているのだろう。オリンピックであれば、金正恩委員長が受け入れる公算が大きい。2018年の場合は、北朝鮮としてオリンピックに参加する意向があると金委員長自ら表明した。金委員長がスポーツに関心があることは周知と言ってよい。

南北朝鮮の関係は、3回の米朝首脳会談を経て現在最悪の状態にあり、4者会談が実現すれば、手詰まりの韓国外交として大きな得点になる。韓国としては、日米両国で新政権が成立するに際し、4者による首脳会談を提案し、その実現に向けて仲介の労を取ることが韓国の役割だと自認しているのであろう。

しかし、北朝鮮が韓国に対し厳しい姿勢を取っているのは、文大統領が北朝鮮に対する制裁の解除のため、金委員長が期待するほどには働いていないためである(北朝鮮側の見方に過ぎないが)。文大統領の姿勢は現在も変わっていないので、金委員長がオリンピックのえさに飛びついてくるか、可能性は極めて低い。

米日の新政権の出方も不透明だ。日本の菅首相は、安倍外交を継承していくので大きな変化はないとみられるが、米国のバイデン新大統領(未就任)の方針は未知数である。少なくともトランプ氏のような個人的な関心もなさそうである。いずれにしても、米国の新しい北朝鮮政策が固まるのは数か月先のこととなろう。

韓国は、トランプ大統領との関係を重視するあまり、世界貿易機関(WTO)の新事務局長選においてもトランプ政権に振り回されたが、ようやくバイデンが新大統領になることは確実とみて、その前提で行動を始めたのであろう。

韓国の国会議員でつくる韓日議員連盟の金振杓会長は、金正恩委員長が来年の東京五輪に出席する意向があるなら、正式に招待することも可能だと日本政府側が表明したことを明らかにしたと、18日付韓国紙、中央日報が報じた。金振杓氏は日本滞在中の11月13日、菅義偉首相を表敬したのだが、日本側が本当にそのような発言をしたのか、疑わしい。

いずれにしても、韓国は今後、東京オリンピックまで、4者会談の構想を実現するため、日本政府にも米国の新政権にも働きかけると思われる。
2020.09.26

菅首相と中韓首脳との電話会談

 菅義偉首相は、韓国の文在寅大統領および中国の習近平国家主席とそれぞれ電話会談を行った。菅氏の首相就任後初の、儀礼的は性格が強い会談であり、1回の電話会談で両国との関係が大きく変化することはあり得ないが、今後の関係にどのようにつながっていきそうか、考えてみた。

 日本から会談を求めるか、相手から先に会談を求めてくるか。本来どちらでも構わないことだが、時と場合によっては微妙な外交的意味合いがある。だから各メディアは、韓国からは会談を求めて来、中国については日本から求めたことを報道している。ただし、具体的な状況が分からないので、それ以上のことについては推測になるが、韓国についても菅新首相から会談を求めたほうがよかったのではないか。

 韓国との会談においては、韓国側に要求したことが特に目立っていた。日本政府の説明ぶりのせいかもしれないが、菅首相は文大統領に対し、「日韓関係をこのまま放置してはならない」とか、「今後とも韓国に適切な対応を強く求めていきたい」とか、「日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけを韓国側がつくるよう」求めている。一つ一つの発言内容に問題があるわけではないが、「上からの目線」的な姿勢が目立っている。

 日本政府の中には、日韓関係が悪化したのは韓国側の責任だから、菅首相がそのような姿勢で韓国側に行動を促すのは当然だという考えがあるのだろうか。特に徴用工問題について、韓国側が日韓基本条約と請求権協定、それに国際法に違反した行動を取っているので日本が高圧的姿勢を取るのは当然だと考えているならば問題である。条約と国際法に違反していることを指摘し、違反状態をなくすよう求めるのは当然だが、上からの目線で要求するのは建設的でない。日本としては、相手国の行動いかんにかかわらず、つねに正しい態度で臨むべきである。

 一方、文在寅大統領は「両国政府とすべての当事者が受け入れ可能な、最適な解決策を一緒に探したい」とする従来の立場を強調したという。今後、菅首相は機会があるごとに、「すべての当事者が受け入れ可能な解決策」というだけでは問題は解決しないことをあらゆる方法で説得する必要がある。そのためにも主権国家どうしの関係は尊重するとの姿勢を示していくべきである。

 中国の習近平主席との会談では、習氏の国賓訪日について「特にやりとりはなかった」と菅首相は記者団に説明した。日本側では習氏の訪日に焦点を当てがちだが、今後日本としては戦略的に対中外交を進めていく必要がある。そのなかには、中国は国際的に真の友好国がいないこと、台湾問題、香港問題、南シナ海および東シナ海など日中両国の立場が対立しがちな問題があることなどが含まれている。習氏の訪日はその中の一案件に過ぎない。

 いずれにしても、対中外交は日米関係と両立するものでなければならない。米国はすでに中国共産党政権とは対決するも辞さないとの方針で臨んでいる。菅政権としては、米国の大統領選挙後にあらためて日本外交の基本を再構築する必要がある。
2020.08.27

『韓国社会の現在』を読んで

 最近出版された春木育美氏の『韓国社会の現在』は情報量が非常に豊富である。春木氏の韓国社会を見る目は決して甘くないが、温かい気持ちをもちつつ、かつ、冷静に韓国社会が直面している問題点を語っている。データの裏付けもしっかりしている。すきがないので最初は読むのに一種のしんどさを覚えたが、それを通り過ぎるといろんなことが立体的に見えてきた。私はこの本を読んで、いつか韓国に住んでみたいと思うようになった。

 「韓国では、少子高齢化が猛スピードで進行しており、すでに日本よりはるかに深刻化している。これから半世紀も経てば、『世界でもっとも老いた国』になるという。

 韓国で少子化が社会問題として浮上したのは2000年以降であり、2003年には世界でもっとも出生率が低い国となった。女性が子供を産まなくなったのである。1人の女性が生涯に生む子どもの数(合計特殊出生率)は、文在寅政権が発足した2018年に初めて1を下まわり、翌年には0.92まで落ち込んだ。同年、日本では1.36となっており、これでも低すぎると言われた。韓国はこれよりはるかに低くなったのである。

 出生率が低下しているのは、晩婚化が進み、また生涯未婚率が上昇しているからである。高齢化率、単身世帯の割合、50歳時未婚率のどれを見ても、韓国の変化のスピードは日本を上回る

 このような状況に立ち至ったのは女性だけの責任でない。社会全体の問題である。就職難と失業の増大があまりにひどいため、かつては、娘よりも息子優先、娘の学歴はよりよい配偶者と結婚するための条件くらいに考えていた親の意識も、劇的に変わった。娘に結婚、結婚と言っていた父親の家庭も、まずは就職して安定した職と収入を得ることが優先事項になっている。
女子の働く意欲は確実に高まり、社会進出が進んだ。受験戦争に勝つことを重視するようになり、大学進学率は男子を追い抜いた。
大卒の「未婚」の男女の賃金格差は、縮小傾向にある。

 日韓の調査を比較すると、韓国女性の方が日本の女性よりも結婚へのネガティブな感情が強く、育児の大変さに意識が向いている。女性は教育費や養育費が非常に高いため、子供を産まない、産めない、あるいは一人にとどめるようになっている。また、子供は負担であるという観念が強くなっている。

 一方、子どもの数が1~2人へと減ったことで、娘たちは以前よりはるかに、大事にされるようになった。

 人口の減少が激しくなり、しかも高齢化が進むと15~64歳の生産年齢人口はますます減少していく。2017年には3757万人だったのが50年後には1784万人に半減する。

 少子高齢化は韓国の経済成長にマイナスに影響する。国力の低下は免れない。

 韓国では国内政治の対立軸として、世代間の利害対立がより深刻化する懸念がある。若者の人口面での社会的プレゼンスは縮小する一方、高齢層の有権者の厚みは、大きく膨らむからである。つまり、高齢者の利益にならなかったり、理念と合わなかったりするような政策決定は行いにくくなる。

 廬武鉉、李明博、朴槿恵、文在寅の各政権は、法律を制定し、出生促進政策を実施したが、出生率減少の速度ついていけない。
 日本の少子化対策を参考に対策を講じたが、事態は好転しなかったので、無償保育の実施、国際結婚への支援、教育費の負担の軽減、二重国籍の条件付き承認など大胆な施策を講じた。だが、いずれも安定的に効果を上げるに至っていない。」

 以上が、春木氏の指摘する韓国の少子高齢化の危機を、私なりに、大胆に要約したものである。韓国社会が抱えている問題は非常に深刻だが、危機感は薄いという。

 最大の問題は、女性の地位・家族内秩序の変化、職業事情(高い失業率)、教育問題などが悪循環を起こして少子高齢化傾向を作り出していることである。今後、社会全体において新しい秩序とバランスを見出すことができなければ極端な少子高齢化は食い止められないのではないか。


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