平和外交研究所

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朝鮮半島

2021.01.01

金委員長の新年の辞

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は1日、国民向けの新年書簡という形でメッセージを送った。北朝鮮では新年に際し、指導者の「新年の辞」あるいは国営メディアの「共同社説」などの形で内政や対外政策の基本方針を表明してきた。特に2018年の金委員長による「新年の辞」はオリンピックに参加する用意があることを述べ、その後、6月のトランプ・金会談に発展していった。

 翌年の新年の辞は米朝関係改善の流れに沿ったものであり、北朝鮮の「非核化」に初めて言及した。しかし、2月末のハノイにおける第2回トランプ・金会談が失敗に終わったことから米朝関係は著しく後退し、金委員長は対米関係を含め、基本政策の立て直しを図った。

 2020年は、前年末に開かれた党の大会議の結果報告が「新年の辞」に代わるものとなった。この報告は北朝鮮が従来のような米国との対決姿勢に半ば戻ることを示唆し、非核化交渉を進めるためには年末までに米国が方針を改める必要があるなどと表明した。

 「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃する」とおそろしいことも述べていたが、結局何が開発されたのか、よく分からないまま、1年が過ぎた。コロナ禍の影響も間接的ではあったが、北朝鮮に及んでいたのであろう。

 北朝鮮は本年1月初旬に、5年ぶりの労働党大会を開催する予定である。北朝鮮の今後の内外の方針は、その際に示されるのであろう。

 対外面では、やはり米国との関係が最重要であるが、タイミング的にバイデン新政権の成立を間近に控えているだけに、金委員長は慎重な姿勢を維持しつつ米国との関係改善の方途を探っていくものと思われる。

 韓国の文在寅政権は支持率の低下が顕著であり、北朝鮮として韓国に役割を期待する状況でなくなっている。今後も韓国には、規制措置の緩和について積極的な役割を果たすことを要求しつつ、厳しい姿勢で臨むであろう。

 今回の党大会で特に注目されるのは、経済の立て直しについてどのような方針ないし展望が示されるかである。北朝鮮ではこれまで中国の元や米ドルがかなり広く通用していたが、最近外貨の使用を禁止する方針が打ち出された。金委員長は経済の立て直しに熱心である。もっとも、外貨の使用禁止は北朝鮮経済の立て直しには不可欠の措置であろうが、富裕層に打撃を与えるだけに国内が不安定化する危険がある。
2020.11.23

菅首相は韓国との関係を改善することができる

 文在寅大統領は対日関係を改善したい意向である。11月14日、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓のテレビ首脳会議で、「各国の首脳のみなさん、特に日本の菅義偉首相、お会いできてうれしいです」と菅氏だけ名前を挙げて呼びかけた。また、朴智元(パクチウォン)国家情報院長を日本に派遣し、菅首相に対し10日、「日韓新共同宣言」を提案したのもその表れであった。13日には韓日議員連盟の金振杓(キムジンピョ)会長が菅氏を表敬し、元徴用工問題を東京五輪が終わるまで凍結する提案をしたことも注目された。

 文大統領が日本との関係改善に積極的な姿勢をみせ始めたのは、大統領としての任期が2年を切った現在、北朝鮮を東京オリンピックの場に引き出し、南北朝鮮及び日米の首脳会談を実現することにより韓国の外交を立て直したいからであり、文大統領として最後の大仕事になると認識しているのであろう。

 菅新政権として文大統領の呼びかけだからと言って応じる必要はないが、これは菅新政権の外交全体に関係する問題となる。菅首相は安倍首相の外交方針を踏襲する考えを早々に表明したが、米国ではトランプ氏と考え方が非常に異なるバイデン氏が新大統領になることが明確になっている。菅首相の相手はバイデン大統領になるのであり、安倍首相とトランプ大統領の間で行ったような外交はできない。

 バイデン氏は、同盟国との関係を重視し、日韓両国に対しても協力関係を回復するよう求めてくるだろう。その原則はすでに表明している。日本が韓国との関係改善に積極的な姿勢をみせなければ、その影響は韓国及び北朝鮮以外の関係にも及んでくる。

 では、菅政権として具体的にどのように対応すべきか。徴用工問題では、どのように考えても日本側が韓国側に指摘している「国際法違反の状態を韓国側が正さなければならない」という原則は変えられない。また、この点では米国の理解も得やすい。

 一方、半導体素材の輸出規制強化については、韓国側は日本側からの指摘に従って輸出管理の改善措置を講じており、日本側の目的はすでに達成されている。また、安倍政権下で日本側が規制強化を行ったのは、韓国に慰安婦問題や徴用工問題で国際法に合致した行動を促す裏外交としての意味があったが、それが効果的でないことは明らかになっている。徴用工問題も輸出規制強化措置問題もゼロ回答では、バイデン新政権から理解を得られないだろう。これらの理由から、日本側は早急に輸出規制強化措置の撤廃を検討し始めるべきである。

安倍政権の下では、文大統領は韓国として対日関係改善に一定程度積極的な姿勢を示しつつも、日韓関係が悪化した原因は安倍首相の姿勢にあったとの考えであった。つまり、文政権も裏表を使い分けていたのであるが、その外交も今後は変わっていく。菅首相も安倍首相の外交方針を踏襲するだけでなく、新しい情勢に応じた外交に努めるべきである。
2020.11.19

南北朝鮮・日米4者会談構想

菅義偉首相は11月10日、来日中の韓国国家情報院の朴智元(パク・チウォン)院長と会談した。元徴用工問題や、韓国が持ち回りで議長国を務める予定だが、どうなるか分からない状況になっている日中韓首脳会議(サミット)に関する協議が行われたと説明されている。菅首相は元徴用工問題に関連し、「非常に厳しい状況にある日韓関係を健全に戻していくきっかけを韓国側がつくってほしい」と求めた。

その会談で、朴氏は「来年7月に東京オリンピックが開催される際、南北と米日首脳が会い、北朝鮮の核問題や日本人拉致問題の解決策について議論する」という文在寅(ムン・ジェイン)大統領の提案について説明したとも報道された。この点は公表されていないが、十分ありうることである。

東京オリンピックの際に南北朝鮮と米日首脳が会談するとの考えは、2018年の平昌オリンピックの場合と酷似している。平昌に金正恩委員長は来なかったが、韓国としては金正恩氏が東京に来なくても、代理の者が来れば4者で会談する目的の大半は達成されるとみているのだろう。オリンピックであれば、金正恩委員長が受け入れる公算が大きい。2018年の場合は、北朝鮮としてオリンピックに参加する意向があると金委員長自ら表明した。金委員長がスポーツに関心があることは周知と言ってよい。

南北朝鮮の関係は、3回の米朝首脳会談を経て現在最悪の状態にあり、4者会談が実現すれば、手詰まりの韓国外交として大きな得点になる。韓国としては、日米両国で新政権が成立するに際し、4者による首脳会談を提案し、その実現に向けて仲介の労を取ることが韓国の役割だと自認しているのであろう。

しかし、北朝鮮が韓国に対し厳しい姿勢を取っているのは、文大統領が北朝鮮に対する制裁の解除のため、金委員長が期待するほどには働いていないためである(北朝鮮側の見方に過ぎないが)。文大統領の姿勢は現在も変わっていないので、金委員長がオリンピックのえさに飛びついてくるか、可能性は極めて低い。

米日の新政権の出方も不透明だ。日本の菅首相は、安倍外交を継承していくので大きな変化はないとみられるが、米国のバイデン新大統領(未就任)の方針は未知数である。少なくともトランプ氏のような個人的な関心もなさそうである。いずれにしても、米国の新しい北朝鮮政策が固まるのは数か月先のこととなろう。

韓国は、トランプ大統領との関係を重視するあまり、世界貿易機関(WTO)の新事務局長選においてもトランプ政権に振り回されたが、ようやくバイデンが新大統領になることは確実とみて、その前提で行動を始めたのであろう。

韓国の国会議員でつくる韓日議員連盟の金振杓会長は、金正恩委員長が来年の東京五輪に出席する意向があるなら、正式に招待することも可能だと日本政府側が表明したことを明らかにしたと、18日付韓国紙、中央日報が報じた。金振杓氏は日本滞在中の11月13日、菅義偉首相を表敬したのだが、日本側が本当にそのような発言をしたのか、疑わしい。

いずれにしても、韓国は今後、東京オリンピックまで、4者会談の構想を実現するため、日本政府にも米国の新政権にも働きかけると思われる。

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