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2020.06.17

産業遺産情報センターの展示問題

 6月15日、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」に関する情報を提供する「産業遺産情報センター」が一般公開された。開所式は3月31日に行われたが、新型コロナウイルスによる感染問題のため、一般公開は延期されていたそうだ。

 センターの開設は喜ばしいことである。しかし、韓国外務省報道官は15日、「施設の展示に日本が約束した後続措置が全くなされていないことに強く抗議する。歴史的事実を完全に歪曲(わいきょく)した内容が含まれ、甚だしく遺憾である」との批判声明を発表し、また、我が国の富田浩司在韓国大使を呼び抗議した。

 韓国側は、センターの展示の中で「軍艦島」と呼ばれる端島炭坑(長崎市)などで戦時徴用された朝鮮半島出身者が働いていたことに関し、差別的対応はなかったとする在日韓国人2世の元島民の証言を紹介していることなどを問題視したのであろう。

 これに対し日本政府は、展示は適切であると韓国側に反論し、展示内容について追加などしない考えであることを岡田直樹官房副長官より表明した。
 
 しかし、在日韓国人2世の元島民の証言は展示から除去すべきであると考える。世界文化遺産に関する情報を提供するというセンターの高邁な精神に傷をつけるからである。

 相手は韓国だけでなく、世界であり、世界に通用する発信をしなければならない。

 在日韓国人2世の元島民の証言だけでなく、実際に労働に従事した人たちの証言をも含めて展示するならば事情は違ってくる。そのためには、韓国で元徴用工に、それも一人でなく多数、つまり客観性が担保できるくらい証言を集めることが必要となる。それくらいしないと、世界は納得しない。

 世界遺産登録に際し、日本政府は遺産の全体像を説明する施設の設置を表明しており、その約束にたがわぬ行動が必要である。在日韓国人2世の元島民の証言だけで約束を履行したとみなすのはあまりにも稚拙である。そんなことをすれば、センターは日本に都合の良いことだけを展示しているとみられてしまう。国家と国家の関係には、単純に処理できない複雑さがある。

2020.04.20

金正恩委員長からの書簡

 トランプ米大統領は4月18日の記者会見で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長から「素晴らしい書簡を最近受け取った」と語った。書簡を受け取った時期も内容も触れなかったが、北朝鮮から激しい反応が返ってきた。北朝鮮外務省の対外報道室長は19日夜、談話を発表し、「最近、われわれの最高指導部は米大統領にいかなる手紙も送ったことはない」とトランプ氏の発言を否定した。また、「事実無根の内容をマスコミに流す米指導部の企図を分析する計画だ」と強調し、「朝米首脳間の関係は利己的な目的に利用してはならない」と警告した。

 なぜ北朝鮮はそのように反応したのか。具体的な理由は知る由もないが、いくつか考慮に入れておきたいことがある。

 北朝鮮からの対外発信においては、かつては指導者の言動と矛盾することはもちろん、トーンが異なることもなかったが、2018年に米朝首脳会談の実現に向け話し合いが進むころから必ずしも金委員長の言動にはそぐわない発信が行われるようになった。ポンぺオ国務長官を強盗のようだと評する一方で、ほぼ同時期に金委員長はトランプ大統領に友好的な姿勢を示す書簡を送り、トランプ大統領は今回と同様素晴らしい書簡をもらったと発言したこともあった。

 金委員長がそのような発信を許しているのはまちがいない。その理由は、首脳間では友好関係を維持しつつ、米国が北朝鮮の利益にならないことをする場合にはくぎを刺しておく、あるいは不快感を示しておくのがよいと考えているからではないかと思われる。要するに硬軟両様で対応しているのであり、非核化交渉においても、核・ミサイルの実験に関しても基本的には同じ姿勢だと見受けられる。

 北朝鮮が激しい口調で相手方を非難することはさる3月、朝鮮労働党中央委員会の金与正(キム・ヨジョン)第1副部長の発言にもみられた。北朝鮮が元山(ウォンサン)付近から東の海上に2発の飛翔体を発射したのに対し、韓国の大統領府が強い遺憾を表明し、即刻中断を要求した時のことである。金与正氏は、「国の防衛のために存在する軍隊にとって訓練は主な事業であり、自衛的行動だ」と主張したうえ、韓国大統領府を「非論理的で低能な思考」「行動と態度が三歳の子ども」「怖気づいた犬ほど騒々しく吠える」などと激しく罵倒した。
 金与正氏は昨年のハノイ第2回米朝首脳会談の後、一時的に姿を消していたが、間もなく復活した人物である。その後まもなく昇進して朝鮮労働党中央委員会の第1副部長となった。そのようなことが起こりえたのは、同氏が金委員長の信頼が厚い妹であるからであった。
 ともかく、金与正氏が第1副部長名義で談話を発表したのはこれが初めであったので注目されたが、その内容と口調があまりにも激烈だったので韓国側は驚いたという。その場合はトランプ大統領との関係ではなかったが、対外的に極度に強い姿勢をとるという点では共通点があった。

 しかし、今回のトランプ大統領への書簡は、さる3月、トランプ米大統領が金委員長に親書を送って新型コロナウイルス感染症の防疫で協力する意向を示したことと関連があると考えるべきだ。金与正氏は、その親書について、「トランプ氏は米朝関係を推進する構想を説明し、正恩氏と緊密に連携していく意思を伝えてきた。正恩氏もトランプ氏との特別な親交を確認したうえで親書に謝意を示した。幸いにも両首脳の個人的関係は依然として両国の対立関係のように、それほど遠くなく立派だ」と談話で発表していた(22日)。

 金与正氏はトランプ大統領の書簡の内容にまで公表したのに対し、トランプ大統領が金委員長の書簡を受け取ったことだけを発表して北朝鮮側から批判されたのは、公平を欠くが、何らかの理由があるはずだ。まったく仮定の話だが、金委員長は今回の書簡で、トランプ大統領の提案に前向きに応じる姿勢を示したが、それは表に出したくないので、予防的に激しい反応を示したのではないか。

 ともかく、今後、米朝関係が悪化するか、改善するかという大きな疑問についていえば、改善する方だと思われる。北朝鮮外務省の否定的談話はその妨げにならない。
2020.04.20

韓国の総選挙と日韓関係

ザページに「コロナ禍の中、韓国総選挙で与党圧勝 対日政策は強硬になる?」を寄稿しました。
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