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2014.12.31
尖閣諸島から70キロくらいの海域に中国の軍艦2隻が常時現れている。時々方向を変えたり、動いたりしているが、基本的にはその海域から離れない。日中首脳会談が行われた際はいったん姿を消したが、その後またもどってきたそうである。中国国家海洋局の船舶が尖閣諸島周辺の海域、時には日本の領海内に入り込んでくるのとは異なり、一定の距離がある海域でのことであるが、中国側には日本側に圧力を加えようという考えがあるようだ。
中国は2012年9月、「党中央海洋権益維持工作指導小組」を設置し、習近平が主任となっている。その下で、外交を総括する楊潔篪(ヤンチエチー)国務委員(副首相級)のほか、国家海洋局長や軍総参謀部の幹部らが小組員となっている。この小組は無線やテレビ電話を使って現場に指示を出すそうである。2隻の軍艦に指示しているのもこの小組であろう。
中国は12月30日、尖閣諸島のためのサイト(中国名「钓鱼岛专题网站」)を開設した。国家海洋情報センター(中国名「国家海洋信息中心」)が運営しており、そのURLはwww.diaoyudao.org.cnまたはwww.钓鱼岛.cnである。今は中国語版だけであるが、将来日、仏、独、スペイン、ロシア、アラビア語でも見られるようにすると言っている。
中国軍は浙江省温州市の南約50キロ、平陽県鳌江口から東約30キロの地点にある南キ列島(中国名は「南麂列島」)に軍事拠点を建設する計画であり、具体的には、最新鋭のレーダーは既に設置し、さらにヘリポートを整備中で、軍用機の滑走路も建設する計画である。これは12月22日の共同通信による報道であるが、中国の各紙やインターネットはこの報道を頻々と転載した。
この島嶼は尖閣諸島から約300キロ北西にあり、「日米との有事を想定して危機対応能力を高めると同時に、東シナ海上空に設定した防空識別圏の監視を強化する狙いとみられる。南キ列島は自衛隊や米軍の基地がある沖縄本島よりも尖閣に約100キロ近く、尖閣防衛に向けた日米安全保障戦略に影響を与えそうだ」と共同ニュースは解説を加えている。
また、12月30日付の『多維新聞』は、共同ニュースに追加して、「南キ島には海軍が小人数の軍人を派遣していたが、2014年の秋に多数の兵士が送り込まれた。今後、空軍や陸軍も兵を置く予定である」と報道している。
この列島の中で最大の南キ島は住民が約2千人おり、観光地である。国連教育科学文化機関の生物圏保存地域に登録された自然保護区である。中国政府が決定すれば、そのような軍事基地を建設するのは困難でないのであろう。
中国が尖閣諸島に関する取り組み体制を強化しているのは、先般の日中首脳会談に先立って事務的に達成された日中の共同認識に関する日本側説明に中国側は不満であり、反発したからである、ということが背景として語られている。中国側では、日本側が尖閣諸島について紛争があることを認めるまで上述の軍艦の示威行動をやめないと説明する者もいるそうである。しかし、中国側が不満であるのは、共同認識に示されていないことを勝手に思い込んだためである可能性が高いので、中国側には態度を硬化させる前に実証的に何が起こったのか、共同認識とは何であったのか慎重に考え直してもらいたいものである。
日中双方は関係を改善する努力も行なっている。米国の海軍大学が2014年9月、ロードアイランドで開催した「国際シーパワー・シンポジウム」では河野克俊海上幕僚長と中国海軍の呉勝利司令官の会談が実現した。話し合いの内容は、事故を回避するための「海上衝突回避規範」だったそうである。
衝突回避について他国と話し合うことに中国は以前消極的であったが、2014年4月、青島で開催された西太平洋海軍シンポジウムを契機に前向きになっている。河野海幕長と話し合った呉司令官も衝突回避の努力を現場に徹底させると、積極的な姿勢であったと伝えられている。
中国は尖閣諸島に取り組む体制を再び強化している。
中国の対外関係に関する2014年最後の話題は尖閣諸島である。尖閣諸島から70キロくらいの海域に中国の軍艦2隻が常時現れている。時々方向を変えたり、動いたりしているが、基本的にはその海域から離れない。日中首脳会談が行われた際はいったん姿を消したが、その後またもどってきたそうである。中国国家海洋局の船舶が尖閣諸島周辺の海域、時には日本の領海内に入り込んでくるのとは異なり、一定の距離がある海域でのことであるが、中国側には日本側に圧力を加えようという考えがあるようだ。
中国は2012年9月、「党中央海洋権益維持工作指導小組」を設置し、習近平が主任となっている。その下で、外交を総括する楊潔篪(ヤンチエチー)国務委員(副首相級)のほか、国家海洋局長や軍総参謀部の幹部らが小組員となっている。この小組は無線やテレビ電話を使って現場に指示を出すそうである。2隻の軍艦に指示しているのもこの小組であろう。
中国は12月30日、尖閣諸島のためのサイト(中国名「钓鱼岛专题网站」)を開設した。国家海洋情報センター(中国名「国家海洋信息中心」)が運営しており、そのURLはwww.diaoyudao.org.cnまたはwww.钓鱼岛.cnである。今は中国語版だけであるが、将来日、仏、独、スペイン、ロシア、アラビア語でも見られるようにすると言っている。
中国軍は浙江省温州市の南約50キロ、平陽県鳌江口から東約30キロの地点にある南キ列島(中国名は「南麂列島」)に軍事拠点を建設する計画であり、具体的には、最新鋭のレーダーは既に設置し、さらにヘリポートを整備中で、軍用機の滑走路も建設する計画である。これは12月22日の共同通信による報道であるが、中国の各紙やインターネットはこの報道を頻々と転載した。
この島嶼は尖閣諸島から約300キロ北西にあり、「日米との有事を想定して危機対応能力を高めると同時に、東シナ海上空に設定した防空識別圏の監視を強化する狙いとみられる。南キ列島は自衛隊や米軍の基地がある沖縄本島よりも尖閣に約100キロ近く、尖閣防衛に向けた日米安全保障戦略に影響を与えそうだ」と共同ニュースは解説を加えている。
また、12月30日付の『多維新聞』は、共同ニュースに追加して、「南キ島には海軍が小人数の軍人を派遣していたが、2014年の秋に多数の兵士が送り込まれた。今後、空軍や陸軍も兵を置く予定である」と報道している。
この列島の中で最大の南キ島は住民が約2千人おり、観光地である。国連教育科学文化機関の生物圏保存地域に登録された自然保護区である。中国政府が決定すれば、そのような軍事基地を建設するのは困難でないのであろう。
中国が尖閣諸島に関する取り組み体制を強化しているのは、先般の日中首脳会談に先立って事務的に達成された日中の共同認識に関する日本側説明に中国側は不満であり、反発したからである、ということが背景として語られている。中国側では、日本側が尖閣諸島について紛争があることを認めるまで上述の軍艦の示威行動をやめないと説明する者もいるそうである。しかし、中国側が不満であるのは、共同認識に示されていないことを勝手に思い込んだためである可能性が高いので、中国側には態度を硬化させる前に実証的に何が起こったのか、共同認識とは何であったのか慎重に考え直してもらいたいものである。
日中双方は関係を改善する努力も行なっている。米国の海軍大学が2014年9月、ロードアイランドで開催した「国際シーパワー・シンポジウム」では河野克俊海上幕僚長と中国海軍の呉勝利司令官の会談が実現した。話し合いの内容は、事故を回避するための「海上衝突回避規範」だったそうである。
衝突回避について他国と話し合うことに中国は以前消極的であったが、2014年4月、青島で開催された西太平洋海軍シンポジウムを契機に前向きになっている。河野海幕長と話し合った呉司令官も衝突回避の努力を現場に徹底させると、積極的な姿勢であったと伝えられている。
2014.12.29
一方、中国側では、習近平中国主席が北朝鮮よりも韓国訪問を優先させるなどの動きがあった。かつて「血で固めた友諠」と言われた中朝の関係は冷えきっており、伝統的記念日、たとえば、中朝同盟条約締結記念日(7月11日)に従来は盛大に祝賀していたが、今年はそれもやめてしまった。
このような変化を背景に、中国では感情的な反発が生じ、北朝鮮との関係のあり方が議論される機会が増えている。二、三の例を紹介する。
○12月8日付の香港の『大公報』紙は次のように評論している。
「環球時報(人民日報傘下の通俗紙)は最近、中国は北朝鮮を放棄すべきではないかというテーマで、連日にわたって激しい議論を掲載した。とくに、前南京軍区の王洪光副司令員が「もし朝鮮半島で再度戦争が起きても、中国としては他国のために戦争する必要はない」と直言したことなどが注目され、米国メディアも強い関心を見せた。
中国の学界で「北朝鮮切り捨て論」が唱えられるようになってすでに久しいが、この種の議論を公にすること、「北朝鮮切り捨て」の意見を公然と政府系の新聞が報道することは、多くの人に、中国政府は「北朝鮮切り捨て」について世論工作をしようとしているのではないか、という疑問を抱かせる。」
○「九个头条网(www.topnews9.com)」は、そのURLが示す通りトップニュースを流すサイトであるが、国連での決議に関連して、北朝鮮での人権状況を解説している。
国連では、「北朝鮮における人権に関する調査委員会(COI)」が2014年2月に報告書を発表して以来、国連人権理事会や国連総会で審議が続けられ、12月18日、国連総会は、北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託することや制裁の強化を安保理に要請する決議を賛成多数で採択した。両方とも安保理の決定が必要だからである。
安保理は、22日、総会が決定したことを安保理の議題とすること、つまり北朝鮮の人権問題をICCに付託し、北朝鮮に対する制裁を強化することを審議することを決定した。中国とロシアが反対したが、議題の決定に拒否権はないので、賛成多数で決定が採択されたのである。
国連総会での北朝鮮に対する決議は、過去10年連続で今回が10回目であった。その意味ではこれまで繰り返されてきた決議であるが、外務省は「北朝鮮人権状況決議の内容を踏まえた、これまで国連総会本会議において採択された北朝鮮人権状況決議よりも強い内容となっています」と解説している。
新しい点はここまでであろう。安保理は審議を開始したが、ICCへの付託も制裁の強化も決定されることはないと思われる。中国とロシアはこの種の問題についてはつねに反対するからである。中国の反対は北朝鮮を擁護することが目的とは限らない。西側の基準で人権状況を判断され、国連として決定されると中国自身が困るからでもある。
一方、中国のインターネット・サイトには中国政府とは異なる姿勢が見られる。「九个头条网」の報道がその例である、
このサイトが問題として取り上げたことは、食べ物を与えないこと、残酷刑、恣意的な拘留、弱者の軽視、言論の自由の侵犯、生存権に対する侵犯、移動の自由制限、強制連行である。
この解説は、北朝鮮が問題ある振る舞いを行ない中朝関係を悪化させていることを間接的に批判しているのであろう。しかしそれは表面のことである。むしろ、北朝鮮問題にかこつけて、中国自身の人権状況に対する国民の意識を高揚させることが狙いではないかと思われる。
○中国には、金正恩が訪中することを期待する声もある。
12月29日付の『大公報』紙は、中国の学界には異なる意見があり、中国人民大学が2013年7月に開催したシンポジウムで訪中の可能性を指摘した意見があったことや、2014年9月に中国の在韓国大使もその趣旨のことを発言したなどと報道している。
中国における中朝関係論
中国と北朝鮮との関係が悪化している。理由は、従来から中国との関係を取り仕切り、金正日が死去した後北朝鮮の実質的な指導者になると見られていた張成沢が処刑され、また、金正恩第1書記は中国への依存関係を少なくしようとしているためである。中国との関係は歴史的、地理的関係から、今でもどの国よりも広範囲にわたり、かつ、深いが、傾向としては今後ロシアとの関係が深まっていくであろう。一方、中国側では、習近平中国主席が北朝鮮よりも韓国訪問を優先させるなどの動きがあった。かつて「血で固めた友諠」と言われた中朝の関係は冷えきっており、伝統的記念日、たとえば、中朝同盟条約締結記念日(7月11日)に従来は盛大に祝賀していたが、今年はそれもやめてしまった。
このような変化を背景に、中国では感情的な反発が生じ、北朝鮮との関係のあり方が議論される機会が増えている。二、三の例を紹介する。
○12月8日付の香港の『大公報』紙は次のように評論している。
「環球時報(人民日報傘下の通俗紙)は最近、中国は北朝鮮を放棄すべきではないかというテーマで、連日にわたって激しい議論を掲載した。とくに、前南京軍区の王洪光副司令員が「もし朝鮮半島で再度戦争が起きても、中国としては他国のために戦争する必要はない」と直言したことなどが注目され、米国メディアも強い関心を見せた。
中国の学界で「北朝鮮切り捨て論」が唱えられるようになってすでに久しいが、この種の議論を公にすること、「北朝鮮切り捨て」の意見を公然と政府系の新聞が報道することは、多くの人に、中国政府は「北朝鮮切り捨て」について世論工作をしようとしているのではないか、という疑問を抱かせる。」
○「九个头条网(www.topnews9.com)」は、そのURLが示す通りトップニュースを流すサイトであるが、国連での決議に関連して、北朝鮮での人権状況を解説している。
国連では、「北朝鮮における人権に関する調査委員会(COI)」が2014年2月に報告書を発表して以来、国連人権理事会や国連総会で審議が続けられ、12月18日、国連総会は、北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託することや制裁の強化を安保理に要請する決議を賛成多数で採択した。両方とも安保理の決定が必要だからである。
安保理は、22日、総会が決定したことを安保理の議題とすること、つまり北朝鮮の人権問題をICCに付託し、北朝鮮に対する制裁を強化することを審議することを決定した。中国とロシアが反対したが、議題の決定に拒否権はないので、賛成多数で決定が採択されたのである。
国連総会での北朝鮮に対する決議は、過去10年連続で今回が10回目であった。その意味ではこれまで繰り返されてきた決議であるが、外務省は「北朝鮮人権状況決議の内容を踏まえた、これまで国連総会本会議において採択された北朝鮮人権状況決議よりも強い内容となっています」と解説している。
新しい点はここまでであろう。安保理は審議を開始したが、ICCへの付託も制裁の強化も決定されることはないと思われる。中国とロシアはこの種の問題についてはつねに反対するからである。中国の反対は北朝鮮を擁護することが目的とは限らない。西側の基準で人権状況を判断され、国連として決定されると中国自身が困るからでもある。
一方、中国のインターネット・サイトには中国政府とは異なる姿勢が見られる。「九个头条网」の報道がその例である、
このサイトが問題として取り上げたことは、食べ物を与えないこと、残酷刑、恣意的な拘留、弱者の軽視、言論の自由の侵犯、生存権に対する侵犯、移動の自由制限、強制連行である。
この解説は、北朝鮮が問題ある振る舞いを行ない中朝関係を悪化させていることを間接的に批判しているのであろう。しかしそれは表面のことである。むしろ、北朝鮮問題にかこつけて、中国自身の人権状況に対する国民の意識を高揚させることが狙いではないかと思われる。
○中国には、金正恩が訪中することを期待する声もある。
12月29日付の『大公報』紙は、中国の学界には異なる意見があり、中国人民大学が2013年7月に開催したシンポジウムで訪中の可能性を指摘した意見があったことや、2014年9月に中国の在韓国大使もその趣旨のことを発言したなどと報道している。
2014.12.28
防空識別圏は各国が自らの判断で、つまり他国の了承を得ないで定めるもので、その範囲は通常領空よりかなりはみ出している。領空に接近してくる航空機がどの国のもので、また危険がないか判断するためには領空より広い範囲で識別する必要があるからである。そして、その範囲内に不審な航空機が侵入してきた場合、いざという場合に備えて戦闘機が緊急発進し、対象の飛行機を識別する。これを日米などではスクランブルと言っている。
各国が自主的に設置するという意味では中国の措置は国際的にとやかく言われる筋合いのことではなく、中国側もしきりにその点を強調しているが、中国の設置した識別圏は他国の領空を含めており、したがって、他国の領空であっても中国の戦闘機が飛び交うことになる。上海沖の、中国海軍の基地がある島の上空を含める形で日本が防空識別圏を設置しなおしたら大問題になるであろう。防空識別圏の範囲をどのように設定するかはきわめて微妙な問題である。
また、中国の防空識別圏は日本の防空識別圏と重なる部分がかなりあり、その空域では日中両国の戦闘機が相手側を識別しようとするので、衝突したり、防御しあったり、つまり攻撃しあったりする恐れがある。一般論として、地形から防空識別圏が重なることとなるのであれば、そもそもそのような重複を避けるよう識別圏を設定すべきであり、また、歴史上の理由からそのような識別圏の重複がすでに起こっている場合は、危険を回避するよう運用しなければならない。
しかし、中国はそのような協議・調整を行うことなく、各国の自主的措置であるという防空識別圏の一つの性格だけを理由に勝手に東シナ海の防空識別圏を設置した。各国の自主的措置であるという点では国際ルールに従っているとしても、他国の領空を犯さないという原則を無視し、航空機の安全な飛行を確保する姿勢に欠ける行為であると言わざるをえない。
しかも、中国が東シナ海に設置した防空識別圏の運用には「軍当局が防御的緊急措置を取る」という警告が含まれていた。これは、中国側の判断で、識別圏の中に入ってきた航空機を撃墜することがありうる、という恐ろしい運用規則であった。
今回中国がこの文言を撤回したのは各紙に報道されているように、国際批判をかわすためであろう。しかし、中国は防空識別圏を撤回したのではなく、この恐ろしい警告を撤回しただけである。他国の領空を犯すことは変えていない。他国の既存の防空識別圏と重なる新しい識別圏を設置することによって事故が発生する危険を作り出したという問題点も払しょくされていない。「軍当局が防御的緊急措置を取る」という警告が撤回されたのは前進であるが、中国の軍が実際にどのように行動するかが問題であり、その点は文言の撤回しも関わらず何も変わっていないとみる向きもある。今回の警告の撤回はせいぜい半歩前進とみるべきであろう。
東シナ海防空識別圏での警告撤回?
中国が2013年秋に突然設置した東シナ海の防空識別圏に関し、指示された手続きを経ないで侵入した航空機に対し、「軍当局が防御的緊急措置を取る」という運用規則を削除していることが判明した。防空識別圏は各国が自らの判断で、つまり他国の了承を得ないで定めるもので、その範囲は通常領空よりかなりはみ出している。領空に接近してくる航空機がどの国のもので、また危険がないか判断するためには領空より広い範囲で識別する必要があるからである。そして、その範囲内に不審な航空機が侵入してきた場合、いざという場合に備えて戦闘機が緊急発進し、対象の飛行機を識別する。これを日米などではスクランブルと言っている。
各国が自主的に設置するという意味では中国の措置は国際的にとやかく言われる筋合いのことではなく、中国側もしきりにその点を強調しているが、中国の設置した識別圏は他国の領空を含めており、したがって、他国の領空であっても中国の戦闘機が飛び交うことになる。上海沖の、中国海軍の基地がある島の上空を含める形で日本が防空識別圏を設置しなおしたら大問題になるであろう。防空識別圏の範囲をどのように設定するかはきわめて微妙な問題である。
また、中国の防空識別圏は日本の防空識別圏と重なる部分がかなりあり、その空域では日中両国の戦闘機が相手側を識別しようとするので、衝突したり、防御しあったり、つまり攻撃しあったりする恐れがある。一般論として、地形から防空識別圏が重なることとなるのであれば、そもそもそのような重複を避けるよう識別圏を設定すべきであり、また、歴史上の理由からそのような識別圏の重複がすでに起こっている場合は、危険を回避するよう運用しなければならない。
しかし、中国はそのような協議・調整を行うことなく、各国の自主的措置であるという防空識別圏の一つの性格だけを理由に勝手に東シナ海の防空識別圏を設置した。各国の自主的措置であるという点では国際ルールに従っているとしても、他国の領空を犯さないという原則を無視し、航空機の安全な飛行を確保する姿勢に欠ける行為であると言わざるをえない。
しかも、中国が東シナ海に設置した防空識別圏の運用には「軍当局が防御的緊急措置を取る」という警告が含まれていた。これは、中国側の判断で、識別圏の中に入ってきた航空機を撃墜することがありうる、という恐ろしい運用規則であった。
今回中国がこの文言を撤回したのは各紙に報道されているように、国際批判をかわすためであろう。しかし、中国は防空識別圏を撤回したのではなく、この恐ろしい警告を撤回しただけである。他国の領空を犯すことは変えていない。他国の既存の防空識別圏と重なる新しい識別圏を設置することによって事故が発生する危険を作り出したという問題点も払しょくされていない。「軍当局が防御的緊急措置を取る」という警告が撤回されたのは前進であるが、中国の軍が実際にどのように行動するかが問題であり、その点は文言の撤回しも関わらず何も変わっていないとみる向きもある。今回の警告の撤回はせいぜい半歩前進とみるべきであろう。
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