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2014.12.29

中国における中朝関係論

中国と北朝鮮との関係が悪化している。理由は、従来から中国との関係を取り仕切り、金正日が死去した後北朝鮮の実質的な指導者になると見られていた張成沢が処刑され、また、金正恩第1書記は中国への依存関係を少なくしようとしているためである。中国との関係は歴史的、地理的関係から、今でもどの国よりも広範囲にわたり、かつ、深いが、傾向としては今後ロシアとの関係が深まっていくであろう。
一方、中国側では、習近平中国主席が北朝鮮よりも韓国訪問を優先させるなどの動きがあった。かつて「血で固めた友諠」と言われた中朝の関係は冷えきっており、伝統的記念日、たとえば、中朝同盟条約締結記念日(7月11日)に従来は盛大に祝賀していたが、今年はそれもやめてしまった。
このような変化を背景に、中国では感情的な反発が生じ、北朝鮮との関係のあり方が議論される機会が増えている。二、三の例を紹介する。

○12月8日付の香港の『大公報』紙は次のように評論している。
「環球時報(人民日報傘下の通俗紙)は最近、中国は北朝鮮を放棄すべきではないかというテーマで、連日にわたって激しい議論を掲載した。とくに、前南京軍区の王洪光副司令員が「もし朝鮮半島で再度戦争が起きても、中国としては他国のために戦争する必要はない」と直言したことなどが注目され、米国メディアも強い関心を見せた。
中国の学界で「北朝鮮切り捨て論」が唱えられるようになってすでに久しいが、この種の議論を公にすること、「北朝鮮切り捨て」の意見を公然と政府系の新聞が報道することは、多くの人に、中国政府は「北朝鮮切り捨て」について世論工作をしようとしているのではないか、という疑問を抱かせる。」

○「九个头条网(www.topnews9.com)」は、そのURLが示す通りトップニュースを流すサイトであるが、国連での決議に関連して、北朝鮮での人権状況を解説している。
国連では、「北朝鮮における人権に関する調査委員会(COI)」が2014年2月に報告書を発表して以来、国連人権理事会や国連総会で審議が続けられ、12月18日、国連総会は、北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託することや制裁の強化を安保理に要請する決議を賛成多数で採択した。両方とも安保理の決定が必要だからである。
安保理は、22日、総会が決定したことを安保理の議題とすること、つまり北朝鮮の人権問題をICCに付託し、北朝鮮に対する制裁を強化することを審議することを決定した。中国とロシアが反対したが、議題の決定に拒否権はないので、賛成多数で決定が採択されたのである。
国連総会での北朝鮮に対する決議は、過去10年連続で今回が10回目であった。その意味ではこれまで繰り返されてきた決議であるが、外務省は「北朝鮮人権状況決議の内容を踏まえた、これまで国連総会本会議において採択された北朝鮮人権状況決議よりも強い内容となっています」と解説している。
新しい点はここまでであろう。安保理は審議を開始したが、ICCへの付託も制裁の強化も決定されることはないと思われる。中国とロシアはこの種の問題についてはつねに反対するからである。中国の反対は北朝鮮を擁護することが目的とは限らない。西側の基準で人権状況を判断され、国連として決定されると中国自身が困るからでもある。

一方、中国のインターネット・サイトには中国政府とは異なる姿勢が見られる。「九个头条网」の報道がその例である、
このサイトが問題として取り上げたことは、食べ物を与えないこと、残酷刑、恣意的な拘留、弱者の軽視、言論の自由の侵犯、生存権に対する侵犯、移動の自由制限、強制連行である。
この解説は、北朝鮮が問題ある振る舞いを行ない中朝関係を悪化させていることを間接的に批判しているのであろう。しかしそれは表面のことである。むしろ、北朝鮮問題にかこつけて、中国自身の人権状況に対する国民の意識を高揚させることが狙いではないかと思われる。

○中国には、金正恩が訪中することを期待する声もある。
12月29日付の『大公報』紙は、中国の学界には異なる意見があり、中国人民大学が2013年7月に開催したシンポジウムで訪中の可能性を指摘した意見があったことや、2014年9月に中国の在韓国大使もその趣旨のことを発言したなどと報道している。
2014.12.28

東シナ海防空識別圏での警告撤回?

中国が2013年秋に突然設置した東シナ海の防空識別圏に関し、指示された手続きを経ないで侵入した航空機に対し、「軍当局が防御的緊急措置を取る」という運用規則を削除していることが判明した。
防空識別圏は各国が自らの判断で、つまり他国の了承を得ないで定めるもので、その範囲は通常領空よりかなりはみ出している。領空に接近してくる航空機がどの国のもので、また危険がないか判断するためには領空より広い範囲で識別する必要があるからである。そして、その範囲内に不審な航空機が侵入してきた場合、いざという場合に備えて戦闘機が緊急発進し、対象の飛行機を識別する。これを日米などではスクランブルと言っている。 
各国が自主的に設置するという意味では中国の措置は国際的にとやかく言われる筋合いのことではなく、中国側もしきりにその点を強調しているが、中国の設置した識別圏は他国の領空を含めており、したがって、他国の領空であっても中国の戦闘機が飛び交うことになる。上海沖の、中国海軍の基地がある島の上空を含める形で日本が防空識別圏を設置しなおしたら大問題になるであろう。防空識別圏の範囲をどのように設定するかはきわめて微妙な問題である。
また、中国の防空識別圏は日本の防空識別圏と重なる部分がかなりあり、その空域では日中両国の戦闘機が相手側を識別しようとするので、衝突したり、防御しあったり、つまり攻撃しあったりする恐れがある。一般論として、地形から防空識別圏が重なることとなるのであれば、そもそもそのような重複を避けるよう識別圏を設定すべきであり、また、歴史上の理由からそのような識別圏の重複がすでに起こっている場合は、危険を回避するよう運用しなければならない。
しかし、中国はそのような協議・調整を行うことなく、各国の自主的措置であるという防空識別圏の一つの性格だけを理由に勝手に東シナ海の防空識別圏を設置した。各国の自主的措置であるという点では国際ルールに従っているとしても、他国の領空を犯さないという原則を無視し、航空機の安全な飛行を確保する姿勢に欠ける行為であると言わざるをえない。
しかも、中国が東シナ海に設置した防空識別圏の運用には「軍当局が防御的緊急措置を取る」という警告が含まれていた。これは、中国側の判断で、識別圏の中に入ってきた航空機を撃墜することがありうる、という恐ろしい運用規則であった。
今回中国がこの文言を撤回したのは各紙に報道されているように、国際批判をかわすためであろう。しかし、中国は防空識別圏を撤回したのではなく、この恐ろしい警告を撤回しただけである。他国の領空を犯すことは変えていない。他国の既存の防空識別圏と重なる新しい識別圏を設置することによって事故が発生する危険を作り出したという問題点も払しょくされていない。「軍当局が防御的緊急措置を取る」という警告が撤回されたのは前進であるが、中国の軍が実際にどのように行動するかが問題であり、その点は文言の撤回しも関わらず何も変わっていないとみる向きもある。今回の警告の撤回はせいぜい半歩前進とみるべきであろう。
2014.12.27

南沙諸島・東沙諸島に対する台湾の実効支配

中国の南沙諸島での行動には各国の注意が向く一方、台湾の行動が話題に上ることは少ない。目立った変化はないからであるが、久しぶりに台湾の新聞が台湾政府の動きを報道している。

南沙諸島で最大の島である太平島は、中国と周辺の東南アジア諸国も領有権を主張しているが、実効支配しているのは台湾である。現在、海岸巡防署(日本の海上保安庁に当たる)の施設があるが、島の防衛能力を高めるために、要員の配置、装備などを強化しなければならないという議論が以前から存在しており、台湾政府は現在滑走路と埠頭を拡張する工事を進めている。
台湾政府はさらに、この島に灯台を建設する決定を行なった。1年くらい前から準備が進められ、すでに建設設計業者の入札も終わっている。工事が完成すれば、C130輸送機やP3C対潜哨戒機も発着可能になる。
しかし、南沙諸島でこのような工事をすれば、実効支配を強化しようとしていると関係諸国からクレームがつく恐れがある。台湾政府は、灯台は海難を防止するのに役立つ、付近の海域を航行しているのは台湾船よりフィリピンやベトナムの船が多いので歓迎されるはずだと説明しているが、それは自らに都合のよい議論でしかないかもしれない。

東沙島は若干の岩礁とともに東沙諸島を形成しており、やはり第二次大戦終了以来の経緯で台湾が実効支配している。この島は東沙諸島の中で満潮時にも水没しない唯一の島で、もともと無人島であったが、領有権問題があるので台湾政府は軍関係者を常駐させており、滑走路の他宿泊施設やテニスコートなども建設している。
東沙諸島は南シナ海のなかで中国に最も近く、それだけ中国の圧力は強くなるが、台湾は死守しており、国内的にも関心は強い。2008年2月、台湾の総統選挙の直前であったにもかかわらず陳水扁総統がこの島を視察したのは強い指導者であることを、中国嫌いの台湾人にアピールするためだったのであろう。
これに対し中国は抗議の声を上げる一方、翌3月の総統選挙に乗じ、東沙島から1kmの海域に大量の漁船を派遣し、貨物廃船を使って2万8千平方メートルの広さで30人が常駐可能な簡易漁船基地を構築した。驚いた台湾政府はこれをただちに撤去した。
馬英九新総統は選出から半年後の2008年9月に東沙島を視察している。馬英九は中国との関係で柔軟であり、そのために2014年末の地方選挙で惨敗を喫したのであるが、そのような政治傾向であっても東沙島については台湾内部の世論に配慮する必要があったのである。
東沙島についてもかねてから灯台建設問題があり、2009年、建設計画が作成されたが、しかし緊急性はないと判断され延期となった。灯台は付近を航行する船舶の便宜のためというのが建前であるが、領有権問題の影が及んでいたのである。このような経緯にかんがみ、南沙諸島の太平島で灯台を建設する決定は東沙島にも影響するのではないかと見られている。

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