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2015.01.12

安全保障に関する法律改正

THEPAGEに1月12日掲載されたもの。

「2014年7月に閣議決定された安全保障法制に関する新方針は、日本は個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権を行使することはできないという従来の憲法解釈を変更して、厳格な要件を満たす場合には行使も可能にしました。現在、その方針に従って関連の諸法律を改正する準備が進められています。
 第1に、いわゆる多国籍軍や米軍にどの程度、また、どのように協力するかという問題に関する改正です。2001年9月の米国における同時多発テロ事件の後、アフガニスタンにおいて米国をはじめ多数の国がテロ集団やそれを保護していたタリバン政権と戦いました。また2003年には大量破壊兵器を開発・保有しているとみられたイラクに対する戦争が行われました。日本は戦争に巻き込まれてはならないので、自衛隊の活動を「非戦闘地域」に限りながら輸送、医療、給油などの面で協力しました。
しかし、アフガニスタン、あるいはイラクというように個別のケースごとに法律を作るのでは時間的に後れを取ることとなる恐れがあり、また、日本として一貫した姿勢で臨む上でも問題があります。そこで新方針は、恒久法を制定して、「非戦闘地域」としてあらかじめ設定された安全な地域に限定するのでなく、「現に戦闘行為を行なっている現場では支援活動は実施しない」という原則により対処することにしました。平たく言えば、以前は自衛隊が活動できる地域をポジリスト的に指定していたのを、新方針は活動できない地域をネガリスト的に示した、と言えるでしょう。
第2に、自衛隊が米軍と協力して行動できる地理的範囲についての改正です。元来、日米安保条約の下で自衛隊が米軍と協力できるのは「日本の施政下にある領域」、つまり、日本の領域だけでしたが、冷戦終結後のアジア太平洋の状況にかんがみ、1999年の「周辺事態法」は、物品や役務の提供、あるいは捜索救難など限られた範囲の行動であれば日本周辺の公海上でも可能にしました。
閣議決定された新しい方針はこの問題にとくに言及していませんが、集団的自衛権の行使についての考えが変わった結果、日米の協力を「周辺事態」に限定する必要性はなくなるでしょう。したがって、日本周辺に限らず、どこでも米軍に協力できるようにする法律が周辺事態法に代わって制定される可能性があります。
また、集団的自衛権を行使するには、地理的範囲の拡大のみならず、自衛隊の行動基準を、「存立事態」など閣議決定された要件に見合ったものとする必要があり、自衛隊法など関連の法律の改正が行われる可能性があります。
第3に、平和維持活動(PKO)は紛争が終了した後に国連によって始められるものです。しかし、紛争が終了しているか否か判断が困難な場合があり、実際に終了していなければPKO部隊が紛争に巻き込まれる恐れがあります。国連はその判断のために、「紛争当事者間に停戦の合意があるか否か」ということと、「紛争当事者がPKOを受け入れることに合意しているか否か」を確かめることにしています。
日本は、この2つの基準を国連よりさらに厳しく運用してきました。日本のPKO参加のため1992年に制定されたPKO法とその運用方針である「PKO参加5原則」はそのような厳格な考えに立って武器の使用を厳しく制限しているため、自衛隊と同じ場所でPKOに参加している他国の部隊や民間人を危険から守ること、いわゆる「駆わけ付け警護」はできませんでした。
しかしこれではPKOとしての任務を十分に遂行することができません。新方針は、「駆けつけ警護」や邦人救出の際には必要な程度武器を使用できるようにすべきであるとしました。この考えに従い、PKO法と「PKO参加5原則」の他、自衛隊の権限と行動を定めている自衛隊法95条などが改正されることとなるでしょう。
第4に、いわゆるグレーゾーンの事態について、新方針は、離島の周辺地域等において外部から不法な侵入・侵害が発生し、警察力で直ちに対応できない場合には自衛隊が行動できるように必要な法整備を行なうとしています。
この他、他国の領海内を潜水艦が通過する場合海上を航行しなければならないという国際法の規則に違反して、外国潜水艦が潜没航行する場合にも自衛隊が対処できるよう法律を改正すべきだと言われています。この問題に関する政府の具体的な方針はまだ示されていませんが、やはり重要な問題として注目していく必要があります。
 なお、中期的な観点から定められる日米の防衛協力についてのガイドラインは以上の諸点と密接な関係があるので、日本での法案の準備状況を見ながら策定されるものと思われます。」

2015.01.11

やはり体制維持が心配か

昨年も何回か取り上げたが、中国にあって日本にないことの一つが、現体制を維持できるかという心配である。日本に何ら心配の種がないというのでは決してなく、将来の日本は今より状況が悪くなるのではないか、国の借金は返せなくなるのではないか、というような心配はあるが、日本の民主的な政治体制がなくなることを心配している人は、いてもまれであろう。しかし、中国では現体制が将来も続いていくか、国家の指導者も国民も心配している。国民の中には続かないことを期待している人もあるようである。
ともかく、中国ではこのような問題に関係する議論が時折表に出てきた。今年も間違いなく何回か出てくるであろう。その第1号というわけでもないが、今年初めて気づいた心配論を紹介しておく。中国軍の機関紙『解放軍報』の新年の辞である。

新年の辞は、軍に課せられた任務・責任は重く、思想工作をよく行いながら国防を強化し、 軍隊を改革しなければならないと、もっともではあるがありきたりのことから始めて、次のように述べている。
「我が国を取り巻く情勢は総じて穏やか(穏定)であるが、危険も積み重なり(風険呈累積態勢)、安全を左右する変数は増えている。いくつかの(一些)西側の国は我が国に対して「花革命」の策動を強めており(注 アラブの春として知られている民主化を求める革命を中国ではそのように呼んでいる。「顔色革命」あるいは「ジャスミン革命」とも言う)、インターネット上で「文化冷戦」と「政治変革の基因(政治転基因)」のプロセス(工程)を強化し、わが軍の兵士を腑抜けの人間にしようとしており(抜根去魂)、軍隊を党の指導の旗印の下から引きずり出そうとしている。意識形態(注 イデオロギーのこと)と政治的安全の領域に対する挑戦はかなり厳しい(注 要するにイデオロギーと政治が激しく攻撃されていると言っているのである)。全軍の兵士は危険意識、使命感をしっかりと高め、党中央、中央軍事委員会及び習近平主席の言うことによく従い、新しい世代の革命軍人としての歴史的使命を勇敢に担っていかなければならない。」

これは人民解放軍兵士に対する呼びかけであり、鼓舞するために大げさに誇張した表現が随所に使われているのはこの種の文章として何ら不思議でない。新年の辞を語る方も、それを聞く兵士の側もこのような議論は誇張だと知りながら語り、また、聞いている。しかし、このような議論は、中国では荒唐無稽でなく、一定程度現実味がある。まったく荒唐無稽であればどれほど叱咤激励しても逆効果になるだけである。つまり、西側諸国が中国に対して危険なことを試みているというのは、半ば本当に思っていることなのである。そのように考えるのは、現体制がいつまで続くか、心配しているからではないか。

なお蛇足になるが、この機会に中国軍兵士の紀律維持について一言言っておきたい。中国軍は外国に知られていないせいか、兵士は強者ぞろいで戦闘精神は旺盛だという印象が強いが、人民解放軍の中には演習の際にイヤホンで音楽を聴いている若い兵士がいるそうである。また、2012年、中国の誇る空母「遼寧」が就航した際に作られた内部規則には艦内で男女の兵士が同室することを厳しく制限する一文が入っていた。軍当局は、米国の空母にならって規則を作ったと説明したが、この一文は必要ないのにただお手本の米艦の規則にあったからそのまま残したのか。私はそう思わない。必要があったからであろう。
中国の兵士が演習中にDVDで西側の音楽を聞くようになったのは、外国が中国の兵士を腑抜けにしようと工作した結果でないことは明らかである。解放軍報がどのような主張を展開しようと、中国軍内でも兵士の紀律をいかに維持するか、必ずしも簡単でないようだ。
2015.01.08

青天白日旗の掲揚

台湾の在米国代表処(台北経済文化代表処)が元旦に、台湾の所有する雙橡園(Twin Oaks)で36年ぶりに青天白日旗(「中華民国」の国旗)を掲揚したため、米中間でちょっとした問題となった。
雙橡園(Twin Oaks)は、米国が中華民国と外交関係を維持していた時代の中華民国大使の公邸である。もちろんワシントン特別区内にある。
1979年1月に米国は中華人民共和国と国交を樹立することとなり、そのことを察知した中華民国大使館は、米国の親台湾議員の協力を得て、雙橡園(Twin Oaks)はじめ大使館事務所、武官駐在所など中華民国所有の財産をいったん民間に売却して中華人民共和国政府に強制的に引き渡されるのを防ぎ、その後台湾があらためて買い戻して米国の遺跡として国務省に登録した経緯がある。現在は台北経済文化代表処が台湾の国慶節祝賀会などに利用している。ちなみに、日本にあった「中華民国」の大使館などはすべて中華人民共和国に引き渡された。
元旦の祝賀会で台湾の沈呂巡代表は「中華民国は主権国家であり、外交官として何事をするにも米国にお伺いを立てるということはできない。米台関係は健康な、バランスの取れた関係である。今回の旗の掲揚は内部のことであり、米国政府には事前通報しなかった」などと発言したと台湾の新聞で報道されている。台湾の記者が青天白日旗の掲揚のことを総統府(台湾の内閣、つまり総統)は知っていたかと尋ねたのに対し、沈呂巡代表は「総統府と私の考えはちょっと違っている(隔了一個層級)」と答えたそうだ。
しかし、米中国交樹立に伴い、米国は中華人民共和国政府を承認し、またその旗、いわゆる五星紅旗を認め、青天白日旗は認めないこととした。その立場は今も変わっていない。雙橡園で元旦に青天白日旗を掲揚するのは政治問題になりうる。はたせるかな、中国は米国に対し抗議した。米国政府もこの旗の掲揚は認めないとし、国務省のサキ報道官は「米国政府は事前に知らされていなかった。このような儀式は米国の政策と一致しないし、その儀式に米国政府からは誰も出席していない」と説明した。
それで一件落着となりそうなものであるが、沈呂巡代表はその後も「米国の声明をよく読んでほしい。台湾を批判してはいない」などと強弁している。米国に派遣される台湾の代表はもっとも成功した外交官であるはずだが、それにしては、沈呂巡代表の言動は不可解なくらい思い込みが激しく、また米中台間の微妙な関係に対する配慮を欠くものである。
米台関係は民進党政権時代に落ち込み、馬英九総統になってから関係が改善され、台北経済文化代表処は活動を活発化させてきた。2011年にやはり雙橡園で双十節(台湾の国慶節)レセプションを再開したのは一つのステップであった。今回の青天白日旗掲揚については、総統府は違った考えであったが、沈呂巡代表はその延長線で見ており、大丈夫だと踏んでいたのかもしれない。しかし、それは明らかに判断ミスであったと思われる。

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