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2015.06.25
中国側のもう一人の代表である汪洋副首相は、「中米両国は対抗するより対話がよい。対話してもすべてのことについて双方とも勝つというわけにはいかないが、対抗すれば双方とも負けることがありうる。中米両国は以前のように大国同士が対抗する道を歩むことはできない。協力の道路は平たんでないこともある。世の中は元来道などない。多くの人が歩けば道になる」などと発言した(香港の大公報や明報などの24日報道)。
汪洋副首相としては工夫した表現だったのであろう。一面の道理をついているが、この言葉は、なんでも既成事実化できるという意味にもとれるし、さらに数の論理を是認していると言えるかもしれない。踏み固めて道を作るのに人が多いほうが都合がよいからである。
中国の表現が素晴らしいことは、日本人はよく知っており、日本語に多数取り入れている。しかし、発言の時には注意が必要である。同じ漢字だから同じ意味であるはずだというのはあまりにもナイーブである。「湯」は、日本では銭湯を指すことが珍しくないが、中国では普通「スープ」のことであり、「タンメン(湯麺)」の「タン」である。そのようなことを知っている中国人は賢明である。一方、「湯」は「スープ」の意味であり、日本人もそのように使うべきだというのは大国ショービニズムであろう。なお、「熱いお湯」は現代中国語では「湯」と言わず、「開水」が普通である。
汪洋副首相の発言の意図は那辺にあったのか。南シナ海で中国の行動が問題になった直後であるだけに気になるが、数の論理を是認していたのではないと思いたい。中米戦略経済対話では、中国が「大国」であることを米国に認めてもらいたいと望んでおり、そのような場合に米国を刺激する、数の論理を肯定することは常識的にはないだろうからである。
(短文)米中戦略経済対話での汪洋副首相の発言
米中戦略経済対話は6月23日から2日間ワシントンで開催された。米側のバイデン副大統領が南シナ海の問題について強い言葉で米国の立場を述べ、中国側の劉延東副首相が米国と新しい大国間関係を構築したいと述べたことなどは予想された通りの発言であった。中国側のもう一人の代表である汪洋副首相は、「中米両国は対抗するより対話がよい。対話してもすべてのことについて双方とも勝つというわけにはいかないが、対抗すれば双方とも負けることがありうる。中米両国は以前のように大国同士が対抗する道を歩むことはできない。協力の道路は平たんでないこともある。世の中は元来道などない。多くの人が歩けば道になる」などと発言した(香港の大公報や明報などの24日報道)。
汪洋副首相としては工夫した表現だったのであろう。一面の道理をついているが、この言葉は、なんでも既成事実化できるという意味にもとれるし、さらに数の論理を是認していると言えるかもしれない。踏み固めて道を作るのに人が多いほうが都合がよいからである。
中国の表現が素晴らしいことは、日本人はよく知っており、日本語に多数取り入れている。しかし、発言の時には注意が必要である。同じ漢字だから同じ意味であるはずだというのはあまりにもナイーブである。「湯」は、日本では銭湯を指すことが珍しくないが、中国では普通「スープ」のことであり、「タンメン(湯麺)」の「タン」である。そのようなことを知っている中国人は賢明である。一方、「湯」は「スープ」の意味であり、日本人もそのように使うべきだというのは大国ショービニズムであろう。なお、「熱いお湯」は現代中国語では「湯」と言わず、「開水」が普通である。
汪洋副首相の発言の意図は那辺にあったのか。南シナ海で中国の行動が問題になった直後であるだけに気になるが、数の論理を是認していたのではないと思いたい。中米戦略経済対話では、中国が「大国」であることを米国に認めてもらいたいと望んでおり、そのような場合に米国を刺激する、数の論理を肯定することは常識的にはないだろうからである。
2015.06.24
かつては、政治局常務委員(当時は中国のトップナイン)まで追及の手は及ばないと、根拠はないが噂されており、周永康の裁判は習近平の反腐敗運動の本気度を示していた。
これに関し、何清漣は「周永康の案件は無期懲役の判決で幕を下ろした。多くの人は「虎たたき」は竜頭蛇尾に終わったと感じており、中国に「法治」はないことがあらためて証明された」と厳しい見解を発表している。
(同人は、大学で教えるかたわらジャーナリストとして活動していたが、2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)
反腐敗運動に関する報道は、周永康関係は別として、今春以来全体的に減少しているが、軍、国有企業、地方などでは摘発が続いている。歯に衣着せぬ何清漣は概略次のように述べている。
周永康の案件が終了した。習近平は反腐敗運動の方針を大調整しようとしている。
反腐敗運動を進める中央規律検査委員会のサイトに「政治を重視し、大局を見る」「突出した規律検査の特色」「監督審査方式を新たに作り出す」という3つの文章が掲載された。これらについて『人民日報』評論は表題で「反腐敗運動において今後新しい動きがある」と肯定的に言っているが、実態は逆であって「規律検査機関が独立王国となるのは絶対に許さない」という強いシグナルが込められている。
反腐敗運動の推進に伴い規律検査委員会は巨大な権力を手中に収めた。それにともなって同委員会の内部では様々な問題が起こっており、上級報告しないまま行動したり、下克上(原文は「倒逼」この言葉は2013年の流行語になった)的に下級の者が上級の者に強制したり、管理者に反対したりする者が居る。いい加減に事を済ませることや、既に決まっていることにちょっと上塗りをするだけで済ませることもある。
そのため人々は規律検査委員会がコントロールのきかない独立王国になっているのではないかと心配し始めている。このことを初めて指摘したのは人権擁護派の著名な弁護士であり、中国の「法治」はいっそう破壊されたと言っている。
一方、容赦ない反腐敗運動の結果、官僚の世界では不満があふれている。習近平や規律検査委員会を動かす王歧山としても考慮せざるをえなくなり、胡錦涛時代の痛くもかゆくもない取締りに戻ろうとしている。このような方針転換で喜ぶのは官僚であり、これからは、いつ検査の対象になるかも知れないと心配する必要はなくなっている。
反腐敗運動の旗振り役はもちろん習近平であり、王歧山だけでは周永康の訴追はできなかったが、王歧山は大きな役割を果たした。大きなことをしようとすれば、誰でもまず身の安全を確かめておいて行動するが、王岐山は危険を顧みず献身的に働いた。その結果、王歧山は有名になったが、それよりもはるかに大きな敵を作ってしまった。王岐山は早く身を引いたほうがよい。
周永康に対する裁判と並んで注目されたのは李小琳(李鵬元首相の娘)が「華能(中国の巨大電力企業)」から「大唐集団(やはり電力関係の国有企業)」の副総経理に異動になったことである 多くの人は、このことは反腐敗運動の矛先が李鵬元首相に向かうことを意味していると取っているが、ちょっと違うのではないか。
この人事とほぼ同時期に、中央規律検査委員会のサイト上で、今年の3月から国有企業に対する規律検査が始まり、中国華能集団公司をふくむ6企業についての検査結果が発表された。華能公司が李鵬一家によってコントロールされているのは誰でも知っている。
発表された報告は厳しい内容である。すなわち、幹部の中に賄賂を受け取る者が居る。職権を乱用し、配偶者、子女、親族に便宜を図っている。入札にかけるべき案件でも入札しないですませるケースが相次いでいる。派手な宴会など浪費が絶えない。幹部に対する監督は厳格でない。
これらの指摘は有名な汚職のケースであった三峡集团(巨大建設企業)について言われた「指導者のATMに成り下がっている」という指摘と大差ない。
李小琳が会長を務める「中国電力国際発展有限公司(華能の傘下)」の巡視結果はまだ発表されていないが、異動させられただけで何が起こったかすでにはっきりしている。住み慣れたところから別の企業に異動させられると、形式的な待遇等級は変わっていないとしても、何事にも不便であり、影響力はそう簡単に行使できない。
習近平は反腐敗運動の重点を調整し、中央規律検査委員会を旧式の検査体制に戻すかたわら国有企業に手を付けている。トップクラス指導者に対する取り締まりは周永康までやってきたが、道はなお遠く、これ以上は行かないだろう。
中国は経済不振で、国有企業に手を付けざるを得なくなっており、政府と国有企業の間で利益を再分配しようとしている。
政府は独占的権利を国有企業に与えてもうけさせた。しかし「共和国の長子」である国有企業は独占的権利を利用し私腹を肥やす集団になっている。納税の際には損失ばかり報告するのに経営管理層は非常な高給を取っている。
経済不振と財政困難に直面している政府は、国有企業という貪欲な狼から肉を吐き出させようとしているのである。李小琳のケースはその第一歩にすぎない。「紅色家族(革命功労者の家族)」を攻撃するのでなく、国有企業に対する警告である。習近平にとって「紅色家族」は大した問題でない。国有企業に跋扈している「紅色二代」は退職定年に近づいている者が多く、ほっておけばそのうちに解決する。「紅色三代」で問題になる例は少ない。
反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判
反腐敗運動は習近平が就任以来最も力を入れてきたことであり、いわゆる「虎たたき」も辞さない、すなわち大物であっても容赦はしないとして徹底的な取り締まりを進めてきたところ、周永康前政治局常務委員に対する無期懲役の判決が6月11日に発表された。かつては、政治局常務委員(当時は中国のトップナイン)まで追及の手は及ばないと、根拠はないが噂されており、周永康の裁判は習近平の反腐敗運動の本気度を示していた。
これに関し、何清漣は「周永康の案件は無期懲役の判決で幕を下ろした。多くの人は「虎たたき」は竜頭蛇尾に終わったと感じており、中国に「法治」はないことがあらためて証明された」と厳しい見解を発表している。
(同人は、大学で教えるかたわらジャーナリストとして活動していたが、2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)
反腐敗運動に関する報道は、周永康関係は別として、今春以来全体的に減少しているが、軍、国有企業、地方などでは摘発が続いている。歯に衣着せぬ何清漣は概略次のように述べている。
周永康の案件が終了した。習近平は反腐敗運動の方針を大調整しようとしている。
反腐敗運動を進める中央規律検査委員会のサイトに「政治を重視し、大局を見る」「突出した規律検査の特色」「監督審査方式を新たに作り出す」という3つの文章が掲載された。これらについて『人民日報』評論は表題で「反腐敗運動において今後新しい動きがある」と肯定的に言っているが、実態は逆であって「規律検査機関が独立王国となるのは絶対に許さない」という強いシグナルが込められている。
反腐敗運動の推進に伴い規律検査委員会は巨大な権力を手中に収めた。それにともなって同委員会の内部では様々な問題が起こっており、上級報告しないまま行動したり、下克上(原文は「倒逼」この言葉は2013年の流行語になった)的に下級の者が上級の者に強制したり、管理者に反対したりする者が居る。いい加減に事を済ませることや、既に決まっていることにちょっと上塗りをするだけで済ませることもある。
そのため人々は規律検査委員会がコントロールのきかない独立王国になっているのではないかと心配し始めている。このことを初めて指摘したのは人権擁護派の著名な弁護士であり、中国の「法治」はいっそう破壊されたと言っている。
一方、容赦ない反腐敗運動の結果、官僚の世界では不満があふれている。習近平や規律検査委員会を動かす王歧山としても考慮せざるをえなくなり、胡錦涛時代の痛くもかゆくもない取締りに戻ろうとしている。このような方針転換で喜ぶのは官僚であり、これからは、いつ検査の対象になるかも知れないと心配する必要はなくなっている。
反腐敗運動の旗振り役はもちろん習近平であり、王歧山だけでは周永康の訴追はできなかったが、王歧山は大きな役割を果たした。大きなことをしようとすれば、誰でもまず身の安全を確かめておいて行動するが、王岐山は危険を顧みず献身的に働いた。その結果、王歧山は有名になったが、それよりもはるかに大きな敵を作ってしまった。王岐山は早く身を引いたほうがよい。
周永康に対する裁判と並んで注目されたのは李小琳(李鵬元首相の娘)が「華能(中国の巨大電力企業)」から「大唐集団(やはり電力関係の国有企業)」の副総経理に異動になったことである 多くの人は、このことは反腐敗運動の矛先が李鵬元首相に向かうことを意味していると取っているが、ちょっと違うのではないか。
この人事とほぼ同時期に、中央規律検査委員会のサイト上で、今年の3月から国有企業に対する規律検査が始まり、中国華能集団公司をふくむ6企業についての検査結果が発表された。華能公司が李鵬一家によってコントロールされているのは誰でも知っている。
発表された報告は厳しい内容である。すなわち、幹部の中に賄賂を受け取る者が居る。職権を乱用し、配偶者、子女、親族に便宜を図っている。入札にかけるべき案件でも入札しないですませるケースが相次いでいる。派手な宴会など浪費が絶えない。幹部に対する監督は厳格でない。
これらの指摘は有名な汚職のケースであった三峡集团(巨大建設企業)について言われた「指導者のATMに成り下がっている」という指摘と大差ない。
李小琳が会長を務める「中国電力国際発展有限公司(華能の傘下)」の巡視結果はまだ発表されていないが、異動させられただけで何が起こったかすでにはっきりしている。住み慣れたところから別の企業に異動させられると、形式的な待遇等級は変わっていないとしても、何事にも不便であり、影響力はそう簡単に行使できない。
習近平は反腐敗運動の重点を調整し、中央規律検査委員会を旧式の検査体制に戻すかたわら国有企業に手を付けている。トップクラス指導者に対する取り締まりは周永康までやってきたが、道はなお遠く、これ以上は行かないだろう。
中国は経済不振で、国有企業に手を付けざるを得なくなっており、政府と国有企業の間で利益を再分配しようとしている。
政府は独占的権利を国有企業に与えてもうけさせた。しかし「共和国の長子」である国有企業は独占的権利を利用し私腹を肥やす集団になっている。納税の際には損失ばかり報告するのに経営管理層は非常な高給を取っている。
経済不振と財政困難に直面している政府は、国有企業という貪欲な狼から肉を吐き出させようとしているのである。李小琳のケースはその第一歩にすぎない。「紅色家族(革命功労者の家族)」を攻撃するのでなく、国有企業に対する警告である。習近平にとって「紅色家族」は大した問題でない。国有企業に跋扈している「紅色二代」は退職定年に近づいている者が多く、ほっておけばそのうちに解決する。「紅色三代」で問題になる例は少ない。
2015.06.22
両国間の歴史においてはさまざまな困難があり、日本による韓国併合は今日に至るも負の影響を残している。村山首相以来日本の歴代首相は、植民地支配によって韓国の人々に多大の苦痛と損害を与えたことを直視し、痛切な反省と心からのお詫びを表明してきた。
日韓両国は大きな努力を払って困難を克服し、関係を改善してきた。たとえば、韓国の対日差別的文化政策の撤廃により日韓間の文化交流は飛躍的に発展した。これにより両国民が得た利益は計り知れない。今後も両国間の交流をさらに深め、相互理解を増進し、協力しあう分野を拡大していきたい。
しかし、ここ数年、両国の関係は歴史問題などのために落ち込み、『朝日新聞』と韓国の『東亜日報』の共同世論調査によると、関係が良好でないと思っている人は日本で86%、韓国では90%と異常な高さに上っている。安倍首相と朴槿恵大統領の首脳会談が一度も実現していないことはそのような状況にある両国関係を象徴している。
この度国交正常化50周年が両国で慶祝されるに際して、両首脳が別々にではあるが、日韓両国の大使館で開催される行事に出席することとなった。これは大きな前進である。
韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相はすでに来日して岸田外相と、さらに安倍首相とも会談している。外相会談では日本の産業革命遺産の世界遺産への登録について双方が歩み寄って合意に達し、また、百済の歴史遺跡の登録に両国が協力することを約すなど、大きな成果を上げた。
一方、両国間にはなお解決すべき問題がある。韓国側は、日本の、とくに安倍首相の歴史に向き合う姿勢を問題視している。
一方、韓国側には政治と司法の両方にまたがる問題がある。その一つの例が産経新聞記者の裁判であり、韓国政府の取った措置は報道の自由を妨げるのではないか。
また、韓国政府は、朴槿恵政権が成立する以前であったが、慰安婦問題に関し韓国の憲法裁判所が下した決定に促され、それまでの態度を変えて日本政府に国家補償を求めるようになった。
これらは行政府だけの責任でなく、司法にまたがる問題であることは分かるが、憲法裁判所の決定だからと言って韓国政府が従来の見解を変えることは日本として受け入れられない。当然のことであるが、両国は日韓基本条約および請求権協定で決定したことを尊重する義務があり、韓国側が日本側の解釈に同意できないのであれば、同協定3条に明記されている方法で、つまり仲裁により解決を図る必要がある。
日韓両国政府が関係改善に動き出し、一歩どころか二歩も前進しているときにこんなことを言い出さなくてもよいと思われるかもしれないが、両国間の関係がさらに進展することを願うからこそ指摘しておきたい。
安倍首相と朴槿恵大統領には首脳会談を実現してほしい。そのために、安倍首相から、前提条件を付けず、歴史問題も含め両国間のあらゆる問題について話し合う用意があることを伝えるのが望ましい。
朴槿恵大統領は歴史問題について結果が出ることが先決などと言わないでほしい。
個人の信条はともかく、国家の指導者として議論し、お互いに確かめ合い、疑問を呈し、誤解があればその解消を図るべきであり、それは安倍首相も朴槿恵大統領もできるはずである。
日韓国交正常化50周年 両国関係を改善しよう
今年は日韓国交正常化が実現して50周年、両国で慶祝行事が行われる。両国間の歴史においてはさまざまな困難があり、日本による韓国併合は今日に至るも負の影響を残している。村山首相以来日本の歴代首相は、植民地支配によって韓国の人々に多大の苦痛と損害を与えたことを直視し、痛切な反省と心からのお詫びを表明してきた。
日韓両国は大きな努力を払って困難を克服し、関係を改善してきた。たとえば、韓国の対日差別的文化政策の撤廃により日韓間の文化交流は飛躍的に発展した。これにより両国民が得た利益は計り知れない。今後も両国間の交流をさらに深め、相互理解を増進し、協力しあう分野を拡大していきたい。
しかし、ここ数年、両国の関係は歴史問題などのために落ち込み、『朝日新聞』と韓国の『東亜日報』の共同世論調査によると、関係が良好でないと思っている人は日本で86%、韓国では90%と異常な高さに上っている。安倍首相と朴槿恵大統領の首脳会談が一度も実現していないことはそのような状況にある両国関係を象徴している。
この度国交正常化50周年が両国で慶祝されるに際して、両首脳が別々にではあるが、日韓両国の大使館で開催される行事に出席することとなった。これは大きな前進である。
韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相はすでに来日して岸田外相と、さらに安倍首相とも会談している。外相会談では日本の産業革命遺産の世界遺産への登録について双方が歩み寄って合意に達し、また、百済の歴史遺跡の登録に両国が協力することを約すなど、大きな成果を上げた。
一方、両国間にはなお解決すべき問題がある。韓国側は、日本の、とくに安倍首相の歴史に向き合う姿勢を問題視している。
一方、韓国側には政治と司法の両方にまたがる問題がある。その一つの例が産経新聞記者の裁判であり、韓国政府の取った措置は報道の自由を妨げるのではないか。
また、韓国政府は、朴槿恵政権が成立する以前であったが、慰安婦問題に関し韓国の憲法裁判所が下した決定に促され、それまでの態度を変えて日本政府に国家補償を求めるようになった。
これらは行政府だけの責任でなく、司法にまたがる問題であることは分かるが、憲法裁判所の決定だからと言って韓国政府が従来の見解を変えることは日本として受け入れられない。当然のことであるが、両国は日韓基本条約および請求権協定で決定したことを尊重する義務があり、韓国側が日本側の解釈に同意できないのであれば、同協定3条に明記されている方法で、つまり仲裁により解決を図る必要がある。
日韓両国政府が関係改善に動き出し、一歩どころか二歩も前進しているときにこんなことを言い出さなくてもよいと思われるかもしれないが、両国間の関係がさらに進展することを願うからこそ指摘しておきたい。
安倍首相と朴槿恵大統領には首脳会談を実現してほしい。そのために、安倍首相から、前提条件を付けず、歴史問題も含め両国間のあらゆる問題について話し合う用意があることを伝えるのが望ましい。
朴槿恵大統領は歴史問題について結果が出ることが先決などと言わないでほしい。
個人の信条はともかく、国家の指導者として議論し、お互いに確かめ合い、疑問を呈し、誤解があればその解消を図るべきであり、それは安倍首相も朴槿恵大統領もできるはずである。
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