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2015.06.24
かつては、政治局常務委員(当時は中国のトップナイン)まで追及の手は及ばないと、根拠はないが噂されており、周永康の裁判は習近平の反腐敗運動の本気度を示していた。
これに関し、何清漣は「周永康の案件は無期懲役の判決で幕を下ろした。多くの人は「虎たたき」は竜頭蛇尾に終わったと感じており、中国に「法治」はないことがあらためて証明された」と厳しい見解を発表している。
(同人は、大学で教えるかたわらジャーナリストとして活動していたが、2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)
反腐敗運動に関する報道は、周永康関係は別として、今春以来全体的に減少しているが、軍、国有企業、地方などでは摘発が続いている。歯に衣着せぬ何清漣は概略次のように述べている。
周永康の案件が終了した。習近平は反腐敗運動の方針を大調整しようとしている。
反腐敗運動を進める中央規律検査委員会のサイトに「政治を重視し、大局を見る」「突出した規律検査の特色」「監督審査方式を新たに作り出す」という3つの文章が掲載された。これらについて『人民日報』評論は表題で「反腐敗運動において今後新しい動きがある」と肯定的に言っているが、実態は逆であって「規律検査機関が独立王国となるのは絶対に許さない」という強いシグナルが込められている。
反腐敗運動の推進に伴い規律検査委員会は巨大な権力を手中に収めた。それにともなって同委員会の内部では様々な問題が起こっており、上級報告しないまま行動したり、下克上(原文は「倒逼」この言葉は2013年の流行語になった)的に下級の者が上級の者に強制したり、管理者に反対したりする者が居る。いい加減に事を済ませることや、既に決まっていることにちょっと上塗りをするだけで済ませることもある。
そのため人々は規律検査委員会がコントロールのきかない独立王国になっているのではないかと心配し始めている。このことを初めて指摘したのは人権擁護派の著名な弁護士であり、中国の「法治」はいっそう破壊されたと言っている。
一方、容赦ない反腐敗運動の結果、官僚の世界では不満があふれている。習近平や規律検査委員会を動かす王歧山としても考慮せざるをえなくなり、胡錦涛時代の痛くもかゆくもない取締りに戻ろうとしている。このような方針転換で喜ぶのは官僚であり、これからは、いつ検査の対象になるかも知れないと心配する必要はなくなっている。
反腐敗運動の旗振り役はもちろん習近平であり、王歧山だけでは周永康の訴追はできなかったが、王歧山は大きな役割を果たした。大きなことをしようとすれば、誰でもまず身の安全を確かめておいて行動するが、王岐山は危険を顧みず献身的に働いた。その結果、王歧山は有名になったが、それよりもはるかに大きな敵を作ってしまった。王岐山は早く身を引いたほうがよい。
周永康に対する裁判と並んで注目されたのは李小琳(李鵬元首相の娘)が「華能(中国の巨大電力企業)」から「大唐集団(やはり電力関係の国有企業)」の副総経理に異動になったことである 多くの人は、このことは反腐敗運動の矛先が李鵬元首相に向かうことを意味していると取っているが、ちょっと違うのではないか。
この人事とほぼ同時期に、中央規律検査委員会のサイト上で、今年の3月から国有企業に対する規律検査が始まり、中国華能集団公司をふくむ6企業についての検査結果が発表された。華能公司が李鵬一家によってコントロールされているのは誰でも知っている。
発表された報告は厳しい内容である。すなわち、幹部の中に賄賂を受け取る者が居る。職権を乱用し、配偶者、子女、親族に便宜を図っている。入札にかけるべき案件でも入札しないですませるケースが相次いでいる。派手な宴会など浪費が絶えない。幹部に対する監督は厳格でない。
これらの指摘は有名な汚職のケースであった三峡集团(巨大建設企業)について言われた「指導者のATMに成り下がっている」という指摘と大差ない。
李小琳が会長を務める「中国電力国際発展有限公司(華能の傘下)」の巡視結果はまだ発表されていないが、異動させられただけで何が起こったかすでにはっきりしている。住み慣れたところから別の企業に異動させられると、形式的な待遇等級は変わっていないとしても、何事にも不便であり、影響力はそう簡単に行使できない。
習近平は反腐敗運動の重点を調整し、中央規律検査委員会を旧式の検査体制に戻すかたわら国有企業に手を付けている。トップクラス指導者に対する取り締まりは周永康までやってきたが、道はなお遠く、これ以上は行かないだろう。
中国は経済不振で、国有企業に手を付けざるを得なくなっており、政府と国有企業の間で利益を再分配しようとしている。
政府は独占的権利を国有企業に与えてもうけさせた。しかし「共和国の長子」である国有企業は独占的権利を利用し私腹を肥やす集団になっている。納税の際には損失ばかり報告するのに経営管理層は非常な高給を取っている。
経済不振と財政困難に直面している政府は、国有企業という貪欲な狼から肉を吐き出させようとしているのである。李小琳のケースはその第一歩にすぎない。「紅色家族(革命功労者の家族)」を攻撃するのでなく、国有企業に対する警告である。習近平にとって「紅色家族」は大した問題でない。国有企業に跋扈している「紅色二代」は退職定年に近づいている者が多く、ほっておけばそのうちに解決する。「紅色三代」で問題になる例は少ない。
反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判
反腐敗運動は習近平が就任以来最も力を入れてきたことであり、いわゆる「虎たたき」も辞さない、すなわち大物であっても容赦はしないとして徹底的な取り締まりを進めてきたところ、周永康前政治局常務委員に対する無期懲役の判決が6月11日に発表された。かつては、政治局常務委員(当時は中国のトップナイン)まで追及の手は及ばないと、根拠はないが噂されており、周永康の裁判は習近平の反腐敗運動の本気度を示していた。
これに関し、何清漣は「周永康の案件は無期懲役の判決で幕を下ろした。多くの人は「虎たたき」は竜頭蛇尾に終わったと感じており、中国に「法治」はないことがあらためて証明された」と厳しい見解を発表している。
(同人は、大学で教えるかたわらジャーナリストとして活動していたが、2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)
反腐敗運動に関する報道は、周永康関係は別として、今春以来全体的に減少しているが、軍、国有企業、地方などでは摘発が続いている。歯に衣着せぬ何清漣は概略次のように述べている。
周永康の案件が終了した。習近平は反腐敗運動の方針を大調整しようとしている。
反腐敗運動を進める中央規律検査委員会のサイトに「政治を重視し、大局を見る」「突出した規律検査の特色」「監督審査方式を新たに作り出す」という3つの文章が掲載された。これらについて『人民日報』評論は表題で「反腐敗運動において今後新しい動きがある」と肯定的に言っているが、実態は逆であって「規律検査機関が独立王国となるのは絶対に許さない」という強いシグナルが込められている。
反腐敗運動の推進に伴い規律検査委員会は巨大な権力を手中に収めた。それにともなって同委員会の内部では様々な問題が起こっており、上級報告しないまま行動したり、下克上(原文は「倒逼」この言葉は2013年の流行語になった)的に下級の者が上級の者に強制したり、管理者に反対したりする者が居る。いい加減に事を済ませることや、既に決まっていることにちょっと上塗りをするだけで済ませることもある。
そのため人々は規律検査委員会がコントロールのきかない独立王国になっているのではないかと心配し始めている。このことを初めて指摘したのは人権擁護派の著名な弁護士であり、中国の「法治」はいっそう破壊されたと言っている。
一方、容赦ない反腐敗運動の結果、官僚の世界では不満があふれている。習近平や規律検査委員会を動かす王歧山としても考慮せざるをえなくなり、胡錦涛時代の痛くもかゆくもない取締りに戻ろうとしている。このような方針転換で喜ぶのは官僚であり、これからは、いつ検査の対象になるかも知れないと心配する必要はなくなっている。
反腐敗運動の旗振り役はもちろん習近平であり、王歧山だけでは周永康の訴追はできなかったが、王歧山は大きな役割を果たした。大きなことをしようとすれば、誰でもまず身の安全を確かめておいて行動するが、王岐山は危険を顧みず献身的に働いた。その結果、王歧山は有名になったが、それよりもはるかに大きな敵を作ってしまった。王岐山は早く身を引いたほうがよい。
周永康に対する裁判と並んで注目されたのは李小琳(李鵬元首相の娘)が「華能(中国の巨大電力企業)」から「大唐集団(やはり電力関係の国有企業)」の副総経理に異動になったことである 多くの人は、このことは反腐敗運動の矛先が李鵬元首相に向かうことを意味していると取っているが、ちょっと違うのではないか。
この人事とほぼ同時期に、中央規律検査委員会のサイト上で、今年の3月から国有企業に対する規律検査が始まり、中国華能集団公司をふくむ6企業についての検査結果が発表された。華能公司が李鵬一家によってコントロールされているのは誰でも知っている。
発表された報告は厳しい内容である。すなわち、幹部の中に賄賂を受け取る者が居る。職権を乱用し、配偶者、子女、親族に便宜を図っている。入札にかけるべき案件でも入札しないですませるケースが相次いでいる。派手な宴会など浪費が絶えない。幹部に対する監督は厳格でない。
これらの指摘は有名な汚職のケースであった三峡集团(巨大建設企業)について言われた「指導者のATMに成り下がっている」という指摘と大差ない。
李小琳が会長を務める「中国電力国際発展有限公司(華能の傘下)」の巡視結果はまだ発表されていないが、異動させられただけで何が起こったかすでにはっきりしている。住み慣れたところから別の企業に異動させられると、形式的な待遇等級は変わっていないとしても、何事にも不便であり、影響力はそう簡単に行使できない。
習近平は反腐敗運動の重点を調整し、中央規律検査委員会を旧式の検査体制に戻すかたわら国有企業に手を付けている。トップクラス指導者に対する取り締まりは周永康までやってきたが、道はなお遠く、これ以上は行かないだろう。
中国は経済不振で、国有企業に手を付けざるを得なくなっており、政府と国有企業の間で利益を再分配しようとしている。
政府は独占的権利を国有企業に与えてもうけさせた。しかし「共和国の長子」である国有企業は独占的権利を利用し私腹を肥やす集団になっている。納税の際には損失ばかり報告するのに経営管理層は非常な高給を取っている。
経済不振と財政困難に直面している政府は、国有企業という貪欲な狼から肉を吐き出させようとしているのである。李小琳のケースはその第一歩にすぎない。「紅色家族(革命功労者の家族)」を攻撃するのでなく、国有企業に対する警告である。習近平にとって「紅色家族」は大した問題でない。国有企業に跋扈している「紅色二代」は退職定年に近づいている者が多く、ほっておけばそのうちに解決する。「紅色三代」で問題になる例は少ない。
2015.06.22
両国間の歴史においてはさまざまな困難があり、日本による韓国併合は今日に至るも負の影響を残している。村山首相以来日本の歴代首相は、植民地支配によって韓国の人々に多大の苦痛と損害を与えたことを直視し、痛切な反省と心からのお詫びを表明してきた。
日韓両国は大きな努力を払って困難を克服し、関係を改善してきた。たとえば、韓国の対日差別的文化政策の撤廃により日韓間の文化交流は飛躍的に発展した。これにより両国民が得た利益は計り知れない。今後も両国間の交流をさらに深め、相互理解を増進し、協力しあう分野を拡大していきたい。
しかし、ここ数年、両国の関係は歴史問題などのために落ち込み、『朝日新聞』と韓国の『東亜日報』の共同世論調査によると、関係が良好でないと思っている人は日本で86%、韓国では90%と異常な高さに上っている。安倍首相と朴槿恵大統領の首脳会談が一度も実現していないことはそのような状況にある両国関係を象徴している。
この度国交正常化50周年が両国で慶祝されるに際して、両首脳が別々にではあるが、日韓両国の大使館で開催される行事に出席することとなった。これは大きな前進である。
韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相はすでに来日して岸田外相と、さらに安倍首相とも会談している。外相会談では日本の産業革命遺産の世界遺産への登録について双方が歩み寄って合意に達し、また、百済の歴史遺跡の登録に両国が協力することを約すなど、大きな成果を上げた。
一方、両国間にはなお解決すべき問題がある。韓国側は、日本の、とくに安倍首相の歴史に向き合う姿勢を問題視している。
一方、韓国側には政治と司法の両方にまたがる問題がある。その一つの例が産経新聞記者の裁判であり、韓国政府の取った措置は報道の自由を妨げるのではないか。
また、韓国政府は、朴槿恵政権が成立する以前であったが、慰安婦問題に関し韓国の憲法裁判所が下した決定に促され、それまでの態度を変えて日本政府に国家補償を求めるようになった。
これらは行政府だけの責任でなく、司法にまたがる問題であることは分かるが、憲法裁判所の決定だからと言って韓国政府が従来の見解を変えることは日本として受け入れられない。当然のことであるが、両国は日韓基本条約および請求権協定で決定したことを尊重する義務があり、韓国側が日本側の解釈に同意できないのであれば、同協定3条に明記されている方法で、つまり仲裁により解決を図る必要がある。
日韓両国政府が関係改善に動き出し、一歩どころか二歩も前進しているときにこんなことを言い出さなくてもよいと思われるかもしれないが、両国間の関係がさらに進展することを願うからこそ指摘しておきたい。
安倍首相と朴槿恵大統領には首脳会談を実現してほしい。そのために、安倍首相から、前提条件を付けず、歴史問題も含め両国間のあらゆる問題について話し合う用意があることを伝えるのが望ましい。
朴槿恵大統領は歴史問題について結果が出ることが先決などと言わないでほしい。
個人の信条はともかく、国家の指導者として議論し、お互いに確かめ合い、疑問を呈し、誤解があればその解消を図るべきであり、それは安倍首相も朴槿恵大統領もできるはずである。
日韓国交正常化50周年 両国関係を改善しよう
今年は日韓国交正常化が実現して50周年、両国で慶祝行事が行われる。両国間の歴史においてはさまざまな困難があり、日本による韓国併合は今日に至るも負の影響を残している。村山首相以来日本の歴代首相は、植民地支配によって韓国の人々に多大の苦痛と損害を与えたことを直視し、痛切な反省と心からのお詫びを表明してきた。
日韓両国は大きな努力を払って困難を克服し、関係を改善してきた。たとえば、韓国の対日差別的文化政策の撤廃により日韓間の文化交流は飛躍的に発展した。これにより両国民が得た利益は計り知れない。今後も両国間の交流をさらに深め、相互理解を増進し、協力しあう分野を拡大していきたい。
しかし、ここ数年、両国の関係は歴史問題などのために落ち込み、『朝日新聞』と韓国の『東亜日報』の共同世論調査によると、関係が良好でないと思っている人は日本で86%、韓国では90%と異常な高さに上っている。安倍首相と朴槿恵大統領の首脳会談が一度も実現していないことはそのような状況にある両国関係を象徴している。
この度国交正常化50周年が両国で慶祝されるに際して、両首脳が別々にではあるが、日韓両国の大使館で開催される行事に出席することとなった。これは大きな前進である。
韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相はすでに来日して岸田外相と、さらに安倍首相とも会談している。外相会談では日本の産業革命遺産の世界遺産への登録について双方が歩み寄って合意に達し、また、百済の歴史遺跡の登録に両国が協力することを約すなど、大きな成果を上げた。
一方、両国間にはなお解決すべき問題がある。韓国側は、日本の、とくに安倍首相の歴史に向き合う姿勢を問題視している。
一方、韓国側には政治と司法の両方にまたがる問題がある。その一つの例が産経新聞記者の裁判であり、韓国政府の取った措置は報道の自由を妨げるのではないか。
また、韓国政府は、朴槿恵政権が成立する以前であったが、慰安婦問題に関し韓国の憲法裁判所が下した決定に促され、それまでの態度を変えて日本政府に国家補償を求めるようになった。
これらは行政府だけの責任でなく、司法にまたがる問題であることは分かるが、憲法裁判所の決定だからと言って韓国政府が従来の見解を変えることは日本として受け入れられない。当然のことであるが、両国は日韓基本条約および請求権協定で決定したことを尊重する義務があり、韓国側が日本側の解釈に同意できないのであれば、同協定3条に明記されている方法で、つまり仲裁により解決を図る必要がある。
日韓両国政府が関係改善に動き出し、一歩どころか二歩も前進しているときにこんなことを言い出さなくてもよいと思われるかもしれないが、両国間の関係がさらに進展することを願うからこそ指摘しておきたい。
安倍首相と朴槿恵大統領には首脳会談を実現してほしい。そのために、安倍首相から、前提条件を付けず、歴史問題も含め両国間のあらゆる問題について話し合う用意があることを伝えるのが望ましい。
朴槿恵大統領は歴史問題について結果が出ることが先決などと言わないでほしい。
個人の信条はともかく、国家の指導者として議論し、お互いに確かめ合い、疑問を呈し、誤解があればその解消を図るべきであり、それは安倍首相も朴槿恵大統領もできるはずである。
2015.06.19
「2015年のG7サミットは6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催されました。ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点でした。議論の結果は、ロシアにミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守すること、およびウクライナ領内の親ロシア派に対する越境支援を中止することを求め、ロシアが応じなければ制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となりました。
実は、サミット参加7カ国のロシアに対する立場は同一でなく、もっとも強硬なのは米国です。
冷戦終結後、ロシアと西側諸国の関係は大いに改善され、1994年からロシアはG7に参加するようになりました。
しかし、ロシアが西側諸国と主張を異にすることはその後も生じています。ロシアがもっとも強く反発する相手は米国であり、時には米国に負けない軍事力を保有していることを誇示してまで対抗姿勢を見せることがあります。また国連でも、ロシアは中国とともに保守的な立場に立って米欧諸国に反対し、そのため国連として必要な結論が出せなくなる場合があります。
米国は長い冷戦時の経験と、このようなロシアの現状にかんがみると、ロシアに対し時には強い態度で臨まなければならないという確固とした信念があると思われます。
ロシアがクリミアの併合を強行したことはまさにそのように強く対処しなければならない事態であり、米国は他の西側諸国とともにロシアのクリミア併合を認めず、また、ウクライナ領内の親ロシア派に対してロシアが人的・物的支援を続けることを強く非難し、制裁措置の実施に踏み切りました。
一方、欧州諸国や日本は米国と共働しつつも、米国とは異なる事情によって一定程度影響を受けます。欧州諸国については、隣国であり、親ロシア派の問題で困難に陥っているウクライナを支援しなければならないが、ロシアからの天然ガス輸入への依存度が高いのでロシアと良好な関係を維持したいという両側面があります。
日本とロシアの関係も複雑です。ロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨み、制裁を課していることに不満であり、日本の姿勢は日ロ二国間関係に悪影響を及ぼすと、なかば脅しのようなことを口にすることもあります。
ロシアとしては、日ロ両国は隣国どうしであり、北方領土問題を解決して平和条約を結ばなければならないことを考慮すると、日本は米国と違った対応をしてもよいではないかという、一種の期待感があるように思われます。
日本にとって北方領土問題を解決することはもちろん重要な課題です。安倍首相は今年内にもプーチン大統領を日本に迎え、交渉を進めたいという考えをロシア側に伝えています。
一方、米国は、ロシアがウクライナで引き起こした問題が未解決のまま、日本がロシアとの関係を進めることは西側としての連帯を弱めると警戒しており、国務省の高官は日本の動きを牽制する発言を行っています。
このような状況の中で開催されたG7サミットは、安倍首相にとって日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする機会となり、各国首脳との二国間会談でロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解を求めました。
サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。 具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っています。
しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らないという保証はありません。かりにそうなれば、日本としても米欧諸国と並んで制裁の強化が必要となるでしょう。
来年のG7サミットは日本で開催されます。ロシアのG7への参加はクリミア併合以降停止されています。日本としては、ウクライナの問題を解決し、ロシアとの関係を進めて伊勢志摩サミットにプーチン大統領を迎えたいところですが、残念ながら事態はまだまだ流動的と言わざるをえません。
ウクライナ、北方領土……ジレンマの日ロ関係
THE PAGEに6月18日掲載されたもの。「2015年のG7サミットは6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催されました。ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点でした。議論の結果は、ロシアにミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守すること、およびウクライナ領内の親ロシア派に対する越境支援を中止することを求め、ロシアが応じなければ制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となりました。
実は、サミット参加7カ国のロシアに対する立場は同一でなく、もっとも強硬なのは米国です。
冷戦終結後、ロシアと西側諸国の関係は大いに改善され、1994年からロシアはG7に参加するようになりました。
しかし、ロシアが西側諸国と主張を異にすることはその後も生じています。ロシアがもっとも強く反発する相手は米国であり、時には米国に負けない軍事力を保有していることを誇示してまで対抗姿勢を見せることがあります。また国連でも、ロシアは中国とともに保守的な立場に立って米欧諸国に反対し、そのため国連として必要な結論が出せなくなる場合があります。
米国は長い冷戦時の経験と、このようなロシアの現状にかんがみると、ロシアに対し時には強い態度で臨まなければならないという確固とした信念があると思われます。
ロシアがクリミアの併合を強行したことはまさにそのように強く対処しなければならない事態であり、米国は他の西側諸国とともにロシアのクリミア併合を認めず、また、ウクライナ領内の親ロシア派に対してロシアが人的・物的支援を続けることを強く非難し、制裁措置の実施に踏み切りました。
一方、欧州諸国や日本は米国と共働しつつも、米国とは異なる事情によって一定程度影響を受けます。欧州諸国については、隣国であり、親ロシア派の問題で困難に陥っているウクライナを支援しなければならないが、ロシアからの天然ガス輸入への依存度が高いのでロシアと良好な関係を維持したいという両側面があります。
日本とロシアの関係も複雑です。ロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨み、制裁を課していることに不満であり、日本の姿勢は日ロ二国間関係に悪影響を及ぼすと、なかば脅しのようなことを口にすることもあります。
ロシアとしては、日ロ両国は隣国どうしであり、北方領土問題を解決して平和条約を結ばなければならないことを考慮すると、日本は米国と違った対応をしてもよいではないかという、一種の期待感があるように思われます。
日本にとって北方領土問題を解決することはもちろん重要な課題です。安倍首相は今年内にもプーチン大統領を日本に迎え、交渉を進めたいという考えをロシア側に伝えています。
一方、米国は、ロシアがウクライナで引き起こした問題が未解決のまま、日本がロシアとの関係を進めることは西側としての連帯を弱めると警戒しており、国務省の高官は日本の動きを牽制する発言を行っています。
このような状況の中で開催されたG7サミットは、安倍首相にとって日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする機会となり、各国首脳との二国間会談でロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解を求めました。
サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。 具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っています。
しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らないという保証はありません。かりにそうなれば、日本としても米欧諸国と並んで制裁の強化が必要となるでしょう。
来年のG7サミットは日本で開催されます。ロシアのG7への参加はクリミア併合以降停止されています。日本としては、ウクライナの問題を解決し、ロシアとの関係を進めて伊勢志摩サミットにプーチン大統領を迎えたいところですが、残念ながら事態はまだまだ流動的と言わざるをえません。
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