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2016.09.01
詳しくは、次に問い合わせください。
「大野木昇司 onogi@jcesc.com、onogish@yahoo.co.jp
日中環境協力支援センター有限会社 取締役
北京大野木環境コンサルティング有限公司 社長」
(記事内容)
現在中国内での製造業環境管理関係者の注目点は、2015年1月1日の改定版
環境保護法とそれに伴う罰則強化、2016年1月1日の改定版とそれに伴うVOC
(揮発性有機化合物)廃ガス規制強化、土壌汚染防止行動計画(通称、土十
条)による土壌汚染防止法の制定(2018年頃の見込み)、CO2排出規制など
であろう。これらも当然重要であり、10月セミナーでも解説する予定である
が、しかしこれだけではウォッチは不充分である。中国環境規制は、日本で
は報じられていない大きな変革の流れがいくつもあり、今後その対応が必要
になってくる。
・規制緩和と規制強化
国務院は現在、経済刺激策の一環として、また経済構造転換のため、規制
緩和を進めている。具体的には審査を廃止して届出制にしたり、中央審査を
地方審査にしたり、管理制度そのものをなくしたりしている。標準分野では
「強制標準の整理・統合・簡素化」、「企業標準の自己宣言公開制度化」が
進んでいる。環境分野でもこの流れにあり、例えば企業上場前環境審査を廃
止し、中国版PRTRとも称される危険化学品環境管理登記弁法を廃止した。
その一方で、汚染排出規制については大幅に強化している。排出基準値は
今や日本より厳しく、排出量に対して課金する汚染排出費制度、個別工場向
け総量規制の導入といった制度面のみならず、今までは甘かった環境制度運
用の厳格化、立入検査等取締り強化、日数罰金等処罰強化なども進めている。
・環境アセス制度の改革
環境汚染を有効に改善できない要因の一つに環境アセス制度の不徹底が挙
げられていた。環境汚職の温床ともなっていたが、環境大臣交代により停滞
していた環境アセス制度改革が加速した。具体的には、環境アセス有資格事
業者の行政組織からの分離、計画環境アセス強化、小影響事業の審査制から
届出制への変更による大中影響事業へのリソース集中、環境アセス報告書の
情報公開等が挙げられる。
・環境諸制度を排出許可証主体の環境管理制度に統合
これまでバラバラにできていた環境アセス、排出申告、排出許可証、総量
規制、濃度規制、排出費、排出権取引などの環境諸制度を、「排出許可証」
を軸とした環境管理制度に統合する方向性を、環境保護省が打ち出した。こ
れまで以上に総量規制が強調されることになり、汚染型産業はゼロエミッシ
ョン対策をせざるを得なくなっている。総量規制を理由に工場の新設・拡張
が許可されない事例が増えているのもこの流れを受けたものである。
・全包囲網的な環境監視
最近の環境規制は行政による強制力の強化のみならず、経済界や住民の力
を活用した環境監視強化などの全包囲網的な環境監視に特徴がある。
行政系の強制力には立入検査等取締り、公安機関との連携、司法機関との
連携、オンラインモニタリング強化(ビッグデータ、IoT等の影響で大きく
強化される見込み)等がある。
経済界を活用した環境監視には環境責任保険(保険会社による環境リスク
の査定あり)、企業環境信用制度、グリーンサプライチェーン制度等がある。
住民の力を活用した環境監視には環境情報公開、住民通報、市民参加、公
益訴訟等がある。
・グリーン製造工場
国務院「中国製造2025」の一環として「グリーン製造工場」の方針が打ち
出された。これは、単なる排出規制ではなく、製造工程そのもののエコ化・
グリーン化を指す。具体的には原材料・エネルギー・水の使用効率向上、汚
染排出とCO2排出原単位の改善、環境・省エネ・リビルド産業の振興、有毒
有害物質の代替、エネルギーや産業廃棄物のリサイクル推進、エコデザイン
・拡大生産者責任制、LCA徹底化、クリーンエネルギーへの転換、工業団地
単位でのエコ化などである。
排出規制は環境保護省の専権事項であるが、製造工程での環境対策や省エ
ネはむしろ工業・情報化省や国家発展改革委員会の担当となっており、中国
の環境行政だけを見て環境管理していれば見落とすことになる。
・多種の環境ラベルを大統合へ
中国には現在、環境ラベル認証制度が乱立している。代表的なものだけで
エネルギー効率ラベル、環境ラベル、環境ラベル低炭素認証、省エネ(節
水)製品ラベル、低炭素製品認証、リサイクルラベル、中国RoHS、トップラ
ンナー制度、エネ効率スターラベル等がある。さらにカーボンフットプリン
ト、製品エコデザイン制度も検討されている。省庁ごとの利権もあって乱立
状態となったが、今では行政側も業務重複による浪費となり、メーカー側も
それぞれ認証を取得すればコストがかさみ、一般消費者も選ぶのに苦労する
ことになるなど弊害が目立つようになった。2014年にようやくこれらのラベ
ル・認証制度を大統合する方針が示された。現在、環境ラベル大統合に向け
た検討が進められている。
中国の環境規制緩和と規制強化
日中環境協力支援センター有限会社の『中国環境・化学品・エネルギーレポート』 2016年8月31日付号外に中国の環境政策について参考になる記事が掲載されているので同社の許可を得て下記のとおり転載します。詳しくは、次に問い合わせください。
「大野木昇司 onogi@jcesc.com、onogish@yahoo.co.jp
日中環境協力支援センター有限会社 取締役
北京大野木環境コンサルティング有限公司 社長」
(記事内容)
現在中国内での製造業環境管理関係者の注目点は、2015年1月1日の改定版
環境保護法とそれに伴う罰則強化、2016年1月1日の改定版とそれに伴うVOC
(揮発性有機化合物)廃ガス規制強化、土壌汚染防止行動計画(通称、土十
条)による土壌汚染防止法の制定(2018年頃の見込み)、CO2排出規制など
であろう。これらも当然重要であり、10月セミナーでも解説する予定である
が、しかしこれだけではウォッチは不充分である。中国環境規制は、日本で
は報じられていない大きな変革の流れがいくつもあり、今後その対応が必要
になってくる。
・規制緩和と規制強化
国務院は現在、経済刺激策の一環として、また経済構造転換のため、規制
緩和を進めている。具体的には審査を廃止して届出制にしたり、中央審査を
地方審査にしたり、管理制度そのものをなくしたりしている。標準分野では
「強制標準の整理・統合・簡素化」、「企業標準の自己宣言公開制度化」が
進んでいる。環境分野でもこの流れにあり、例えば企業上場前環境審査を廃
止し、中国版PRTRとも称される危険化学品環境管理登記弁法を廃止した。
その一方で、汚染排出規制については大幅に強化している。排出基準値は
今や日本より厳しく、排出量に対して課金する汚染排出費制度、個別工場向
け総量規制の導入といった制度面のみならず、今までは甘かった環境制度運
用の厳格化、立入検査等取締り強化、日数罰金等処罰強化なども進めている。
・環境アセス制度の改革
環境汚染を有効に改善できない要因の一つに環境アセス制度の不徹底が挙
げられていた。環境汚職の温床ともなっていたが、環境大臣交代により停滞
していた環境アセス制度改革が加速した。具体的には、環境アセス有資格事
業者の行政組織からの分離、計画環境アセス強化、小影響事業の審査制から
届出制への変更による大中影響事業へのリソース集中、環境アセス報告書の
情報公開等が挙げられる。
・環境諸制度を排出許可証主体の環境管理制度に統合
これまでバラバラにできていた環境アセス、排出申告、排出許可証、総量
規制、濃度規制、排出費、排出権取引などの環境諸制度を、「排出許可証」
を軸とした環境管理制度に統合する方向性を、環境保護省が打ち出した。こ
れまで以上に総量規制が強調されることになり、汚染型産業はゼロエミッシ
ョン対策をせざるを得なくなっている。総量規制を理由に工場の新設・拡張
が許可されない事例が増えているのもこの流れを受けたものである。
・全包囲網的な環境監視
最近の環境規制は行政による強制力の強化のみならず、経済界や住民の力
を活用した環境監視強化などの全包囲網的な環境監視に特徴がある。
行政系の強制力には立入検査等取締り、公安機関との連携、司法機関との
連携、オンラインモニタリング強化(ビッグデータ、IoT等の影響で大きく
強化される見込み)等がある。
経済界を活用した環境監視には環境責任保険(保険会社による環境リスク
の査定あり)、企業環境信用制度、グリーンサプライチェーン制度等がある。
住民の力を活用した環境監視には環境情報公開、住民通報、市民参加、公
益訴訟等がある。
・グリーン製造工場
国務院「中国製造2025」の一環として「グリーン製造工場」の方針が打ち
出された。これは、単なる排出規制ではなく、製造工程そのもののエコ化・
グリーン化を指す。具体的には原材料・エネルギー・水の使用効率向上、汚
染排出とCO2排出原単位の改善、環境・省エネ・リビルド産業の振興、有毒
有害物質の代替、エネルギーや産業廃棄物のリサイクル推進、エコデザイン
・拡大生産者責任制、LCA徹底化、クリーンエネルギーへの転換、工業団地
単位でのエコ化などである。
排出規制は環境保護省の専権事項であるが、製造工程での環境対策や省エ
ネはむしろ工業・情報化省や国家発展改革委員会の担当となっており、中国
の環境行政だけを見て環境管理していれば見落とすことになる。
・多種の環境ラベルを大統合へ
中国には現在、環境ラベル認証制度が乱立している。代表的なものだけで
エネルギー効率ラベル、環境ラベル、環境ラベル低炭素認証、省エネ(節
水)製品ラベル、低炭素製品認証、リサイクルラベル、中国RoHS、トップラ
ンナー制度、エネ効率スターラベル等がある。さらにカーボンフットプリン
ト、製品エコデザイン制度も検討されている。省庁ごとの利権もあって乱立
状態となったが、今では行政側も業務重複による浪費となり、メーカー側も
それぞれ認証を取得すればコストがかさみ、一般消費者も選ぶのに苦労する
ことになるなど弊害が目立つようになった。2014年にようやくこれらのラベ
ル・認証制度を大統合する方針が示された。現在、環境ラベル大統合に向け
た検討が進められている。
2016.08.29
ドゥテルテ大統領は果たしてどのように中国との関係を処理するか。中国の持っている切り札は経済援助だが、新政権下で経済状況はどうなっているか。
米国に本拠地がある中国語の多維新聞8月27日付は次のような趣旨の論評を行っている。同新聞は中国政府の監督下にないが、中国がドゥテルテ大統領をどのように見ているかを知る参考になる。
「フィリピンにおける最近の世論調査ではドゥテルテ大統領の支持率は91%に達している。
ドゥテルテは大統領になってからも極端な発言を続けており、対外面では米国や国連にも、また中国にも厳しいことを口にしている。中国とは「最も強硬に対応するため準備している」などと言うこともあるが、実際には中国と対話する方針であり、中国側をいたずらに刺激しないように努めている。「中国と互恵の関係を築くことが最重要だ」とも述べている。
フィリピンの経済界のドゥテルテに対する評価は180度変わった。世界の主要紙はこの点に注目していない。
選挙期間中ドゥテルテは経済政策について語らなかったので、経済界の人たちは憂慮していた。しかし、経済面でのドゥテルテ大統領の行動は穏健で秩序だったものである。インフラ建設を重視し、国民生活重視の政策を進め、各地を回り投資の誘致に努めている。法人税を軽減した。教育への支出を増加した。
ドゥテルテは攻撃的言論のせいで騒ぎを起こすこともあるが、積極的な効果を上げている。移動電話業者に対してサービス価格を下げるよう要請し、従わなければ外資に対する制限を撤廃すると警告した。その効果は顕著に表れている。
治安は大幅に改善した。ドゥテルテ政権成立以来フィリピンでは1800人余りの人が麻薬取引の関係で死んだ。そのうち712例は警察の職務執行の結果であった。経済界はドゥテルテが人権を軽視していると思っているが、今後さらなる経済発展のための条件ができつつあり、民間投資も増加していることは認識しており、ドゥテルテ政権に対する期待は大きくなっている。今や経済界はドゥテルテ大統領を認めたと言えるだろう。」
(短文)ドゥテルテ・フィリピン大統領に対する中国系新聞の評価
南シナ海や東シナ海問題で各国と対立する中国は東南アジア諸国の支持を増やそうと躍起になっている。なかでもフィリピンのドゥテルテ大統領は中国との対話を重視する姿勢を見せていたため、6月末に発足した新政権に対する働きかけを強め、仲裁裁判の判決が出る前、裁判の取り下げをフィリピン政府に要求したこともあった。ドゥテルテ大統領は果たしてどのように中国との関係を処理するか。中国の持っている切り札は経済援助だが、新政権下で経済状況はどうなっているか。
米国に本拠地がある中国語の多維新聞8月27日付は次のような趣旨の論評を行っている。同新聞は中国政府の監督下にないが、中国がドゥテルテ大統領をどのように見ているかを知る参考になる。
「フィリピンにおける最近の世論調査ではドゥテルテ大統領の支持率は91%に達している。
ドゥテルテは大統領になってからも極端な発言を続けており、対外面では米国や国連にも、また中国にも厳しいことを口にしている。中国とは「最も強硬に対応するため準備している」などと言うこともあるが、実際には中国と対話する方針であり、中国側をいたずらに刺激しないように努めている。「中国と互恵の関係を築くことが最重要だ」とも述べている。
フィリピンの経済界のドゥテルテに対する評価は180度変わった。世界の主要紙はこの点に注目していない。
選挙期間中ドゥテルテは経済政策について語らなかったので、経済界の人たちは憂慮していた。しかし、経済面でのドゥテルテ大統領の行動は穏健で秩序だったものである。インフラ建設を重視し、国民生活重視の政策を進め、各地を回り投資の誘致に努めている。法人税を軽減した。教育への支出を増加した。
ドゥテルテは攻撃的言論のせいで騒ぎを起こすこともあるが、積極的な効果を上げている。移動電話業者に対してサービス価格を下げるよう要請し、従わなければ外資に対する制限を撤廃すると警告した。その効果は顕著に表れている。
治安は大幅に改善した。ドゥテルテ政権成立以来フィリピンでは1800人余りの人が麻薬取引の関係で死んだ。そのうち712例は警察の職務執行の結果であった。経済界はドゥテルテが人権を軽視していると思っているが、今後さらなる経済発展のための条件ができつつあり、民間投資も増加していることは認識しており、ドゥテルテ政権に対する期待は大きくなっている。今や経済界はドゥテルテ大統領を認めたと言えるだろう。」
2016.08.27
「最近、米国のオバマ大統領が核兵器の先制不使用宣言を行うことを検討しているということが判明し、日本政府は米国政府に対し、そのような宣言を行うことについての懸念を伝えたという趣旨の報道が行われました。
「核の先制不使用」とは、核兵器を相手国より先に使用しないとする政策です。相手国と言うのは、通常、紛争の相手国という意味です。
オバマ大統領はさる5月末、米国の大統領として初めて被爆地、広島を訪問しました。その際の演説では、罪のない人々が犠牲になったことに触れつつ、「広島と長崎は道徳的に目覚めることの始まり」と述べ、「核のない世界」を追求していく考えを示しました。
核の先制不使用宣言は広島訪問を踏まえて検討されるようになったと思います。オバマ大統領は来る国連総会でその考えを表明することを考えていたようです。
先制不使用宣言の構想に関し、米国のワシントン・ポスト紙は8月15日、「安倍晋三首相は、もしオバマ大統領が先制不使用宣言をすると北朝鮮などへの核抑止力が損なわれ、紛争の危険が増大するという考えを米国太平洋艦隊のハリス司令官に伝えた」という趣旨を報道しました。
しかし、その後安倍首相は、ハリス司令官との間で「核先制不使用についてのやり取りはまったくなかった。どうしてこんな報道になるのかわからない」と記者団に述べ、ワシントン・ポスト紙の記事を真っ向から否定しました。
なお、安倍首相が7月26日、ハリス司令官に会ったことは公表されており、その会談内容の発表には先制不使用宣言に関する言及は含まれていませんでした。
真相はどうだったのか、検証していけばさらに詳しい事情が見えてくるかもしれませんが、残念ながらこの種の会談においては必ずしも全貌が見えないままになることがあります。
核兵器の先制不使用宣言は過去に若干の例があります。中国は1964年に初めて核実験を行った時からこの宣言を行い、その後一貫してこの方針を維持しています。ロシアも一時期先制不使用宣言をしていましたが、現在はそのような政策ではありません。いずれも防御的姿勢を強調するための宣伝でした。
米国は、核についていつ、どのような状態で使用するかなど明確にしなことを基本方針としており、先制不使用の考えはとっていません。
しかし、先制不使用宣言にどれほどの意義があるか、多くの専門家、研究家の間では疑問視されています。たとえば、宣言をするのとしないのではどのくらい違うでしょうか。先制不使用は相手が核攻撃を開始しない限りこちらからは核攻撃しないということで、言葉の上では明確かもしれませんが、宣言でいう「開始」といっても簡単でありません。「開始」は「発射」と考えてよいでしょうが、核搭載ミサイルの発射か、発射命令か、発射準備かで発射時点は違ってきます。超高速度のミサイルにとってこの差は大きな違いです。また、実際に核戦争になったとしてもどの国も決して「先に核攻撃した」とは認めないでしょう。
米国が先制不使用宣言をすれば抑止力が低下するというのは物事を過度に単純化しており、思い込みに過ぎません。宣言をしてもしなくても重要なことは米国が核を使うかもしれないということであり、このことが変わらない限り、抑止力に変化はありません。先制不使用宣言をすると抑止力が低下するのであれば、中国の核抑止力は他の核保有国に比べて低くなりますが、そんなことはないでしょう。
日本は核兵器に世界で最も敏感な国です。核の先制不使用宣言をするべきでないということにこだわると、日本は核兵器の使用に最も積極的だと誤解されて伝えられる恐れがあり、核軍縮に積極的に取り組んでいる日本の立場は損なわれるでしょう。本来それは不正確な報道かもしれませんが、そのような危険は現実に起こっています。その観点からも先制不使用宣言を抑止力の低下に安易に結び付けるのは問題です。」
米「核の先制不使用」構想
THE PAGEに8月27日、寄稿した一文。「最近、米国のオバマ大統領が核兵器の先制不使用宣言を行うことを検討しているということが判明し、日本政府は米国政府に対し、そのような宣言を行うことについての懸念を伝えたという趣旨の報道が行われました。
「核の先制不使用」とは、核兵器を相手国より先に使用しないとする政策です。相手国と言うのは、通常、紛争の相手国という意味です。
オバマ大統領はさる5月末、米国の大統領として初めて被爆地、広島を訪問しました。その際の演説では、罪のない人々が犠牲になったことに触れつつ、「広島と長崎は道徳的に目覚めることの始まり」と述べ、「核のない世界」を追求していく考えを示しました。
核の先制不使用宣言は広島訪問を踏まえて検討されるようになったと思います。オバマ大統領は来る国連総会でその考えを表明することを考えていたようです。
先制不使用宣言の構想に関し、米国のワシントン・ポスト紙は8月15日、「安倍晋三首相は、もしオバマ大統領が先制不使用宣言をすると北朝鮮などへの核抑止力が損なわれ、紛争の危険が増大するという考えを米国太平洋艦隊のハリス司令官に伝えた」という趣旨を報道しました。
しかし、その後安倍首相は、ハリス司令官との間で「核先制不使用についてのやり取りはまったくなかった。どうしてこんな報道になるのかわからない」と記者団に述べ、ワシントン・ポスト紙の記事を真っ向から否定しました。
なお、安倍首相が7月26日、ハリス司令官に会ったことは公表されており、その会談内容の発表には先制不使用宣言に関する言及は含まれていませんでした。
真相はどうだったのか、検証していけばさらに詳しい事情が見えてくるかもしれませんが、残念ながらこの種の会談においては必ずしも全貌が見えないままになることがあります。
核兵器の先制不使用宣言は過去に若干の例があります。中国は1964年に初めて核実験を行った時からこの宣言を行い、その後一貫してこの方針を維持しています。ロシアも一時期先制不使用宣言をしていましたが、現在はそのような政策ではありません。いずれも防御的姿勢を強調するための宣伝でした。
米国は、核についていつ、どのような状態で使用するかなど明確にしなことを基本方針としており、先制不使用の考えはとっていません。
しかし、先制不使用宣言にどれほどの意義があるか、多くの専門家、研究家の間では疑問視されています。たとえば、宣言をするのとしないのではどのくらい違うでしょうか。先制不使用は相手が核攻撃を開始しない限りこちらからは核攻撃しないということで、言葉の上では明確かもしれませんが、宣言でいう「開始」といっても簡単でありません。「開始」は「発射」と考えてよいでしょうが、核搭載ミサイルの発射か、発射命令か、発射準備かで発射時点は違ってきます。超高速度のミサイルにとってこの差は大きな違いです。また、実際に核戦争になったとしてもどの国も決して「先に核攻撃した」とは認めないでしょう。
米国が先制不使用宣言をすれば抑止力が低下するというのは物事を過度に単純化しており、思い込みに過ぎません。宣言をしてもしなくても重要なことは米国が核を使うかもしれないということであり、このことが変わらない限り、抑止力に変化はありません。先制不使用宣言をすると抑止力が低下するのであれば、中国の核抑止力は他の核保有国に比べて低くなりますが、そんなことはないでしょう。
日本は核兵器に世界で最も敏感な国です。核の先制不使用宣言をするべきでないということにこだわると、日本は核兵器の使用に最も積極的だと誤解されて伝えられる恐れがあり、核軍縮に積極的に取り組んでいる日本の立場は損なわれるでしょう。本来それは不正確な報道かもしれませんが、そのような危険は現実に起こっています。その観点からも先制不使用宣言を抑止力の低下に安易に結び付けるのは問題です。」
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