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2016.09.09

(短評)ASEAN首脳会議

 今年のASEANサミットおよびASEANと日米中韓などを含めた東アジアサミットはラオスのビエンチャンで9月6~8日開催された(東アジアサミットは8日)。
 東アジアサミットでは、紛争の平和的解決、国際法に従った解決、南シナ海における航行の自由と非軍事的利用の重要性が確認された。中国による違法埋め立て工事については、「いくつかの国の指導者は最近の情勢について懸念を表明した(Several Leaders remained concerned over recent developments in the South China Sea)」という表現で収められた。これまでのASEANにおける扱いと比べると、細かい表現の違いはいくつかあるが、基本的には従来通りの内容だ。
 
 さる7月に下された国際仲裁裁判の判決がどのように扱われるかに焦点が集まっていたが、どの首脳会議でも言及されなかった。
 中国がその裁判を拒絶し、首脳会議の議長声明に盛り込むことに反対したからであろうが、判決は非常に明確に中国の行為の違法性を指摘しているのでそれをASEANの会議で扱うのはそもそも困難だったと思う。
 一方、中国の代表は、今次会議は中国にとって大成功だったと言っているようだ。その理由などはよく聞いてみなければわからないが、いずれにしても国内向けの発言だったと思う。
 
 仲裁裁判判決は、今回の一連の会議の結果何らかの変化が生じるかといえば、それはない。今後もその判決はそのまま存続するし、何らの変更も加えられない。中国は「過去のこととしよう」と各国に説いて回っているようだが、そんなことにもならない。今後、南シナ海の歴史が語られるとき、この判決は最重要の出来事として扱われるだろう。各国政府が作成する文書においても、中国で扱いはよくわからないが、同様である。各国の研究者にとってもこの判決は第一級の資料であり続けるだろう。
 
 日米などは判決の重要性とそれに従った行動をとるべきことを指摘したが、今後もそうすべきだ。日米ともに裁判の当事者ではなかったが、中国の行動は国際法に違反しているという今次仲裁判決を尊重するのは当然だと思う。
2016.09.06

(短評)G20杭州サミット

 9月4~5日、中国の杭州市でG20首脳会議が開催された。参加国の数は多い。また、この会議の前後に、あるいは並行して2国間の会議が開かれるので全体の状況はかなり複雑だが、一つ印象に残ったことを記しておく。

 中国は国家の威信にかけ盛大なイベントに仕立て上げた。立派な会議場を新築したのもその表れだが、とくに開会式は素晴らしいものとした。杭州は昔から有名な景勝の地であり、開会式の舞台としてうってつけであるが、きれいなところばかりでない。大気汚染は深刻だし、周辺にはみすぼらしい民家もある。そこで、中国政府は付近の工場の操業を一時的に停止させ、大気をきれいにした。北京で国際会議が開催される場合に行われている対処方法だ。また、みすぼらしい住宅は強制的に撤去した。西湖を舞台にした開会式を演出したのは、北京オリンピックの演出で有名な映画監督、張芸謀であり、中国は世界の賓客にその力を見せつけるのに成功したようだ。

 もともと、G20は1999年、財務大臣・中央銀行総裁会議から始まった。1997年にアジアの金融危機が起こり、各国が共同して対処する必要があったためだ。2008年にはリーマンショックがきっかけとなり、G20の首脳会議が開催されるようになり、以後毎年開かれている。1年に2回開催されたこともある。今回の杭州サミットは第11回目だった。

 日本はサミットも財務大臣・中央銀行総裁会議もホストしたことがない。なぜそうなったか。詳しい事情をすべて承知しているわけではないが、日本はG7などの一員であることが影響しているかもしれない。
 実は、2008年、日本はG7(当時はG8)の議長国であり、それと関連付けてG20サミットを開催しようと試みたが、これは成立せず、結局米国が第1回のサミットを開催した。
 当時、もう一つの注目すべき状況があった。G20サミットは実務的に開催するのがよい、大々的な歓迎式典は必要でないと思われていたのだ。麻生首相(当時)は成田空港で開催すればよいという考えであったと後に国会で答弁している。
 この時の雰囲気と比べると、中国の杭州サミットは実に派手な演出となり、国家の威信にかけて開催するという性格が強くなった。G20サミットは今後どうなるか。杭州サミット式に盛大な演出をするのか、それとももっと実務的なものに戻すのか。ホスト国の考え次第だが、中国以上に派手なサミットはどの国もできないのではないかと思う。

 日本がこれまでサミットも、財務大臣・中央銀行総裁会議もホストしたことがないのは経緯のあることで、問題だと考える必要はないが、G7のメンバー国でG20サミットを開催したことがない国は、日本のほかドイツとイタリアしかいない。しかし、ドイツは2017年のG20サミットをホストすることとなった(その次はアルゼンチン)ので、残るはイタリアと日本だけとなる。
 会議でどのような議論が行われるか、各国は世界的な問題についてどのような貢献をするか、などは会議のホストとは関係ないことだが、今後日本として検討すべきことの一つだろう。
2016.09.05

(短評)日ロ首脳会談

 9月2日、ウラジオストクで安倍首相とプーチン大統領が会談した。第1次安倍内閣から数えて14回目だった。11月、ペルーでAPEC首脳会議の際にも両首脳は会談する。さらに12月にはプーチン大統領が訪日し、15日に安倍首相の地元である山口県長門市で会談する。日ロ両国の首脳がこれほど密に会談するのは珍しい。領土問題を解決して平和条約を結ぶ機運が高まっているのは喜ばしいが、日ロ交渉は簡単でない。

 安倍首相は「新しいアプローチ」を強調しているが、その内容は明確でない。政府内には「総合的に進めることだ」という説明があるそうだが、それは珍しいことでない。2009年、メドヴェージェフ大統領は麻生首相に対し、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」の下で領土問題解決のための作業を行うべきことを強調した。もっとも、今回は日本側から「新しいアプローチ」を強調したようだが。

 日露双方とも経済協力を重視している。安倍首相は「ロシア経済分野協力担当大臣」を設置した。前代未聞だ。平和条約交渉と経済協力を並行的に進めるのは良い考えだが、橋本首相や小渕首相もエリツィン大統領と同様の試みを行い、「共同経済活動委員会」の設置まで合意した。それとの比較で言えば、安倍首相とプーチン大統領との合意はほぼ同じ地点に戻ったに過ぎない。
 ともかく、経済協力が結果を出すにはかなりの時間がかかり、その間に、日ロ間の交渉とは直接関係ない事件が起こり、交渉がとん挫するのが怖い。これは今まで繰り返し起こったことだ。
 一つの問題は日本の首相がコロコロ代わることだ。ソ連邦の崩壊後ロシア連邦の大統領は3人しかいないが、同じ時期に日本では15人の首相が出た。平均在任期間は2年にもならない。安倍政権が安定していることはじっくりと交渉をしていくのに重要なことだ。

 プーチン大統領はロシア国内で高い支持を得ており、政治力があるので領土問題の解決への期待が日本では高い。しかし、そのような考えには首をかしげるところがある。とくに、プーチン大統領は、これまで先人が努力してきたことを無視しているのではないかと思わせるところがある。具体的には、たとえば1993年、エリツィン大統領と細川首相との間で「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題」について交渉するとの合意、いわゆる東京宣言を無視するような発言をすることだ。交渉を有利に導くためのテクニックかもしれないが、同大統領には油断できないところがある。

 米国との関係は、日ロ交渉を進めるうえで制約になると思っているならば大問題だと思う。ウクライナ問題で日本はお付き合いをさせられ、ロシアに制裁を科しているということは間違いだが、分からないでもない。
 しかし、米国には尖閣諸島を防衛するのに協力してもらい、また、北方領土問題についても日本の4島返還要求を支持してもらっているからだ。少なくとも、ソ連時代、4島返還要求において米国が日本を支持していることは重要なことであった。個人的には、その米国の支持がなければ日本の主張は成り立たなかったのではないかと思っている。
 

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