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2016.09.13

(短文)ベトナム首相の訪中と南シナ海問題

 グエン・スアン・フック首相が訪中し李国強首相らと会談した。中国とベトナムの指導者が会談すれば南シナ海問題がどう扱われるかに焦点が集まる。香港紙『明報』9月13日付によれば、会談内容は次の通りであった。
 南シナ海問題に言及したのは李国強首相であり、「南シナ海の問題は領土主権と海洋権益に関係し、民族感情にかかわる。中越双方はともに努力し、ハイレベルの共通認識を守り、海上の安定を維持し、相違をコントロールするよう努め、海洋で協力し、共通認識を不断に積み重ね、海上と地域の平和と安定を共同で維持することをと強調した」。
 これに対しグエン・スアン・フック首相は、ベトナム独立に際する中国の支援を永遠に忘れないと言いつつ、両国の関係を固め、さらに進めることがベトナムの一貫した方針であるときれいごとを並べて発言しただけであった。
 明報紙の報道は中国通信に基づいており中国側が会談内容をそのように発表したのであろうが、その通りであれば、グエン・スアン・フック首相が南寧で開かれた中国ASEAN博覧会からなぜわざわざ北京にまで足を運んだのか分からない。
 しかし、明報紙は、BBCを引用して、次のような事情があったことを記している。
 「グエン・スアン・フック首相の訪中の直前である9月3日、ベトナムとインドは、インドがベトナムの高速巡視艇4隻を建造し、かつ、インドが5億ドルの信用供与付きでインド製の武器を売却することに合意した。このことは南シナ海問題にも関係することとして注目され、同首相は中国メディアからインタビューを受けた際に「食い違いを解決する」ことが訪中の目的だと話していた。」
 このような経緯を前提にすれば中越両首相の会談内容として発表されたことはよくわかる。李国強首相は、ベトナムに警告含みの美辞麗句でくぎを刺し、グエン・スアン・フック首相は、独立以来ベトナムは中国との友好関係を大事にしているとして交わしたのだ。
2016.09.12

北朝鮮の核実験

 北朝鮮がまた核実験を行った。今年になって2回目だ。ミサイルは今年だけですでに20発ばかり発射している。いずれも国連決議に違反する重大な行為だが、今後さらに第6回目の核実験を行う可能性もあると言われている。
 北朝鮮のこのような行動は日本など周辺の国にとって危険きわまりない。日本の排他的経済水域へ落下したミサイルもあるらしい。かつて、日本の上空を飛び越して太平洋に向かっていったミサイルもあった。
 今回の核実験に対し、各国は国連決議で追加制裁を科し、また日米などは独自の制裁措置を実施することを検討中だ。
 また、制裁の実効性のカギを握っている中国に決議の忠実な履行を求めていく姿勢だ。いずれも当然のことだ。

 しかし、これらの措置だけでは北朝鮮問題の核心に迫ることができないだろう。
 北朝鮮には国家の安全を確保しなければならないという究極の問題がある。そんな国は他にはまずない。各国から見れば北朝鮮が各国に脅威を与えているのであり、まるで正反対の状況に見えるだろうが、北朝鮮が安全を確保できていないのは事実だ。
 しかるに、この問題を解決できるのは米国だけである。中国はすでに北朝鮮という国を承認している。
 米国はグローバルパワーとして世界各地で大変な犠牲と負担を強いられており、そのことを各国は十分理解し協力する必要があるのは当然だが、米国と北朝鮮の問題は他のどの国にも解決できない。米国は中国がまじめに決議を実行すれば北朝鮮の核・ミサイル問題を解決できるはずだとの立場であるが、中国が米国に代わって北朝鮮を認めることはできない。当たり前のことだ。中国はそのことも言っているが、北朝鮮問題に関しては、中国は決議を履行していないという各国の声が大きいためか、あまり注意されない。
 北朝鮮の核・ミサイルはいかなる場合も、いかなる理由でも認められないが、核兵器を放棄させるには北朝鮮の安全問題の解決が不可欠だ。核とミサイルの実験を止めさせることと核兵器を放棄させることは大きな違いがある。前者については、国連決議は内容いかんで効き目を持ちうるが、後者の核の放棄は国連決議だけでは実現しない。
 去る3月に成立し、「史上最強」と言われた決議はその後の北朝鮮の執拗な挑戦的姿勢によって影が薄くなってしまった感もあるが、前述したように中国が忠実に実行しないからであり、今後新たな決議が成立すれば北朝鮮としても考慮せざるをえなくなる可能性はある。
 しかし、どのような内容の決議が成立しても、あるいは米国が最強の措置を取ってもそれだけで核兵器を放棄させることはできないだろう。
 米国は嫌がるだろうが、真の解決には米国が北朝鮮と平和条約交渉をし、核兵器を放棄させるしかないことを日本は説得するべきだと思う。

2016.09.09

(短評)ASEAN首脳会議

 今年のASEANサミットおよびASEANと日米中韓などを含めた東アジアサミットはラオスのビエンチャンで9月6~8日開催された(東アジアサミットは8日)。
 東アジアサミットでは、紛争の平和的解決、国際法に従った解決、南シナ海における航行の自由と非軍事的利用の重要性が確認された。中国による違法埋め立て工事については、「いくつかの国の指導者は最近の情勢について懸念を表明した(Several Leaders remained concerned over recent developments in the South China Sea)」という表現で収められた。これまでのASEANにおける扱いと比べると、細かい表現の違いはいくつかあるが、基本的には従来通りの内容だ。
 
 さる7月に下された国際仲裁裁判の判決がどのように扱われるかに焦点が集まっていたが、どの首脳会議でも言及されなかった。
 中国がその裁判を拒絶し、首脳会議の議長声明に盛り込むことに反対したからであろうが、判決は非常に明確に中国の行為の違法性を指摘しているのでそれをASEANの会議で扱うのはそもそも困難だったと思う。
 一方、中国の代表は、今次会議は中国にとって大成功だったと言っているようだ。その理由などはよく聞いてみなければわからないが、いずれにしても国内向けの発言だったと思う。
 
 仲裁裁判判決は、今回の一連の会議の結果何らかの変化が生じるかといえば、それはない。今後もその判決はそのまま存続するし、何らの変更も加えられない。中国は「過去のこととしよう」と各国に説いて回っているようだが、そんなことにもならない。今後、南シナ海の歴史が語られるとき、この判決は最重要の出来事として扱われるだろう。各国政府が作成する文書においても、中国で扱いはよくわからないが、同様である。各国の研究者にとってもこの判決は第一級の資料であり続けるだろう。
 
 日米などは判決の重要性とそれに従った行動をとるべきことを指摘したが、今後もそうすべきだ。日米ともに裁判の当事者ではなかったが、中国の行動は国際法に違反しているという今次仲裁判決を尊重するのは当然だと思う。

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