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2016.04.06

(短文)パナマ文書が暴露した大物中国人による租税回避

 パナマの法律事務所から流出したタックスヘイブン(租税回避地)関連文書(パナマ文書)が世界を揺さぶっている。多数の、あきれるほど多数の世界の政治家が租税回避に関与していたことが示されており、2013年のG8で、企業の租税回避の防止を強化する方針を自ら打ち出し、英国内の法整備も進めてきたキャメロン英首相についても亡父が、また、ロシアのプーチン大統領は、友人が関与していたなどと言われている。アイスランドのグンロイグソン首相は5日、辞任を表明した。

 中国も例外でない。習近平の姉の配偶者(鄧家貴)、温家宝の女婿(劉春航)と子(温雲松)、李鵬元首相の娘(李小琳)、胡錦濤前主席の甥(胡翼時)、鄧小平の女婿(呉建常)、葉剣英元帥の甥(葉選基)、粟裕将軍の孫(粟志軍)、彭真の子(傅亮)、王震の子(王軍)と孫娘(王京京)、戴相龍元人民銀行総裁の女婿(車豐)、薄熙来の妻(谷開来)などの名前が含まれている。

 これらは革命の功労者の親族(いわゆる「太子党」。「赤い第2代、第3代」などとも呼ばれるが、資本主義にどっぷりつかっている)であることを利用して国有企業で巨額の利益を得ている人たちだ。中国の政治・経済改革を阻害しているガンであり、中には李小琳のようにすでに第一線からの引退(そのような年齢ではないが)を余儀なくされた者もいる。
 反腐敗運動の対象になることもあるが、純粋の公務員ではないことと親族のバックが強いため摘発されにくい。現在の中国の大問題のうち五指に入ることである。
 今回のパナマ文書は、はしなくも、国有企業に巣くう中国の太子党で租税回避をしている疑いのある人たちの一覧表となった。
2016.04.05

中国軍内の腐敗を生む土壌

 中国国防大学の教授であり、著名な軍事作家である金一南少将が最近出版した『心臓2-魂とまっすぐな心』は、1990年代に同人が米国の国防大学で学んだ時に見聞したことと比較しつつ、中国軍内の腐敗を生む土壌を巧みに描写しており、ネットで話題になった。以下は、米国に本拠がある『多維新聞』4月3日付がつたえるその要点である。

 金一南少将が留学していた当時、米国の国防大学には住居(营房)の世話をする部門がなかった。校長には官邸があったが、任命とともに入居し、辞任とともに退去していた。官邸は恒久的な建物だが、水が流れるように人が出入りしていた。その他の軍官は自分たちで住まいを決めていた。国防大学の軍官宿舎に住んでもよいが高い家賃を支払わなければならなかったので、多くの人は付近の住居を自分で借りて住んでいた。住居手当は給料に含まれていた。住居に統一的な基準はなく、賄賂でよいところを入手することなどできなかった。

 米国の国防大学には車の管理部門もなかった。同大学には全部で7台しか公用車がなかった。しかも、1台はトラック、4台は公務接待用のミニバスで、2台のセダンのうち1台は校長用と情報リソース管理学院長用であった。国防大学には国家戦争カレッジ、武装力量工業学院がありその長は2スター将軍(中将)であるが、公用車はついていなかった。
 
 ある時、米国国防大学空軍教研室の大佐が中国国防大学へ講義に来た際に、公用車で万里の長城を案内した。その大佐は金一南に向かって、中国国防大学には公用車は何台あるか質問してきたので、金大佐は400台近いと答えた。実はその時の公用車数は500を越していたが、それはともかく、金大佐の説明を聞いた米国の大佐は後部座席にぐったりと沈みこみ一言も話さなくなった。目だけ動かしていた。驚愕していたのだ。かれは中国の国防大学にそのような大量の公用車があることを理解できなかったのだが、彼に同行した中国の大佐は米国の国防大学ともあろうところに7台しか公用車がないことを理解できなかった。

 米軍と中国軍の「軍用車両」は全く違っている。中国では、相当長い期間、軍用車の白いナンバープレートを付けていれば軍用車だ。しかし、米国では「軍用車両」とは通常迷彩色の車両のことであり、街中を走るには市の当局と連絡を取り、事前に、通行の時間と路線を知らせておく。
 米国では、ごく少数のハイレベル将官に公用車を提供しており、そのナンバープレートには政府を示す「G」という記号が大きく記載されていた。中国の感覚ではこのような車も「公用車」なのだが、米国では「政府車」と区別していた。その使用は厳格に規定されていた。校長の運転手は毎朝、一定のルートを通って校長を迎えに行き、学校が終わると家まで送る。夜間、公務であれば、招待に出かける場合も公用車を使えた。
 しかし、もしプライベートの用事なら、ちょっと買い物をするとか、戦友に会いに行くために寄り道するのであっても、いったん帰宅してから自分の車で行かなければならなかった。3つ星の将軍であっても公用車を使うのはよくないと考えており、仕事が終わった後、野球帽をかぶり、自分の車を運転して出かけていた。

 当時、米軍の経費は大幅に標準化されており、固定経費は全体の経費の97%以上になっていた。一方、機動的に使える経費は2%強に過ぎなかった。お金の管理は徹底しており、機動的に使える金はほとんどゼロだったのだ。これと比べると、人民解放軍では固定経費は60%に満たない。40%は機動的に使える経費である。
 大軍区では3分の2が固定経費であり、3分の1は判断次第で使える経費であり、これが腐敗を生む土壌になっている。

(以下は以上と関連がわかりにくいが、新聞報道のまま訳出した。)
 2015年の夏、南海艦隊で退役軍人を演習に参加させることになり、強い注目を浴びた。マカオのある軍事観察家によれば、中国軍はいずれ世界で一流の艦艇を持つことになるだろうが、装備を操作する人員は不足している。退役した軍人を呼び戻して演習に参加させたのは軍隊の訓練と制度的欠陥のため深刻な人材不足が生じていることを示している。官僚主義的な人員の選抜・訓練方式を改めなければ、さらなる困難に陥るだろう。

美根注 この文章が指摘する中国軍内の問題は、過度の軍人優遇、官僚主義の弊害、権力と利権の結合など様々に指摘することができるだろう。このほか、中国軍は、八路軍として日本軍と戦ってきた時以来の自給自足的な習慣を今でも残しており、軍事行動のみならず、生産活動も行う。文化活動を行う要員も抱えている。
 胡錦濤元主席は中国軍の「プロフェッショナル化」を力説したが効果は上がらなかった。習近平主席は軍政の改革に努めているが、あまり急進的に進めると軍が不安定化する恐れもあるだろう。

2016.04.04

(短文)核セキュリティ・サミットと原発へのテロ攻撃

 3月31日~4月1日、米国で開催された核セキュリティ・サミットは分かりにくいと思っている人が多いだろう。
 その理由の一つは、核のセキュリティは専門的・技術的な問題だからだ。
 もう一つの理由は、ワシントンに集まった世界の指導者は、サミットの機会に2国間、3国間の首脳会談を行うのでサミットの議題以外のことについても話し合うからだ。今回は、特に注目されたトピックだけでも、パリやブラッセルでのテロ攻撃、北朝鮮、トランプ候補の核問題発言、弾道ミサイル、南シナ海など多岐にわたっていた。

 核セキュリティ・サミットの主要議題は「核をテロから守る」ことにある。現実的には、テロ攻撃の対象となるのは、放射性物質(核物質)であり、通常の核弾頭は数百キロと重すぎてテロリストが簡単に運べるようなものでない。
 しかし、このことについても修正が必要になりつつある。核兵器の小型化が進んでいるからであり、米軍の「デービー・クロケット」という通称の小型弾頭は30キロ以下であり、これであれば運搬できる。
 もう一つの問題は、過激派組織ISのように、一つの国家にも比肩しうる規模の組織体が核兵器を狙うことがありうることだ。
 AFP、USA Today、CBSなど欧米メディアは、ブラッセル空港でのテロ事件後、ベルギー政府は原発の警備を強化し、一時従業員の退避まで命じた、と報道した。
 また、ベルギー政府が2009年行った身元調査では、パリやブラッセルでの事件に関係していた人物が、ブラッセルから約1時間の距離にあるDoea原発に潜入していたことが判明しており、関係者はISが原発を攻撃してくるのではないかと恐れているそうだ。

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