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2017.04.13
第1に、攻撃すると米軍の被害が膨大になると予測される。これには参考となる前例があり、1994年、北朝鮮が核兵器不拡散条約(NPT)から脱退すると言いだし、核開発の危険が生じてきた。そこで米国は北朝鮮に対する軍事行動についてシミュレーションを行い、その結果に基づきペリー国防長官はクリントン大統領に、「朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者は5万2千人に上る」という見通しを報告した。これは米政府として許容範囲をはるかに超える損害であり、結局核の先制攻撃を含め軍事力を行使する決定は行われなかった。
現在、北朝鮮の軍事能力は、核とミサイルの開発などにより1990年代とは比較にならないくらい強大になっており、クリントン大統領時代と同様のシミュレーションをすれば、米国兵の犠牲は何倍、あるいは何十倍にもなるだろう。
第2に、朝鮮半島で米国と北朝鮮の軍事衝突が起これば韓国は必ず巻き込まれ、壊滅的な打撃をこうむる。ピョンヤンとソウルの距離は約200キロに過ぎず、攻撃するのにミサイルは必要でない。北朝鮮は、直接ソウルに砲弾を撃ち込める性能の兵器を保有している。
第3に、日本にも被害が及ぶだろうし、そうなると日本としても単純に米国の決定を支持するとは言えなくなる。少なくとも、作戦の開始以前には反対せざるをえなくなることもあろう。また、実際に軍事衝突が起これば、改正後の法制によれば自衛隊を朝鮮半島に派遣せざるを得なくなる可能性も出てくる。
第4に、中国も間違いなく反対するだろう。
第5に、米国内でも反対意見が強いと思われる。反対論の根拠として挙げられそうなこととしては、米国は現実に被害をこうむっていないこと、中東に比べ北朝鮮問題の優先(深刻)度は低いこと、全面戦争に発展し米国も核攻撃される危険が生じてくることなどもさることながら、手段をまだ尽くしていないのに軍事行動に出ることにはとくに強い疑問が呈されるだろう。
第6に、先に攻撃すれば米国が64年前に結ばれた休戦協定に違反することとなる。また、安保理のお墨付きを得るのは中国やロシアが反対するのでまず不可能と見るべきだ。
ただし、軍事行動と言ってもさまざまな形態があり、以上述べたことは地上部隊による攻撃の場合だ。目的が非常に限定された攻撃、懲罰的な攻撃は、ISに対する空爆や今回のシリアに対するミサイル攻撃などの例にかんがみても、地上部隊派遣より決断しやすい。しかし、北朝鮮の場合はシリアと異なり、地上部隊の派遣について指摘した困難性がかなり該当するのでやはり困難だろう。
むしろ危険なのは偶発的な軍事衝突だ。どこの国も安全保障のために日常的に軍事的活動を行っている。通常は訓練の範囲にとどまっているが、情勢いかんで訓練であってもレベルアップし、危険になることがあるし、また、示威行動にまで発展することもある。今回の米国による空母派遣も基本的にはその範囲を超えるものでなく、北朝鮮に自制を求め、米国の断固たる姿勢を示すのが目的だろう。
しかし、攻撃が決定されているのではないにしても、軍用機や軍用艦船が特定の地域に集中すれば、偶発的な衝突が起こる危険が増大する。その結果軍事衝突が起こった例は少なくない。米国も北朝鮮も自制すべきだ。
トランプ大統領は北朝鮮攻撃を決断するか
米国の空母が朝鮮半島に向かっている。シリアではミサイル攻撃した。トランプ大統領は強い発言を行い、またツィッターで発信している。さまざまな事情が重なって、米国は、核とミサイルの実験を繰り返す北朝鮮を攻撃するのでは中という懸念が高まっているが、次の理由から米国から攻撃することはないと思う。第1に、攻撃すると米軍の被害が膨大になると予測される。これには参考となる前例があり、1994年、北朝鮮が核兵器不拡散条約(NPT)から脱退すると言いだし、核開発の危険が生じてきた。そこで米国は北朝鮮に対する軍事行動についてシミュレーションを行い、その結果に基づきペリー国防長官はクリントン大統領に、「朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者は5万2千人に上る」という見通しを報告した。これは米政府として許容範囲をはるかに超える損害であり、結局核の先制攻撃を含め軍事力を行使する決定は行われなかった。
現在、北朝鮮の軍事能力は、核とミサイルの開発などにより1990年代とは比較にならないくらい強大になっており、クリントン大統領時代と同様のシミュレーションをすれば、米国兵の犠牲は何倍、あるいは何十倍にもなるだろう。
第2に、朝鮮半島で米国と北朝鮮の軍事衝突が起これば韓国は必ず巻き込まれ、壊滅的な打撃をこうむる。ピョンヤンとソウルの距離は約200キロに過ぎず、攻撃するのにミサイルは必要でない。北朝鮮は、直接ソウルに砲弾を撃ち込める性能の兵器を保有している。
第3に、日本にも被害が及ぶだろうし、そうなると日本としても単純に米国の決定を支持するとは言えなくなる。少なくとも、作戦の開始以前には反対せざるをえなくなることもあろう。また、実際に軍事衝突が起これば、改正後の法制によれば自衛隊を朝鮮半島に派遣せざるを得なくなる可能性も出てくる。
第4に、中国も間違いなく反対するだろう。
第5に、米国内でも反対意見が強いと思われる。反対論の根拠として挙げられそうなこととしては、米国は現実に被害をこうむっていないこと、中東に比べ北朝鮮問題の優先(深刻)度は低いこと、全面戦争に発展し米国も核攻撃される危険が生じてくることなどもさることながら、手段をまだ尽くしていないのに軍事行動に出ることにはとくに強い疑問が呈されるだろう。
第6に、先に攻撃すれば米国が64年前に結ばれた休戦協定に違反することとなる。また、安保理のお墨付きを得るのは中国やロシアが反対するのでまず不可能と見るべきだ。
ただし、軍事行動と言ってもさまざまな形態があり、以上述べたことは地上部隊による攻撃の場合だ。目的が非常に限定された攻撃、懲罰的な攻撃は、ISに対する空爆や今回のシリアに対するミサイル攻撃などの例にかんがみても、地上部隊派遣より決断しやすい。しかし、北朝鮮の場合はシリアと異なり、地上部隊の派遣について指摘した困難性がかなり該当するのでやはり困難だろう。
むしろ危険なのは偶発的な軍事衝突だ。どこの国も安全保障のために日常的に軍事的活動を行っている。通常は訓練の範囲にとどまっているが、情勢いかんで訓練であってもレベルアップし、危険になることがあるし、また、示威行動にまで発展することもある。今回の米国による空母派遣も基本的にはその範囲を超えるものでなく、北朝鮮に自制を求め、米国の断固たる姿勢を示すのが目的だろう。
しかし、攻撃が決定されているのではないにしても、軍用機や軍用艦船が特定の地域に集中すれば、偶発的な衝突が起こる危険が増大する。その結果軍事衝突が起こった例は少なくない。米国も北朝鮮も自制すべきだ。
2017.04.10
まず、トランプ大統領の「初めての直接会談で米中関係は大きく前進した」という評価を額面通り受け取る気持ちにはなれない。
北朝鮮問題は、基本的にはこれまで何十回と繰り返してきたやり取りの繰り返しだったようだ。
「すべての選択肢がテーブルの上にある」「中国がしないなら米国だけで行動する」などの発言は軍事行動を示唆しているとして注目されているが、20数年前に米国が検討した軍事行動の是非と今は何が違うか。20年前、北朝鮮は核を持っていなかった。今、軍事行動はその時よりももっと困難ではないか。
ともかく、片言隻句をとらえて想像をたくましくするようなことでは実態は分からないし、いたずらに混乱するだけだ。
発言する方も問題だ。ほんとうに確信があってのことか。トランプ政権に見られがちなレトリック/口先だけに過ぎないのではないか。
政治・安全保障面での最大の問題である東シナ海・南シナ海問題については、トランプ氏は中国が国際規範を守ること、南シナ海を軍事拠点化しないとの習近平主席の発言を守ることを求め、また、米国は「自由の航行作戦」を強化する方針であることを伝えた。
これに対する中国側の発言は公表されていない。この問題について前進があったとは思えないが、オバマ・習会談の時のように公の場で双方がまったく違う見解を主張しあうことを避けたのは特に中国として賢明な対処であった。
一方、中国側の発表としては新華社通信の報道があるが、「両首脳は深く、友好的に、長時間会談し、新たなスタート地点から中米関係を発展させることに合意した」と言っているだけで、この報道も今次会談の政治・安全保障面の成果を伝えているとは思えない。もっとも、中国は今回の会談が決定される前からトランプ大統領の出方を強く警戒しており、いかにして会談を失敗させないかを目標としていた。新華社報道は中国側としてその目標は達成されたと認識していることを示している。
今次会談の成果は貿易不均衡を是正するために「100日計画(100-day plan)」を作成する合意である。その内容はこれから詰めることとなるが、米国に拠点がある『多維新聞』は、中国は金融と牛肉の輸入に関し国内市場を開放する案を考慮していると報道している。また、トランプ大統領は米国の鉄鋼輸入に関する行政命令を発出する考えであり、その内容はとくに中国に厳しいものとなるとの観測を米政府への取材結果に基づき報道してい
トランプ・習会談と貿易合意
米中首脳会談についての感想である。まず、トランプ大統領の「初めての直接会談で米中関係は大きく前進した」という評価を額面通り受け取る気持ちにはなれない。
北朝鮮問題は、基本的にはこれまで何十回と繰り返してきたやり取りの繰り返しだったようだ。
「すべての選択肢がテーブルの上にある」「中国がしないなら米国だけで行動する」などの発言は軍事行動を示唆しているとして注目されているが、20数年前に米国が検討した軍事行動の是非と今は何が違うか。20年前、北朝鮮は核を持っていなかった。今、軍事行動はその時よりももっと困難ではないか。
ともかく、片言隻句をとらえて想像をたくましくするようなことでは実態は分からないし、いたずらに混乱するだけだ。
発言する方も問題だ。ほんとうに確信があってのことか。トランプ政権に見られがちなレトリック/口先だけに過ぎないのではないか。
政治・安全保障面での最大の問題である東シナ海・南シナ海問題については、トランプ氏は中国が国際規範を守ること、南シナ海を軍事拠点化しないとの習近平主席の発言を守ることを求め、また、米国は「自由の航行作戦」を強化する方針であることを伝えた。
これに対する中国側の発言は公表されていない。この問題について前進があったとは思えないが、オバマ・習会談の時のように公の場で双方がまったく違う見解を主張しあうことを避けたのは特に中国として賢明な対処であった。
一方、中国側の発表としては新華社通信の報道があるが、「両首脳は深く、友好的に、長時間会談し、新たなスタート地点から中米関係を発展させることに合意した」と言っているだけで、この報道も今次会談の政治・安全保障面の成果を伝えているとは思えない。もっとも、中国は今回の会談が決定される前からトランプ大統領の出方を強く警戒しており、いかにして会談を失敗させないかを目標としていた。新華社報道は中国側としてその目標は達成されたと認識していることを示している。
今次会談の成果は貿易不均衡を是正するために「100日計画(100-day plan)」を作成する合意である。その内容はこれから詰めることとなるが、米国に拠点がある『多維新聞』は、中国は金融と牛肉の輸入に関し国内市場を開放する案を考慮していると報道している。また、トランプ大統領は米国の鉄鋼輸入に関する行政命令を発出する考えであり、その内容はとくに中国に厳しいものとなるとの観測を米政府への取材結果に基づき報道してい
2017.04.07
同氏は、よく言えば舌鋒鋭い論客であるが、極論を吐くことでも知られている。トランプ大統領が就任早々の1月27日に発出した、中近東の特定7カ国からの入国を制限する大統領令はバノン氏が起案したと言われていた。
バノン氏は大統領選中、その過激な主張がトランプ候補に気に入られ、政権成立後国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに入れられるなど異例の待遇を受けたが、新政権が矛盾に満ちた状況の中で現実的な姿勢を取り始めるに伴い、大統領の側近にも人事異動が生じた。バノン氏がNSCから外れたことは国家安全保障問題担当大統領補佐官であったマイケル・フリン氏が辞任したことと並んでトランプ大統領側近の入れ替えを象徴する出来事だ。
バノン氏がNSCから外れたことによりマクマスター安全保障担当大統領補佐官としては仕事がしやすくなっただろう。マクマスター氏は任命前、バノン氏らと衝突するのではないかと懸念されていた人物であり、NSCは、大きく見れば極端な人物が去って、実務的な人が入ってきたわけである。
バノン氏は「あと5年から10年のうちに、我々は南シナ海で戦争をする」と言っていた。この発言も当面問題にされなくなるだろうが、南シナ海が米中間で最大の矛盾であることに変わりはない。トランプ大統領は習近平主席との会談で南シナ海の問題をどのように扱うか、現在進行中の米中首脳会談の結果が待たれる。
バノン米大統領上級顧問・首席戦略官がNSCから外された
4月4日、スティーブ・バノン大統領上級顧問・首席戦略官がNSC(国家安全保障会議)から外されることが発表された。同氏は、よく言えば舌鋒鋭い論客であるが、極論を吐くことでも知られている。トランプ大統領が就任早々の1月27日に発出した、中近東の特定7カ国からの入国を制限する大統領令はバノン氏が起案したと言われていた。
バノン氏は大統領選中、その過激な主張がトランプ候補に気に入られ、政権成立後国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに入れられるなど異例の待遇を受けたが、新政権が矛盾に満ちた状況の中で現実的な姿勢を取り始めるに伴い、大統領の側近にも人事異動が生じた。バノン氏がNSCから外れたことは国家安全保障問題担当大統領補佐官であったマイケル・フリン氏が辞任したことと並んでトランプ大統領側近の入れ替えを象徴する出来事だ。
バノン氏がNSCから外れたことによりマクマスター安全保障担当大統領補佐官としては仕事がしやすくなっただろう。マクマスター氏は任命前、バノン氏らと衝突するのではないかと懸念されていた人物であり、NSCは、大きく見れば極端な人物が去って、実務的な人が入ってきたわけである。
バノン氏は「あと5年から10年のうちに、我々は南シナ海で戦争をする」と言っていた。この発言も当面問題にされなくなるだろうが、南シナ海が米中間で最大の矛盾であることに変わりはない。トランプ大統領は習近平主席との会談で南シナ海の問題をどのように扱うか、現在進行中の米中首脳会談の結果が待たれる。
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