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2017.04.19
憲法改正により現行の議院内閣制は廃止され、大統領制になる。新制度によって大統領選挙が行われるのは2019年であり、首相職は廃止される。新大統領は、閣僚の任命や非常事態令の発令のほか、司法にも影響力を持つことになる。
エルドアン氏(現大統領)が新大統領となるのは間違いないと見られており、再選可能(これは現行制度と同じ)なので、最長で2029年まで権力を保持することが可能になる。
なぜ、トルコは大統領の権限を強めたのか。
エルドアン氏はテロ・難民対策の強化などのため必要だとしている。たしかに、トルコは長年テロ攻撃に悩まされてきた。トルコは世界でも有数の観光地だが、テロの危険がない時を選ばないと安心して行けない。
トルコは、また、中東・アフリカで発生した大量の難民が押し寄せ、欧州へ向かう通過地になっている。2016年3月には、EUと、欧州への難民流入をコントロールするために協力することで合意した。欧州で難民認定が受けられない難民を再度トルコが受け入れることも含まれている。EUはトルコに戻される難民について一定の経費負担をするが、それにしてもトルコにとって難民対策の負担は大変なものであろう。
しかし、憲法改正には複雑な背景がある。一つは「世俗主義」の国是とイスラムとのせめぎあいである。エルドアン氏は敬虔なイスラム教徒であり、かつて原理主義を扇動したとして実刑判決を受け服役したこともある。イスラム主義系の公正発展党(AKP)の立ち上げから一貫して指導者として(大統領になってからは党を離れているが実質的には変わらない)イスラムの復興を重視している。
しかし、トルコは建国以来ケマル・アタチュルクの指導の下で世俗主義を国是としてきた。イスラムの影響力が強い地域であるが、近代化のために政治面では脱イスラムが必要だという考えを取ったのだ。この傾向は今日まで変わらず、とくに軍と司法機関は世俗主義を維持するのに積極的な役割を演じてきた。親イスラムの政治勢力が台頭したので軍が介入したこともあった。
2016年7月に起こったクーデタも、エルドアン大統領がイスラム化を進めようとしていることに危機感を抱いた軍の一部勢力が都市部の知識階級やリベラル派の世俗主義者をバックに起こした事件であった。
エルドアンとしては、テロや難民問題に対処しなければならないが、軍や司法当局は足を引っ張るので憲法を改正し強い政府にする必要があるという考えなのだろう。
しかしながら、強い権限の大統領制にすることについては反対やためらいも強い。前述のクーデタを鎮圧させるとエルドアンの支持率は40%台から60%台に急上昇したが、今回の憲法改正国民投票では賛成と反対は前述したように僅差であった。つまり、エルドアンを支持している人たちの約6分の1は改正に賛成していないのだ。
独裁体制に対する警戒心も強い。エルドアンは、2003年に首相になって以来一貫して権力の座にあり、新制度になると合計26年間、トルコの最高指導者であり続けることになる。エルドアンは建国の父である偉大なケマル・アタチュルクに並ぶ地位を獲得するという見方もある。
事実、エルドアンはこれまで強硬な手段で反対勢力を抑圧してきた。2014年に大統領に就任して以降、大統領侮辱罪で1800件もの立件を行った。また、大統領の政策に反対する新聞社を閉鎖させ、政権を批判する学者やジャーナリストを摘発した。
2016年のクーデタ後、関与を疑われて拘束された者は10万人以上に上り、多数の軍人や公務員が職を追われた。メディアも100社以上が閉鎖を命じられ、200人以上の記者が逮捕された。締め付けは社会全体を萎縮させたと言われている。
国民投票キャンペーンにおいて、メディアが反対派のキャンペーンをほとんど取り上げなかったのは、反対の論陣を張るはずの文化人や知識人の多くが拘束され、批判的なメディアは閉鎖されていたからだと言われている。
新制度の大統領は戒厳令の発出権限を持つので、エルドアンがこれまで以上の専制を行う危険もあると見られている。
トルコとEUの関係は憲法改正の決定により一層複雑化した。
そもそもトルコは、アジアと欧州、東と西の接点に位置しており、世界の安全保障にとって極めて重要な地位にある。イスラム地域であり、かつ、欧州ではないがNATOに早くから加盟したのもそのような事情からであった。ちなみに、NATOの原加盟国でない国としてはギリシャとともに最も早く加盟し、ドイツやスペインよりも先であった。
EUとの関係では、トルコは1987年から加盟を申請し、2005年に加盟交渉の開始が決定された。しかし、人権問題、トルコ移民、さらにトルコは地理的にも歴史的にも欧州でなく、欧州にとって脅威であったなどという問題があり、今日まで結論が得られないでいる。
そして、前述した難民問題は欧州とトルコの協力関係を深めたが、今回の憲法改正についてEUは強く批判した。欧州議会のシュルツ議長は、エルドアン大統領の権力拡大を警戒するコメントを発表し、トルコは「欧州の価値観から大きく逸脱している。エルドアン大統領下でトルコは独裁的な国への道を進んでいる」などと批判した。
さらに、トルコの新制度では死刑が復活すると見られており、そうなるとEUとして加盟を認めることはますます困難になる。
ただし、EUは国民投票を全面的に否定しているのではなく、「賛成と反対が僅差であったことに配慮し、できるだけ広範な支持を集めるよう努力すべきだ」と建設的な形でコメントしている。
選挙監視を得意とする欧州安全保障協力機構(OSCE)は、憲法改正について「賛成と反対は平等に扱われなかった(The referendum took place on an “unlevel playing field” as the two sides did not have equal opportunities.)」と述べ、また、反対キャンペーンに対し警察などによる妨害があったとも指摘している。
一方、トルコでは、このようなEU側の姿勢にエルドアンを支持する勢力が不満を募らせた。国民投票に先立ってトルコ政府がEU諸国に滞在している自国民を集めて集会を開こうとしたが、これら諸国はトルコ政府に協力せず、集会を認めなかった国もあった。トルコではそのときから不満が出ていたが、投票結果についてのEUのコメントに一層激しく反発した。エルドアン大統領の経済顧問は、難民流入の抑制に関するEUとの合意撤回も辞さないとも言っている。
トルコとしては、EUが頭を抱えている難民問題についてEUに協力し、みずからの負担を増やしてまでしてEUを助けているのに、EUは自分たちの苦衷を理解せず、ただEUの基準を一方的に押し付けてくるという気持ちなのだろう。
トルコが新制度に移行するまでも、また、新制度が発足してからもさまざまな曲折がありそうだ。
トルコの憲法改正
4月16日、トルコで憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、賛成票51・41%、反対票48・59%で賛成が僅差ながら多数を占めた。憲法改正により現行の議院内閣制は廃止され、大統領制になる。新制度によって大統領選挙が行われるのは2019年であり、首相職は廃止される。新大統領は、閣僚の任命や非常事態令の発令のほか、司法にも影響力を持つことになる。
エルドアン氏(現大統領)が新大統領となるのは間違いないと見られており、再選可能(これは現行制度と同じ)なので、最長で2029年まで権力を保持することが可能になる。
なぜ、トルコは大統領の権限を強めたのか。
エルドアン氏はテロ・難民対策の強化などのため必要だとしている。たしかに、トルコは長年テロ攻撃に悩まされてきた。トルコは世界でも有数の観光地だが、テロの危険がない時を選ばないと安心して行けない。
トルコは、また、中東・アフリカで発生した大量の難民が押し寄せ、欧州へ向かう通過地になっている。2016年3月には、EUと、欧州への難民流入をコントロールするために協力することで合意した。欧州で難民認定が受けられない難民を再度トルコが受け入れることも含まれている。EUはトルコに戻される難民について一定の経費負担をするが、それにしてもトルコにとって難民対策の負担は大変なものであろう。
しかし、憲法改正には複雑な背景がある。一つは「世俗主義」の国是とイスラムとのせめぎあいである。エルドアン氏は敬虔なイスラム教徒であり、かつて原理主義を扇動したとして実刑判決を受け服役したこともある。イスラム主義系の公正発展党(AKP)の立ち上げから一貫して指導者として(大統領になってからは党を離れているが実質的には変わらない)イスラムの復興を重視している。
しかし、トルコは建国以来ケマル・アタチュルクの指導の下で世俗主義を国是としてきた。イスラムの影響力が強い地域であるが、近代化のために政治面では脱イスラムが必要だという考えを取ったのだ。この傾向は今日まで変わらず、とくに軍と司法機関は世俗主義を維持するのに積極的な役割を演じてきた。親イスラムの政治勢力が台頭したので軍が介入したこともあった。
2016年7月に起こったクーデタも、エルドアン大統領がイスラム化を進めようとしていることに危機感を抱いた軍の一部勢力が都市部の知識階級やリベラル派の世俗主義者をバックに起こした事件であった。
エルドアンとしては、テロや難民問題に対処しなければならないが、軍や司法当局は足を引っ張るので憲法を改正し強い政府にする必要があるという考えなのだろう。
しかしながら、強い権限の大統領制にすることについては反対やためらいも強い。前述のクーデタを鎮圧させるとエルドアンの支持率は40%台から60%台に急上昇したが、今回の憲法改正国民投票では賛成と反対は前述したように僅差であった。つまり、エルドアンを支持している人たちの約6分の1は改正に賛成していないのだ。
独裁体制に対する警戒心も強い。エルドアンは、2003年に首相になって以来一貫して権力の座にあり、新制度になると合計26年間、トルコの最高指導者であり続けることになる。エルドアンは建国の父である偉大なケマル・アタチュルクに並ぶ地位を獲得するという見方もある。
事実、エルドアンはこれまで強硬な手段で反対勢力を抑圧してきた。2014年に大統領に就任して以降、大統領侮辱罪で1800件もの立件を行った。また、大統領の政策に反対する新聞社を閉鎖させ、政権を批判する学者やジャーナリストを摘発した。
2016年のクーデタ後、関与を疑われて拘束された者は10万人以上に上り、多数の軍人や公務員が職を追われた。メディアも100社以上が閉鎖を命じられ、200人以上の記者が逮捕された。締め付けは社会全体を萎縮させたと言われている。
国民投票キャンペーンにおいて、メディアが反対派のキャンペーンをほとんど取り上げなかったのは、反対の論陣を張るはずの文化人や知識人の多くが拘束され、批判的なメディアは閉鎖されていたからだと言われている。
新制度の大統領は戒厳令の発出権限を持つので、エルドアンがこれまで以上の専制を行う危険もあると見られている。
トルコとEUの関係は憲法改正の決定により一層複雑化した。
そもそもトルコは、アジアと欧州、東と西の接点に位置しており、世界の安全保障にとって極めて重要な地位にある。イスラム地域であり、かつ、欧州ではないがNATOに早くから加盟したのもそのような事情からであった。ちなみに、NATOの原加盟国でない国としてはギリシャとともに最も早く加盟し、ドイツやスペインよりも先であった。
EUとの関係では、トルコは1987年から加盟を申請し、2005年に加盟交渉の開始が決定された。しかし、人権問題、トルコ移民、さらにトルコは地理的にも歴史的にも欧州でなく、欧州にとって脅威であったなどという問題があり、今日まで結論が得られないでいる。
そして、前述した難民問題は欧州とトルコの協力関係を深めたが、今回の憲法改正についてEUは強く批判した。欧州議会のシュルツ議長は、エルドアン大統領の権力拡大を警戒するコメントを発表し、トルコは「欧州の価値観から大きく逸脱している。エルドアン大統領下でトルコは独裁的な国への道を進んでいる」などと批判した。
さらに、トルコの新制度では死刑が復活すると見られており、そうなるとEUとして加盟を認めることはますます困難になる。
ただし、EUは国民投票を全面的に否定しているのではなく、「賛成と反対が僅差であったことに配慮し、できるだけ広範な支持を集めるよう努力すべきだ」と建設的な形でコメントしている。
選挙監視を得意とする欧州安全保障協力機構(OSCE)は、憲法改正について「賛成と反対は平等に扱われなかった(The referendum took place on an “unlevel playing field” as the two sides did not have equal opportunities.)」と述べ、また、反対キャンペーンに対し警察などによる妨害があったとも指摘している。
一方、トルコでは、このようなEU側の姿勢にエルドアンを支持する勢力が不満を募らせた。国民投票に先立ってトルコ政府がEU諸国に滞在している自国民を集めて集会を開こうとしたが、これら諸国はトルコ政府に協力せず、集会を認めなかった国もあった。トルコではそのときから不満が出ていたが、投票結果についてのEUのコメントに一層激しく反発した。エルドアン大統領の経済顧問は、難民流入の抑制に関するEUとの合意撤回も辞さないとも言っている。
トルコとしては、EUが頭を抱えている難民問題についてEUに協力し、みずからの負担を増やしてまでしてEUを助けているのに、EUは自分たちの苦衷を理解せず、ただEUの基準を一方的に押し付けてくるという気持ちなのだろう。
トルコが新制度に移行するまでも、また、新制度が発足してからもさまざまな曲折がありそうだ。
2017.04.17
情報源は米政府の高官(複数)であり、幅広い選択肢が検討された結果だという。
決定されたことは次のとおりである。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置もいくつか検討中だ。
これだけでは要領がえられない。さらに詳しい説明が必要だが、以上を前提に考えると、新政策は評価できる点もあれば、旧態依然としているところもある。
評価できるのは、トランプ政権がオバマ、さらにその前のブッシュ政権と比べ北朝鮮問題の解決に、より熱意をもって取り組んでいるという姿勢が感じられることだ。
しかし、米国の対外政策において北朝鮮問題が中近東問題と比べ優先度が高くなったかと言えば、答はノーだろう。その点ではこれまでの政権と変わらない。
新政策の目標は朝鮮半島の非核化であり、現体制を倒すことでないというのも、以前からそうであり、何も新しいことでない。
中国に頼る姿勢はまさに旧態依然と言わざるを得ない。
中国企業に制裁を加えることは効き目があるだろうし、それが本当に実行されるならば新しい政策として意味がある。ただし、米国は中国が嫌がることをすることになるので、現実に実行されるか、必ずしも明確でない。
軍事的措置については、「検討中」というだけでは何とも言えない。ほのめかすことで一定の効果があるかもしれないが、逆に軍事衝突につながる危険もある。
このように見ていくと、ティラーソン国務長官がこれまで20年間の北朝鮮政策を失敗だったという割には、新政策は中身が乏しいと思う。
米国は新北朝鮮政策を決定した?
トランプ政権は、発足以来検討を進めてきた北朝鮮政策を決定したと米紙が4月14日付で伝えている。中国の新華社電も16日かなり詳しくその報道を伝えている。新華社が米国の新聞を引用するのは異例である。情報源は米政府の高官(複数)であり、幅広い選択肢が検討された結果だという。
決定されたことは次のとおりである。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置もいくつか検討中だ。
これだけでは要領がえられない。さらに詳しい説明が必要だが、以上を前提に考えると、新政策は評価できる点もあれば、旧態依然としているところもある。
評価できるのは、トランプ政権がオバマ、さらにその前のブッシュ政権と比べ北朝鮮問題の解決に、より熱意をもって取り組んでいるという姿勢が感じられることだ。
しかし、米国の対外政策において北朝鮮問題が中近東問題と比べ優先度が高くなったかと言えば、答はノーだろう。その点ではこれまでの政権と変わらない。
新政策の目標は朝鮮半島の非核化であり、現体制を倒すことでないというのも、以前からそうであり、何も新しいことでない。
中国に頼る姿勢はまさに旧態依然と言わざるを得ない。
中国企業に制裁を加えることは効き目があるだろうし、それが本当に実行されるならば新しい政策として意味がある。ただし、米国は中国が嫌がることをすることになるので、現実に実行されるか、必ずしも明確でない。
軍事的措置については、「検討中」というだけでは何とも言えない。ほのめかすことで一定の効果があるかもしれないが、逆に軍事衝突につながる危険もある。
このように見ていくと、ティラーソン国務長官がこれまで20年間の北朝鮮政策を失敗だったという割には、新政策は中身が乏しいと思う。
2017.04.15
中国の軍には「有償業務」なるものがある。抗日戦争を戦っていたとき以来の伝統というか、習慣として認められてきたことだ。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的だ。しかし、中国軍では「有償業務」が一般的に認められている。
具体的には、中国軍は通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われているそうだ。
「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいの?
「幼児教育」? 一体何事か。
中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロとは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。
習近平は胡錦濤より徹底的に軍のプロ化をすすめており、「有償業務」を廃止することとしたのはその一環である。決定は2015年11月、中央軍事委員会改革工作会議で行われた。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたという。
残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業?)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画を策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
中国軍における「有償業務」の廃止
中国軍における反腐敗運動について当研究所は数回論評してきた。最近では2月6日に「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」を掲載し、軍における反腐敗運動として様々なことが行われたが、習近平主席は不満であり、「軍は骨の髄まで腐りきっているので改革が必要だ。解放軍の魂を作り替えなければならない」とまで言う人もいることを紹介した。以下は軍改革のフォローアップである。中国の軍には「有償業務」なるものがある。抗日戦争を戦っていたとき以来の伝統というか、習慣として認められてきたことだ。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的だ。しかし、中国軍では「有償業務」が一般的に認められている。
具体的には、中国軍は通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われているそうだ。
「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいの?
「幼児教育」? 一体何事か。
中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロとは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。
習近平は胡錦濤より徹底的に軍のプロ化をすすめており、「有償業務」を廃止することとしたのはその一環である。決定は2015年11月、中央軍事委員会改革工作会議で行われた。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたという。
残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業?)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画を策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
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