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2017.04.24

北朝鮮による日本、米国、中国批判

 北朝鮮労働党の機関紙、『労働新聞』は4月21日と22日の両日、日本、中国、米国を相次いで批判する論評を掲載した。一部の表現についてはあらためて確認したほうがよいが、とりあえず中央通信社の報道によることとする。

 北朝鮮がほぼ同時期に日本、米国および中国を批判するのは、まったくなかったと言えるほど知識を持ち合わせているわけではないが、私の知る限り初めてである。この数週間朝鮮半島をめぐって生じている緊張に関連して、北朝鮮がこれら3国に反発していることがうかがわれる。

 中国に関しては、名指しはせず、「我々の周辺国」としているが、その指すところは明らかだ。
 「他国の笛に踊らされてよいのか」と言っている。「他国」とは米国のことである。
 中国は北朝鮮を「威嚇」し、「ふざけたことを言っている」とも評している。
 さらに、「北朝鮮が核・ミサイルの開発を進めたために、かつて中朝両国の共通の敵であった米国を中国の側に引き付けたと中国は言っているが、それなら米国を何と呼ぶべきか、分からなくなる」とも言い、「中国が北朝鮮に対する経済制裁に執着するなら我々の敵である米国から拍手喝さいを受けるかもしれないが、我々の関係に破滅的結果をもたらすことを覚悟すべきだ」とも述べている。
 要するに、中国が米国に従って経済制裁を強化しようとしていることを非難しているのだ。

 米国については、「過去20年間の北朝鮮政策が失敗であった責任を北朝鮮に転嫁しようとしている」「米国は北朝鮮に対して軍事的・外交的な圧力と経済制裁を強化しようとしている」「トランプ政権が北朝鮮敵視政策を放棄しない限り、われわれもやはり、米国との対話に関心を持たない」「米国が北朝鮮に先制攻撃するなら、米国の運命や米国民の生存を掛けなければならない」「むやみに軽挙妄動してはならない」などと言っている。
 
 日本については、「過去に犯した罪悪の代価を百倍、千倍にして払わせる」と言い、具体的には、16世紀末の文禄・慶長の役(朝鮮では「壬辰倭乱」)と1905年の第二次日韓協約(朝鮮では「乙巳5条約」。朝鮮を日本の保護国とした条約)を挙げて、日本が朝鮮に侵略したことを非難している。
 
 この評論を攻撃的と見るべきか、それとも守勢の中から出た叫び声と見るべきか。表面的には前者のように見えるかもしれないが、これらはすべてこれまで言ってきたことであり、現在の緊張状態の中で北朝鮮があらたに攻勢に回ることを意味しているとは思われない。つまり、威勢を張っているところはあるが、抗議の発言である。日本人的には論理が飛躍しているところはあるが、しいてわかりやすく言えば、「日本は過去朝鮮を侵略し、苦しめてきた。今また、北朝鮮に敵対的な姿勢を取っている。それは我慢できない」ということではないか。
 今の日本の若者と言ってもさまざまだが、この2つの事件を知らない歴史音痴が、残念ながら、少なくないかも知れない。しかし、苦しめられてきた朝鮮にはいまだに忘れられない人が多数いても不思議でない。両国の間の認識のギャップには誰もが注意すべきだと思う。

 なお、米国についての発言は、「軽挙妄動」しているのははたして米国か、それとも北朝鮮か、よくわからないくらい北朝鮮問題は複雑化しているが、トランプ大統領のはったりにかんがみれば、北朝鮮が米国に対してそう言うのも理解不可能でない。このことについては4月21日、当研究所HPの「空母カール・ビンソンはインド洋に向かっていた‐トランプのはったり」で指摘したので参照願いたい。
 トランプ大統領が語った空母カール・ビンソンは23日現在、なお西太平洋上におり、日本の海上自衛隊と合同演習を行っていた。このような演習は大いにやればよいが、日本はトランプ大統領の国際的はったりに引き込まれないよう注意が必要だ。
 
 ともかく、朝鮮半島の緊張がいぜんとして静まっていない現在、北朝鮮が発した3つの論評は注目に値する。日米中の3カ国が北朝鮮による挑発的行動を問題視し、抑止を試みるのは当然だが、一方、北朝鮮がどのような対応をするかも極めて重要だからである。

2017.04.21

空母カール・ビンソンはインド洋に向かっていた‐トランプのはったり

 米国が原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島方面に派遣したことは、シリアに対するミサイル攻撃やアフガニスタンで世界最大の通常爆弾を使用したこととあいまって、米国が先制攻撃をも辞さない姿勢の表れとして韓国や我が国では大騒ぎになった。 
 しかし、カール・ビンソンは、北朝鮮が新たな挑発行動に出るかもしれないと警戒されていた4月15日(金日成の生誕記念日)を過ぎても朝鮮半島付近に現れなかった。それどころか、実際にはゆっくり北上しており、北朝鮮の行動を警戒するとか、先制攻撃するとかいうような状況でなかった。
 このことはすでに一部報道で伝えられているが、日本では政府もメディアもいまだに北朝鮮非難一色であり、カール・ビンソンについての扱いもこれまでとあまり変わっていない。
 
 しかし、重要なことが2つある。
 第1は、カール・ビンソンがなぜゆっくりと航行しているかである。
 カール・ビンソンが朝鮮半島へ航行すべしとの命令を受けたのは4月8日であった。そのころカール・ビンソンはシンガポール付近におり、命令を受けて朝鮮半島へ急行すれば15日前には到着しているはずだった。しかし、実際には、命令を受けてからインド洋に入り、オーストラリアとの合同演習に参加し、それを終えてあらためて朝鮮半島へ向かうこととなった。そして15日、シンガポールとインドネシアのジャワ島との間のスンダ海峡を通過ししていることが発見された。つまり、命令を受けてから、朝鮮半島とはいったん逆の方向に向かい、演習に参加し、あらためて朝鮮半島に向かったので、命令から1週間後、出発した時とほぼ同じ地点に戻ることになったのだ。
 そしてその後も、「カール・ビンソンは非常にゆっくり北上している。途中、海上自衛隊との共同演習なども行う」と日本政府の高官が語ったそうだ(『産経新聞』4月19日付)。
 米国が北朝鮮情勢を本当に危険だと認識していたならば、そのような行動にはならないはずだ。米国は、実は、北朝鮮をそれほど深刻に思っていないのではないか。
 約20年前、台湾で総統選挙が行わる直前、中国が台湾の近海にミサイルを撃ち込んで圧力を加えてきたのでやはり米国の空母が2隻派遣されが、その時は文字通り急行した。

 第2は、トランプ大統領は、12日、Fox Business Channelのインタビューで、「我々は非常に強力な無敵艦隊を朝鮮半島に送っている。空母よりはるかに強力な潜水艦もある。(We are sending an armada. Very powerful. We have submarines. Very powerful. Far more powerful than the aircraft carrier. That, I can tell you.)」と述べ、緊張が一気に高まったのだが、現在米国ではこの発言が適切であったか問われている。
 第1で説明した事実関係とあまりにも違っており、とくに”We are sending an armada”と述べ、朝鮮半島に無敵艦隊を送っていると現在進行形で言ったからだ。
 トランプ氏が誇大発言をするのは今回が初めてでない。それだけに今回のカール・ビンソンなどの派遣に関する発言が「はったり」であっても驚かないが、北朝鮮による挑発的な行動に危機感を募らせていた韓国や日本としては、今度は米国から新たな危険があるとあおられたのであり、甚だ遺憾である。

 米国は韓国や日本と友好関係にあり、両国の安全保障は米国に頼っている。当然米国大統領の発言は重視し、尊重してきた。しかし、これからは、そのような姿勢では済まなくなり、トランプ大統領の発言は「はったり」でないか、疑ってみることが必要になりそうだ。
 一部には、4月25日が朝鮮人民軍創設記念日なので、この日までにはカール・ビンソンが朝鮮半島へ到着すると、相変わらずの調子で言及する向きがあるが、あえて例えれば、「ビールの栓は開けてしまったが、まだ残っている。25日の記念日まで置いておこう」というようなことではないか。

 話は別だが、日本のバンド「ラウドネス」がロサンゼルス空港で入国を拒否され、予定されていたシカゴでの音楽イベントに出演できなくなったそうだ。外国人の入国に関する規制が強くなったためだと言われている。米国がテロ対策に躍起となるのは理解できるし、同情に値するが、ラウドネスは30年以上活動を続けており、1984年には米国で公演したこともある。このようなグループまで規制の対象になるのはまったく解せない。
 米国への入国に際して携帯電話の番号やパスワードなどが強制提出させられることになる可能性もあるという。もしそれが実行されたら、また新たな弊害が起こるだろう。
 
2017.04.19

トルコの憲法改正

 4月16日、トルコで憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、賛成票51・41%、反対票48・59%で賛成が僅差ながら多数を占めた。
 憲法改正により現行の議院内閣制は廃止され、大統領制になる。新制度によって大統領選挙が行われるのは2019年であり、首相職は廃止される。新大統領は、閣僚の任命や非常事態令の発令のほか、司法にも影響力を持つことになる。
 エルドアン氏(現大統領)が新大統領となるのは間違いないと見られており、再選可能(これは現行制度と同じ)なので、最長で2029年まで権力を保持することが可能になる。

 なぜ、トルコは大統領の権限を強めたのか。
 エルドアン氏はテロ・難民対策の強化などのため必要だとしている。たしかに、トルコは長年テロ攻撃に悩まされてきた。トルコは世界でも有数の観光地だが、テロの危険がない時を選ばないと安心して行けない。
 トルコは、また、中東・アフリカで発生した大量の難民が押し寄せ、欧州へ向かう通過地になっている。2016年3月には、EUと、欧州への難民流入をコントロールするために協力することで合意した。欧州で難民認定が受けられない難民を再度トルコが受け入れることも含まれている。EUはトルコに戻される難民について一定の経費負担をするが、それにしてもトルコにとって難民対策の負担は大変なものであろう。

 しかし、憲法改正には複雑な背景がある。一つは「世俗主義」の国是とイスラムとのせめぎあいである。エルドアン氏は敬虔なイスラム教徒であり、かつて原理主義を扇動したとして実刑判決を受け服役したこともある。イスラム主義系の公正発展党(AKP)の立ち上げから一貫して指導者として(大統領になってからは党を離れているが実質的には変わらない)イスラムの復興を重視している。
 しかし、トルコは建国以来ケマル・アタチュルクの指導の下で世俗主義を国是としてきた。イスラムの影響力が強い地域であるが、近代化のために政治面では脱イスラムが必要だという考えを取ったのだ。この傾向は今日まで変わらず、とくに軍と司法機関は世俗主義を維持するのに積極的な役割を演じてきた。親イスラムの政治勢力が台頭したので軍が介入したこともあった。
 2016年7月に起こったクーデタも、エルドアン大統領がイスラム化を進めようとしていることに危機感を抱いた軍の一部勢力が都市部の知識階級やリベラル派の世俗主義者をバックに起こした事件であった。
 エルドアンとしては、テロや難民問題に対処しなければならないが、軍や司法当局は足を引っ張るので憲法を改正し強い政府にする必要があるという考えなのだろう。

 しかしながら、強い権限の大統領制にすることについては反対やためらいも強い。前述のクーデタを鎮圧させるとエルドアンの支持率は40%台から60%台に急上昇したが、今回の憲法改正国民投票では賛成と反対は前述したように僅差であった。つまり、エルドアンを支持している人たちの約6分の1は改正に賛成していないのだ。
 独裁体制に対する警戒心も強い。エルドアンは、2003年に首相になって以来一貫して権力の座にあり、新制度になると合計26年間、トルコの最高指導者であり続けることになる。エルドアンは建国の父である偉大なケマル・アタチュルクに並ぶ地位を獲得するという見方もある。
 事実、エルドアンはこれまで強硬な手段で反対勢力を抑圧してきた。2014年に大統領に就任して以降、大統領侮辱罪で1800件もの立件を行った。また、大統領の政策に反対する新聞社を閉鎖させ、政権を批判する学者やジャーナリストを摘発した。
 2016年のクーデタ後、関与を疑われて拘束された者は10万人以上に上り、多数の軍人や公務員が職を追われた。メディアも100社以上が閉鎖を命じられ、200人以上の記者が逮捕された。締め付けは社会全体を萎縮させたと言われている。
 国民投票キャンペーンにおいて、メディアが反対派のキャンペーンをほとんど取り上げなかったのは、反対の論陣を張るはずの文化人や知識人の多くが拘束され、批判的なメディアは閉鎖されていたからだと言われている。
 新制度の大統領は戒厳令の発出権限を持つので、エルドアンがこれまで以上の専制を行う危険もあると見られている。

 トルコとEUの関係は憲法改正の決定により一層複雑化した。
 そもそもトルコは、アジアと欧州、東と西の接点に位置しており、世界の安全保障にとって極めて重要な地位にある。イスラム地域であり、かつ、欧州ではないがNATOに早くから加盟したのもそのような事情からであった。ちなみに、NATOの原加盟国でない国としてはギリシャとともに最も早く加盟し、ドイツやスペインよりも先であった。
 EUとの関係では、トルコは1987年から加盟を申請し、2005年に加盟交渉の開始が決定された。しかし、人権問題、トルコ移民、さらにトルコは地理的にも歴史的にも欧州でなく、欧州にとって脅威であったなどという問題があり、今日まで結論が得られないでいる。
 そして、前述した難民問題は欧州とトルコの協力関係を深めたが、今回の憲法改正についてEUは強く批判した。欧州議会のシュルツ議長は、エルドアン大統領の権力拡大を警戒するコメントを発表し、トルコは「欧州の価値観から大きく逸脱している。エルドアン大統領下でトルコは独裁的な国への道を進んでいる」などと批判した。
 さらに、トルコの新制度では死刑が復活すると見られており、そうなるとEUとして加盟を認めることはますます困難になる。
 ただし、EUは国民投票を全面的に否定しているのではなく、「賛成と反対が僅差であったことに配慮し、できるだけ広範な支持を集めるよう努力すべきだ」と建設的な形でコメントしている。
 選挙監視を得意とする欧州安全保障協力機構(OSCE)は、憲法改正について「賛成と反対は平等に扱われなかった(The referendum took place on an “unlevel playing field” as the two sides did not have equal opportunities.)」と述べ、また、反対キャンペーンに対し警察などによる妨害があったとも指摘している。
 一方、トルコでは、このようなEU側の姿勢にエルドアンを支持する勢力が不満を募らせた。国民投票に先立ってトルコ政府がEU諸国に滞在している自国民を集めて集会を開こうとしたが、これら諸国はトルコ政府に協力せず、集会を認めなかった国もあった。トルコではそのときから不満が出ていたが、投票結果についてのEUのコメントに一層激しく反発した。エルドアン大統領の経済顧問は、難民流入の抑制に関するEUとの合意撤回も辞さないとも言っている。
 トルコとしては、EUが頭を抱えている難民問題についてEUに協力し、みずからの負担を増やしてまでしてEUを助けているのに、EUは自分たちの苦衷を理解せず、ただEUの基準を一方的に押し付けてくるという気持ちなのだろう。

 トルコが新制度に移行するまでも、また、新制度が発足してからもさまざまな曲折がありそうだ。

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