平和外交研究所

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2017.08.08

マニラでの米国と北朝鮮

 北朝鮮によるICBMの第2回目実験(7月28日)を非難して国連安保理が北朝鮮制裁の新決議を採択したのが8月5日。その直後に(7日)マニラで開かれたASEAN地域フォーラム(ARF)において北朝鮮によるミサイル発射実験問題が議論され、ほぼすべての国が北朝鮮を非難し、態度を変更するよう求めたが、北朝鮮のリ・ヨンホ(李容浩)外相は従来からの米国非難を繰り返し、まったく応じる姿勢を見せなかったという。
 大筋としては、最初のICBM実験(7月4日)の際には中ロが日米韓などに同調せず国際社会が割れていた感があったが、さすがに第2回目の実験となると関係国は北朝鮮に厳しい姿勢で臨むことで一致し、今般のASEAN会議でも各国はこぞって北朝鮮を非難したという流れである。
 しかし、マニラで米朝両国は、もちろん直接対話ではなかったが、一種の間接的なコミュニケーションを行ったと思われる。
 特に、ティラーソン長官の、「北朝鮮が一連のミサイル発射実験を中止すれば米国は北朝鮮と話し合いをする用意がある」という発言である。米国はオバマ政権時代から、「北朝鮮が核を放棄すること」を関係改善の条件とし、トランプ政権も(いやいやながら?)この立場を維持しつつ、「北朝鮮との対話を始めるには一定の環境が必要」とも述べていた。

 これらに比べ、今回のティラーソン発言については次の点が注目された。
 第1に、「ミサイルの発射実験を中止すれば話し合う用意がある」という表明は、「核を放棄しない限り対話しない」というのと比べ、前向きの印象がある。
 第2に、これまでは、核放棄という最終目標達成と話し合いの開始の条件を区別していなかったが、今回は「話し合いを始める」ことに絞って条件を具体的に示した。
 第3に、核実験には言及しなかった。話し合いの開始のためには核実験の停止は必要でないとも解しうる発言だった。ただし、ティラーソン氏はそのようなことを十分認識した上で発言したか、疑問の余地はありそうだ。

 一方、リ・ヨンホ外相の発言は、各国から強硬な姿勢に終始し、攻撃的であったなどと評されたそうだ。しかし、北朝鮮の外相として各国が歓迎するようなことを発言できるはずはないので、リ・ヨンホ氏の発言が強硬であったというだけではあまり意味がない。少なくともこれまでの北朝鮮の発言と比べさらに強硬になっていたか、というところまで踏み込まなければならない。そのように見ていくと、リ・ヨンホ氏の発言は決して強硬であったとは思われない。
 リ・ヨンホ氏は、米国を非難する文脈の中でアフガニスタン、イラン、リビアなどで政権が交代させられたことに言及した。米国によって攻撃されることは北朝鮮が20年以上繰り返している基本問題であり、核・ミサイル問題の核心である。要するにリ・ヨンホ氏の発言は従来通りだったのだ。
 リ・ヨンホ氏は河野新外相とも、また、カン・ギョンフア(康京和)韓国外相とも短時間言葉を交わした。
 同氏がティラーソン長官の発言をどのように受け止めたか、知る由もないが、全体的にみると、歓迎できるという気持ちを持ったのではないかと推測される。

2017.08.04

内閣改造と自衛隊①

 8月3日の内閣改造により、防衛相は稲田朋美から小野寺五典に交替した。稲田はPKO部隊の派遣、とくにいわゆる日報問題などをめぐり防衛省内の隠ぺいを防げず、国会では一貫した説明をできなかった。また、かねてからの個人的主義主張との整合性のなさを指摘されると落涙したり、シンガポールでのシャングリラ対話に出席した際は女性であることを誇示する発言をして顰蹙を買うなど国の安全保障に責任を持つ人物にはふさわしくない振る舞いを繰り返した。さらに森友学園問題など所管外のことについても自らの関与を問われ、一貫した説明をできなかった。
 
 小野寺は安倍内閣で2回目の防衛相であり、能力、人柄、他国への配慮などいずれの点においても優れた人物であり、2012年から2年間の防衛相時代には高い信頼を勝ち得ていた。防衛省内で好かれていたからと言ってりっぱな防衛相とは限らないが、小野寺はどの角度から見ても優れた防衛相だった。安倍首相が稲田に替え、小野寺を防衛相に再任したのは、激しく傷ついた防衛省・自衛隊を立て直すのに賢明な人事であった。

 しかるに、南スーダンへの自衛隊の派遣から発した防衛省・自衛隊の問題はこの人事で半分は解消されたが、あと半分は未解決のまま残っている。具体的には、稲田防衛相の下で発生した二つの問題、すなわち防衛省・自衛隊における隠ぺいと、いわゆる「文民統制(シビリアン・コントロール)」の欠如である。
 自衛隊への期待は大きい。よりよい自衛隊になってもらいたい。その重要な任務にふさわしい法的根拠を整備したい。自衛隊員には誇りをもって任務についてほしい、またそのために必要な待遇をしてあげたいと思う。
 しかし、自衛隊員を神格化して、過ちを犯すことはないという前提に立ってはならない。彼らも我々と同じ人間であり、過ちを犯すことも、それを隠蔽しようとすることもある。その前提で見ると、防衛相直轄の防衛監察は十分機能しないことが、今回露呈されたのではないか。

 防衛監察は平成19年に設立された制度であり、その目的は、「不正や非違行為」、あるいはそれにつながる行為がある場合、あるいはあると疑いをもたれる場合に事実関係を調査すること、あるいは問題となる行為を未然に防止することなどである。この防衛監察は防衛大臣の直轄として行われ、その職員は事務官等と陸海空の自衛官、および検察庁、公正取引委員会からの出向者、公認会計士等から構成されている。
 この職員構成を見ると、前述した防衛省員・自衛隊員も過ちを犯すことがあるという認識に立っているように見える。
 また、防衛省・自衛隊は制度だけでは足りないことがありうるので、防衛省員や自衛隊員などに対して、「業務上の問題点、見聞きした不正行為等、コンプライアンス(注 法律順守)に関する問題点について、幅広い情報提供をお願いします」と呼び掛けている。いわゆる内部告発も奨励しているわけであるが、情報提供の方法としては「ホットライン・ボタンからの提供」を指示している。
 これらの制度はよく考えられていると見えるが、ざんねんながら、今回のPKO部隊の日報隠ぺいに関しては機能したとはいいがたい。とくに、稲田防衛相が日報を不公表とすることを了承したか否かという最大問題については、不公表の決定が行われた際の状況は不明としつつ、「大臣が不公表を了承したという事実はない」、と結論だけ明言した。つまり、全体は不明としつつ、その中の一点だけ明確だとしたのであり、監察の信頼性に疑問を持たれたのは当然であった。状況が分からないのであれば、稲田大臣の関与についても断言できないとすべきだったのである。
 ここに書いたことについては、不正確な点があるかもしれない。そうであれば、今後の審議において事実関係が明らかにされるにしたがい、当然訂正しなければならない。そのことを断ったうえであるが、特別監察には限界があることを指摘したい。それは今回の特別監察の報告書にも記載されていることである。

 今すぐでないかもしれないが、自衛隊の活動は状況いかんで海外にも広がりうる。国会での答弁ではそのようなことはないというような趣旨の説明がなされたが、法律にはそれが可能だと記載されている。いわゆる「存立危機事態」である。その際、自衛隊は、例えば、北朝鮮軍と対峙し、北朝鮮軍か、日本の自衛隊か、どちらが先に発砲したか問題になることがありうる。そのような場合、だれからも、どの国から疑われても耐えうる真実の証明はできるか。もし今回の監察報告のような説得力のない結論だけ、つまり、自衛隊は先に発砲していないという結論だけ言っても到底信用してもらえないだろう。さらに言えば、本当に機能しない制度は、真実を隠蔽するには役に立つかもしれないが、実は真実の追及をそらすだけに罪が重い。
 今後、防衛省・自衛隊において過ちが発生する場合に備えて、真の意味で第三者から構成される調査メカニズムを構築することが必要である。国の防衛にかかわることであり、いつもガラス張りにできないのは当然だが、どうしても必要な場合、総理大臣の判断で、あるいは国民の一定数、たとえば10万人が要求した場合、純粋に第三者の機関が、法的権限を持って、防衛相の管轄下でなく、独立して調査することが絶対的に必要である。それは、自衛隊を強くするためにも必要である。
 

2017.08.01

混迷を深めるトランプ政権

 「混迷するトランプ政権」と題する一文を本HPにアップしたのは7月29日であったが、それから1週間もたたない間に事態はさらに悪化した。
 ホワイトハウスの中枢が問題だ。肝心かなめの首席補佐官は、ラインス・プリーバス氏からジョン・ケリー氏に交替した。広報部長に任命されたばかりのアンソニー・スカラムッチ氏はわずか10日で辞任した。報道官はショーン・スパイサー氏からサラ・ハッカビー・サンダース氏に交替した。
 人事の混乱は今に始まったことでなく、政権が発足して以来続いていた。国家安全保障担当の補佐官であったマイケル・フリン氏は1カ月しかもたなかったし、トランプ大統領の厚い信頼を得ていたスティーブン・バノン氏は国家安全保障会議のメンバーから外された。
 今後は、セッションズ司法長官の辞任の可能性が取りざたされており、さらには、ティラーソン国務長官も年末まで持つか疑問だとうわさされている。
 もっとも、トランプ大統領は議会や地方ではまだかなりの支持を得て持ちこたえているが、日本を含め普通の国の感覚では政権全体が液状化しつつあるように見える。

 対外面の状況も非常に厳しくなっている。北朝鮮は米国の足元を見透かしてICBMの発射実験を行ったのではないかと前回のHPでは記したが、ロシアも最近、米国に挑戦的な姿勢を見せるようになっている。
 ロシアは、北朝鮮による初めてのICBM実験(7月4日)後、安保理で米国作成の決議案に反対したのに引き続き、28日の第2回発射実験については、実験自体は批判しつつ、米国は北朝鮮の核・ミサイル開発の責任を「ロシアと中国に押しつけようとしている」と反発した。さらに、ロシアは日米韓に矛先を向け、これら3国は「軍事的な活動を強めている」と非難し、また、韓国へのTHAADの配備についても反対を繰り返した(31日)。
 時間的には前後するが、ロシアのプーチン大統領は30日、米国の外交官ら755人を追放する方針を明らかにした。米議会で可決されたロシアへの制裁強化法案にトランプ大統領が署名すると発表したことへの報復だと言われているが、オバマ政権以来の経緯も見ておく必要がある。
 オバマ前大統領が米大統領選への介入を理由に制裁としてロシア外交官35人を国外退去処分とし、米国内2カ所のロシア関連施設の使用禁止を決めたのは昨年12月であった。
 トランプ大統領はロシアとの関係を改善する強い意欲を見せていたが、実際にはなかなか前進できなかった。7月初めのG20の際、プーチン氏はトランプ米大統領と2回にわたる異例の長時間会談を行った。この時、プーチン氏はこれらの措置の撤回を求めたが受け入れられなかったという。
 そして、米国がロシアに対する制裁を強化したことが引き金となって、ロシアは強く反撃することを決めたのであるが、その背景には、トランプ政権が非常に不安定な状況に陥っていることへの考慮も働いていたのではないか。

 北朝鮮によるICBMの発射実験は米中関係にも暗い影を落とした。トランプ大統領は29日、得意のツイッターで「中国に非常に失望」「中国は北朝鮮について口だけで、我々のために何もしていない」などと発信した。これまでトランプ大統領は北朝鮮問題に関する中国の姿勢を積極的に評価しつつ、さらなる圧力の強化を求めてきた。しかし、第2回目のICBM実験により、それまでの建設的な姿勢はぷっつりと切れ、正面から中国批判を始めたのだ。
 中国はこれに対し31日、「中国が原因となって北朝鮮の核問題が生じているのではない。関係各国はこの点に関し正しく理解する必要がある。国際社会は解決に向けた中国の取り組みを広く認識している」などと反論した(ロイター7月31日)。米国の強い批判にくらべ穏健な反応である。推測にすぎないが、中国としてもトランプ政権の足元を見つつ、売り言葉に買い言葉でなく冷静に対応する方が中国に有利に働くと判断しているのではないかと思われる。

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