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2017.09.20

トランプ大統領の国連演説

 トランプ米大統領は9月19日、ニューヨークの国連本部で行った就任後初の一般討論演説で、非常に強い言葉で北朝鮮を非難した。
 演説は41分間。イランの核問題、ベネズエラの民主主義を巡る問題、イスラム過激派、キューバ政府などについても言及したが、最も鋭い矛先を向けたのは北朝鮮であった。
 トランプ氏は、北朝鮮が米人学生を非人道的に扱い、「日本の浜辺で13歳の少女を拉致した」ことなどに触れ、「邪悪な国家」だと表現しつつ、「米国は強大な力と忍耐力を持ち合わせているが、米国自身、もしくは米国の同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる。『ロケットマン』は自身、および自身の体制に対する自爆に向かっている。北朝鮮にとっては非核化が将来への唯一の道だ」と言明した。
 また、国連加盟国は北朝鮮が敵対的な態度を改めるまで 金正恩体制の孤立化に向け共に取り組む必要があるとの考えを示し、「一部の国が北朝鮮と貿易を行うだけでなく、武器を提供し、財政支援を行っていることに憤りを感じる」と述べた。中国を非難したのだろう。

 トランプ氏の発言は、北朝鮮問題に限らず全般的に分かりやすく、理解を得られやすいのが特徴的だが、北朝鮮はもとより中国やロシアなど米国と対立気味の諸国からは反発を受けやすい。ラブロフ・ロシア外相などは、米国第一主義は受け入れられないとさっそくコメントしている。

 トランプ氏は米国が主導的に北朝鮮を攻撃すると言ったのではない。あくまで米国や同盟国が北朝鮮から攻撃されて場合のこととして北朝鮮を破壊する覚悟もあると述べたに過ぎないが、言葉は激烈であり、非難合戦がさらに高じる危険はある。また、マティス国防長官は、ソウルに対する反撃を防ぎつつ北朝鮮を攻撃することは可能だとか、また10月に空母を朝鮮半島に派遣するなどと発言している。このように強硬姿勢に対して北朝鮮は強気で反撃してくる恐れが大きいことを勘案すると、不測の事態が発生する危険性は一段と高まったと見ざるを得ない。

 北朝鮮の李容浩外相は22日に演説予定であり、そのなかで米国との関係をどのように表現するか注目される。

2017.09.19

ミャンマーとロヒンギャ

 ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問が、イスラム教徒のロヒンギャ問題で窮地に立たされている。ニューヨークでは国連総会の開催をひかえた9月18日、ロヒンギャ問題に関する閣僚レベルの非公式会合が開催され、スー・チー氏に暴力を止めさせるよう善処を求める意見が相次いだ。批判的な発言が多かったらしい。同女史はミャンマーの民主化のため軍政権下で抵抗を続け、ノーベル平和賞を受賞しているが、その返還を求める署名がネット上で集められている。同じノーベル平和賞受賞者のマララ氏は、スー・チー氏がロヒンギャ問題について黙していると非難した。

 ミャンマーには約100万人のロヒンギャがいるが、その地位は極めて不安定である。ミャンマー人からは差別的な待遇を受けており、不満から暴力行為に走る場合もあり、人権侵害問題が起こっている。ミャンマー国軍によるロヒンギャへの組織的迫害があるとも指摘されている。2015年春に数千人のロヒンギャ難民がどの国からも拒否され海上をさまよった事件は世界的に有名になった。オバマ大統領は2016年9月、訪米したスー・チー氏に対しロヒンギャ問題の解決を促した。
 ミャンマーには少数民族が多数存在し、全人口の3分の1を占めているが、これらはすべてミャンマー国籍を持つミャンマー人である。しかし、ロヒンギャはミャンマー国籍を持たず、この中に含まれていない。ミャンマー政府はロヒンギャをミャンマー国内の少数民族と認めず、バングラデシュからの難民と位置付けており、「(不法移民の)ベンガル人」という呼称を用い続けているのである。
 
 スー・チー氏は手をこまねいていたわけではない。2016年8月には、アナン元国連総長を長とする特別諮問委員会を設置し、1年後の8月24日、同委員会は最終報告書を公表した。同報告は、ミャンマーが世界最多の無国籍者を抱えると指摘し、ミャンマー政府に国籍法を改正し、ロヒンギャが国籍を取得できる制度に改めるよう求めている。移動の自由も認めるよう勧告している。アナン委員長が、「実行の責任は政府にある」と述べたのに対し、スー・チー氏は「政府全体で勧告を推進する枠組みを作る」と答えたという。
 しかし、報告書公表の翌日には、ロヒンギャとみられる武装集団が警察施設などを襲撃した事件が起こり、治安当局が掃討作戦を行った。
 事態は急を要する。スー・チー氏は国連総会を欠席し、9月19日に同国で演説し、その中で国連の調査を受け入れる用意があることも示唆した。

 ミャンマーでは、かねてから民主化勢力、軍、少数民族(ロヒンギャは含まれない)が三つ巴状態にあった。軍事政権下では民主化勢力対軍の対立だけが目立っていたが、民主化が実現すると、少数民族問題の解決なくして真の民主化は実現しないことが明らかになり、国民の間の不満が高まった。
 アウン・サン・スー・チー国家顧問はさる3月30日、民主的な政権が生まれてからの1年を回顧してテレビ演説し、「国民の期待ほどには発展できなかった」と認め、さらに、「私の努力が十分でなく、もっと完璧にこなせる人がいるというなら身を引く」とまで述べていた。
そのような状況の中で、ロヒンギャ問題が悪化し、風雲急を告げる事態になってきた。政府としては、特別諮問委員会の勧告に従い必要な措置を実行していかなければならないが、不満を募らせているミャンマー国民のロヒンギャを見る目は冷たい。その背景には、さらに、国民の大部分が仏教徒であるという事情もある。
 しかし、スー・チー氏に代わりうる指導者はいそうもない。なんとしてでも同最高顧問の下で改革を進める必要がある。国際社会もスー・チー氏を支持し、また、必要な援助を提供する必要がある。
2017.09.14

北朝鮮の核実験と国連安保理決議

 北朝鮮による核実験を非難し、制裁を強める国連安保理の決議が9月11日、成立した。北朝鮮への石油供給を3割減らすこと、同国の繊維製品の輸出を禁止することなどが含まれているが、この決議で北朝鮮の核・ミサイルの実験を止めることができるか、疑問視する声が圧倒的だ。トランプ大統領自身も翌日、訪米中のナジブ・マレーシア首相に、「一つの非常に小さな一歩に過ぎない。大したことではない」「どんな効果があるかは分からない」などと語っている。限定的な効果しか期待できないことを自認しているのだ。

 北朝鮮の核・ミサイル問題の解決のカギを握っているのは中国である、中国は北朝鮮に対してもっと強力に迫るべきであるという考えは依然として根強い。米国も日本もそのような考えであるが、中国は約50万トンの石油供給をすべて停止することはしないという姿勢である。ある程度減少させているが、完全な禁輸はしないという立場である。その理由は①完全禁輸は北朝鮮を制御不能な混乱に導く、②北朝鮮の核・ミサイル開発の根本的理由は北朝鮮の安全確保である、③この問題を実現、あるいは解決できるのは米国だけである、④したがって米国は北朝鮮と直接話し合うべきである、というものである。
 中国の対外姿勢は日本や米国にとって問題があるが、こと北朝鮮の核・ミサイルの開発については中国の主張が正しいのではないか。また、ロシアは最近、中国と同じ立場であることを示すようになり、プーチン大統領は「北朝鮮を制裁で止めることはできない」と明言している。中国以上に率直な発言だ。中国は世界の大国であると認められたいからであろう、国連決議に水を差すような発言は控えているのでその分だけわかりにくい。

 米国は今回の安保理審議で、決議案を未調整のまま各国に配布した。石油の全面禁輸や船舶の臨検など強い措置を含む米国案であるが、この事前配布は異例の行動であった。その意図については各国との駆け引きを有利に運ぶためであったとも説明、あるいは推測されているが、北朝鮮に対して、「米国は安保理で同意が得られないならば単独でも強い措置を取る」という姿勢を示したかったのだと思う。トランプ大統領がナジブ首相に発言したのと同じ論法であった。
 トランプ大統領は、さる3月に米国の空母や潜水艦を朝鮮半島に派遣した際に恫喝的発言をしたが、その時と基本的には変わっていない。ようするに、「これでも同意しなければ、後はもっとひどいことになる」と言っているのだ。「あらゆる選択肢がテーブル上にある」ということもよく出てくる発言だが、これも「これで言うことを聞かなければ軍事的措置がある」と言っているのではないか。このような姿勢が金正恩委員長に効き目があればまた別であるが、むしろ逆効果になり、足元を見られる結果になっているのではないか。トランプ大統領のこのような姿勢は賢明か、疑問に思われてならない。

 北朝鮮との話し合いについては、6者協議、米朝の事務レベルの協議(次官補レベルのもの)、南北対話など類似のものがあり、それらを区別しなければ話は混乱する。トランプ政権が最近言っている1990年代からの対話は事務レベルのものであり、核廃棄を主要なテーマとする米朝間の政治的交渉は行われたことがない。
 米国は、現在、この米朝対話について、いまだ条件が満たされていないという立場である。これには日本の安倍首相からの働きかけが効いている可能性もある。
 それはともかく、米国がいつまでもこの立場を維持するか疑問である。米国は、今はまだ中国をあきらめていないが、中国はロシアとも連携を強め、ますます説得困難になっている。
 米国が中国をさらに動かそうとすれば、米中間の対立に発展する恐れもある。そうなると、中国か北朝鮮かという選択肢を迫られる状況になりうる。先日ホワイトハウスを去ったバノン最高顧問は、「北朝鮮問題は余興だ」と言い放った。同人には極端な主張が多く評価されていないが、北朝鮮に関するこの発言は正鵠を射ている。米国内で「北朝鮮問題を解決するために中国との関係を犠牲にするのは適切でない」という声はいつか必ず起こってくるだろう。中国に頼るだけではどうしても目的を達成できないと米国が悟らない保証はないのではないか。

 日本は、圧力一本やりだが、北朝鮮をめぐる米中関係の変化の可能性も考慮したうえで、米国に北朝鮮との直接対話を勧めるべきである。
 また、北朝鮮の安全問題について日本としての考えを明確にしたうえで、中国やロシアと主張の違いを狭める努力をすべきである。米国もときおり、「北朝鮮の体制転覆は意図していない」というメッセージを発することがある。日本はいずれとも異なり、北朝鮮の安全問題について発言していないが、北朝鮮の崩壊は日本として受け止められるか、受け止められるとしてもどれほどの被害が生じるか。そのようなことに可能な限りの検討を加えるのは当然である。

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