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2017.09.06

BRICS首脳会議をめぐる中印両国のライバル関係

 BRICSとはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのことである。いずれも大きな将来性がある国であり、すでに世界のGDPの2割、総人口の4割を占めている。
 BRICS首脳会議は2009年、前年秋のリーマンショックから世界的な金融危機が発生したことがきっかけとなって設立されたものであるが、G7の向こうを張る意図もあったものと思われる。
 BRICSは毎年首脳会議を開催しており、その枠内で2015年、BRICS銀行(英語ではNew Development Bank略してNDB)を設立した。
 首脳会議でもまたNDBでも中国は主導的な立場に立つ野望を隠さないが、とくにインドはそのような中国に警戒的である。ただし、首脳会議はG7と同様持ち回りで開催されているので、形式的には平等である。
 一方、ADBについては、中国の姿勢は露骨であり、出資比率を他国より高くしたいと働きかけたが、インドをはじめ各国は賛成せず、結局本部は上海に置き、初代の総裁はインドから出すことで妥協が成立した。
 しかし、これでは中国はなお不満であり、別途、中国だけが拒否権を保持しつつ、数十カ国を集めてアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立した。この2つの銀行の設立準備を行ったのはほぼ同時期であり、中国にとっては大きな負担であったはずだが、世界の大国になりたいという願望を実現し、かつ、他の4カ国との協力関係を進めるためには必要だったのである。

 BRICSが発足した頃は世界的に注目されたが、その後各国の経済成長は陰りが生じるようになっており、首脳会議の存在意義も薄くなってきたと見られている。昨年の首脳会議はインド南部のゴアで開催されたが、成果が乏しいまま終了した。
 今年の首脳会議は中国のアモイ市で開催された。中国としてはAIIBを最重視しているが、BRICSは西側に対抗するためにも重要であり、首脳会議が先細りになるのは何としてでも避けたいところであった。

 しかし、今年、新たな問題が発生した。中国とインドの間の一部国境について1962年以来争いが継続していたところ、2017年6月、インドの北東部シッキム州に近いブータン西部の係争地ドクラム高地で紛争が再燃し、中印両軍がにらみ合い状態に入ったのである。これはなかなか収まらず、3カ月近くが経過しBRICS首脳会議が開催される9月3日が間近に迫ってきてようやく両軍は撤退した。中印両国が同時にそのことを発表したのは8月28日であった。もしこの問題が未解決のまま会議が開かれると、BRICS首脳会議には計り知れないダメージとなったであろうし、ホスト国の中国としては新たな消極的要因が加わるのを何としてでも回避したかったであろう。

 かくして、アモイ首脳会議は無事開催された。余談であるが、会議の初日であった9月3日、今度は北朝鮮が核実験を行った。北朝鮮が核やミサイルの実験をするのは、金日成主席の誕生日などに合わせることが多いとよく言われるが、最近はむしろ第三国の重要行事に合わせることが多くなっている。先般の米国の独立記念日の際に第2回目のICBM実験をしたことなどである。北朝鮮は、今回も、中国が力を入れているBRICS首脳会議に合わせた可能性がある。
2017.09.04

北朝鮮による新たな核実験

 北朝鮮は9月3日、新たな水爆実験を行った。昨年9月以来であり、第6回目の核実験であった。今回の実験は、地震波から見てこれまでの約10倍の威力があるという推定もある。
 朝鮮中央通信の報道と「朝鮮核兵器研究所」が発表した声明には3つの特色がある。
 
 第1は、「声明」が、ミサイルに装着する核兵器の実験であったとわざわざ説明していること。北朝鮮はいわゆる「戦略核兵器」の開発に成功していることを誇示しているのだ。

 第2に、「声明」が、核兵器関連の技術向上に関する説明に大きなスペースを割いていること。たとえば、「水爆2次系の核融合威力を高めるうえで中核技術である核装薬に対する対称圧縮と分裂起爆および高温核融合点火」というような技術用語が次々に出てくる(翻訳の問題もあるかもしれない)。要するに、北朝鮮は、巨大な出力の爆発を成功させるためには多くの技術的困難があるが、それらを克服したと誇示しているのである。
 
 第3に、北朝鮮は今回の核実験の発表においても、従来と同様対外的アピールを重視する姿勢を見せた。

 北朝鮮が国際社会の意向を無視して危険な核実験を強行したことはまことに遺憾だ。北朝鮮の責任は重大である。
 一方、日本を含め関係国の今後の対応について検討すべきことがある。

 第1に、国連の決議が重要なことはもちろんだが、決議の履行だけでは北朝鮮の核・ミサイル問題を解決できないのではないか。

 第2に、中国とロシアの考えを見極めるべきだ。中国が本気になれば北朝鮮問題は解決するというのは思い込みに過ぎないのではないか。

 第3に、核実験の2日前に河野外相は中国の王毅外相と電話で会談し、その結果について日本側は、「非核化がゴールである点では一致した」と一致点を強調したが、実際には、「圧力」についても、北朝鮮の核・ミサイル問題の本質についても両者の考えは違っていたのではないか。中国系の『多維新聞』は、王毅外相がかねてからの主張である、核・ミサイル問題の核心は「北朝鮮の安全保障」だということを繰り返したと報道している。

 第4に、日本政府は「圧力」の一本やりだが、「圧力」で北朝鮮をねじ伏せようとするのは危険なことでないか。

 第5に、日本政府は米政府に対し、平和的な方法、外交による解決をもっと重視するよう説得すべきでないか。現状は、米政府以上に「圧力」の強化を強調しているのではないか。
2017.08.31

北朝鮮による8月29日の弾道ミサイル発射

 8月29日早朝、北朝鮮が日本の上空を越えて太平洋に弾道ミサイル「火星12」を発射したことについては、次のような諸点に不自然さ、人為的な所作を感じる。

 北朝鮮は累次の発射実験について多くの内部映像を外国メディアに提供するなど宣伝の色彩が強い行動を取っている。トランプ大統領が強く反発し、メディアによって大きく取り上げられると、それだけ宣伝の効果があったとみているのではないか。

 トランプ大統領の姿勢は一貫しているか。発言はころころ変わっている。賢明に、必要な発言だけを行うべきでないか。100%日本と一致しているというのはほんとうか。安倍首相の発言はいつも同じだ。

 中国とロシアはどのようにして北朝鮮の非核化を実現しようとしているのか。安保理などでは米国に対抗するという政治目的の行動が強すぎるのではないか。

 日本は、弾道ミサイルが日本に向けられて発射されたのではないのにいたずらに国民の危機意識をあおっているのではないか。Jアラートは核攻撃に有効と国民に思わせるは欺瞞でないか。地下鉄や新幹線は、日本を標的に打ち込まれる場合以外短時間にせよ、止めるべきでない。

 北朝鮮は、遺憾なことに、また実験をするだろう。そうするとふたたび実の少ない応酬が繰り返されるのを恐れる。

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