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2017.10.10

劉鶴 中国の改革派経済学者

 習近平主席の経済問題に関する側近である劉鶴について、米国に本拠地がある『多維新聞』10月8日付は次の特集記事を掲載している。

 劉鶴は1952年生まれ。劉鶴の父親は陜西の副省長級の指導者であり、おそらく習家と何らかの絆があったはずだとも言われている。劉鶴は、高級幹部子弟が通う101中学で習近平と同級生であり(注 もっとも習近平については別の学校に通っていたという説もあるが、いずれにしても幼少時からの知り合いであったことは間違いないようである)、習氏の信頼は厚い。
 劉は中国人民大学工業経済系を卒業後、ハーバード大学ケネディ・スクールオブガバメントでMPAを取得。現在、中財弁(中央財経領導小組弁公室。経済政策策定のかなめ)主任兼国家発展改革委員会の副主任。

 劉鶴は江沢民、胡錦涛および習近平各主席の経済演説を起案し、五か年計画についても第13期まで一貫して関与してきた。
 政策決定者のなかでもっとも強固な改革派であり、資源配分は市場に決定させるべきだと主張している。2016年、経済学者の林毅夫および張維迎との産業政策に関する論争において、劉鶴は古い産業政策を捨てること、産業政策に市場機能をもっと導入すべきことを主張した。中財弁はかつてのような裏方でなく、今や政策決定の前面に出てきている。
 習近平は党大会後、従来より多くの時間を経済問題に割くことになり、劉鶴の重要性はさらに高まるだろう。第19回党大会後、いずれ副総理に昇格すると見られる。

 劉鶴は改革開放の初期に大活躍した朱鎔基と比べられる。朱鎔基は1991年末、上海市書記であったが、鄧小平に抜擢されて経済担当の副総理になり、以後12年間にわたり中国経済の飛躍的発展の基礎を作った。

 朱鎔基や温家宝の時代と比べ、今、経済政策はすべて国務院で決定されている。習近平は18回党大会後、全面深化改革領導小組(深改組)を率いて一部の経済政策を握った。現在、経済政策は国務院、中財弁、中国人民銀行の3勢力が動かしている。劉鶴は中財弁を率いて改革の中枢にある。

2017.10.06

北朝鮮政策に関する米政権内の不協和音

 北朝鮮に関する政策、とくに米国として北朝鮮との対話に臨むべきか否かに関して、トランプ大統領とティラーソン国務長官の発言が食い違ってきている。とくに目立ってきたのはティラーソン長官が中国訪問中の9月30日、「北朝鮮との対話ルートがある」、「状況は真っ暗と言うわけではない」、「北朝鮮との対話の可能性を模索している」などと発言してからであった。対話ルートの存在は、国務省も「北朝鮮当局者は非核化について交渉に興味がある、もしくは用意があるという様子を、まったく示していない」と慎重な姿勢を示しつつであったが、確認はしたという。
 米国が北朝鮮と対話のルートを維持していることはかねてから知られていたが、さらに、10月19-21日にモスクワで開催される核不拡散をテーマにした国際会議において、北朝鮮外務省の崔善姫米州局長が米国のシャーマン元国務次官ら会談する可能性があるとも言われている。

 ところが、トランプ大統領は1日、「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」「レックス、労力を無駄にしないで。やらなくてはならないことをやるから!」などとツイートした。リトル・ロケットマンとはトランプ大統領が先に国連総会で行った演説で用いた言葉であり、金正恩委員長のことである。
 国務長官による北朝鮮との対話を模索する努力を「時間の無駄」と切り捨てたのは、トランプ政権でなければ起こりえない醜態である。日本で同じことが起こったならば、閣内不一致として大騒ぎになったであろう。
 
 トランプ大統領が北朝鮮との対話を「時間の無駄」と言い始めたのは、安倍首相の影響があったからではないかと思われる。安倍首相は9月17日付『ニューヨーク・タイムズ』紙に北朝鮮との対話は時間の無駄だという趣旨の投稿を行い、また、20日には国連総会で同様の趣旨の演説を行った。これだけでも異例であるが、さらに安倍首相は、電話でトランプ大統領に対し、「時間の無駄」だと強調したのではないか。
 安倍首相は9月3日、記者会見で、「北朝鮮情勢を受けて、この1週間でトランプ大統領と3度、電話首脳会談を行いました。今日の電話首脳会談においては、最新の情勢の分析、そして、それへの対応について改めて協議を行いました。
 北朝鮮が挑発行動を一方的にエスカレートさせている中において、韓国を含めた日米韓の緊密な連携が求められています。今後、日米韓、しっかりと連携しながら、さらには国際社会とともに、緊密に協力して北朝鮮に対する圧力を高め、北朝鮮の政策を変えさせていかなければならない、その点で完全に一致したところであります。
 様々な情報に接しているわけでありますが、我々は冷静にしっかりと分析をしながら、対応策を各国と連携して協議し、そして、国民の命、財産を守るために万全を期していきたいと思います。」と述べていた。
 これが公表されているすべてであり、これだけでは安倍首相がトランプ大統領に「時間の無駄」を説得したか明確でないが、1週間に3回の米国大統領との電話会談は異様である。

 一方、マティス長官は10月3日、上院軍事委員会での公聴会に出席し、「国防総省はティラーソン氏の外交解決策を引き出す努力を完全に支持するが、米国と同盟国の防衛を今後も重視する」と発言した。トランプ大統領のツイッターとは正反対の態度を示したのであり、トランプ大統領が主要閣僚から信頼されていないことが浮き彫りになった。
 
 ティラーソン長官はかねてから辞任のうわさがあり、今回の大統領との発言の食い違いをきっかけに4日、記者からあらためて辞任の可能性について問われ、「辞任を検討したことはない。トランプ大統領が掲げる議題(agendaであり、意味としては「問題」により近い)に現在も就任時と同様にコミットしている」と述べたと伝えられた。
 しかし、米国のメディアはティラーソン氏の辞任の可能性に強い関心を見せ、NBCニュースは、「ペンス副大統領を含む政権高官が7月、ティラーソン氏に辞任しないよう説得していた。国防総省で開かれた安全保障チームと閣僚らとの会合でティラーソン氏はトランプ氏を「能なし(moron)」と呼んで批判した」などと報じた。
 この報道に関し、ティラーソン氏は国務省で急遽記者会見し、「辞任を検討したことはない」とし、「トランプ大統領が自身の目標達成に向け役に立つと考える限り、国務長官のポストにとどまる」「トランプ氏は賢明な人物だ。彼は結果を出すことを要求する」などと述べた。また、トランプ氏を「能なし」と呼んだかについては、「そのような取るに足らない事項については語らない」とし、直接的な言及は避けた。
 ティラーソン氏を説得したと言われたペンス副大統領は、声明を発表し、「辞任を巡りティラーソン氏と話し合ったことは一度もない」と述べた。そしてトランプ大統領はツイッターでNBCに対し謝罪を要求した。これに対しNBC側は、「ティラーソン長官は報道内容の主要な点について直接否定していないため、NBCは謝罪しない」とツイートした。NBCの今回の報道には複数の記者が関わったそうだ。
 感想に過ぎないが、北朝鮮問題に関し、トランプ大統領は安倍首相の見解をほぼそのまま受け入れる一方、国務長官や国防長官からはまったく違った見解が示される形になっている。このような状況ははたして今後も続くのか。危惧を覚えてならない。
2017.10.04

胡春華-政治局常務委員になれるか

 胡春華広東省書記(同省のナンバー1)は、5年前の第18回党大会で胡錦涛前主席の後押しを受け、40代の若さであったが中国共産党の政治局に入った。そのころは、次回の党大会(今次大会のこと)で政治局常務委員に昇格する、つまりトップ7になることが確実視され、しかも習近平主席の後継者として最有力候補だと目されていた。
 胡春華は胡耀邦元総書記、胡錦涛前主席、李克強現首相と同様、中国共産主義青年団(共青団)出身であり、このような人たちは「団派」と呼ばれる。共青団は中国共産党のトップ指導者を輩出してきたエリート養成機関なのである。胡春華は共青団で最高の地位である「中央書記処第一書記」に上り詰めたのち、2008年以降は河北省省長、内蒙古自治区書記などを経て現職の広東省書記に就任した。
 ここまでは順調だったが、習近平政権下で状況が変わってきた。習氏は共青団が「官僚主義、形式主義、享楽主義」に陥っていると批判するようになり、人事面でも予算面でも共青団に厳しい措置を取った。ある座談会で、「共青団は格好ばかりで実がない」などと面罵したこともあった。人民日報が報道しているのだからその通りなのだろう。その場には胡春華の2代後の共青団第一書記である秦宜智がいたのだが、同人は間もなく、「国家質量監督検験検疫総局の副局長」に左遷された。2段階くらいの降格人事であった。
 
 時間的には前後するが、さる7月中旬、重慶市の書記が孫政才から陳敏爾に交替した。孫政才書記は胡春華と並んで次世代のリーダーの一人と目されていたが、習氏に評価されず失脚した。名目は汚職と職務遂行がよくなかったことだが、真相は分からない。その夫人にも問題があったと言われている。
 孫政才は「団派」ではないが、この政変は胡春華にとって危険な信号であり、習氏の意図を察知(忖度?)して「後継者となる気持ちはない」という上申書を党中央に提出したという。自分には野望はないと表明して習近平を安心させようとしたという話だが、それで解決するような簡単なことでない。単なるうわさかもしれない。
 陳敏爾は、習近平が浙江省の書記であったときからの信頼する部下であり、今回、習氏は陳敏爾を総書記の後継者として選んだとも伝えられている。そうであれば、陳敏爾は今次党大会でナンバー3の地位に就くことになる。これは本人のこれまでの経歴からして大抜擢だが、はたして中国を引っ張っていけるか疑問なしとしない。
 実績の点では副首相の汪洋のほうが上である。汪洋は若いころ共青団で認められたので話が複雑になるが、胡春華などのように共青団のトップになったわけではない。そのため、汪洋は普通、「団派」とは言われない。

 今回の党大会で確定される新人事により、胡春華が一体どのような状況にあったのか、はっきりしてくるだろう。

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