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2018.02.22

ペンス副大統領と金与正氏との会談取り消し

 平昌オリンピックのために訪韓したペンス米副大統領は北朝鮮の金与正氏(金正恩委員長の実妹)と会談することが合意されていたが、会談開始の2時間前に北朝鮮側がキャンセルを申し出たため実現しなかった。米国務省の報道官によって発表されたことである。会談場所は韓国大統領府(青瓦台)、会談の日時は10日午後に予定されていた。

 米朝のハイレベル、しかもナンバー2どうしとも言われるレベルの会談は実現しなかったが、会談が合意されていたことの意義は米朝両国にとっても、また、日本にとっても大きい。

 米国では、北朝鮮に対する圧力を強化することについて異論はないが、対話についてはトランプ大統領自身さまざまな発言をし、時には金正恩委員長との会談に前向きであることを示唆していた。それはあくまで米側の発言に過ぎなかったが、今回は両国間の「合意」であった点が違っている。かつて、米国は北朝鮮と合意したことはあったが、元大統領(クリントン氏とカーター氏)の訪朝などに関してであり、現役のナンバー2どうしの会談が合意されたことはなかった。

 トランプ政権が北朝鮮との対話に向けて一歩踏み出したことは明らかである。これまでペンス副大統領は対話に後ろ向きであると見られてきたが、今後、北朝鮮との対話についてトランプ政権全体がより積極的になる可能性があると考えておくべきであろう。ペンス氏は今回のアジア訪問中、毎日トランプ大統領と連絡を取っていたと説明するなど、政権の一体性に気を使っていた。
 なお、ペンス副大統領は帰国後「対話と会談は異なる」などと述べて従来の方針に変わりはないことを強調しているが、「対話」であれ「会談」であれ内容次第であり、この言い訳には大した意味はない。

 今回の会談をキャンセルしたのは北朝鮮であり、その理由として北朝鮮側が挙げたのは、ペンス氏がアジア訪問中に、北朝鮮に対し厳しい追加制裁を科すことを表明したり、脱北者と面会したりしたことなどだそうだ。このほか、ペンス副大統領は、北朝鮮に長く抑留され、釈放後死亡した米人学生の家族を同伴させるなど、訪問の初めから北朝鮮に強い姿勢を見せていた。
 ペンス氏は、米国は従来からの強い姿勢は変えない範囲内であれば北朝鮮代表と会ってもよいとみていた可能性はある。北朝鮮に対して考えを軟化したと取られたくなかったということである。

 しかし、このことは両刃の剣であり、米側が強い姿勢を見せるのに北朝鮮が会談に応じることは北朝鮮として弱みを見せることになるので、キャンセルしたのではないか。
 ようするに、米朝は実際に会談になる前から一種の突っ張り合いをしているのである。米朝の接触はこれからも行われるだろうが、そこから先へ進めるかは、この突っ張り合いをどのようにして超えられるかにかかっている。

 日本にとっての意味合いは、第一に、「北朝鮮と対話をすべきでない」という姿勢を続けることは、米国との連携も危うくなることである。日本としては、米国が北朝鮮と接触しようとする場合も米国を助け、協力すべきである。
 第二に、北朝鮮に関して日本政府からは建前の話しか聞こえてこないが、実質的に北朝鮮との関係を進め日朝間の懸案を解決する必要性がさらにいっそう高まっていることである。
2018.02.21

中国とバチカンの妥協―台湾への締め付け強化

バチカンと中国が司教の任命に関して原則合意に達し、細部の詰めに入っていると報道されている。最終合意が成立すると中国とバチカンが国交を結ぶのは時間の問題になるとも言われている。
この問題は、バチカンが中国共産党の要求にどこまで妥協するかということもさることながら、中国の台湾に対する締め付け強化の点でも注目される。

教皇フランシスコは就任以来中国との関係改善に意欲を示し、バチカンと中国政府は定期的に非公式交渉を行ってきた。両者の間の最大問題は司教の任命権であり、バチカンは司教の任命に外国政府が介入することを認めないという立場である一方、中国は政府のコントロール下にない宗教活動は認めないという立場である。両者の間で成立した妥協はどのような内容か。バチカンは中国政府の同意を条件として司教を任命することになったとも、中国政府が任命する司教をバチカンが認めることになったとも言われている。後者は、バチカンが認めない中国の「愛国教会」がバチカンの許可を得ないで任命している司教のことである。

今回の合意について、バチカン内部の賛成派は、中国内に約1000万人いると推定されているカトリック信者にいつまでも背を向け続けるべきでない、中国政府と何の合意もないよりはましだとの考えだという。
これに対し反対派は、合意内容はカトリックの伝統と原則に反しているとして厳しく批判している。

今回合意が成立した背景には、中国で2月1日に施行された宗教に関する新条例がある。これは、習近平政権が、国内での民主派の取り締まりや言論統制の強化とともに、宗教政策においても中国共産党の支配を強化するため、2017年9月、旧「宗教事務条例」を修正したものである。新条例は、中国の宗教政策の基本である「国家による正常な宗教活動の保護」および「宗教团体は外国勢力の支配を受けてはならない」は旧条例のままであるが、監督の強化を図っている。推測だが、中国はこの条例を背に、一定のアメを与えてバチカンを説得したのだろう。
 
バチカンと国交がある台湾は当然このような動きを非常に警戒している。バチカンが中国と外交関係を結ぶことになれば、台湾とは断交となる。その場合、バチカンは台湾がマルタ騎士団と外交関係を結ぶことで打撃を最小限にとどめようという考えだという。
マルタ騎士団は十字軍時代から存続している修道会であり、現在は領土を失っているが、sovereign entity(主権を持つ主体)として国際的に承認されており、90カ国以上の国と外交関係を持っている。しかし、何といっても、実態は特殊な主権主体であり、わずかに事務局がローマにあるに過ぎない。
マルタ騎士団にバチカンの代理をさせるのは一つの工夫かもしれないが、台湾としては簡単に認められないだろう。バチカンは台湾との文化関係を処理する機構を設置する考えだとも言われている。日本の「日本台湾交流協会」のような機構なのであろう。
バチカンと台湾との関係では影響が最小限にとどめられるようバチカンが努力しても、バチカンの姿勢は中南米諸国に影響を及ぼす。そうなると中南米との関係が重要な台湾にとっては大きな打撃となる。

米国はバチカンと中国の決定には異を唱えない方針だという。基本的な方針としてはそれは当然だ。
これとは本来無関係であるが、米議会では台湾との交流を促進する「台湾旅行法」(Taiwan Travel Act)案が1月に米連邦議会の下院で承認され、上院でも2月7日に外交委員会で承認された。中国は反発しているが、上院も承認する可能性は高い。大統領の署名が必要だが、台湾にとっては一つの前向きの進展となる。

2018.02.13

北朝鮮との対話に関するペンス副大統領と文大統領との会談

1.ペンス副大統領はトランプ政権の中で、北朝鮮に対して圧力を強化することのみを重視する人物の一人だとみられていたが、今回平昌オリンピックに出席した際に文在寅大統領と会談した内容は、そのような先入観を打ち破るものであった。2月11日の『ワシントンポスト』紙が掲載した、Josh Rogin記者のペンス副大統領とのインタビュー記事であり、次の諸点が注目された。

〇ホワイトハウスと韓国大統領の間で新しい了解(understanding)が作られた。

〇米国と韓国は、北朝鮮問題について、今後、まず韓国が行動し、そして米国が、すぐに参加する可能性があることで合意した。The United States and South Korea agreed on terms for further engagement with North Korea — first by the South Koreans and potentially with the United States soon thereafter.
〇米国と同盟国は北朝鮮が非核化のために明確な措置(clear steps toward denuclearization)を講じない限り、制裁措置を強化し続ける。しかし、北朝鮮がそのような措置をとることは、予備会談(preliminary talks)の条件でない。もし北朝鮮が対話したいのであれば、我々も対話に応じる。
〇北朝鮮は対話に応じる代わりに米韓合同演習の延期を求めてくるかもしれないが、それはありえない。また、米国が近く発表する追加的制裁はかつてない強いものであり、北朝鮮は核・ミサイルの実験を再開するかもしれない。そうなると、外交的話し合いは停止するだろう。

〇文大統領はそういう事態にならないよう努力している。文氏は北朝鮮の招待に応じて、ピョンヤンを訪問することを検討している。文氏は、また、北朝鮮に対して米国とできるだけ早期に対話するよう勧めている。

〇ペンス副大統領は今回アジアを訪問中、毎日トランプ大統領と相談した。

2.トランプ政権は圧力を強化する点では日本政府と同じ考えだが、北朝鮮との対話について前向きである。少なくとも、その可能性を考慮しているのは明らかであり、日本政府の発表とは異なっている。
米国にとって日本は重要な同盟国であり、日本政府に真意を隠すことは考えられず、安倍首相には説明しているはずであるが、なぜそれは日本国内に伝わらないのか。日本政府の北朝鮮問題の扱いには問題がある。

 なお、ペンス副大統領の説明では、文在寅大統領がピョンヤンを訪問することに米国は必ずしも反対でないことがうかがわれる。

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