平和外交研究所

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2014.06.21

集団安全保障へ参加する?

政府・自民党は、集団的自衛の場合でなくいわゆる集団安全保障の場合でも、機雷の除去など限られた一定の範囲内では自衛隊が行なうことを認めることを閣議決定に盛り込みたい考えであり、公明党にその考えを示したそうである。集団的自衛権に関し報道されている政府・与党の検討状況は日替わりメニューのように激しく変化している。報道が過剰に行われている可能性は排除できないが、政府・自民党の考えが流動的であるのは間違いなさそうだ。そのことは前提にしつつ、集団的自衛と集団安全保障の違いを確認しておこう。

とくに武力行使が焦点となる。集団的自衛の場合、国連の大原則である武力行使禁止の例外として認められることが国連憲章第51条で示されている。詳しく言えば、その条文には百パーセントその通り表現されてはいないが、確立された解釈であると言ってよい。
国連憲章ではもう一つ武力行使が認められる例外として、いわゆる「国連軍」の設置が想定されていた。「国際の平和および安全の維持や回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動を取る」と定めた第42条が中心的規定である。しかし、これは国際社会の厳しい意見対立のため国連が成立して以来一度も実現したことがなく、今後も成立しそうにない。
一方、国連安全保障理事会は、「平和に対する脅威、平和の破壊、侵略」などが生じた場合に、当事国に自制を求め、和解を促し、停戦を求めつつ、国連加盟国がそのために行動することを認め、また、その場合に、武力の行使を認めることがある。国連自身が認めたことなのでこの場合も国連憲章違反にはならない。通常このような行動は複数の国が参加するので「多籍軍」と呼ばれている。その例はかなりあり、アフガニスタンで活動している部隊もこれである。国連憲章の本来の考えでは「国連軍」を派遣して停戦あるいは和平を実現するのであるが、これが実現していないため国連の全加盟国でなく有志国の行動であるが、安保理としてそれが必要と認定する場合に取られる措置である。
この「多国籍軍」といわゆる「平和維持活動(PKO)」は明確に区別される。PKOも複数の国の部隊から構成されているので外見上多国籍軍と見分けがつかないが、PKOは、すでに停戦あるいは和平がすでに実現している場合に「平和の維持」のため国連から派遣される。多国籍軍の場合は停戦も和平も実現しておらず、争いがまだ残っている。この点でPKOと決定的に異なっている。また、多国籍軍の司令官はいずれかの国の司令官が務めることになるが、PKOの最高指揮権は国連事務総長にある。PKOの場合と違って多国籍軍の場合は状況で行動する。
国連軍と多国籍軍の違いも大きい。国連軍は国連憲章が定めている、全加盟国が責任を負う軍隊である一方、多国籍軍は憲章に明示の規定は定めがなく解釈で認められる。多国籍軍は一部の国が参加するものであり、参加するか否かは各国が決定する。つまり、国連軍と多国籍軍は、国連全体と一部の国との区別、義務的と任意的との区別がある。
日本がもし集団安全保障に加盟するなら、ここで述べたことは明確に認識していなければならない。とくに問題になるのは「争いが残っている」ことであり、このため多国籍軍では日本国憲法が明確に禁じている「国際紛争を解決するために武力を行使する」ことになる。集団的自衛に参加するか否かは憲法の解釈いかんで認められる可能性があるが、集団安全保障への参加は明確な憲法の禁止規定への違反問題を惹起する。
ちなみに、仮定の話であるが、国連軍が成立した場合、それに参加するのは全加盟国の義務となるが、その場合でも、「国際紛争を解決するために武力を行使する」ことが憲法で明確に禁止されている日本として参加できるか問題になりうる。つまり、多国籍軍が認められるのは「国際紛争を解決するため」であり、これは憲法が明確に禁止してことだという問題があるのである。
蛇足であるが、PKOの場合、「国際紛争」はすでに収束しているので、憲法の規定上は武力を行使する余地がある。もちろんその場合の武力行使とは、争いがある場合の武力行使とは比較にならないくらい小規模であり、日本では「武器使用」と呼ばれる。ともかく、そのような小規模の武力行使/武器使用に歯止めをかける必要はないどころか、PKOの根拠となっている安保理決議により与えられた任務を実行するのに必要な武力行使/武器使用に制限をかけるべきでないと考える。
最後に、機雷除去に限り集団安全保障に参加すべきであるという意見について。ひとたびこの憲法規定に関わらず集団安全保障に参加すれば、以後、機雷除去に限るのが日本の方針だ、他のことには参加できない、それは国の方針だと説明しても説得力を持ちえなくなるであろう。国際社会に対しては国際的にも理屈にかなったことしか主張できない。国際社会においては、憲法の禁止規定は乗り越えたが、政府方針はあくまで変えられないなどと言えないはずである。

2014.06.13

中越関係に関する多維新聞論評について

昨日(12日)の『多維新聞』の論評について、「参考となる」と書いたが、具体的にはつぎの諸点を指摘できる。

○ベトナムは中越戦争で敗れ、今回の西沙諸島海域での紛争においても中国の軍艦を恐れているように記述しているが、中越戦争でベトナムは勝ったとは言えないにしても一方的に負けたのではなく、中国もかなり手こずったはずである。今回の紛争において、ベトナム側は中越戦争の二の舞になることを恐れ態度を軟化させたといえるか疑問である。
○『多維新聞』は中共中央宣伝部のコントロール下にないので、中国の内政については客観的な見方をすることが可能であり、したがってまた我々が参考にできる記事を書いているが、中国の対外関係については内政と違って中国側の立場に立ち、ナショナリスティックな傾向が露骨に出てきている印象がある。その例が、中国が現在柔軟な態度を取っているような描写をしていることである。中国は、一方では石油掘削機をあくまで動かす構えでありながら、他方で口先だけ物分かりの良いことを述べているにすぎないのではないか。そうであれば現政権特有の既成事実の押し付けに他ならない。
○中国は、日、比に対しては軍艦を派遣せずいわゆる「海警」でとどめている。すなわち、日本の海上保安庁に相当する機関の対応にとどめているが、ベトナムに対しては軍艦を派遣したという指摘は事実であるし、重要なことであろう。
○中国が2隻の軍艦を増派したことに関して、外交部と人民解放軍の姿勢に違いがあるのかという問題提起をしている点も興味深い。結論は「違いはない。国家安全委員会の統率下で矛盾はない」という趣旨にしているが、これはそのまま受け取るべきでなく、『多維新聞』は両者の間に違いがあることを婉曲に言っていると解すべきかもしれない。
○中国のベトナムに対する態度と、日、比に対するのとで違いがあるのは、ベトナムの場合西沙諸島を実効支配しており、かつ石油掘削機がすでに操業を開始しているので、強硬策を取るほかないと判断したためとも考えられる。

2014.06.12

南シナ海の紛争と中国のベトナム観

6月11日付の『多維新聞』が、西沙諸島海域への2隻の中国艦増派や中国軍と外交部の関係などについて次のように論じている。我が国での見方とはかなり趣の違うものであるが、中国側の少なくとも一部の見方を反映している可能性があり、参考になる。

「南シナ海における中越の争いはすでに峠を越え、収拾段階に入ったと本紙は見ていた。ベトナムは、先のシャングリラ対話で米日比と同調しなかったこと、反政府組織が反中国デモを起こしたとしぶしぶ認めたことなど、態度を抑制気味にしたと思われたからであった。
しかし、6月10日付のベトナムニュースが、中国は9日に石油掘削機付近の海域へ2隻の軍艦を派遣したことを報道しているのは注目される。これで同掘削機の東西南方を6隻の軍艦が分担して守っていることになる。11日の記者会見で外交部のスポークスマンはそのことを否定しなかった。ベトナムはすでに負けを認めおとなしくなっているのに、中国はなぜ軍艦を増派したのか。

中国はすでに和解する姿勢を見せていた。中国の劉振民外務次官はASEANのハイレベル会談において中国は南シナ海情勢のいかなる不安定化も望んでいないと表明し、また、王毅外相はインドの新聞に対し、日本とベトナムがさらなる一方的行為により中国を挑発しない限り情勢は沈静化すると述べている。王毅の言葉は中国のベースラインを示しており、ベトナムが挑発をやめれば中国はこれまでの行為の是非は問わないということである。しかし、どうして軍と外交部では言うことが違うのか。外交部は軍に影響力がないのか、それとも軍には別の考えがあるのか。

中国では南シナ海および東シナ海での紛争について統一的に指揮する体系がすでに存在している。国家安全員会を成立させたのは、各方面の力を統合するためであった。解放軍と外交部は、尖閣諸島に関する争いや、東シナ海の防空識別圏などの問題に対処するのに重さの違う、かつ緩急自在の手を繰り出しており、解放軍と外交部はすでに良好な関係を築いていることがうかがわれる。外交部は軍に影響力がないという考えは排除してよい。外交部が南シナ海で態度を和らげていることと解放軍の行動には隠された考慮があるのであろう。

中越の船舶が衝突事件を起こして以来、中国は軍事的に強硬な態度を取り、空軍と海軍の航空機は南シナ海で主権を防衛する行動を取ってきた。5月8日の記者会見で外交部は、中国の軍艦は関係海域でどのような行動もとっていないと説明したが、石油掘削機付近に軍艦が集まっていることは否定しなかった。5月14日の前後、中国海軍の2万トン級の揚陸艇2隻が掘削機の付近に現れていた。また、海軍は第9海軍航空師団の戦闘爆撃機を出動させ、西沙諸島海域の石油掘削機の安全にあたらせた。これに2隻の軍艦を派遣したのである。

2012年4月にスカーボロー礁でフィリピンと対峙した時、中国は国家海洋局海監総隊の船(海監)だけを派遣し、同年9月に日本が尖閣諸島を国有化した時、中国は同じ部署に属する飛行機に尖閣諸島の領空外を巡航させただけで、戦闘機、無人機は尖閣諸島の空域に接近し、日本の防空識別圏内に入っただけであった。中国は、フィリピン、日本、ベトナムとの紛争に対応する際軍事面で差異を設けており、ベトナムに対しては一戦を交えることも辞さないという態度を取っている。ベトナムは態度を和らげたが、石油掘削機付近での妨害を放棄してはいない。中国が2隻の軍艦を新たに派遣したことはベトナムに対する警戒心をなくしていないからであり、石油掘削機は絶対に防衛する意図である。解放軍は、外交の言葉だけで問題を解決しようとするやり方を改めようとしている。軍事的威力を示すことと外交による交渉は、南シナ海における今後の紛争解決のモデルを示している。」

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