平和外交研究所

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2014.06.13

中越関係に関する多維新聞論評について

昨日(12日)の『多維新聞』の論評について、「参考となる」と書いたが、具体的にはつぎの諸点を指摘できる。

○ベトナムは中越戦争で敗れ、今回の西沙諸島海域での紛争においても中国の軍艦を恐れているように記述しているが、中越戦争でベトナムは勝ったとは言えないにしても一方的に負けたのではなく、中国もかなり手こずったはずである。今回の紛争において、ベトナム側は中越戦争の二の舞になることを恐れ態度を軟化させたといえるか疑問である。
○『多維新聞』は中共中央宣伝部のコントロール下にないので、中国の内政については客観的な見方をすることが可能であり、したがってまた我々が参考にできる記事を書いているが、中国の対外関係については内政と違って中国側の立場に立ち、ナショナリスティックな傾向が露骨に出てきている印象がある。その例が、中国が現在柔軟な態度を取っているような描写をしていることである。中国は、一方では石油掘削機をあくまで動かす構えでありながら、他方で口先だけ物分かりの良いことを述べているにすぎないのではないか。そうであれば現政権特有の既成事実の押し付けに他ならない。
○中国は、日、比に対しては軍艦を派遣せずいわゆる「海警」でとどめている。すなわち、日本の海上保安庁に相当する機関の対応にとどめているが、ベトナムに対しては軍艦を派遣したという指摘は事実であるし、重要なことであろう。
○中国が2隻の軍艦を増派したことに関して、外交部と人民解放軍の姿勢に違いがあるのかという問題提起をしている点も興味深い。結論は「違いはない。国家安全委員会の統率下で矛盾はない」という趣旨にしているが、これはそのまま受け取るべきでなく、『多維新聞』は両者の間に違いがあることを婉曲に言っていると解すべきかもしれない。
○中国のベトナムに対する態度と、日、比に対するのとで違いがあるのは、ベトナムの場合西沙諸島を実効支配しており、かつ石油掘削機がすでに操業を開始しているので、強硬策を取るほかないと判断したためとも考えられる。

2014.06.12

南シナ海の紛争と中国のベトナム観

6月11日付の『多維新聞』が、西沙諸島海域への2隻の中国艦増派や中国軍と外交部の関係などについて次のように論じている。我が国での見方とはかなり趣の違うものであるが、中国側の少なくとも一部の見方を反映している可能性があり、参考になる。

「南シナ海における中越の争いはすでに峠を越え、収拾段階に入ったと本紙は見ていた。ベトナムは、先のシャングリラ対話で米日比と同調しなかったこと、反政府組織が反中国デモを起こしたとしぶしぶ認めたことなど、態度を抑制気味にしたと思われたからであった。
しかし、6月10日付のベトナムニュースが、中国は9日に石油掘削機付近の海域へ2隻の軍艦を派遣したことを報道しているのは注目される。これで同掘削機の東西南方を6隻の軍艦が分担して守っていることになる。11日の記者会見で外交部のスポークスマンはそのことを否定しなかった。ベトナムはすでに負けを認めおとなしくなっているのに、中国はなぜ軍艦を増派したのか。

中国はすでに和解する姿勢を見せていた。中国の劉振民外務次官はASEANのハイレベル会談において中国は南シナ海情勢のいかなる不安定化も望んでいないと表明し、また、王毅外相はインドの新聞に対し、日本とベトナムがさらなる一方的行為により中国を挑発しない限り情勢は沈静化すると述べている。王毅の言葉は中国のベースラインを示しており、ベトナムが挑発をやめれば中国はこれまでの行為の是非は問わないということである。しかし、どうして軍と外交部では言うことが違うのか。外交部は軍に影響力がないのか、それとも軍には別の考えがあるのか。

中国では南シナ海および東シナ海での紛争について統一的に指揮する体系がすでに存在している。国家安全員会を成立させたのは、各方面の力を統合するためであった。解放軍と外交部は、尖閣諸島に関する争いや、東シナ海の防空識別圏などの問題に対処するのに重さの違う、かつ緩急自在の手を繰り出しており、解放軍と外交部はすでに良好な関係を築いていることがうかがわれる。外交部は軍に影響力がないという考えは排除してよい。外交部が南シナ海で態度を和らげていることと解放軍の行動には隠された考慮があるのであろう。

中越の船舶が衝突事件を起こして以来、中国は軍事的に強硬な態度を取り、空軍と海軍の航空機は南シナ海で主権を防衛する行動を取ってきた。5月8日の記者会見で外交部は、中国の軍艦は関係海域でどのような行動もとっていないと説明したが、石油掘削機付近に軍艦が集まっていることは否定しなかった。5月14日の前後、中国海軍の2万トン級の揚陸艇2隻が掘削機の付近に現れていた。また、海軍は第9海軍航空師団の戦闘爆撃機を出動させ、西沙諸島海域の石油掘削機の安全にあたらせた。これに2隻の軍艦を派遣したのである。

2012年4月にスカーボロー礁でフィリピンと対峙した時、中国は国家海洋局海監総隊の船(海監)だけを派遣し、同年9月に日本が尖閣諸島を国有化した時、中国は同じ部署に属する飛行機に尖閣諸島の領空外を巡航させただけで、戦闘機、無人機は尖閣諸島の空域に接近し、日本の防空識別圏内に入っただけであった。中国は、フィリピン、日本、ベトナムとの紛争に対応する際軍事面で差異を設けており、ベトナムに対しては一戦を交えることも辞さないという態度を取っている。ベトナムは態度を和らげたが、石油掘削機付近での妨害を放棄してはいない。中国が2隻の軍艦を新たに派遣したことはベトナムに対する警戒心をなくしていないからであり、石油掘削機は絶対に防衛する意図である。解放軍は、外交の言葉だけで問題を解決しようとするやり方を改めようとしている。軍事的威力を示すことと外交による交渉は、南シナ海における今後の紛争解決のモデルを示している。」

2014.06.11

集団的自衛権ーわが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある場合とは

安倍首相は5月15日の記者会見で、「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」と安保法制懇が提言したことについて「従来の政府の基本的な立場を踏まえた提言だ。今後、さらに研究を進めたい」と述べた。研究においては以下の問題をクリアにする必要があろう。

まず、自衛権行使の要件であるが、個別的自衛権の行使は「急迫不正の侵害がある」などの要件を満たす必要がある。一方、集団的自衛権行使の場合は「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」というのが要件であれば、個別的自衛権行使の場合より、集団的自衛権行使の場合のほうが要件が緩やかになる。
「急迫不正」は一刻の猶予もならない状況であるが、「可能性がある」はそうではなく、「急迫不正」でなくても「可能性がある」に該当することはいくらもある。「可能性がある」というのは「急迫不正」よりはるかに広いのである。このような緩やかな要件で自衛隊が海外へ派遣されるのは個別的自衛権行使の場合と比べて均衡を失するどころか、あってはならないことである。
常識的に、個別的自衛権行使は自国を守るためであるので、要件は他国へ派遣される場合と同じか、むしろ緩やかであるべきだ。逆に、海外へは緩やかな要件で派遣されるのは、おかしいし、海外派兵を厳しく自制している憲法を無残に踏みにじることにならないか。
一方、安保法制懇の言う「可能性がある」は「急迫不正」と同じであるならば、「わが国の安全に重大な影響を及ぼす急迫不正の侵害がある」となり、それはまさに個別的自衛権を行使すべき時である。それを集団的自衛権の問題と言うのはおかしい。

急迫不正の侵害が行なわれ、自衛隊が防衛する場所についても問題がある。「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」場合に自衛隊が出動するのであれば、その場所は日本であるはずだ。「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」場合に米国へ出かけていくことは理屈の上ではないと言い切れないかもしれないが、日本が危うい時に肝心の自衛隊を米国へ派遣するのか。歴史上、自国の防衛に手いっぱいの時は同盟している他国から援軍派遣の要請があっても応じられないと応対してきたことはいくらも例があった。しかし、自国が危うい時に自国の防衛軍を他国へ送り出すなどあったためしがない。そのようなことをする国は存続できない。

このように考えると、安保法制懇の言う「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という提言には重大な疑問があり、集団的自衛権と個別的自衛権を混同しているか、あるいはあくまで集団的自衛権と言うなら荒唐無稽な主張になる恐れさえある。

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