平和外交研究所

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2014.09.19

東アジアの安全保障と心理的要因

9月16~18日、スイスのモントルーで開催されているツェルマット・ラウンドテーブルで要旨次のプレゼンテーションを行った。このテーマは安全保障における心理的要因である。

日本と中国、韓国との関係はよくない。ナショリズムやいわゆる歴史問題の影響を受けている。また、政治目的に利用されることもある。このような心理的要因を抑制できるかが東アジアの安全保障を左右する一つの重要なカギである。
慰安婦、徴用工、靖国神社参拝、教科書問題などはそれぞれの原因があるが、いずれもかつての日本の帝国主義的、軍事的侵略の中で生まれてきた。当時、中国も韓国もそれに対抗する力を持たなかった。韓国は日本に併合されていた。
日本が敗戦したのち、中国およびロシア以外の国とはサンフランシスコ平和条約を結び戦争にかかわる諸問題を処理した。中華民国とは別途条約を結んだ。中国とは2つの基本的な合意を結んでいる。第1が1972年の日中国交正常化であり、これにより戦争状態を終結し、日本は中華人民共和国を承認した。1978年の平和友好条約では、紛争は平和的に解決し、武力に訴えないことおよびいかなる国の覇権を求める行為にも反対することに合意した。
韓国の関係では、日本はサンフランシスコ平和条約で朝鮮半島を放棄し、その後1965年に日韓基本条約を結んで韓国併合以前の全ての条約を無効にし、また請求権を完全かつ最終的に解決した。
このように中国および韓国との関係は法的には解決しているが、政治的・心理的には解決が不完全な面が残っているのであろう。日本と両国との関係が心理的要因によって左右されるといわれるが、そのような不完全な解決となっていることの表れではないかと考える。
中国は過去30年間急速に発展し、いまや世界の大国になろうとしているが、まだ満足しておらず、さらなる発展を実現し、名実ともに認められる大国となることを欲している。また、それまでの間、中国の進み方はほかの国とは異なる面があるが、それは中国の特色であるとして他国から邪魔されないよう警戒しつつ進んでいる。
中国の海洋戦略は戦後秩序を認めたくないという意識と大国化の願望と密接な関係がある。
領海法で島々に対する領有権を主張し、排他的経済水域として広範な権利を主張しさらに海底で大陸棚の先端まで主張するという3層になっている。さらに台湾問題とも関係している。
韓国は発展し、先進国に仲間入りして久しい。韓国は過去のように日本に追いつくだけでは満足できないのだろう。一部の分野では日本を凌駕している。このような状況で日本を追い越すだけでなく世界においてどのような地位に立つべきか、これからの韓国にふさわしい地位はどこか模索しているように見える。
最近中国と韓国が接近し、日本と離れる傾向にあるということが話題になることがあるが、中韓両国は政治体制も違うし、経済的に強い競合関係がある。今は朴大統領の個人的な中国への関心の強さが中韓の関係緊密化に拍車をかけている面があるが、中長期的には不協和音が多くなる可能性がある。中国の政治は強いが、民主主義国家ではそう強くなれない。
一方日本は中国や韓国との関係改善に努めなければならない。日本では未来志向を好む傾向があるが加害者であったことを忘れてはならない。安倍首相は靖国神社に参拝すべきでなかった。

2014.09.14

ウクライナ問題に関する米欧の制裁強化

EUと米は9月12日に追加制裁を発表した。銀行、天然ガス、石油、防衛関係の主要企業は米欧で取引をするのが非常に困難になる。資金の調達にも支障が生じるであろう。
さる5日にベラルーシのミンスクでウクライナ東部問題に関する協議が行われ、ウクライナと親ロシア派の代表が停戦に合意した。停戦合意は形式的にはロシアは当事者でなかったが、実質的には深くかかわっており、ロシアの支持がなければ停戦の合意はできなかったであろう。プーチン大統領は自ら停戦の内容について発言していた。
この合意から1週間しか経っていないのに米欧は追加制裁に踏み切ったのである。実質的には停戦の合意直後から制裁強化の準備を始めていたものと思われる。米欧の対応は早く、かつ強硬である。そこまでするのかという感じさえする。
冷戦終結のおぜん立てをしたOSCE(欧州安全保障協力機構)はウクライナ東部の状況を監視するために250人の訓練された要員を派遣している。8日には同機構の高位の人が、「ウクライナの情勢は何とか持ちこたえているが、まだ不安定だ」と語っている。OSCEは無人機も飛ばして監視に努めている。衛星からの監視では夜間の状況は分からないのでこのようなOSCEのプロフェッショナルで組織的な監視は強力である。日本では報道されないことを米欧はかなり知っているらしい。だからこそ今回のような強硬な姿勢を取れるのであろう。オバマ大統領は、“We have yet to see conclusive evidence that Russia has ceased its efforts to destabilize Ukraine,”と述べている。
米欧がプーチン大統領を制裁の対象としないのは、プーチンとはこれからも話したいという考えだからだそうである。プーチンは軍の強硬派や議会の保守派に手を焼いていると見ているのかもしれない。

一方、11~12日、タジキスタンの首都ドゥシャンベでロシア、中国および中央アジア4カ国が加盟する上海協力機構の首脳会議が開かれた。これについて一部の邦字紙は、ロシアがこの会議を利用して欧米に対抗しようとしており、ロシアの影響力拡大を狙っているという見出しの記事を掲載しているが、ウクライナ問題について中国はロシアを積極的に支持することはしない。少数民族の問題に跳ね返ってくる恐れがあるからである。今回の首脳会議で発表された宣言はウクライナ問題について、5日の停戦合意を歓迎するだけであり、米欧の制裁強化を非難することは何もしなかった。ロシア支持の姿勢は打ち出さなかったのである。むしろ7月のBRICs首脳会議よりロシアにとっては後退した内容であったとも指摘されている。
そもそも上海協力機構は中国の思い入れが強く、同機構の本部は上海に置き、かつ初代の事務局長は中国人が務めた。国際機関として異例であり、中国がそれだけ力を入れているのである。
ロシアが軍事力を誇っていることは変わらないが、どうもそれ以外のことではロシアは米欧に押され気味であるし、中国やインドなどと比べても影が薄い印象である。

2014.09.12

<集団的自衛権を考える>日本人母子が乗る米艦艇は防護できる?「事例編」

9月12日、THEPAGEに掲載された一文

「集団的自衛権は分かりにくい概念です。一般的、抽象的に議論するのは容易でないので事例に即して検討が行われました。新方針を審議するために設けられていた自民・公明両党の「安全保障法制整備に関する与党協議会」で、政府側は15の事例を示しました。大きく3つのグループに分かれており、最初のグループは「グレーゾーン事態」と呼ばれており、集団的自衛権の問題ではありませんが、日本の安全保障上これまで不十分であった法規を整備し、不測の事態に備えることが目的です。
事例1は「離島等における不法行為への対処」です。これは例えば、尖閣諸島へ外国人が不法に上陸するような事態に備えることです。
事例2は「公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処」で、公海上で訓練中の海上自衛隊の艦艇がテロ攻撃を受けた場合に対処できるようにすることです。
事例3の「弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護」とは、参考事例として「領海内で潜没航行する外国の軍用潜水艦への対処」と説明されています。実際に敵方からミサイルが発射される前の状況なので集団的自衛権の問題でないのですが、わが国として対処が必要だということです。

次のグループは、「集団安全保障」に関わることで4つの事例が挙げられました。このグループについては、この次の「応用編」で説明することとします。
事例4:侵略行為に対抗するための国際協力としての支援
事例5:駆けつけ警護
事例6:任務遂行のための武器使用
事例7:領域国の同意に基づく邦人救出

第3のグループが「集団的自衛権」として挙げられた事例です。
事例8の「邦人輸送中の米輸送艦の防護」とは、たとえば、日本人の母子が何らかの事情により米国の艦艇で戦地から日本へ避難する途中第三国から攻撃を受けた場合のことで、安倍首相が好んで使う事例です。しかし、この場合は集団的自衛権によるのでなく、人道的な観点から救助すると理論づけるのがよいという考えもあります。
次の5つの事例は、わが国と密接な関係にある国に対して第三国から武力攻撃が行なわれた場合に、自衛隊が武力を含め実力を行使してそれを排除することが想定されていますが、これらについては実際にそのような必要性があるか疑問が提起されています。
事例9:武力攻撃を受けている米艦の防護
事例10:強制的な停船検査
事例11:米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃
事例12:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
事例13:米本土が武力攻撃を受け、我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護

事例14「国際的な機雷掃海活動への参加」は8つ事例の中で唯一現実的な事例であるとも言われています。日本は湾岸戦争中人的貢献はできませんでしたが、停戦後ペルシャ湾へ自衛隊を派遣して機雷の除去を実行し、その国際貢献は各国から高く評価されました。今後もそのような機雷除去が必要となるケースは現実に出てきそうです。しかし、これを集団的自衛権の行使とするより、陸上での地雷の除去と同様人道的な観点から行う活動と見たほうがよいという考えがあります。
一方、紛争中であれば機雷や地雷を処分することは敷設した国に対する敵対行為となり、紛争に参加することになります。この点についても次の「応用編」で説明します。
最後の事例15「民間船舶の国際共同護衛」は、集団的自衛権というより国際的な人道支援に関わる問題です。

 以上見たとおり、8つの事例は集団的自衛権の問題とみなすのが適切か、疑問が残っています。政府与党の検討はその点十分でなかったのですが、7月1日に新方針に関する閣議決定が行われました。これからは国会での審議に焦点が移っていきますが、関連事例の検討を通して集団的自衛権についての理解が深められなければなりません。

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