平和外交研究所

2021 - 平和外交研究所 - Page 11

2021.06.04

北朝鮮労働党の規約改訂

 米系の『多維新聞』は6月3日、韓国聯合通信社の記事によりつつ以下の諸点を報道している。

 北朝鮮労働党は最近規約を改訂した。

 北朝鮮は韓国統一の戦略目標を事実上放棄した。改訂前の規約には「われらの民族は自主、和平、統一、民族大団結原則の下に協力して祖国統一を行う」とあったが、改訂規約は「我々民族」の表現を削除し、「祖国統一」に代えて「祖国の平和的統一を早く実現する」とした。

 もう一つの重要な改訂は、労働党に「第一書記」を新設したことである。その職務は「労働党総書記(注 金正恩)の代理人」とした。当面はこの地位は空席となろうが、「第一書記」は総書記の包括的継承者となる可能性がある。白頭山の血統を引くものでなければならないだろうから、任命されるのは金正恩総書記の妹の金与正になる可能性がある。


 さる1月に開催された朝鮮労働党大会において、金正恩委員長が総書記となった。北朝鮮の最高幹部人事はこの大会で決定され、今回明らかになった労働党規約の改訂はその決定に基づくものであったとみられる。
 注目されていた金与正党第一副部長は、労働党大会で党政治局の候補委員から外れ、党部長の名簿にも名前がなくなった。しかし、これは降格でなく、引き続き、金正恩総書記の特別の側近として補佐し続けたのであろう。
 金与正が実質的に北朝鮮のナンバー2であることは2020年から目立ってきていた。今回の党規約改定で「第一書記」を正式に設置したのは、万一の場合には金与正を金正恩の後継者とする布石だと思われる。

2021.06.03

菅首相の対ロ外交

 コロナ禍が長引く中、首脳同士が直接会って話し合う機会は非常に少なくなっている。日ロ間でも、2019年9月に安倍首相がプーチン大統領とウラジオストックで会って以来首脳会談は行われていないが、菅首相がプーチン大統領と初会談に臨む場合を見越しての観測が時折見かけられる。

 菅首相は2020年9月29日、プーチン大統領と電話会談を行った。わが外務省の発表では、「菅総理は、日ロ関係を重視している、平和条約締結問題を含め、日露関係全体を発展させていきたい」旨述べるとともに、「北方領土問題を次の世代に先送りすることなく終止符を打たなければならず、プーチン大統領と共にしっかりと取り組んでいきたい」旨述べたとされている。
 
 これに対しプーチン大統領は、「菅総理の就任をお祝いする旨述べるとともに、安倍前総理との関係を高く評価しており、菅総理との間でも二国間及び国際的な課題に関して建設的に連携する用意がある、平和条約締結問題も含め、二国間のあらゆる問題に関する対話を継続していく意向である」旨述べたとされている。

 そのうえで、「両首脳は、平和条約締結問題を含む対話の継続と共に、政治、経済、文化等幅広い分野で日露関係全体を発展させていくことで一致した」と外務省の発表は説明している。

 しかし、ロシア側の発表は平和条約にも領土問題にも全く触れていない。あたかも日ロ間の最大の懸案が存在しないと言わんばかりの姿勢なのである。もちろんロシアがそのような発表をしたからと言ってそれが正しくなるのではない。日本側としてはわが外務省の発表通り、ロシア側と平和条約締結問題を含む対話を継続していくだろう。

 以上の発表には含まれていないが、菅・プーチン電話会談においてはもっと深刻なことがあったらしい。「両首脳は、平和条約交渉をめぐり2年前に安倍前総理大臣とプーチン大統領が1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速すると合意したことを改めて確認した」と報道されたことである(たとえばNHK)。2013~17年、モスクワで勤務した朝日新聞の駒木明義氏は、「菅氏はプーチン氏と電話会談した際に、シンガポール合意を引き継ぐ考えを伝えた」と記している(『東亜』2021年6月号 No6489)が、同じ意味である。

 シンガポール合意の問題点は、日ロ間で歯舞、色丹、国後、択捉四島の帰属が未解決になっていることが確認された経緯を無視していることである。菅首相がプーチン大統領とあらためて平和条約・北方領土問題の解決を目指して交渉を再開する場合、過去の諸合意が有効であることをまず確認すべきである。それなくしては交渉は再び混乱に陥るであろう。

 安倍前政権では、過去の諸合意は領土問題を解決できなかったと言われたが、日ロ双方が合意したことであり、尊重するのは当然である。日本側の努力が足りなかったので領土問題は解決できていないというのは外交の基本を無視した暴論である。菅首相がプーチン大統領と交渉を再開する場合、まず、過去の諸合意を尊重・確認することから始めなければならない。
2021.05.31

セルビア-いつでも予約なしでワクチン接種を受けられる国

 セルビアは、テニスやサッカーなどは別として、日本ではよく知られていない国である。だが、コロナワクチンの関係では世界有数の先進国であることを5月30日の朝日新聞が伝えている。

 首都ベオグラードでは、たとえばショッピングモールで、予約なしでいつでも自由に、無料でワクチン接種を受けられる。ワクチンは中国シノファーム製と米ファイザー製、ロシア製スプートニクVから選べる。接種を待つ人の行列はなく、すぐに打ってもらえる。夢のような話である。

 セルビアがワクチンをこれほど潤沢に確保できたのは、ブチッチ大統領以下が早くから問題意識をもって取り組んできたからである。ブチッチ氏は「昨年7月末から米ファイザーと交渉を始め、中国の習近平(シーチンピン)国家主席のほかロシアのプーチン大統領や英国のジョンソン首相とも直接交渉した」と明かしている。

 その中で、最も多く供給したのが中国だ。ブチッチ氏は、「外交努力が報われた。中国がとても助けてくれた」と中国の「ワクチン外交」を評価している。EUは昨年3月、医療用品の域外輸出を禁止したが、同じころ、中国はマスクなど医療物資を大量に提供し、ブチッチ氏は空港に出向いて輸送してきた特別機を迎え、中国国旗にキスをした。一国の大統領が、どんな事情があるにせよ、他国の国旗にキスをするなど聞いたことがない。

 ワクチン確保がすべて順調だったわけでなく、苦労も大抵のことではなかったらしい。セルビア正教会の総主教といえばセルビア宗教界の頂点に立ち、国民の尊敬を一身に集めている人物であるが、2020年11月にコロナウイルスにかかって死亡した。政府は困難な立場に立たされたであろう。最近まで在セルビア大使を務めた丸山純一氏は、セルビアのワクチン確保のスピードと量は目覚ましいものであったと認めつつ、同国政府は必要な資金を確保するのに資金流用などもせざるを得なかったことをある会合で指摘していた。

 しかし、あまりに順調すぎると人はありがたさを忘れがちになるらしい。ワクチン効果もあり、セルビアの1日あたりの新規感染者数は、3月下旬から、多かった時の10分の1以下の300人ほどに減少しており、街中でマスク姿の人はほぼいない。レストランの店内営業も認められ、日常生活が戻りつつある。
だが、一方で接種への関心が低下して接種スピードが鈍化しており、「ワクチン余り」の状況になっている。
そのため政府は5月、接種した市民に3千ディナール(約3400円)の商品券を配ることを決めたという。

 セルビアは、かつてコソボ紛争が原因で欧米諸国と対立し、1999年にNATOの爆撃を受けボコボコにされたが、国連などでセルビアを擁護してくれたのが中国とロシアであり、それ以来セルビアにとって中国は特別の存在となっていた。

 2010年ごろから中国のセルビアへの進出が目立つようになり、鉄道、道路などの投資が急増した。中国はギリシャからハンガリーへ伸びる一大交通路の建設をも持ち掛けた。ギリシャのピレウス港は「一帯一路」の欧州第1号プロジェクトであり、またハンガリーはEUの中にあって中国寄りの立場が色濃い国である。この中間に位置しているのがセルビアなので、この輸送・交通路が完成すると、「一帯一路」は大きくと進むことになる。

 セルビアと中国の関係はコロナ禍を通じていっそう緊密化したようだ。今後もセルビアにとって中国が特別に重要な国であることに変わりはないだろうが、一方でセルビアはEUへの加盟を長らく渇望してきた。地政学的にセルビアは欧州の一部であり、EUとの友好関係なくしては国家として立ちいかない。

 しかるに、中国とEUは最近対立する場面が増しており、その傾向は今後容易に解消されそうにない。セルビアが今後中国との関係をさらに緊密化していくと、EUは警戒し、その結果、加盟問題にも悪影響が及ぶ可能性がある。

 セルビア国内でも、中国やロシアとの関係を重視する派(保守派)と欧米派(経済重視派)が併存しており、両者の関係は微妙である。セルビアはコロナワクチンの接種問題で各国から注目される成果を上げたが、内政・外交のかじ取りは逆に困難になっていくのではないか。

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