平和外交研究所

2021 - 平和外交研究所 - Page 20

2021.01.22

文在寅政権の対日姿勢は変わったか

 韓国の文在寅大統領は1月18日、年頭の記者会見で日韓関係の改善に関する発言を行った。これまで文大統領は菅首相に親しげに呼び掛けるなど、ある程度前向きの気持ちを表したことはあったが、今回は率直に、日韓関係を悪化させている問題に言及した。文氏は日本との関係改善を望んでいると思われる。

 文大統領の発言のうち評価できる点と評価できない点を確認しておく。

評価できる発言
〇 日本政府に元慰安婦らへの賠償を命じた韓国の地裁判決について、「正直、困惑している」。
(注 文大統領が韓国の裁判所の判決について否定的な考えを示したのは初めて。)

〇 2015年の日韓慰安婦合意については、「韓国政府は、両国間の公式合意と認めている」。
(注 文大統領はこれまで公式の合意と認めないかのように振舞っていた。)

〇 元徴用工訴訟について、日本企業の資産が「現金化されるのは、日韓関係に望ましいとは思わない」。
(注 文大統領がこのような発言を行ったのは初めて。)

〇 歴史問題が日韓関係全体に影響し、「他の分野の協力まで止めようとする態度は賢明ではない」。

評価できない発言
〇 解決策は「原告が同意できるものでなければならない」。
(注 この発言は問題である。このような考えに立つ限り、ソウル地裁の判決、2015年の両政府間合意、日本企業資産の現金化問題について、大統領としてどんなに積極的なことを述べても、帳消しになってしまう。また、「日韓両政府が協議して原告が同意できる解決策を見出そう」という主張であれば、今までと基本的には変わらない。)

 韓国政府はこれまで判決は変えられないと主張してきた。文大統領も同じ考えだったようだが、今回の発言はかなり趣が異なる面もある。ともかく、韓国政府は代替案を示す必要がある。例えば、強制執行の結果、日本の政府や企業が損害を被れば韓国政府が補償を行うことなど。

 今回の発言から少しはなれるが、文大統領は韓国の外交を立て直そうとしているのではないか。米国でバイデン新政権が発足する直前に外相を康京和(カン・ギョンファ)氏から鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏へ交代させたのもその一環であろう。

 一方、日本側としても注意を要する点がある。今回の文大統領の発言を喜んではならない。発言には積極的な面とともに問題があることはすでに述べたが、特に、日本が注意しなければならないのは第三国から評価される対応が必要なことである。日本の立場が強くなればなるほど、注意が必要である。第三国には元慰安婦問題に同情的な人は少なくない。国際法での主権免除理論を振りかざすことは賢明でない。日本政府は説明の仕方を工夫すべきである。

 また、日本政府は、半導体製造に必要な物資の対韓輸出についての規制強化措置を撤廃すべきである。日本側(経産省)はこれは国内措置だと主張してきたが、徴用工問題に関して韓国に加えた圧力であったことは明らかである。水面下では、今でも日本側から「韓国が態度を改めない限り、撤廃しない」とささやいているのではないか。
 なお、韓国政府は日本政府の管理強化の要求に応じて必要な措置をすでにとったという。もし日本政府としてそれが不十分ならば、輸出管理の範囲内で解決を図るべきである。
2021.01.18

慰安婦問題の解決は国際司法裁判所で

 韓国のソウル中央地裁は1月8日、元従軍慰安婦の女性12人が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、請求通り1人当たり1億ウォン(約950万円)の支払いを命じる判決を言い渡した。

 日本政府は、国際法上、国家は外国の裁判権に服さない(「主権免除」の原則)ことを理由に訴訟への関与を拒否してきた。が、ソウル地裁は、慰安婦の動員や管理は「反人道的な犯罪行為」で、主権免除を適用すべきでないとの原告側主張を受け入れたのである。

 その後、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)への提訴を検討し始めたと伝えられている。ICJでの解決が実現すればもちろん、実現する以前においてもよい方策である。

 2012年、李明博韓国大統領が竹島へ上陸した際、野田首相よりICJでの解決を提案したことがあった。しかし、韓国は同意しなかった。ICJについては、事前に「義務的管轄権」を受諾していれば、いちいち同意しなくてもICJへ行くことになるが、韓国はそれを受け入れていなかったのであり、現在も同じ状況である。

 慰安婦問題についてはこれまでICJでの解決を提案していなかったが、今回韓国の裁判所が日本政府に賠償を命じる判決を下したので、韓国側から法的な解決を主張し始めたのであり、ICJでの解決を求めるのがふさわしい状況になった。

 韓国政府は、しかし、竹島の例などにかんがみても慰安婦問題についてもICJでの解決に応じないかもしれないが、日本政府としてはICJでの解決を主張し続けることにより、公平な姿勢であることを示すことができる。

 また、韓国側でもICJでの解決が望ましいとする意見が出てきている。韓国国民大学の李元徳教授は「平和的に解決するには、両国の合意のもと国際司法裁判所(ICJ)で判断するしかないだろう」との意見である(朝日新聞1月9日付)。日本政府としてはICJでの解決がよいとする韓国の論者にも働きかけ、韓国政府と共に提訴するのが望ましい。

 日本では強い姿勢で韓国に臨むべきだとか、相星孝一・新駐韓大使の赴任を遅らせるべきだとか、次期駐日大使として来日予定の姜昌一氏の受け入れを拒否すべきだとかの主張があるようだが、いずれも問題の解決には役立たない。相星大使は現地へ行き、今後の対応策を至急検討すべきである。

2021.01.15

外交におけるビデオ会談

 米国のケリー・クラフト(Kelly Craft)国連大使は1月14日、ビデオ通話で蔡英文総統と会談した。中止された台湾訪問に代え行ったことである。

 ポンペオ国務長官が先にクラフト大使の台湾への派遣を発表した際、中国は反発した。タイミング的にも政権交代のわずか2週間前であり、訪台が中止されたことは妥当な措置であったとみられるが、米中台間の問題はさておくとして、クラフト大使と蔡英文総統とのビデオ会談は今後の外交の在り方としても興味深い。

 ビデオ会談にはメリットがある。まず、費用対効果の点ではるかに効率的である。また、時間の節約となることも大きい。米国と台湾を往復しようとすれば、少なくとも4日はかかるだろうが、ビデオ会話であれば、準備を含めても2~3時間ですむだろう。

 電話会談は以前からよく行われているが、ビデオ会談は電話では期待できないメリットがある。とくに、相手の顔を見ながら実際の会談に近い雰囲気の中で話し合える。とくに、旧知のあいだであれば、面談とほとんど変わらない状況で話し合いが可能であろう。

 会談内容の点では、デリケートな問題、秘密扱いを要する問題などを話すには向いていない。この点はデメリットであるが、そのような取り扱いが難しい問題は会談の一部であり、このデメリットはさほど大きくない。

 米台間では、バイデン新政権の対中方針次第だが、このような形式の通話が多くなるのではないかと思われる。今回のクラフト・蔡ビデオ会談についても、「中国はいかなる形式であれ、米国と台湾の公式交流には断固反対する」と述べた(中国外務省の趙立堅(Zhao Lijian)報道官)が、ビデオ会談は「公式」かいなか、はっきりしない。バイデン政権にとって台湾の首脳とのビデオ通話は便利な面があると思う。

 現在、日本と台湾の関係は米国以上に制約があるが、今後、日米台の間でビデオ会議を活用すれば意思疎通の可能性が広がるであろう。

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