2021 - 平和外交研究所 - Page 22
2021.01.08
イランはこの合意に違反することになるわけだが、言い分がある。「イランはこれまで合意を守ってきたにもかかわらず、欧米諸国は制裁緩和を実行しなかった。制裁緩和も合意されたことである。だからイランも合意に縛られないこととした」という主張である。
イランは合意を破棄したのではない。米国のように離脱したのでもない。欧米諸国が合意に従って制裁緩和を実行するならば、ウランの20%濃縮も中止するとザリフ外相が明言している。その意味では核合意は維持しているのである。
そもそもイランに対する制裁を欧米諸国が緩和しなかったのは、トランプ米大統領が「2015年の合意はイランの核兵器開発を防止するには不十分なので、合意の再交渉を求める」と主張し、2018年に一方的に離脱したためであった。しかし、トランプ氏には、イランが核兵器を開発すれば脅威にさらされるイスラエルの安全を確保したいという思惑があったともいわれている。
アラブ諸国ではこれまでエジプトとヨルダンだけがイスラエルを承認していたが、トランプ氏は2020年8月以降、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンおよびモロッコにイスラエルを承認させた。これもイスラエルを安定化させるためである。トランプ政権の中東外交は画期的な成果を上げたといえる。
イランをめぐる状況はそれだけ厳しくなったのだが、イラン内での米国に対する反発は非常に強く、核合意についても譲歩するどころか、逆に強気に出て今回の措置を取ったのである。
このような状況の中、バイデン政権は2週間後の1月20日に発足する。バイデン氏はイランの核合意の扱いについて、昨年12月2日付の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで「核計画(の協議)が中東地域を安定化させる最良の方法だ」と述べ、トランプ政権が2018年に離脱した核合意への復帰に意欲を見せた。ただ、単純な復帰でなく、「イランの合意順守」を復帰条件に求めた。これに対し、イランのザリフ外相は「(米国は)条件を設定する立場にない」と反発した。イランからすれば、核合意から一方的に離脱したのは米国であるので、合意を尊重するならば一方的に復帰すればよい、イランに対し先に合意順守を求めるのは順序が違うということなのであろう。
米国ではまた、ミサイルの開発制限も合意に含めるべきだとの考えが出てきている。核だけでもうまくいかないのに、新しい問題を持ち込むと事態は一層複雑化する。
ちなみに、2015年の合意はオバマ大統領が決断した結果であり、トランプ氏はオバマ氏が行ったことはすべて否定しようとする傾向があった。バイデン氏の場合は当然のことながら基本的にはオバマ大統領に近い立場であろう。
しかし、核合意をめぐる状況はすでに変化している。米国内にはイスラエル支持のユダヤ教徒が強い政治勢力を張っており、トランプ政権の下で進展したイスラエルの安定化を後退させることとなれば強力な反対が起こるのは必至である。オバマ大統領は、特に任期の前半は中東問題にかまけてアジア・太平洋への関心が薄かったといわれた。バイデン新大統領も中東問題に忙殺される可能性は高い。地球温暖化問題は米国がパリ条約に復帰すると宣言すれば外交的には一件落着となるが、中東問題はそうはいかないのが現実である。
イランのウラン濃縮に関する新方針
イランは年明け早々の1月4日、濃縮度20%のウランを製造し始めたと発表した。そこまで濃縮度を高めれば、核兵器に必要な90%の高濃度ウランを短期間で製造できるようになる。2015年、イランと米英仏独中ロの6カ国の合意では20%濃縮は禁止された。イランはこの合意に違反することになるわけだが、言い分がある。「イランはこれまで合意を守ってきたにもかかわらず、欧米諸国は制裁緩和を実行しなかった。制裁緩和も合意されたことである。だからイランも合意に縛られないこととした」という主張である。
イランは合意を破棄したのではない。米国のように離脱したのでもない。欧米諸国が合意に従って制裁緩和を実行するならば、ウランの20%濃縮も中止するとザリフ外相が明言している。その意味では核合意は維持しているのである。
そもそもイランに対する制裁を欧米諸国が緩和しなかったのは、トランプ米大統領が「2015年の合意はイランの核兵器開発を防止するには不十分なので、合意の再交渉を求める」と主張し、2018年に一方的に離脱したためであった。しかし、トランプ氏には、イランが核兵器を開発すれば脅威にさらされるイスラエルの安全を確保したいという思惑があったともいわれている。
アラブ諸国ではこれまでエジプトとヨルダンだけがイスラエルを承認していたが、トランプ氏は2020年8月以降、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンおよびモロッコにイスラエルを承認させた。これもイスラエルを安定化させるためである。トランプ政権の中東外交は画期的な成果を上げたといえる。
イランをめぐる状況はそれだけ厳しくなったのだが、イラン内での米国に対する反発は非常に強く、核合意についても譲歩するどころか、逆に強気に出て今回の措置を取ったのである。
このような状況の中、バイデン政権は2週間後の1月20日に発足する。バイデン氏はイランの核合意の扱いについて、昨年12月2日付の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで「核計画(の協議)が中東地域を安定化させる最良の方法だ」と述べ、トランプ政権が2018年に離脱した核合意への復帰に意欲を見せた。ただ、単純な復帰でなく、「イランの合意順守」を復帰条件に求めた。これに対し、イランのザリフ外相は「(米国は)条件を設定する立場にない」と反発した。イランからすれば、核合意から一方的に離脱したのは米国であるので、合意を尊重するならば一方的に復帰すればよい、イランに対し先に合意順守を求めるのは順序が違うということなのであろう。
米国ではまた、ミサイルの開発制限も合意に含めるべきだとの考えが出てきている。核だけでもうまくいかないのに、新しい問題を持ち込むと事態は一層複雑化する。
ちなみに、2015年の合意はオバマ大統領が決断した結果であり、トランプ氏はオバマ氏が行ったことはすべて否定しようとする傾向があった。バイデン氏の場合は当然のことながら基本的にはオバマ大統領に近い立場であろう。
しかし、核合意をめぐる状況はすでに変化している。米国内にはイスラエル支持のユダヤ教徒が強い政治勢力を張っており、トランプ政権の下で進展したイスラエルの安定化を後退させることとなれば強力な反対が起こるのは必至である。オバマ大統領は、特に任期の前半は中東問題にかまけてアジア・太平洋への関心が薄かったといわれた。バイデン新大統領も中東問題に忙殺される可能性は高い。地球温暖化問題は米国がパリ条約に復帰すると宣言すれば外交的には一件落着となるが、中東問題はそうはいかないのが現実である。
2021.01.01
翌年の新年の辞は米朝関係改善の流れに沿ったものであり、北朝鮮の「非核化」に初めて言及した。しかし、2月末のハノイにおける第2回トランプ・金会談が失敗に終わったことから米朝関係は著しく後退し、金委員長は対米関係を含め、基本政策の立て直しを図った。
2020年は、前年末に開かれた党の大会議の結果報告が「新年の辞」に代わるものとなった。この報告は北朝鮮が従来のような米国との対決姿勢に半ば戻ることを示唆し、非核化交渉を進めるためには年末までに米国が方針を改める必要があるなどと表明した。
「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃する」とおそろしいことも述べていたが、結局何が開発されたのか、よく分からないまま、1年が過ぎた。コロナ禍の影響も間接的ではあったが、北朝鮮に及んでいたのであろう。
北朝鮮は本年1月初旬に、5年ぶりの労働党大会を開催する予定である。北朝鮮の今後の内外の方針は、その際に示されるのであろう。
対外面では、やはり米国との関係が最重要であるが、タイミング的にバイデン新政権の成立を間近に控えているだけに、金委員長は慎重な姿勢を維持しつつ米国との関係改善の方途を探っていくものと思われる。
韓国の文在寅政権は支持率の低下が顕著であり、北朝鮮として韓国に役割を期待する状況でなくなっている。今後も韓国には、規制措置の緩和について積極的な役割を果たすことを要求しつつ、厳しい姿勢で臨むであろう。
今回の党大会で特に注目されるのは、経済の立て直しについてどのような方針ないし展望が示されるかである。北朝鮮ではこれまで中国の元や米ドルがかなり広く通用していたが、最近外貨の使用を禁止する方針が打ち出された。金委員長は経済の立て直しに熱心である。もっとも、外貨の使用禁止は北朝鮮経済の立て直しには不可欠の措置であろうが、富裕層に打撃を与えるだけに国内が不安定化する危険がある。
金委員長の新年の辞
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は1日、国民向けの新年書簡という形でメッセージを送った。北朝鮮では新年に際し、指導者の「新年の辞」あるいは国営メディアの「共同社説」などの形で内政や対外政策の基本方針を表明してきた。特に2018年の金委員長による「新年の辞」はオリンピックに参加する用意があることを述べ、その後、6月のトランプ・金会談に発展していった。翌年の新年の辞は米朝関係改善の流れに沿ったものであり、北朝鮮の「非核化」に初めて言及した。しかし、2月末のハノイにおける第2回トランプ・金会談が失敗に終わったことから米朝関係は著しく後退し、金委員長は対米関係を含め、基本政策の立て直しを図った。
2020年は、前年末に開かれた党の大会議の結果報告が「新年の辞」に代わるものとなった。この報告は北朝鮮が従来のような米国との対決姿勢に半ば戻ることを示唆し、非核化交渉を進めるためには年末までに米国が方針を改める必要があるなどと表明した。
「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃する」とおそろしいことも述べていたが、結局何が開発されたのか、よく分からないまま、1年が過ぎた。コロナ禍の影響も間接的ではあったが、北朝鮮に及んでいたのであろう。
北朝鮮は本年1月初旬に、5年ぶりの労働党大会を開催する予定である。北朝鮮の今後の内外の方針は、その際に示されるのであろう。
対外面では、やはり米国との関係が最重要であるが、タイミング的にバイデン新政権の成立を間近に控えているだけに、金委員長は慎重な姿勢を維持しつつ米国との関係改善の方途を探っていくものと思われる。
韓国の文在寅政権は支持率の低下が顕著であり、北朝鮮として韓国に役割を期待する状況でなくなっている。今後も韓国には、規制措置の緩和について積極的な役割を果たすことを要求しつつ、厳しい姿勢で臨むであろう。
今回の党大会で特に注目されるのは、経済の立て直しについてどのような方針ないし展望が示されるかである。北朝鮮ではこれまで中国の元や米ドルがかなり広く通用していたが、最近外貨の使用を禁止する方針が打ち出された。金委員長は経済の立て直しに熱心である。もっとも、外貨の使用禁止は北朝鮮経済の立て直しには不可欠の措置であろうが、富裕層に打撃を与えるだけに国内が不安定化する危険がある。
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