平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 61

2016.01.18

(短評)イランの核開発問題の解決

 イランと米欧などとの核合意が履行され、イランに対する各国の制裁の解除が実現した。核合意が成立したのは昨年の7月、制裁解除の発表はこの1月16日であるが、イランによる核開発に関する交渉は2002年から始まっていたので14年かかっており、さらにイランがそのような計画を始める原因は1979年のイラン革命から発生していたので、今回の合意は37年間続いてきた問題に終止符を打つ意味がある。

 ただし、米国とイランとの間の問題がすべて解決したわけではなく、米国はテロ支援を理由に課している制裁を今後も継続するし、弾道ミサイルの開発関連では、今回の発表の翌日に追加制裁を課しているので、米国とイランとの関係が正常化したとは言えない。
 また、米国の内外にイランに対する根強い不信感が残っている。イスラエルはその代表格だ。
 米国内でも今回の制裁解除に対する批判の声が上がっており、大統領選挙の共和党候補の中にも露骨にイラン批判を続ける者がいる。国際原子力機関(IAEA)が昨年12月にイランの合意履行状況に問題はないとする報告をした後でも懐疑論はやまなかった。

 たしかに核開発に関する合意履行の実現は両国関係全体の中では部分的であるが、そうであっても今回発表された合意履行の持つ意義は計り知れない。
 最大の効果(の一つ)は石油供給のさらなる増加であり、イランが石油市場に復帰してくると日本を含めグローバルに影響が出てくる。日本はかつてイラン石油の主要輸入国であった。制裁がかかっている間に日本はイランで多くを失ったが、今後は回復に努めるだろう。
 
 米国とイランとの信頼関係が回復すれば、これも重要な進展となる。イランがISやその他のテロ対策の関係で米欧に協力すれば、大きな効果が期待される。さらに、米国によるイスラエル支持と穏健派アラブ諸国との協力を柱に成立していた中東のパワーバランスは、米国とイランとの間に信頼関係がなかったことと表裏一体の関係にあったが、これが根本的に変わってくる可能性がある。
 よいことばかりでない。イランの核開発問題が収束に向かいつつあるとき、イランとサウジアラビアの対立が再燃した。米国としてはこれまではサウジが頼りであり、これからはイランの協力も期待できそうになったが、肝心の両大国が仲たがいを始め(再開し)たのだ。
 
 しかし、今回の発表は長年のもつれを解きほぐす可能性を持つものであり、オバマ大統領が「歴史的な進展だ」と歓迎する声明を発表したこともうなずける。
 何事についても過度に単純な反応は禁物だが、かつてブッシュ米大統領が言った「悪の枢軸」のうち、イラクはすでに過去のこととなり、イランについても解決が見えてきた。残るは北朝鮮である。すくなくとも中東での負担が軽くなれば、米国が北朝鮮との関係に本気で取り組む余地が出てくるのではないか。オバマ大統領が言った「歴史的な進展」とは中東のことであろうが、米国のアジア政策、とくに北朝鮮政策が中東と関連していたのは事実であろう。

2016.01.17

(短評)台湾の総統選


 1月16日、台湾で行われた総統選挙で民進党の蔡英文候補が圧勝した。立法院でも民進党は大勝し、約3分の2の議席を獲得した。
 台湾人の間で「我々は中国人でない、台湾人だ」という意識が非常に強くなっていたことがほとんどそのまま選挙結果となったと言える。また、経済面では台湾企業がむしろ中国から撤退する傾向になり、中国との関係が大事だから国民党に投票しなければならないという状況ではなくなってきたことも民進党勝利の大きな要因だ。

 蔡英文新総統にとって課題は山積しているが、なかでも台湾の安全保障をめぐる情勢が複雑化していることは大きな問題であり、新総統は微妙なかじ取りを要求される。
 台湾の安全を脅かすのは中国であるが、その脅威は米国によって食い止められていた。この状況は今後も変わらないが、実際に台湾を困難な立場に陥れる危険があるのは台湾が独立に向けて走り出すことであり、そのため民進党が警戒されていた。
 しかし、米国と中国の間には南シナ海をめぐって矛盾があることが中国の拡張主義的行動によって露呈された。その結果、国民党にも米国と矛盾する面があることが表面化してきた。国民党は中国と同様、南シナ海に対する領有権を主張しているからだ。
 一方、民進党にはそのような大国主義的主張はないので、米国を怒らせ危険はない。
米国は今後、南シナ海に関して矛盾のない民進党に対しどのような態度を取るだろうか。
米国にとって最も望ましいのは、台湾が独立に走ることを完全に止め、かつ、南シナ海に対する領有権主張を止め、さらに南シナ海に関して米国が進めている国際的連帯に台湾が加わることである。これは日本から見ても同じだ。
蔡英文新総統が米国と完全に同調すると台湾の立場は堅固になる。しかし、そこまで舵を切れるか。南シナ海問題については、フィリピンの仲裁裁判への提訴に反対してきたことなど台湾として積み重ねてきたことがある。また、米国への接近は中国の不満を惹起する。
蔡英文新総統は基本に立ち返って台湾の安全保障戦略を再構築しなければならない。
2016.01.14

(短評)北朝鮮に対する対応が不十分であったなら、同じことを繰り返すべきでない

 北朝鮮の核実験に関し、国連安保理での協議、韓国の対応(北向け放送の再開)、米軍機の示威飛行(B52など)、日米韓のハイレベル高官による協議などが伝えられている。
 米国はこれまでの対応が不十分であったと言いつつ、中国が北朝鮮への働き掛けを強化する必要があることを強調している。日本と韓国も同意しているそうだが、これは、今までしてきたことと同じだ。今までの方法が不十分であったと言いながら、同じことを繰り返すのは不可解だ。
 中国の北朝鮮に対する働きかけがほんとうに核実験を止めさせる力を持ちうるのは、中国が北朝鮮と全面的に対決し、どちらが勝っても構わないというくらい覚悟を決めてかかる場合しかないとは考えないのか。
 3カ国の担当者はあくまで冷静に、「中国がのめる範囲内で北への圧力を強化してもらう」と言っているそうだが、これではそのような効果は期待できない。
 制裁措置にしても、強化すれば北朝鮮は困る(困るのは一層増す)だろうが、核開発は止めないだろう。北朝鮮という国の生存がかかっているからだ。少なくともそれが彼らの認識だ。
 これまで実施された措置、これから実施されると伝えられている措置では北朝鮮の核開発を止められない。しかも北朝鮮に対する報復と圧力を目的とする措置、いわゆる「北風」ばかりだ。北朝鮮の核実験は国際社会から強い反応を招くことになることを悟らせるなどとも言われているが、北朝鮮はそんなことを承知の上で核開発を続けているのではないか。それが暴挙と思われても。
 
 北朝鮮がなぜ核開発にこだわるのか、その原因と理由を探求し、核開発を止めさせるべきだ。カギは米国にある。中国ではない。世界中で忙しい米国としてそのことを認めたくないのは分からないではない。個人的には同情も覚えるが、事実は曲げられない。
 当研究所は以上のような考えを何回か発表してきた。最近では、1月11日の「北朝鮮の核実験「水爆かどうか」より大事なことは」がある。

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