平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 62

2016.01.13

「永世中立国」スイス憲法にみる安全保障と日本の平和憲法

 年の初め。スイスの憲法と比較しつつ、日本の新安全保障法制を改めて見てみました。THE PAGEに1月11日アップされたものです。 

「スイス憲法における軍隊の規定
 スイスの憲法は、民兵によって構成される軍隊を持つこと(第58条)、すべてのスイス人は兵役の義務を負うこと(つまり徴兵制、第59条)などを定めています。
 スイスと日本はともに平和に徹することを国是としており、スイスの「永世中立」は、日本国憲法が第9条で日本が「国際紛争」に巻き込まれることを厳禁していることと対比できます。
 実は、スイス憲法には「中立」とはどこにも書いてありません。古い話ですが、1815年、ナポレオン戦争後のヨーロッパの新秩序を決定したウィーン体制においてスイスの中立が周辺の諸国との条約において規定されたのです。
 そうなったのは、スイスが当時軍事強国であり、スイスと同盟した国が軍事的に優位に立ち、そうなるとヨーロッパが不安定になるので、スイスを中立にしておくのがよいと考えられたのです。また、スイスとしても中立は望むところだったので各国の考えを受け入れました。

 第二次大戦後の日本を取り巻く国際環境は違っており、アジアの周辺国の間には日本の立場についてスイスのような合意はありませんでした。
 日本は、安全の確保のためには国連に依拠するのがよいと考えましたが、国連は拒否権のために重要な問題について決定できませんでした。これでは日本を防衛できません。そのため、1951年、日本が連合国と平和条約を締結した際に米国と安全保障条約を結び、1957年には、国連が機能するに至るまで日米安保条約に依拠することとするという「国防の基本方針」を定めました。これは現在も有効です。
 日本国憲法と日米安保条約の間に矛盾はないか、「国際紛争に巻き込まれない」ことと米国に依拠することの間に矛盾はないかいう問題はこの時から発生しました。

スイスでは2013年に徴兵制廃止をめぐって国民投票が行われたが否決
 スイスは徴兵制を維持している珍しい国ですが、宗教上などの理由から撤廃すべきだという意見は以前からあり、国民投票が行われ、否決されたこともありました。2013年には、徴兵制は現実離れしている、国費の無駄遣いだなどという理由で再び国民投票が行われましたが、やはり維持すべきだという結論になりました。

日本では昨年、集団的自衛権の行使を認める安保法制をめぐり議論噴出
 日本では、2014年、それまで認められなかった集団的自衛権の行使を認めるべきだという考えの下に安全保障関連法案が提出されました。「自衛」は本来自国を防衛することが目的ですが、集団的自衛の場合、一定の要件を満たせば他国の防衛のために自衛隊が出動することになります。そのため、改正法案は憲法違反であるという考えが多数の憲法学者及び国民から出ましたが、結局、改正法案は国会で承認され、成立しました。
 日本が自衛力を持ったのは1954年からです。「自衛」は憲法の禁ずる「国際紛争」ではないので、自衛隊を持つことは憲法と矛盾しないと判断されました。
 日米安保条約も日本を防衛することのみが内容となりました。米国に日本を守る義務を負わせる一方、日本は米国を守る義務はないのは条約として異例ですが、日本の憲法の下ではやむをえないことでした。

 今度は安保法制の改正により集団的自衛権の行使も認められることになり、他の国が武力攻撃された場合でも自衛隊を派遣することが可能になりました。要件は非常に厳格ですが、それでも日本国憲法の厳禁する「国際紛争に巻き込まれる」ことにならないかが問題となりえます。
 とくにその危険が大きいのが、武力攻撃・存立危機事態法の「存立危機事態」と、新しい国際支援法による多国籍軍への自衛隊の派遣です。後者は、2003年のイラク戦争の際に、憲法に触れないよう特別法で活動範囲を「非戦闘地域」に限るなどして自衛隊を派遣した例がありますが、一般に「多国籍軍」と呼ばれる場合は平和維持活動と異なり、紛争は終わっていません。そこへ自衛隊を派遣することは、憲法の「国際紛争に巻き込まれてはならない」という定めに反する危険が大きいと思います。

 ともに平和を国是としているが、徴兵制を維持して自国軍で安全保障をまかなおうとするスイスと日本では、安保環境も法制度も違っている。
 日本の場合は、スイスのように周辺諸国の間でコンセンサスがないだけに安全保障の在り方は複雑になりますが、日本国憲法が厳禁する「国際紛争に巻き込まれること」は日本の国是であり、これを揺るがせないよう努めるべきでしょう。安保条約に依拠して自衛する、あるいは国際貢献をするのは問題ありませんが、この一線を越えてはなりません。
 自衛隊による米軍への協力や多国籍軍への参加の可能性が増大してきた現在、日本国憲法、日米安保条約および改正安保法制の関係を明確にしておく必要があります。
2016.01.12

(短評)米中両国が加わったアフガニスタン・パキスタン会談

 1月11日、アフガニスタンにおける和平の実現のためにアフガニスタン、パキスタン、米国、中国の協議が行われ、共同声明も発出された。
 アフガニスタンでは、タリバンとアフガニスタン政府の話し合いが2015年7月から中断している。タリバンと政府軍および米軍との戦いは一進一退、あるいはタリバンの攻勢が強くなっている面もある。10月には北部の主要都市クンドゥズが、一時的であったがタリバンに占領され政府側は強い衝撃を受けた。
 アフガニスタン政府を支援していた米軍など各国軍はすでに撤退済みか、残っていても数は大幅に減少している一方、アフガニスタン政府の軍・警察は腐敗のため十分機能しておらず、状況は厳しい。
 
 中国はアフガニスタン支援に参加していないが、アフガニスタンおよびパキスタンは隣国同士であり、「一帯一路」構想実現のカギであるパキスタンのグワダル港から新疆へ通じるルートの安全のためにも、また、アフガニスタンで事業を展開したい中国企業のためにも(当研究所HP2014年6月30日「各地の反体制派」)、アフガニスタンが平和で安定した状態になることを望んでいる。
 アフガニスタン政府としてもカルザイ前大統領時代から中国との関係増進を図っており、2014年9月に就任したガニ新大統領も就任の翌月、米国より先に中国を訪問したくらい熱意を示している。
 そのような事情から、米国は中国に対し、西側がアフガニスタンから撤退した後を肩代わりしてほしいと希望していた(当研究所HP2013年7月27日「中国に大国の覚悟はあるか」)。西側が大きな犠牲を払ってアフガニスタン支援を行ない、平和になると中国が経済面でアフガニスタンと関係を深めることには複雑な気持ちを抱いていた可能性もある。
 初めて実現した今回の協議であるが、今後「4カ国調整グループ」として定例化することが合意された。タリバンとアフガン政府が昨年7月に中断した直接対話を「直ちに行う必要がある」とも強調した。

 次回会合は18日にアフガンの首都カブールで開き、和平へ向けた工程表について話し合うそうだ。
 米国が中国の協力を積極的に評価しているのはもちろんだが、中国の軍事的影響力の拡大については警戒心があるだろう。このあたりのバランスはまだ明確でない。
2016.01.11

北朝鮮の核実験「水爆かどうか」より大事なことは

 北朝鮮の核実験について、水爆か否か、威力は大したことないなどという議論よりもっと大事なことがあります。なぜ北朝鮮は核兵器を持つのでしょうか。各国の取り組みが結果を出せないのはどこに問題があるかなどを意識して書いた一文です。THE PAGEに9日掲載されました。

 「1月6日、北朝鮮は水素爆弾の実験に成功したと発表しました。これは核実験としては4回目で、初めての水爆実験です。国際社会の反対を無視し、地域の安定を乱す暴挙であり、日本政府は重大な懸念を表明するとともに、放射能の拡散やその他の環境面での影響について調査・分析し、また米国や韓国などと連携して取るべき対応措置を検討しています。
 安全保障理事会(安保理)は、日本と米国の要請を受けて緊急の会合を開いて対策を協議しており、すでに報道声明は発出されました。従来より強い内容の制裁が科される可能性もあります。

 北朝鮮の核開発については、朝鮮半島の非核化、核兵器としての性能、軍事的な効果、米国や中国との関係、さらには金正恩体制など様々な側面から議論されています。今回の実験は本当に水素爆弾であったかなども注目されていますが、あまり技術的なことに関心を集中させるのは感心できません。「北朝鮮の水爆はレベルが低い」などと言うと、北朝鮮は一層ムキになるのではないでしょうか。

 大事なことは、北朝鮮の核実験を止めさせることです。そもそも北朝鮮はなぜ核兵器を保有しようとするでしょうか。
 実は、北朝鮮の地位は非常に不安定です。日本ではとても想像できないことですが、北朝鮮は下手をすれば国が滅亡してしまう危険にさらされています。そもそも1950年に勃発した朝鮮戦争は、現在休戦状態にあるだけで終了していません。冷戦が終わるときに危険が増大しましたが何とか乗り切りました。しかし、その後も状況は基本的に変わっていません。
 いったい、どこの国が北朝鮮を脅かすのかといぶかられるかもしれません。もちろん21世紀の現在、常識的には北朝鮮を攻撃するような国はなさそうですが、北朝鮮にとっての脅威は米国です。米国はかつて北朝鮮に軍事侵攻すべきか検討したことさえあります。その道ではよく知られていることです。
 かつて中国とソ連は北朝鮮の同盟国でしたが、ソ連は消滅し、ロシアとは軍事同盟関係にありません。頼りの中国についても、最近関係が悪化し、どの程度頼れるか怪しくなってきました。
 そのような状況において、北朝鮮は核兵器とミサイルを柱として軍事力を強化することに努めました。金正日総書記の時代には「先軍」という軍事優先主義をすすめ、金正恩第1書記は、経済成長と核兵器が二本柱の国策だとして力を入れています。
 核兵器もミサイルも国際社会にとっては大問題です。しかし、北朝鮮にとっては国家としての生死が掛かっています。北朝鮮が国際社会の意向を無視し続けることは誠に遺憾ですが、国際社会の言っていることを聞け、そうしないと制裁を強化すると言うだけでは解決困難な問題であると思います。
 北朝鮮が核兵器を開発しても米国とは比較にならないという軍事的指摘もあります。しかし、北朝鮮は、米国を攻撃するためでなく、米国が北朝鮮を攻撃すれば高い代償を払うことになることをアピールしようとしている可能性があります。
 
 では、今後どうすればよいかですが、カギを握っているのは米国だけです。しかし、米国と北朝鮮の間には大きなずれがあります。米国はグローバルパワーとして、世界各地で活動しており、とくに中東での対応に忙殺されており、北朝鮮問題は、同国を取り囲んでいる軍事、経済大国、つまり、中国、韓国、ロシア、日本で解決してほしい、という考えです。とくに中国に対しては期待が大きく、二言目には中国が北朝鮮に対する影響力を強化してほしいと言っています。理屈からはそれは可能なはずですが、北朝鮮は中国の忠告を聞き入れようとしません。北朝鮮の存続にかかわることだからでしょう。これは何回も繰り返してきたことで、中国が北朝鮮の核開発を止められないことは明らかです。
 北朝鮮の核問題を解決するには、米国、北朝鮮、中国の間で繰り返してきたこの奇妙な三角関係から脱却し、米国が北朝鮮と直接交渉し、北朝鮮の地位を保証するか、そのための条件いかんなどについて結論を出すことが必要です。米国は気乗りでないかもしれませんが、そうすることが結局はすべての国にとって利益であり、したがって日本としても、米国がそのような考えになるよう、側面から協力しつつ働きかけるべきだと思います。」

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