2016 - 平和外交研究所 - Page 59
2016.01.28
(資源外交から「一帯一路」)
中国の中東への進出は資源獲得の目的から始まった。石油天然ガス集団など中国の企業は採掘権を獲得、巨額の投資(採掘や精製、関連のインフラ建設など)、石油の引き取りなどを行う。
産油国には万の台の中国人労働者が送り込まれる。リビアの内乱の際は3万人あまりの中国人が避難した。
最近はこの他原発輸出が目立ってきた。
中東諸国への援助供与も増大しており、その関係で、中国はアラブ諸国と協力フォーラム、「中国-アラブ諸国協力フォーラム(China-Arab States Cooperation Forum)」を2004年に設置して意思疎通を図っている。
今は、資源獲得の看板を下ろしたわけではないが、「一帯一路」構想を語り、中東諸国の参加を求めている。この構想は対象地域や対象事業など明確になっていない部分があるが、資源の開発・取引も含むのだろう。
習近平主席は今回の歴訪中行く先々でこの構想について力説した。
アフガニスタンは産油国でないが、中国からイスラム世界に通じる拠点であり、「一帯一路」の重要な一角だ。パキスタンのグワダル港から陸路で新疆自治区へ通じるルートはアフガニスタンのタリバーンの脅威にさらされており、このルートの安全には中国とパキスタン両政府に加えてアフガニスタン政府との協力が不可欠だ。
アフガニスタンと中国については当研究所HP2015年2月23日の「中国の「海上シルクロード」続き3」を参照願いたい(これを検索するには、「中国の「海上シルクロード」続き3」と「平和外交研究所」をキーワードにする)。
(中国とイスラム過激派)
中国の中東外交においてイスラム、とくに過激派との関係が問題であり、手を焼いているようだ。
新疆自治区の過激派(?)がISで軍事訓練を受け、戦闘に参加していると、中国の呉思科・中東問題特使が発言したこともある。
ISはテロの脅威の一種であり、テロ対策を強化する必要があるという点では各国と利害は一致している。
中国とイスラムについては、当研究所HP2014年8月27日付の「イスラム国での中国の評判」を参照願いたい。
(中国と米国-矛盾か、協力か)
中国の中東への進出を米国は歓迎するか。これにも両面がある。
米国はイラクやアフガニスタンで戦争し、いずれの地でも数千人に上る死者を出した。しかし、中国はこれらの戦争に参加しないまま両国との経済関係を深め、イラクでも、アフガニスタンでも主要な貿易相手国となっており、イラクでは最重要パートナーだと言われることもある。米国にとって中国は「ただのり」だとオバマ大統領が言った。
中東諸国の側でも、米国との従来からの友好関係は維持しつつ、中国の進出を歓迎する傾向がある。習近平主席が訪問したサウジとエジプトはいずれも米国の伝統的中東外交の柱であり、巨額の軍事援助を行ってきた。しかし、サウジはISに対する空爆には参加しつつも、イランと和解する傾向を示す米国には不満を抱いている。その背景には、イランの核問題が解決して国際社会に受け入れられるようになるに伴い、スンニ派の代表格であるサウジとシーア派の代表格であるイランとの対立が生じ、サウジ内でのシーア派の指導者ニムル師の刑執行をきっかけに断交にまで発展したという問題がある。
一方、米国と中国の間で利害が一致することもある。
イスラム過激派およびテロの問題だ。米国が過激派組織ISに対する空爆をイラクで開始したのが2014年8月。翌9月にシリアへも攻撃を開始するのだが、その間にオバマ大統領のライス補佐官が訪中し、オバマ米大統領が構築を目指している有志連合を支持するよう中国に要請した。
これに対して、中国はテロとの戦いを強化することは重要だと理解を示しつつ、中国が関わることについては、「興味を示した」とも伝えられたが、慎重な姿勢を崩さなかった。テロとの戦いについても一般論であり、米国の空爆を支持したのではなかった。
中国の立場は過激派組織ISとの関係では米国やその他各国とも類似しているが、他国の領域内で軍事行動をすることについては非常に慎重であり、旧ユーゴ、イラク、リビアなどでの米欧諸国の行動には、安保理で反対、あるいは棄権してきた。イラクとシリアの場合も同じ姿勢なのだろう。
2016年1月11日、アフガニスタンにおける和平実現のためにアフガニスタン、パキスタン、米国、中国の協議が行われ、共同声明も発出された。
アフガニスタンでは、タリバーンとアフガニスタン政府の話し合いが2015年7月から中断しており、タリバーンと政府軍および米軍との戦いは一進一退、あるいはタリバーンの攻勢が強くなっている面もある。10月には北部の主要都市クンドゥズが、一時的であったがタリバーンに占領され政府側は強い衝撃を受けた。
アフガニスタン政府を支援していた米軍など各国軍はすでに撤退済みか、残っていても数は大幅に減少している一方、アフガニスタン政府の軍・警察は腐敗のため十分機能しておらず、状況は厳しい。
このような状況の中で中国がより積極的な役割を果たすことは米国としても望むところだ。
中東における米国と中国の関係は今後も、対立と協調の両面から注意していく必要があろう。
なお、当研究所HP2014年9月8日付の「米・中・イスラム国関係」を参照願いたい。
(イスラエルとパレスチナ)
中国は中東和平にも積極的に取り組む姿勢を見せており、2014年にはパレスチナとイスラエルに呉思科特使を3回派遣し、また、王毅外相は同年8月初め、エジプトを訪問した。
同地で王毅外相が発表した中東和平5項目提案では、イスラエルとパレスチナによる即時停戦、イスラエルによるガザ地区の封鎖解除、拘留パレスチナ人の解放、イスラエルの安全への懸念重視、パレスチナ人の独立と建国への正当な要求と合法的権利の支持など、イスラエルとパレスチナ双方の立場に配慮していた。
イスラエルとパレスチナの問題は相次ぐ紛争に見舞われている中東でも最大の難問であり、国連は別として、これまで和平問題に関与できるのは米国と、欧州諸国がそれに時折加わる程度であった。
この問題に中国は本腰を入れて取り組もうとしているのか。和平提案だけで判断することはできない。今後の展開を見守る必要がある。
この問題に関するHPの論考としては次がある。
2014年月8月5日「中国の中東和平5項目提案」
2015年9月25日「中国とイスラエルの関係」
中東へ進出する中国
習近平中国主席が1月19日からのサウジアラビア、エジプト、イランを歴訪し、巨額の借款供与や原発輸出を発表して注目を浴びた。中国の最近の対中東積極外交の主要点を取りまとめてみた。(資源外交から「一帯一路」)
中国の中東への進出は資源獲得の目的から始まった。石油天然ガス集団など中国の企業は採掘権を獲得、巨額の投資(採掘や精製、関連のインフラ建設など)、石油の引き取りなどを行う。
産油国には万の台の中国人労働者が送り込まれる。リビアの内乱の際は3万人あまりの中国人が避難した。
最近はこの他原発輸出が目立ってきた。
中東諸国への援助供与も増大しており、その関係で、中国はアラブ諸国と協力フォーラム、「中国-アラブ諸国協力フォーラム(China-Arab States Cooperation Forum)」を2004年に設置して意思疎通を図っている。
今は、資源獲得の看板を下ろしたわけではないが、「一帯一路」構想を語り、中東諸国の参加を求めている。この構想は対象地域や対象事業など明確になっていない部分があるが、資源の開発・取引も含むのだろう。
習近平主席は今回の歴訪中行く先々でこの構想について力説した。
アフガニスタンは産油国でないが、中国からイスラム世界に通じる拠点であり、「一帯一路」の重要な一角だ。パキスタンのグワダル港から陸路で新疆自治区へ通じるルートはアフガニスタンのタリバーンの脅威にさらされており、このルートの安全には中国とパキスタン両政府に加えてアフガニスタン政府との協力が不可欠だ。
アフガニスタンと中国については当研究所HP2015年2月23日の「中国の「海上シルクロード」続き3」を参照願いたい(これを検索するには、「中国の「海上シルクロード」続き3」と「平和外交研究所」をキーワードにする)。
(中国とイスラム過激派)
中国の中東外交においてイスラム、とくに過激派との関係が問題であり、手を焼いているようだ。
新疆自治区の過激派(?)がISで軍事訓練を受け、戦闘に参加していると、中国の呉思科・中東問題特使が発言したこともある。
ISはテロの脅威の一種であり、テロ対策を強化する必要があるという点では各国と利害は一致している。
中国とイスラムについては、当研究所HP2014年8月27日付の「イスラム国での中国の評判」を参照願いたい。
(中国と米国-矛盾か、協力か)
中国の中東への進出を米国は歓迎するか。これにも両面がある。
米国はイラクやアフガニスタンで戦争し、いずれの地でも数千人に上る死者を出した。しかし、中国はこれらの戦争に参加しないまま両国との経済関係を深め、イラクでも、アフガニスタンでも主要な貿易相手国となっており、イラクでは最重要パートナーだと言われることもある。米国にとって中国は「ただのり」だとオバマ大統領が言った。
中東諸国の側でも、米国との従来からの友好関係は維持しつつ、中国の進出を歓迎する傾向がある。習近平主席が訪問したサウジとエジプトはいずれも米国の伝統的中東外交の柱であり、巨額の軍事援助を行ってきた。しかし、サウジはISに対する空爆には参加しつつも、イランと和解する傾向を示す米国には不満を抱いている。その背景には、イランの核問題が解決して国際社会に受け入れられるようになるに伴い、スンニ派の代表格であるサウジとシーア派の代表格であるイランとの対立が生じ、サウジ内でのシーア派の指導者ニムル師の刑執行をきっかけに断交にまで発展したという問題がある。
一方、米国と中国の間で利害が一致することもある。
イスラム過激派およびテロの問題だ。米国が過激派組織ISに対する空爆をイラクで開始したのが2014年8月。翌9月にシリアへも攻撃を開始するのだが、その間にオバマ大統領のライス補佐官が訪中し、オバマ米大統領が構築を目指している有志連合を支持するよう中国に要請した。
これに対して、中国はテロとの戦いを強化することは重要だと理解を示しつつ、中国が関わることについては、「興味を示した」とも伝えられたが、慎重な姿勢を崩さなかった。テロとの戦いについても一般論であり、米国の空爆を支持したのではなかった。
中国の立場は過激派組織ISとの関係では米国やその他各国とも類似しているが、他国の領域内で軍事行動をすることについては非常に慎重であり、旧ユーゴ、イラク、リビアなどでの米欧諸国の行動には、安保理で反対、あるいは棄権してきた。イラクとシリアの場合も同じ姿勢なのだろう。
2016年1月11日、アフガニスタンにおける和平実現のためにアフガニスタン、パキスタン、米国、中国の協議が行われ、共同声明も発出された。
アフガニスタンでは、タリバーンとアフガニスタン政府の話し合いが2015年7月から中断しており、タリバーンと政府軍および米軍との戦いは一進一退、あるいはタリバーンの攻勢が強くなっている面もある。10月には北部の主要都市クンドゥズが、一時的であったがタリバーンに占領され政府側は強い衝撃を受けた。
アフガニスタン政府を支援していた米軍など各国軍はすでに撤退済みか、残っていても数は大幅に減少している一方、アフガニスタン政府の軍・警察は腐敗のため十分機能しておらず、状況は厳しい。
このような状況の中で中国がより積極的な役割を果たすことは米国としても望むところだ。
中東における米国と中国の関係は今後も、対立と協調の両面から注意していく必要があろう。
なお、当研究所HP2014年9月8日付の「米・中・イスラム国関係」を参照願いたい。
(イスラエルとパレスチナ)
中国は中東和平にも積極的に取り組む姿勢を見せており、2014年にはパレスチナとイスラエルに呉思科特使を3回派遣し、また、王毅外相は同年8月初め、エジプトを訪問した。
同地で王毅外相が発表した中東和平5項目提案では、イスラエルとパレスチナによる即時停戦、イスラエルによるガザ地区の封鎖解除、拘留パレスチナ人の解放、イスラエルの安全への懸念重視、パレスチナ人の独立と建国への正当な要求と合法的権利の支持など、イスラエルとパレスチナ双方の立場に配慮していた。
イスラエルとパレスチナの問題は相次ぐ紛争に見舞われている中東でも最大の難問であり、国連は別として、これまで和平問題に関与できるのは米国と、欧州諸国がそれに時折加わる程度であった。
この問題に中国は本腰を入れて取り組もうとしているのか。和平提案だけで判断することはできない。今後の展開を見守る必要がある。
この問題に関するHPの論考としては次がある。
2014年月8月5日「中国の中東和平5項目提案」
2015年9月25日「中国とイスラエルの関係」
2016.01.27
「アトランティック・メディア」傘下の安全保障・軍事サイト、Defense One(1月19日付)はドローンに関するT.X. Hammesの記事を掲載している。
「民間でのドローン製造は種類、性能、用途ともに急速に進んでいる。兵器ではないが、即製爆発装置(improvised explosive devices IEDと略称される。たとえば火炎瓶などもその一種)として米軍を攻撃するのに使用されるようになるだろう。商品として販売されているので誰でも入手できるという恐ろしさがある。
ドローンは車両、駐機中の飛行機、燃料庫、弾薬庫を正確に攻撃できる。
米海軍は、水中で使え、5年間補給なしで行動できるドローンを研究している。これを使えば、機雷や魚雷を敷設、発射できるようになる。
今や1600キロも離れた地点を攻撃できるドローンが作られている。
ドローンの強みは価格が安いことにある。現在市場で売られているものは1機10万ドルだが、価格は急速に下がっている。
もちろん、F-35のような高性能兵器は重要だ。現在開発中のシステムが完成すれば能力は飛躍的に向上するだろう。しかし、敵は、空中でF-35と戦うことはせず、駐機中のF-35をドローンで破壊しようとするのではないか。
ドローンは大量に作られる。数年前から3Dプリントでドローンを1日で製造できるようになっている。それより何十倍も早く製造する方法が研究されている。高性能のドローン・プリンターが10基あれば1日に1000機製造することも不可能でない。
もし1日1000機のドローンが作れたら、そのうち500機が飛行不能になっても構わない。あと500残っている。さらにそのうち300が撃墜されてもまだ200あるる。これで駐機中のF-35数機を攻撃できる。あるいは、レーダー・システム、燃料保管場所などを攻撃できる。
兵器の性能は向上しているが、ますます高価になり、米軍が調達できる数は少なくなる。空軍の主要爆撃機B-52もその例で、元の計画よりはるかに少ない数しか購入できなかった。」
(短文)3Dプリントで大量に製造できるドローンの危険性
ドローンの危険性について、当研究所は、個別の問題だが、特に注意しており、これまでに数回記事を掲載してきた(「ドローン 平和外交研究所」で検索が可能)。「アトランティック・メディア」傘下の安全保障・軍事サイト、Defense One(1月19日付)はドローンに関するT.X. Hammesの記事を掲載している。
「民間でのドローン製造は種類、性能、用途ともに急速に進んでいる。兵器ではないが、即製爆発装置(improvised explosive devices IEDと略称される。たとえば火炎瓶などもその一種)として米軍を攻撃するのに使用されるようになるだろう。商品として販売されているので誰でも入手できるという恐ろしさがある。
ドローンは車両、駐機中の飛行機、燃料庫、弾薬庫を正確に攻撃できる。
米海軍は、水中で使え、5年間補給なしで行動できるドローンを研究している。これを使えば、機雷や魚雷を敷設、発射できるようになる。
今や1600キロも離れた地点を攻撃できるドローンが作られている。
ドローンの強みは価格が安いことにある。現在市場で売られているものは1機10万ドルだが、価格は急速に下がっている。
もちろん、F-35のような高性能兵器は重要だ。現在開発中のシステムが完成すれば能力は飛躍的に向上するだろう。しかし、敵は、空中でF-35と戦うことはせず、駐機中のF-35をドローンで破壊しようとするのではないか。
ドローンは大量に作られる。数年前から3Dプリントでドローンを1日で製造できるようになっている。それより何十倍も早く製造する方法が研究されている。高性能のドローン・プリンターが10基あれば1日に1000機製造することも不可能でない。
もし1日1000機のドローンが作れたら、そのうち500機が飛行不能になっても構わない。あと500残っている。さらにそのうち300が撃墜されてもまだ200あるる。これで駐機中のF-35数機を攻撃できる。あるいは、レーダー・システム、燃料保管場所などを攻撃できる。
兵器の性能は向上しているが、ますます高価になり、米軍が調達できる数は少なくなる。空軍の主要爆撃機B-52もその例で、元の計画よりはるかに少ない数しか購入できなかった。」
2016.01.26
翌02年から、国際交流基金は韓国の高校生を日本に招待して、日本人との交流を通じて日本に対する理解を深めてもらう事業を実施しており、今年は20名が来日した。今日、現場を訪れ献花するそうだ。
韓国の高校生を招待するのは素晴らしいことだと思う。
この事業の目的として、「李さんの遺志をついで日韓の懸け橋になってもらう」と説明されている。それもよいが、李さんの行動にはもっと普遍的な意義がある。李さんは、とっさに「助けなければならない」と思って危険を顧みずに線路に飛び降りたのではないか。難しく考えすぎかもしれないが、あえて言えば、「日韓のため」とみるのは、よくないとは言いたくないが、不十分な気がするのだ。
2011年、『グローバル化・変革主体・NGO』という本を出版した。わたくしはその編者として、「序論」で次のように書いた。
「NGO活動は伝統的に欧米で盛んであり、我が国のNGOは欧米にならって活動をはじめたのかもしれないが、日本で「他人のために」行動することが軽視されていたのではない。「他人のために集団で行動する」ことと、そもそも「他人のために行動する」ことは別問題であり、後者の問題に関しては、日本は、それに韓国や中国も欧米に決して引けを取らないのではないか。例はいくらもあろう。幕末に日本を訪れた西洋人も日本人は親切であると言っていた。具体的な表現は国民ごとに、あるいは民族ごとに違っている部分があるかもしれないが、「他人のために行動する」ことの大切さは人間として身につけてきた普遍的倫理である。JR大久保駅で韓国人留学生と日本人男性がプラットフォームから線路に落ちた人を助けようとして自らの命を犠牲にしたのはたんに「親切にする」という程度をはるかに超える高邁な人道的精神の発露であり、純粋な「他人のための行動」であった。」
この本はNGOについての識者が市民社会を論じたものであり、「他人のために集団で行動する」とはNGOの特性として言及したことである。
(短文)15年前の1月26日、新大久保駅で
15年前の今日、JRの新大久保駅で、ホームから転落した男性を助けようとして韓国人留学生の李秀賢(イスヒョン)さん(当時26)とカメラマンの関根史郎さん(当時47)が電車にはねられ亡くなった。翌02年から、国際交流基金は韓国の高校生を日本に招待して、日本人との交流を通じて日本に対する理解を深めてもらう事業を実施しており、今年は20名が来日した。今日、現場を訪れ献花するそうだ。
韓国の高校生を招待するのは素晴らしいことだと思う。
この事業の目的として、「李さんの遺志をついで日韓の懸け橋になってもらう」と説明されている。それもよいが、李さんの行動にはもっと普遍的な意義がある。李さんは、とっさに「助けなければならない」と思って危険を顧みずに線路に飛び降りたのではないか。難しく考えすぎかもしれないが、あえて言えば、「日韓のため」とみるのは、よくないとは言いたくないが、不十分な気がするのだ。
2011年、『グローバル化・変革主体・NGO』という本を出版した。わたくしはその編者として、「序論」で次のように書いた。
「NGO活動は伝統的に欧米で盛んであり、我が国のNGOは欧米にならって活動をはじめたのかもしれないが、日本で「他人のために」行動することが軽視されていたのではない。「他人のために集団で行動する」ことと、そもそも「他人のために行動する」ことは別問題であり、後者の問題に関しては、日本は、それに韓国や中国も欧米に決して引けを取らないのではないか。例はいくらもあろう。幕末に日本を訪れた西洋人も日本人は親切であると言っていた。具体的な表現は国民ごとに、あるいは民族ごとに違っている部分があるかもしれないが、「他人のために行動する」ことの大切さは人間として身につけてきた普遍的倫理である。JR大久保駅で韓国人留学生と日本人男性がプラットフォームから線路に落ちた人を助けようとして自らの命を犠牲にしたのはたんに「親切にする」という程度をはるかに超える高邁な人道的精神の発露であり、純粋な「他人のための行動」であった。」
この本はNGOについての識者が市民社会を論じたものであり、「他人のために集団で行動する」とはNGOの特性として言及したことである。
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