平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 27

2015.08.08

70年目の広島・長崎 核廃絶に日本ができること

 70年前、広島・長崎に投下された原爆のものすごい破壊力は瞬く間に各国に伝わり、数カ月後の1946年1月に国連が活動を開始した時には、各国とも、このままではいけない、世界を核兵器の惨禍から守らなければならないという考えを強くしていました。
 そのことを物語っていたのが歴史的な国連総会決議第1号であり、同決議によって原爆など大量破壊兵器の廃絶のための方策を検討する国連原子力委員会の設置が決められました。過去70年間を振り返ってみて、各国が核兵器廃絶にもっとも力を入れて取り組もうとしていたのはこの時だったのではないかと思われます。
 しかし、核についての危険の意識と廃絶の熱意だけでは核軍縮は進まないことがすぐに露呈されてきました。米国以外の国は、一方では、核の廃絶に賛成しつつ、他方では、みずから核兵器の開発を急ぎました。そして、米国に4年遅れてソ連が核兵器の開発に成功し、さらに英国、フランス、中国と続きました。国連で各国が決意した廃絶が実現する前に核兵器が5カ国に広がってしまったのです。
 しかも、原爆の数千倍の破壊力を持つ水爆が開発され、また、核兵器の絶対数も増加し続けました。その結果、米ソ両国だけで7万発以上の核兵器が生産され、もし何らかのきっかけで核戦争が起これば地球はほぼ確実に壊滅するという恐ろしい状態に陥りました。
 
 さすがに米ソ両国としても、このような状況は放置できず、核兵器の削減を始めました。
 核兵器の保有数は、現在、5カ国の合計で2万発以下になっていると推定されています。全体として見れば、核軍縮ははたして進展していると言えるか、疑問の声があるのも事実です。核問題に関係する人々の間でよく知られているたとえ話が、「コップの中に水が半分入っている場合、半分も減ったと見るか、半分しか減っていないと見るか」の違いがあります。つまり、現在、世界に存在している核兵器の数量は、観点によって、まだ多過ぎるとも、かなり少なくなったとも言えるのですが、米ロ両国の保有量が絶対的に減少しているのは事実です。

 核兵器の削減が期待通りに進まない主要な原因は、「核の抑止力」のためです。核の廃絶の努力が続けられる一方、世界が東西に分かれて鋭く対立する過程で、核兵器は相手の攻撃を抑止する力であり、必要であるということが認識されるようになったのです。
 現実の国際政治の中で一種のジレンマが生まれたのです。核兵器は危険だから廃絶しなければならない。しかし、核兵器を持たないと安全を確保できなくなるというジレンマです。理想は、世界の核兵器を一度にすべてなくしてしまうことですが、世界政府が存在しない今日、それを実現する手段はないからです。このジレンマは、残念ながら、今日も解消されていません。
 
 非核保有国は、米ロ両国の核削減交渉に参加できませんが、核不拡散条約(NPT)の場などで核兵器の廃絶を主張してきました。
 日本は唯一の被爆国であり、核兵器の恐ろしさ、非人道性をどの国よりもよく知っており、それを国際社会に訴え、核軍縮を進める必要性を強調しています。具体的には、NPTの場で、包括的な核軍縮を訴える決議案を提出し多数の賛同国を得ています。これは核軍縮について具体的な結論を出すものではなく、国際世論の形成ですが、核の一層の削減を迫る圧力となります。
 日本はまた、核軍縮を実現するには若い世代の人たちが核の恐ろしさを理解することが必要であるとの考えから国連での軍縮教育に力を入れ、その一環として広島・長崎への訪問を組み込んでいます。さらに、核実験の禁止についても、地震に関する知識を応用して核実験を探知する施設の建設や技術の向上などに貢献を行なっています。
 今後日本は、これまで進めてきたこれらの方策をさらに強化しつつ、各国と協力して「核兵器の非人道性」の確立に努めていくべきです。核の廃絶が進まない理由の一つは核の抑止力だと前述しましたが、核の非人道性に対する理解が弱いことがもう一つの理由だからです。
 世界の人々、指導者は必ずしも「核の非人道性」を理解していません。核兵器も通常兵器も人を殺傷するので質的な違いはない、違うと言っても程度問題だ、と思っている人がいるのが現実です。しかし、核は、ひとたび使用されれば、膨大な数の市民を殺傷します。また、被爆した人たちに長期間、多くの場合一生、耐え難い苦痛を与え続けます。これは深刻な人道問題です。私は軍縮大使時代、そのようなことを理解していない欧州某国の大使と大論争をしたことがあります。
 今年春に開催されたNPTの重要会議(再検討会議)で日本政府は世界の指導者が広島・長崎を訪問することを提案しました。これは決定にはなりませんでしたが、「核の非人道性」について理解を深めてもらうためによい提案だったと思います。
 来年のG7の関係で、日本政府は外相会合を広島で開催することに決定したと報道されています。首脳会合は伊勢志摩で行なわれますが、その前後にエキストラで、たとえば自由参加として被爆地訪問を提案することもできるのではないでしょうか。オバマ大統領はかねてから諸条件が整えば、広島を訪問したいとの希望を表明しています。何らかの形でこれが実現することは画期的な意義があります。
(the PAGEに8月6日掲載)
2015.08.04

(短評)中国の反腐敗運動は峠を越したか

 7月下旬、中国は元党中央弁公庁主任(我が国の官房長官と与党の幹事長を兼ねたような役職)の令計画および中央軍事委員会副主席であった郭伯雄について、ともに党籍剥奪の上起訴するという処分を決定した。令計画は胡錦濤前主席のナンバーワン側近であり、郭伯雄は制服組のトップであった。
 習近平主席と反腐敗運動の遂行責任者の王岐山は現在も反腐敗運動の手綱を緩めていないようにも見えるが、両人の失脚は実質的には昨年すでに決定していたので、今回の処分決定をもって習近平政権が依然として反腐敗運動に力を入れているという結論を導くことは困難である。
6月24日、当研究所のHPに掲載した「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」で紹介したように、大物については周永康と徐才厚(郭伯雄と並んで前中央軍事委員会副主任。両名についてはすでに判決が下っている)、それに今回の令計画と郭伯雄の処分によりヤマは越したという見方も成り立つ。
 反腐敗運動は、言論統制の強化とともに習近平政権の2大方針であり、現在も軍、国営企業、地方では追及の手が緩められておらず、全体的にかなりの規模の摘発が続いているので今後も注目が必要であるが、何清漣が指摘するように大物に対する追及は事実上終了しているのかもしれない。
 王岐山は、7月31日、党中央・政府各部門および専門家を集めて座談会を開催し、「政治浄化および党規律処分に関する規則」の修正について議論した。これに先立って、7月初めには陝西省でも同様の座談会を開催し、同じ問題について議論している。また、規則の修正は最近言い出したことでなく、昨年の18期4中全会の後から何回か提起している問題である。
 王岐山は党規律と国家の法律は区別しなければならないと主張している。規律検査委員会がなすべきことは党規律にしたがって問題を正すことであり、法律に従って処分するのは司法当局の任務である。両方行なうことはそもそも規律検査委員会の能力を超えている。
 実際には党規違反と法律違反が重なっている場合が多いだろうが、規律検査委員会は党規違反問題の処理がすみ次第司法当局に引き渡すべきである(香港『大公報』8月4日付)。
 王岐山がこのような座談会を開いているのは、直接的には、何でも自分でやりたがる傾向がある規律検査委員会にブレーキをかけるためだろうが、その裏には、規律検査の本来の任務についても抑制しようとする意図があるのか、気になることである。

2015.08.01

(短文)アフリカにおける米中の角逐

 オバマ大統領のアフリカ政策について欧米のメディアにはかなり辛口のコメントをしているものがあり、英フィナンシャル・タイムズなどは、世界で急成長を実現している「上位10カ国のうち7カ国はアフリカの国々だ」「新規投資の機会をつかんでいるのは中国だ」などと指摘しつつ、オバマ大統領の思惑通りに事は運ばないだろうという趣旨の論評を加えている。
 オバマ大統領は7月24日からケニアおよびエチオピアに合計6日間滞在した。1期目の2009年にはガーナに20時間立ち寄っただけであったのと比べると、はるかに長く本格的な訪問であった。
 アフリカ諸国はかつてのように援助を受けるだけでなく、投資の対象国として重要になっている。今回の訪問を前にオバマ大統領もアフリカへの投資増大を語っていた。これを機会に米国とアフリカとの関係が前進することを期待する声もあるが、米国の投資が本当にアフリカに流れ込むか、半信半疑の人もあるそうだ。

 アフリカにはすでに中国が猛烈な勢いで進出しているからである。コロンビア大学のHoward French准教授は”China’s Second Continent”という本を出版している。アフリカは「第2の中国大陸」というわけであり、過去10~15年間に中国の勢力が増大し、米国の影響力は後退したと指摘している。
 アフリカでは、日本人は多くても一カ国に数百人が滞在している程度であるが、中国人は万の台である。旧宗主国の英国やフランスと比較しても中国はけた違いに多い。飛行場に降り立つと空港ターミナルへ向かうバスの運転手が中国人なので驚かされることも珍しくないそうだ。そもそもアフリカ大陸は巨大であるが、人口は少ない。資源開発に中国が投資しても、雇える労働者は少ない。このことも中国人が進出する一つの理由である。
 今や、アフリカ各都市に中国が建てた高層ビルが立ち並び、その中で中国商人が商売をしている。交通網も中国が建設している。有名なMombasa-Nairobi鉄道は中国人の手で改修中であり、将来は完全に中国標準になるのではないかと言われている。中国モデルがアフリカのいたるところで広まっている。

 オバマ大統領のアフリカ訪問と相前後して、中国はジブチと1・85億ドルの経済協力協定を結んだ。ジブチは紅海とアデン湾に面する要衝の地で、米国は基地を置いている。海賊対策のため派遣される自衛隊の拠点もジブチである。ジブチは米国のテロ対策の拠点であり、4500人の兵員を配し、イェーメンとソマリアでのドローン活動もそこから行っている。
 その隣接地へ中国が進出してくることに米軍は神経をとがらせ、基地の機能に悪影響が出る恐れがあるとも言っている。米軍の状況も気持ちも想像に難くないが、資源確保に躍起となり、そのために資金も労働力も大量に投入してくる中国パワーは難敵である。米中の角逐は南シナ海からインド洋、さらにはアフリカにまで広がっている。

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